ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
円はこれから170円までは軽く下落すると予想する海外のエコノミストが多いように思う。なぜそのような予想が成り立つのか、その理由を見てみると、海外のエコノミストが日本経済をどのように評価しているのか知ることができる。それは、我々の評価とはかなり異なるものであった。
かなりの円安が続いている。4月26日には一時34年ぶりとなる1ドル160円をつけ、円安が更新した。これに危機感を感じた「日銀」は2度為替介入をして円を買ったため、相場は151円まで戻した。しかし円安の基調は変わらず、5月9日現在で155円になっている。
円は今年に入って12%も急落している。このような状況に危機感を感じた「日銀」の植田総裁は、経済や物価に大きな影響を与える可能性があるとして、必要に応じて金融政策を変更するとの考えを改めて示した。これは必要とあれば、「日銀」が為替介入して円を買う用意があることを示唆した発言だ。
●円安の原因は米国との金利差だけではない
では、なぜこの水準まで円安が進んでいるのかというと、その中心的な原因は、アメリカとの金利差にあることは間違いない。アメリカではコロナパンデミックとウクライナ戦争で発生したグローバル・サプライチェーンの混乱や食料や原材料、そしてエネルギーの供給不足により物価が高騰し、一時は10%近いインフレになった。「FRB」はこれを沈静化するために断続的に金利を引き上げ、現在は5.25%から5.5%の水準になっている。
0.1%程度で金利が推移している日本とはかなりの金利差だ。この金利差が原因となり、金利の高いアメリカで運用するため、資金がアメリカに集中しているのだ。これはドル建ての投資となるため、ドル買い円売りとなって円安は更新する。日米の金利差がある程度縮小する方向に向かわない限り、円安状態は解消することはない。
だが、いまのところ、この方向に向かう予兆はない。アメリカのインフレが3%台に落ち着き、そのため今後「FRB」は金利を引き下げるのではないかとする観測も多かったが、米経済が好調なことからインフレは高止まりしている。「FRB」は金利を現状に据え置く方針を明確にした。
一方日本だが、金利を引き上げる方向には動いていない。3月9日、「IMF」は日本経済に対する審査の終了にあたって声明を発表し、「日銀」に対し現行の金融緩和策の枠組みを撤廃して量的・質的金融緩和を終わらせ、短期金利の段階的引き上げを検討すべきと提唱した。「IMF」の物価見通しが現実化するならば、3年間は政策金利を段階的に引き上げるべきとも記している。
しかし、このような勧告にもかかわらず、「日銀」の植田総裁は、金利の引き上げは行わないことを明確にした。その理由には、賃金の上昇率がインフレに追いつかず実質賃金が低下しているいまの状況を懸念し、景気の失速を恐れたことが原因だが、「日銀」の過去の政策がもたらした結果の教訓があったからだとも見られている。
2006年と2007年、当時の「日銀」の福井総裁は量的緩和を打ち切り、金利を2回引き上げるよう理事たちに働きかけた。
しかし福井総裁の金利正常化の試みには反対が多く、断念した。しかし、「日銀」が金利引き上げを検討しているとのニュースが広がると、経済界は強く反発し、日本は金融引き締めの準備が整っていないと訴えた。その直後、景気は後退した。2008年に福井の後任として白川総裁が就任すると、彼はすぐに金利をゼロに戻し、「量的金融緩和(QE)」を復活させた。
そして2013年、黒田総裁が登場し、デフレ脱却のために日銀の景気刺激策をさらに強化した。2013年だけで、日経平均株価は57%も急騰した。現在、日経平均株価は1989年の史上最高値を越えて取引されている。
植田総裁は過去のこのような教訓を踏まえ、金利の引き上げの影響を重くとらえている。そして、日経平均の暴騰を止めることなく、金利を正常化する方法を見つけだすことが目標だ。とにかく、株価の急落や景気後退、あるいはその両方について自分が非難されることになるのは、なんとしてでも避けたいというのは本音のようだ。この結果、アメリカとの金利差は変わらないので、円安が促進されるという状況になっている。
●海外のエコノミストの見方、日本は円安を歓迎
だが、海外のエコノミストは別の見方をしている。「日銀」は景気の失速を恐れ、金利を引き上げられなかったとは実は見ていない。日本政府、そして「日銀」は、円安を是正するどころか、明らかに円安を望んでいるというのだ。
これは多くの海外のエコノミストが主張しているが、その代表的な一人はウィリアム・ペセックである。彼は「ブルームバーグ」や「フォーブス」を始め多くの経済専門紙の記者として活躍し、現在は「アジア・タイムス」の主筆になっている人物だ。
