ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
2月24日に、2010年に発足した親ロシア派のヤヌコービッチ政権が崩壊してから、ウクライナは危機的な状況になっています。3月20日には、ロシア系住民が多いクリミアで国民投票が実施され、クリミアはロシアに併合されました。これは主権国家を侵害する19世紀型の帝国主義であると反発した欧米諸国は、ロシアに対する制裁を発動し、緊張した状況が続いています。
日本ではあまり報道されなくなっていますが、ウクライナ東部の10都市で、親ロシア派の武装勢力は政府の庁舎などを占拠しており、これを強制的に排除しようとしているキエフの暫定政権との間に緊張した状態が続いています。ウクライナ全土が内戦状態になる可能性も指摘されています。
日本では、国際法を犯して主権国家を軍事的に侵略するロシアと、これを阻止し、ウクライナの民主主義を守るアメリカとEUという構図で見られています。
しかし、現実はまったく異なっています。今回のウクライナ問題は、このような欧米寄りの図式で理解できるほど単純なものではありません。
ロシアは2008年にグルジアに侵攻しましたが、これは局地紛争でした。でも、今回のウクライナ紛争はそうではありません。おそらく、2015年や2016年という未来の時点から見ると、2014年に起こったこの出来事が、歴史の流れの転換点になっていたことが分かるでしょう。
これはどういうことでしょうか? この問題には3つの異なった文脈が重層的に重なっています。
1)地政学の文脈、2)国家の文脈、そして3)集合的感情の文脈の3つです。簡単に整理しながら見て見ましょう。びっくりするようなことが見えてきます。
1)地政学の文脈、アメリカとドイツが仕掛けた
では最初の文脈から見て見ましょう。地政学の文脈です。
日本では、一方的にウクライナの主権を犯しているロシアに対し、国際法の順守を厳しく要求する欧米というような視点で見られがちですが、実は今回のヤヌコービッチ政権の崩壊を仕掛けたのは、アメリカとドイツなのです。
●リークされた会話記録
すでにネットでは出回っていますが、1月28日に行われたビクトリア・ヌーランド米国務省ユーラシア担当局長と、ジェフリー・ピアット駐ウクライナ米国大使との電話会話の記録です。おそらくこれは、ロシアの情報部が盗聴した会話で、いきなりユーチューブにアップされました。さすが、米NSAの盗聴を暴露したスノーデン以後の世界です。なんでも盗聴され、暴露されています。
この会話でヌーランド局長とピアット大使は、すでにウクライナでは工作を行っており、欧米とのつながりの深いヤツェニューク氏を暫定政権の大統領とすることを確認しています。
そしてこの会話では、ドイツのメルケル政権がクリチコという別の人物を大統領に推していたことから、ヌーランドは「くそったれのEU!」の捨てぜりふをはいています。
このような話を聞くと、確認されていない事実に基づく陰謀論ではないかと疑ってしまうかもしれませんが、これはそうではありません。
この電話会話の内容がリークされてから、米国務省で記者会見が行われたとき、この会話で本当に「くそったれのEU!」とヌーランドが言ったのかどうかが質問されました。
ヌーランドはこの会話が事実であることを認め、EUには申し訳ないことをしたと謝罪しました。
ということは、ウクライナの政変はアメリカが関与して仕掛けていたことは間違いありません。ちなみに、ビクトリア・ヌーランドは、米軍産複合体を代表するネオコンのイデオローグであるロバート・ケーガンの妻で、本人もバリバリのユダヤ人のネオコンです。
さらに、CIA系シンクタンクの「ストラトフォー」などの情報によると、ドイツのメルケル政権の命をうけて「アデナウアー財団」というNGOが、ヤヌコービッチ政権の抗議運動を財政的に支援し、特に元ボクシングの世界ヘビー級チャンピオンであったウラジミール・クリチコを大統領にするために、水面下で動いていたとしています。つまりドイツも、政権の崩壊を工作していたということです。
●アメリカとドイツで異なる動機
このように、アメリカとドイツはかなり早い段階からヤヌコービッチ政権の抗議運動を工作し、これに深くかかわっていました。民主主義をもとめる抗議運動と、これを弾圧する独裁的なヤヌコービッチ政権という単純な構図ではまったくありません。はるかに複雑で込み入った背景があります。
そして、アメリカとドイツはそれぞれ異なった動機からウクライナに介入したようです。
●アメリカの動機
アメリカの場合ですが、これはネオコンと軍産複合体が仕掛けたもので、オバマ政権はその事実を知らなかった可能性があります。今年の2月に国防省が出した「4年毎の防衛力評価(QDR)」という報告書を見ると、その理由が推察できます。
「4年毎の防衛力評価(QDR)」とは、米国防省が4年に一度行う防衛力の評価です。
この報告書は、アメリカが防衛力を整備する地域と分野が詳細に記されているので、アメリカの方針を読みとるにはなくてはならない報告書です。
