ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
11月頃からトランプ政権の国防長官上級顧問であったダグラス・マクレガー元大佐は、一貫して冬季に地面が凍土化するタイミングでロシア軍の全面攻勢はあると予測していた。
マクレガー元大佐によると、ロシア軍は70万人の兵士を動員しており、そのうちすでに30万人が前線に配備されているという。
また、西側のメディアでは、ロシア軍は兵力不足、士気の低下、そして兵器不足に悩まされ、ロシア軍の勢いは急速に落ち、ウクライナの勝利が確定するのは時間の問題だとする報道が多かった。しかしマクレガー元大佐は、ロシア軍は毎日6万発を越える砲弾とロケットを発射しており、ロシアの軍需産業は24時間体制で戦車などの兵器を製造している。兵器不足は実質的にないとしていた。また、すでに70万人の予備役経験者の動員を行っており、兵力不足に陥っているわけでもないとしていた。
むしろ、ウクライナ軍は兵力不足と増大する死傷者に悩まされており、ロシア軍の全面攻勢が始まるとウクライナ軍は非常に厳しい状況になり、戦争に敗北する可能性があると言っていた。
●始まった可能性の高いロシア軍の全面攻勢
このような戦況分析をしているマクレガー元大佐も、いつロシア軍の全面攻勢が行われるのかははっきりとは予測できないとしていた。2月の後半から3月の前半には始まるのではないかという見通しだった。
そのような中、いよいよロシア軍の全面攻勢が始まった可能性が高いとする情報が多くなっている。
まず13日、NATOのストルテンベルグ事務総長は、懸念されていたウクライナでのロシアの新たな大規模攻撃がすでに始まっていると述べ、NATOは枯渇しつつある弾薬の備蓄目標を引き上げると表明した。
記者団に対し「全面侵攻開始から約1年が経過したが、ロシアのプーチン大統領が和平に向けて準備している様子は全くなく、新たな攻勢をかけている」とし、「プーチン大統領およびロシアはウクライナをなお支配しようとしている」と指摘。「ロシアがより多くの軍隊、兵器、能力をどのように送るかを確認する」とした。
このストルテンベルグ事務総長の発言を裏付けるように、北部、ハリキウ州の「リマン」や「イジューム」で戦闘が激化している。
しかし、やはりなんと言っても非常に激しい戦闘になっているのは、東部、ドネツク州の「バフムト」である。「バフムト」は鉄道と高速道路が交差する交通の要衝なので、ロシア軍がここを占拠すると、ドネツク州の「クラマトルスク」と「スロヴィヤンスク」という2つの大きな都市を制圧する拠点になる。この2つの都市が占拠された段階で、ロシア軍によるドネツク州全体の掌握が完了することになる。プーチン大統領は、3月までにドネツク州を占拠せよと命令している。
いまロシア軍は「バフムト」近郊の村、「クラスナホラ」を占拠し、「バフムト」を包囲しつつある。またウクライナ軍は「バフムト」で戦闘を続けているものの、町のすべてのエリアがロシア軍の大砲やロケット砲の射程距離の範囲内にあり、連日激しい攻撃が続いている。
ところで、いま「TikTok」には、ロシア軍、ウクライナ軍双方の兵士が前線の実に生々しい戦闘の状況を伝える動画がたくさんアップされている。中には、戦闘シーンのライブ中継もある。
中でも特に多いのが、「バフムト」の戦闘を伝える動画だ。ウクライナ軍の国際有志部隊にはアメリカ兵も参加し、戦闘のすさまじさを証言している。証言は英語なので分かりやすい。彼らの多くは、アフガン、イラク、シリアと米軍で転戦してきたベテラン兵だ。そうした彼らの共通した証言だが、ウクライナ戦争はこれまで体験してきたどの戦場とも比べられないほど、激しく残虐だという。
米軍が参加したアフガンのもっとも激しい戦闘では、35人の米兵が死亡した。また、イラク戦争のもっとも激しい戦闘は、2004年3月から約半年間続いた「ファルージヤの戦い」だったが、そこでは95人の米兵が死亡した。ところが、いま自分が戦っている「バフムト」では、一つの部隊だけで1日、95人が死んでいる。これはまさに、「肉挽き器」という言葉がぴったりの状況だという。