ペセックによると、為替トレーダーは、「日銀」が円安を食い止めるために積極的に介入していると思い込んでいるようだが、実際は、「日銀」は世界の市場に対してその場しのぎのウインクをしているに過ぎないという。もし日本政府と「日銀」が、円安の是正に本腰を入れるのであれば、鈴木財務相は早くから何度もマイクを握り、世界に向って円安が好ましくなく、大胆な為替介入の実施をアナウンスしているはずだ。ワシントン、ベルリン、ロンドン、オタワ、パリ、ローマの政府高官と電話をつなぎ、G7でコンセンサスを取り、大規模な為替介入の条件を整えていたはずだとしている。
しかし今回、財務省は為替介入の事実を公表せず、隠密裡に実施している。また、G7との連携をする動きもまったく見せなかった。
このように、「日銀」も財務省も円安の是正に消極的な理由は、日本の円安の恩恵に気づいているからだという。
3月の海外出荷額は4ヶ月連続で増加した。3月の前年同月比7.3%増は、2月の7.8%増に続くものだった。混迷を深める2024年の第2四半期時点で、世界第4位の経済大国である日本にとって、円安は間違いなく最高の好材料だという。
しかし、株価は上昇しているものの、日本の実体経済は明らかに低迷している。やっと二期連続のマイナス成長が回避されたものの、不況下のドイツに抜かれ、日本は世界第4位になった。「IMF」は、2025年に日本はインドに抜かれ、世界第5位になるだろうと予想している。
また日本では、実質賃金の低下が続き、個人消費はあいかわらず低迷している。さらに、半導体などの最先端技術に力を入れているものの、日本の最先端産業が成長をけん引する状態にはない。このような状況では、やはり、輸出やインバウンド需要の増大をもたらす円安のプラスの効果に期待せざるを得ない。このため、「日銀」も財務省も、特に国内向けのパフォーマンスとして為替介入しながらも、実際は円安状態に期待しているというのだ。これが、ウィリアム・ペセックを始め、海外のエコノミストの記事に多い見方だ。
●1ドル、170円が近いか? インフレの波
海外のエコノミストのこのような見方が、金融市場の見方を反映しているとするなら、日本は円安容認なので、さらに円が安くなる可能性が高いだろう。では、これからどの程度まで円安が進むのだろうか?
ウィリアム・ペセックを始めとした海外のエコノミストの間では、比較的に近いうちに1ドル、170円まで円安が進むとする予測が目立つ。もしかしたら、数週間後には円相場は170円台に向かうかもしれない。1ドル、170円は現在の155円程度からすると、10%近い上昇である。これはすさまじい上昇だ。食糧自給率が低い日本では、この円安は当然インフレの昂進を招くだろう。
すでに値上げのラッシュは止まらなくなっている。4月の食品の値上げは2806品目だった。これは2023年10月以来、半年ぶりの値上げである。これで、2024年の家計負担は7万8275円の負担増となる試算だ。
ちなみに、「IMF」が予測する日本の2024年度のインフレ率は、2.24%だ。これは3%を突破しているアメリカやイギリスに比べると低い。しかし、インフレ率と物価とは同じではないことを認識しなければならない。説明するまでもないだろうが、インフレ率とは物価の上昇率のことである。だから、モノの価格そのものを示しているわけではない。
おそらく実際の生活実感では、モノの価格は2.24%よりもはるかに高くなっていると感じているはずだ。実はそれは、インフレで一度上昇した価格は、インフレ率は下落しても、下がることはないということだ。インフレ率は物価の上昇率のことであって、物価そのものはインフレ率が鈍化としても、下がることはないのだ。つまり、物価の上昇は累積的に続くということである。
これに対抗する唯一の方法は、実質賃金の上昇である。もし賃金の上昇率がインフレ率を越えると、物価の上昇分は賃金の上昇分で取り戻すことができる。そうでもない限り、累積的に高くなった物価は生活を圧迫し続ける。
さて、このようにすでに厳しい状況で、円が1ドル、170円、10%近く上昇するのである。現状では、これは生活者にとってかなりの負担増であることは間違いない。筆者の知人のサイキックは、今年の5月から徐々に食料が手に入りにくくなると言っているが、1ドル、170円という水準はこの背景になるのだろうか? 注意しなければならない。
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
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