今回の報告書ですが、例年にはない特徴があります。いまオバマ政権は、最大で毎年8%という巨額の防衛予算の削減を行っていますが、報告書には予算削減の悲鳴で満ちています。そして、客観的に情勢を分析する「QDR」にはとても珍しく、最後のセクションでは予算の増額を要求しています。こんなことは以前にはありませんでした。防衛方針を解説し評価する報告書が、予算の増額を強くリクエストしているということは、国防省と軍事産業はよほど予算に困っているということです。
こうした背景を見ると、ネオコンと軍産複合体がウクライナで工作をする理由も見えてきます。
いまアメリカはアフガニスタンから撤退しています。すでに2011年にイラクから撤退しているので、アメリカは戦闘地域からすべて撤退したことになります。これは、防衛予算の削減を進めるには最高の状況です。
一方この状況は、ネオコンと軍産複合体にとっては危機です。防衛予算の削減を停止させるためには、防衛力の維持と拡大が必要であることを納得させる、緊張した地域が新たに必要になります。これがウクライナでした。
●ドイツの動機
他方、ドイツはアメリカとは異なった動機からウクライナに介入し、自分たちの意思を反映した候補を大統領にしようとしました。
その動機とは、ウクライナのEU加盟の準備です。
周知のように、EUに加盟するためには相当に厳しい加入条件を満たさなければなりません。財政赤字は国家予算の3%以内に押さえなければならないし、共通した監査基準に透明な財政運営をしていなければなりません。
ウクライナは、鉄鉱石などの資源が産出するもともと豊かな国です。ところが、とてつもない縁故主義による汚職の国で、この悪癖のため、財政は破綻しています。これは親ロシア派の政権になろうと、欧米寄りの政権になろうと状況は同じでした。政府が、一部の権力者と資本家に独占された状況では、どの政権でもEUの加盟基準は満たすことは不可能です。
そこでドイツは、ヤヌコービッチ政権打倒の抗議運動に介入してドイツの息のかかった指導層を育てることで、EU加盟の基準を満たすことのできる政権を自ら作ろうとしたようです。これがドイツの動機です。
●ロシアには好都合
このように、アメリカとドイツはそれぞれ異なった動機でウクライナで工作を仕掛けました。でもこれは、ロシアのプーチン政権からすると実に好都合な状況になったのです。
もちろん、ウクライナに欧米寄りの暫定政権が樹立されたことは、ウクライナと国境を接するロシアにとって、安全保障上の大きな脅威です。
しかし、クリミアの併合にまで踏み切る必要性はありませんでした。黒海にロシアの黒海艦隊を展開させたり、ウクライナ国境で大規模な軍事演習をして圧力をかけるだけで、暫定政権がロシアとのバランスをとるように誘導できたはずです。この方向ですと、アメリカやEUと早期に妥協が成立していたと思います。おそらく、アメリカもドイツも、ロシアはこのように動くと読んでいたと思います。
ところが、プーチンはクリミアの併合に踏み切りました。その手筈は実に鮮やかで、多くの軍事専門家は、かなり以前からクリミア併合のプランをロシアはもっており、今回はこれを単に実行しただけだろうと見ています。つまり、プーチンにとって今回のウクライナの政変と混乱は、かねてからのクリミア併合のプランを実行するための絶好のチャンスだったと言えます。
もちろんこれは、アメリカとEUの予想を完全に越えた行動でした。この混乱は、欧米が内容のあまりない制裁を発動するくらいで、ウクライナ情勢に対応できていないことを示しています。これは、欧米の目指す国際的な秩序の形成に、欧米が失敗したことを示しています。
2)国家の文脈、市場経済資本主義か国家資本主義か?
これがウクライナ政変の政治的な文脈です。他方、ウクライナ政変には、さらに別な意味の文脈が存在します。
それは、市場経済による資本主義がいいのか、それとも国家が管理する国家資本主義がいいのかという文脈です。
いま欧米のさまざまなメディアを見ると、プーチン大統領の人気が意外に高いことに驚かされます。プーチンを侵略者として非難する世論が存在する一方、プーチンこそ国民を守る偉大なリーダーだとして持ち上げる世論もとても強いのです。特にこれは、ヨーロッパの国々で顕著です。
欧米でプーチンを支持している人々のサイトや記事を見ると、現代の世界に対する共通した認識があるようです。その認識とは、次のようなものです。
「行き過ぎたグローバリゼーションの結果、中間層は崩壊し、すさまじい格差社会になってしまった。このまま行くと、社会全体が崩壊しかねない。これをくい止めるためには、市場経済の行き過ぎを是正し、社会正義を実現できる強い国家が必要だ」
このような認識です。そして、行き過ぎた市場経済を推し進めた機構こそ、IMFであり世界銀行であり、EUであると言うのです。
他方プーチンは、ロシアは偉大な国家であり、市場経済やそれを推し進める国際的機構には従わないことを、何度もスピーチや記事ではっきりと主張しています。欧米の投資を引き付けて経済成長するために、市場経済の原則にしたがって政府が運営される必要があります。でも、そのようなことはロシアはしない。なぜなら、ロシアにはロシアとしての価値観があるので、これに従った偉大な国家を我々は作るということです。
今回のウクライナの政変では、プーチンはあらゆる機会にこのようなメッセージを発信しました。ウクライナの政変とクリミア併合で、プーチンの注目は必然的に高まったので、プーチンはメッセージの非常に大きな発信力を手に入れたことになります。