また、これと同じような証言は数々の戦場を経験してきたジャーナリストからも出ている。アフガン、イラク、シリアと自分が報道したどの戦場よりも残虐だという。ノルマンディーにおける、連合軍とナチスドイツとの戦いの激しさに匹敵するのではないかと言っている。
●第二次世界大戦とは大きく異なる状況
しかし、ロシア軍の全面攻勢が第二次世界大戦と同じような状況なのかというと、本質的に異なっているようだ。
ダグラス・マクレガー元大佐は、ウクライナ戦争では衛星や最先端のIT機器、そしてドローンが導入されているので、かつては考えられなかった水準での監視と偵察ができるようになった。敵の陣地の場所、そして敵の細かな動きはすべて把握できる。
そのため、かなりの遠距離からロケット砲や大砲で、相手を精確に狙う攻撃ができるようになった。現在、ロシア軍もウクライナ軍も死傷者の多くは、銃撃戦ではなく砲撃の犠牲者だ。約70%程度がそうだろとマクレガー元大佐は言う。
かつて第二次世界大戦では、ナチスドイツの「電撃戦」が有名であった。「電撃戦」とは、戦車の機甲師団によって敵陣地を一気に叩き、占領してしまう戦法だ。だが、高度な監視技術によって相互の動きが分かるので、機甲師団の動きは「電撃戦」が始まる前に相手に分かってしまい、こちらが攻撃する前に相手からやられてしまう。
したがって、想定されるロシア軍の全面攻勢はナチスドイツのような「電撃戦」にはならない。遠距離からの砲撃回数の飛躍的な増大となる。砲撃で敵が弱まったタイミングを見て、戦車と歩兵で相手の陣地を攻めることになる。
ロシア軍はいま、通常、攻撃の準備に必要とされる措置を取り始めている。衛星画像の解析から、ロシアはごく最近、車両や物資の集積、基地の建設や再開、鉄道や航空便の増加など、攻撃の準備に必要とされる措置を取り始めていることが分かった。
新たな軍事拠点を少なくとも2つ建設している。1つは、南西部の都市、「クルスク」の東にある「ポストヤリイ・ドヴォリ」で、もう1つはやはり南西部の都市、「ボロネジ」に近い「ポゴノヴォ」だ。今後、新たな拠点が発見され、兵員や車両の数、攻撃経路が明らかになるかどうかが注目されている。また、ベラルーシとウクライナの国境にも、10万人程度のロシア軍部隊が待機している。
●ロシア軍が全面攻勢の出るには絶好のタイミング
このように、すでにロシア軍は全面攻勢のための拠点を構築しており、徐々に攻勢への動きを速めているように見える。実は、すでに始まっているこの全面攻勢は、ロシアにとっては絶好のタイミングで実行されるようだ。それは、以下の4つのタイミングだ。
1)欧米の戦車が届くのは早くて3月後半
一つはドイツの「レポポルト2」やイギリスの「チャレンジャー2」、そしてアメリカの「M1エイブラムス」などの欧米の主力戦車の供与が、どんなに早くても3月後半になることが、はっきりしたからである。いまドイツとイギリスでウクライナ軍の戦車要員の訓練が行われている。
2)欧米の弾薬の在庫切れ
アメリカを中心にNATO諸国は、兵器や弾薬のさらなる供給を決定しているものの、在庫不足に直面している。いま大急ぎでアメリカやドイツ、フランスの軍需企業がフル稼働で生産しているが、供与を約束した兵器の生産が完了するのは、来年になる。
3)「スターリンク」の制限
いま、「スペースX社」のイーロン・マスクは、人工衛星経由で通信できる「スターリンク」をウクライナに供与している。「スターリンク」はウクライナ軍の通信の生命線だ。しかし、政治交渉による即時停戦を主張していたイーロン・マスクは、「スターリンク」の軍事利用について批判的だった。そこでマスクは、「スターリンク」をドローンの操作に利用できないように制限した。ドローンは、敵の監視と偵察にはなくてはならない兵器である。これが使えなくなると、ウクライナ軍にとっては大きな打撃となる。
4)「ノードストリーム」を米海軍が破壊
