トップが語る、「いま、伝えたいこと」
私が最近読んだ本の中で、もっともアタマの中が整理され、「なるほど」と何度もうなずき、参考になったのは呉善花著『日本の曖昧力』(2009年5月 PHP研究所刊)という1冊の新書版の本でした。実は、この本は『ザ・フナイ』編集長の高岡良子さんにちょうだいしたのです。
著者は韓国人ですが、女性評論家であり、文化学者であり、現在日本の大学教授です。本書は、大学の講義録をまとめたものでもあります。
私は自分の経験上、昔から日本人にはコトバや脳の働きなどから来るのか、性格や行動に特異性があるとは思っていましたが、なかなかそれが何なのかまとまりませんでした。
今度『二つの真実』という著書の原稿を執筆して「天の理」「地の理」と、日本人の特性を比べ、脱稿した時に、この呉さんの著作に出あいました。
それでアタマの中がすっきりしたのです。同書では日本人なら、だれでも理解できるように書かれています。ただ、まとめられていませんが、良い意味で私はその本質は「天の理的」で、まとめればよいと思います。
この本は、日本人の有識者には、いま、ぜひ読んでほしい一冊と言えます。
ちなみに、つぎに同書の目次を紹介しておきます。
はじめに
第一回 日本文化の基礎――日本人の「曖昧さ」の根にあるもの
・来日外国人がたどる日本理解の共通プロセス
・日本人の距離感を表わす「察する」という文化
・恵まれた風土と地理的な条件
・「前農耕アジア的日本」の時代が特異性を生んだ
・強大な専制権力を必要としなかった日本
・日本人の集団性を生んだ地形
・霞がかって溶け合う風景
第二回 日本人はなぜ旅に出るのか
・日本語の「旅=たび」の語源
・どうして混雑の中、旅館に泊まるのか
・「東海道五十三次」の旅
・聖地巡礼としての旅
・中国人は露天風呂が苦手!?
第三回 「美の大国日本」はいかにして生まれたか
・欧米、アジアと異なる日本人の美意識の基準
・時代とともに変化するいけばなの様式
・日本文化の起源は縄文時代にあった!?
第四回 日本人はなぜ微妙な歪みを愛するのか
・縄文時代まで遡る日本文化の起源
・やきものは魂で鑑賞する
・神様になった朝鮮陶工
・中国、朝鮮半島にはない法隆寺の伽藍配置
第五回 日本の職人はなぜ自然の声に耳をすますのか
・自然と人間を一体と考える
・頭ではなく身体で刀を打つ
・和菓子で最も大切なのは季節感
・ハイテクに使われている意外な伝統技術
第六回 世界で一番平等で安全な社会を築いた国はどこか
・物事の自然なあり方を母型とする
・なぜ列にきちんと並ぶのか
・世界が見習うベき、日本文化の未来性
第七回 なぜ日本人は穏やかなのか
・日本人の倫理道徳は乱れているように見えるが…
・太陽の光で妊娠する神話が意昧するもの
・ヤポネシアとしての日本
第八回 日本はいかにして「アジア文明の博物館」となったのか
・岡倉天心とフェノロサ
・「柔和な単純さ」と「浪漫的な純粋さ」
・雪舟の水墨画は「山水を師とす」
・日本のみに残る、アジア文化の標本
第九回 日本語はなぜ「受け身」を多用するのか
・「泥棒に入られた」は日本語独特の表現?
・責任は私にあるという発想
・「君を恋する」と「君に恋する」の違い
第十回 なぜ日本庭園にいると想像が膨らむのか
・石組みのルーツはどこにある?
・抽象的小宇宙を展開する
・作庭者の見立ての妙を味わう
第十一回 なぜ日本には武士が生まれたのか
・王権が弱かった日本と強かった中国・朝鮮
・個人の信頼関係で結びつく封建的主従関係
・商業と産業技術が大きく発展した戦国時代
・日本人の「藩意識」
・資本制社会を準備した封建制社会
最終回 天皇はいかにして日本社会に平等をもたらしたのか
・武士も天皇を尊重していた
・「工」と「商」は天皇の領域であった
・「国民総受け身」のシステム
特別書き下ろし講義 世界的な課題としての「日本風」
・「日本風に恋する」世界的なブーム
・花鳥風月、草木虫魚の自然観
・ソフトアニミズムの世界
・日本的な自己のあり方
・環境の変北に自動的に応じる日本型システム(転載ここまで)
なお、本書に書かれている日本人の特性、特に日本人の良さをアタマに入れて、来月、ビジネス社から出る拙著『二つの真実』を読んでほしいのです。これから書く『二つの真実』の「あとがき」にもそのことはふれようと思っています。
「日本人の使命」や「100匹目の猿現象」だけでなく、これからの時流も納得してらえるように思います。この本は知日外国人の目で、実に冷静で客観的に書かれています。だから、よりよく分るのです。
ともあれ、いま呉教授と、この本を私に教えてくれた『ザ・フナイ』の高岡編集長に感謝しています。
日本人の「お人よし」は、やはりすばらしい美徳のようです。
=以上=
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