これは、グローバリゼーションに反対し、市場経済は強い国家によって規制され、行き過ぎは是正されるべきだと考えている多くの人々の共感を得たのです。今回のウクライナ政変は、こうした共感が世界的に拡大する重要なきっかけになったのです。
3)集合的感情の文脈、新しいブラックスワンの形成
そして最後は、もっとも重要な集合的感情の文脈です。歴史を見ると、結局歴史を動かしているものは、多くの人間の激しい集合的な感情であることに気づきます。
1914年に始まった第一次世界大戦は、ヨーロッパ各国で戦争へのすさまじい熱狂を駆り立て、自ら進んで世界大戦に突入しました。
アメリカの同時多発テロは、米国民の間に「偉大な国家であるアメリカの敵はすべて殲滅すべきだ」という激しい感情を惹起しました。この激しい感情が、当時のブッシュ政権がアフガニスタン戦争やイラク侵略を実行する下地を作りました。
このような例は枚挙にいとまがありません。
そして、今回のウクライナ政変とクリミア併合ですが、これは新たな激しい集合的な感情を世界的に解除するスイッチの役割を果たしたようです。
これは、2)の国家の文脈とつながった動きです。
先に見たように、今回のウクライナ政変とクリミア併合で、プーチンは市場経済の原理と、これを推し進める欧米が作った国際機構に従うことを拒否し、市場にさえ介入できる強い国家の建設を宣言しています。
この宣言には、さらに多くの共感を呼ぶ文化的な意味が込められています。
それは、ロシアの偉大さの象徴である「ロシア的なもの」の価値を、なんでももうけの材料にし、外部から侵入してくる行き過ぎた市場経済から保護し、この価値に基づく国家を建設するという決意です。プーチンはこの価値の土台が「ロシア聖教」であるとしています。
これは、世界で自分の文化の固有な価値がグローバリゼーションによって侵され、解体されていると感じている多くの人々の共感を呼びました。これは、反グローバリズムや反格差の運動に共感する人々のみならず、伝統的な価値の擁護を主張する保守派から右翼、そして極右までの広い層の人々を引き付けました。
特にヨーロッパ右翼と極右は、プーチンに強く引き付けられました。なぜなら、グローバリゼーションに反対し、固有の文化の価値を守り、それに基づいた国家を建設すべきだという主張こそ、右翼と極右の主張であるからです。
もちろん右翼と極右の思想には、文化的に固有な価値を守るために、そうした価値を共有しない他者を排除するという危険な民族主義を内包しています。
しかし一方、行き過ぎた民族主義とは距離をおきながらも、やはり「ドイツ的なもの」「フランス的なもの」「ロシア的なもの」といった文化の偉大さを象徴する固有の価値は守り、それに基づいた国家を建設すべきだという意見は、たいへんに強い共感力をもっています。
●続々と支持を表明する右翼と極右
そしていま、そのように主張する右翼と極右は、特にヨーロッパで顕著ですが、勢力を延ばし大躍進しています。5月にはEUの議会選挙が実施されますが、これらの右翼と極右は、30%の得票をするのではないかという予測すらあります。今年からはヨーロッパで右翼シフトが進むのではないかとさえ言われています。
そして、そうした右翼と極右がプーチンへの支持を明確に打ち出し、それこそウクライナ政変のさなか、プーチン賛美のスピーチを送っています。つまりウクライナ政変をきっかけに、プーチンは、グローバリゼーションに抵抗して固有の文化の価値を守る運動の象徴的な存在になったということです。
これはヨーロッパのみならず、世界的な傾向です。国連で実施されたロシア非難決議には、BRICs諸国のブラジル、インド、中国、南アフリカの国々は反対、ないしは棄権しました。おそらくこれは、国内で高まる固有の文化価値を宣揚する機運に呼応した行動としての側面もあるはずです。
●世界で20億人が投票する選挙の年
具体的な象徴をもった運動は、勢いを増します。そして今年は、全世界で20億人が投票する選挙の年です。ヨーロッパをはじめ、どの国でもそうですが、右翼と極右の勢力が極めて強く、かなりの議席数を確保するでしょう。
これが意味することは、グローバリゼーションに反対し、文化の固有の価値を守るとする運動の勢いが世界的に強まり、この集合的な感情の流れが、これからの歴史の方向を大きく変化させるだろうということです。
そして、この潮流の背後にある集合的な感情が、予想を越えたさまざまなブラックスワンを生み出すはずです。この潮流が生み出す結果を、私達は2015年や2016年に見ることになるはずです。
このように、今回のウクライナ政変は、思っても見ない歴史的な諸力を解除する結果になったのです。
●意識の変化
実はこのような流れを、「意識は進化する」とするコルマンインデックスのような視点から見ると、私達にはある選択が迫られているとも言えます。これはどのような選択なのでしょうか? そしてこれからどうなるのでしょうか? この続きはメルマガや勉強会で詳しく解説します。
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
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★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/