つい最近、ピューリッツアー賞受賞の調査ジャーナリスト、シーモア・ハーシュは、昨年9月に爆破されたロシアとドイツを結ぶパイプライン、「ノードストリーム」は、米海軍特殊部隊の極秘作戦で破壊されたことを突き止めた。これは大統領命令で実行されたものだった。この情報は記事になったばかりなのでいまのところ政治的な影響は限定的だが、これからアメリカとドイツの関係がぎくしゃくし、ウクライナ支援の足並みがそろわなくなる恐れがある。これは、かなり大きな問題に発展する可能性がある。
これを見ると分かるが、ウクライナ軍は欧米の武器支援がいまだに届かず、また「スターリンク」の軍事利用が制限された状況で、少なくとも3月後半まで戦わなければならない。これはウクライナ軍によって非常に不利な情勢だが、ロシア軍にとっては願ってもない攻撃のタイミングになる。
●ロシア軍の勝利を示唆する発言
このような状況で、欧米には焦りが出てきている。ウクライナの隣国で最大の支援国のひとつであるポーランドは、このままだとロシアが勝利する可能性があるという強い危機感を持っている。
2月11日、ポーランドのアンドレイ・ドゥダ大統領は、プーチン大統領がウクライナに侵攻し「暴君と植民地主義者のように」振る舞ったと非難し、キエフが必要とする軍事装備と援助を緊急に受けなければ、権威主義の指導者が戦争に「勝つかもしれない」と述べた。
ドゥダ大統領は以前、「まだ非常に強い」ロシア軍が数ヵ月以内にウクライナで新たな攻勢を準備しているかもしれないと予測し、キエフには長距離ミサイルや戦車などの追加支援が直ちに必要だと述べていた。
「ロシアには近代的な軍事インフラはないが、人材はいる」と、ドゥダは仏紙「ル・フィガロ」のインタビューで警告している。
「もし我々が今後数週間のうちにウクライナに軍事装備を送らなければ、プーチンが勝つかもしれない。彼は勝つことができ、私たちは彼がどこで止まるかわからない」と付け加えた。
●政治交渉を求める声
ポーランド大統領がロシアが勝利する可能性を示唆するとは、相当な焦りである。それを回避するために、欧米の軍事支援を強く求めているのだ。
一方、こうしたロシアに有利な状況ではウクライナ戦争は一層エスカレートするとして、即刻の政治交渉を求める声もこれまで以上に強くなっている。そのような意見記事がつい先頃「ワシントン・ポスト紙」に掲載された。コネティカット大学歴史学教授のフランク・コスティリオラの記事である。著名な歴史学者だ。
この記事でコスティリオラは、1950年代の朝鮮戦争と60年代のキューバ危機を例にして、アメリカは過去何度か核戦争に発展する危機を経験したという。しかし、このいずれの場合でも、大統領の政治交渉に向けての勇気ある決断によって、核戦争の危機は回避されたと主張する。いま、ウクライナ戦争が核戦争へと発展する可能性があるとき、政治交渉の勇断こそ重要であるとした。
これと同様の意見は、ドイツ左派党のサーラ・ヴァーゲンクネヒト議員も表明している。
ヴァーゲンクネヒトは、ドイツの大手紙「Die Welt」のインタビューに、武器の代わりにプーチン大統領と停戦交渉を行うべきであると、断固とした姿勢で語っている。より「現実的な」アプローチは、ウクライナの中立的地位と紛争地域の非武装地帯化を宣言し、領土の所属を決める住民投票を実施すべきだと彼女は主張した。
このように、ロシアが有利な情勢で全面攻勢を実施しつつある中、政治交渉を求める声が、以前に増して強くなってきている。もちろん、この他にも政治交渉を模索する水面下の動きは激しい。
しかし他方、激しい「ロッソフォビア(ロシア憎悪)」に刺激され、勧善懲悪のメンタリティーに陥っている政治エリートがいまだに多いのが現実だ。和平に向けた政治交渉は、まだ遠いようだ。
だが、ロシア軍の全面攻勢の結果、ロシアが勝利宣言したら欧米はどうするのか? アメリカ軍、ポーランド軍、ルーマニア軍、イギリス軍の欧州有志連合軍の地上部隊の派遣まで進んでしまうのだろうか? 3月の上旬までに大きな動きがあるかもしれない。これは注視して行かねばならない。
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
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