ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
いま、イランとイスラエルの関係が緊張し、イスラエルのイラン攻撃も懸念される事態になっているが、それが食糧危機に結び付く可能性についてだ。
4月13日、イランの「イスラム革命防衛隊(IRGC)航空宇宙軍」は、イラン国内からイスラエルへの大規模な自爆ドローンとミサイルの攻撃を行った。イスラエルの空爆によりシリアで精鋭、「コッズ部隊」の上級司令官を含む4人が殺害されたことに対する報復だ。
イランがイスラエルに向けて発射したミサイルとドローンは331発。しかし、神風ドローン185機中185機、弾道ミサイル110発中103発、弾道ミサイル110発中103発がイスラエルの防空システム、「アイアンドーム」によって撃墜された。イスラエル領内で7発の弾道ミサイルの着弾が記録されている。イスラエルの実質的な被害は非常に軽微で、イスラエル南部の「ネバティム空軍基地」に着弾した弾道ミサイルがインフラの一部を破壊したに止まった。
今回の攻撃は、戦争の拡大を望まないイランによって、イスラエルに大きな被害が出ないように調整されていた。イギリスの大手経済紙、「フィナンシャルタイムス」は攻撃の前日に、イランは調整された報復を準備していると警告する記事を掲載した。記事にもあるように、イランは攻撃の実施の前にアメリカと近隣諸国に事前に通告していた。この情報はイスラエルにも伝わっていたものと思われる。
イランは発射した自爆ドローンや巡航ミサイルの数を、イスラエルの迎撃システム、「アイアンドーム」が撃墜可能な範囲に抑えていた。ちなみに昨年10月7日の「ハマス」によるガザ攻撃では、「アイアンドーム」の対応能力を越える3000発から5000発のロケットとミサイルが発射され、「ハマス」のイスラエル領内の侵入を可能にした。もし今回イランが本気で攻撃したのであれば、「アイアンドーム」の対応能力を越える数のドローンやミサイルが発射されたはずだ。
一方イランは、報復を求める国内世論の高まりや、保守強硬派の圧力からイスラエルに報復せざるを得ない立場にあった。しかし、イスラエルに大きな被害を与えるほどの攻撃を実施すると、全面的な大戦争になる。これを望まないイランは、イスラエルの被害を最小に抑えるように調整した報復攻撃を実施したというわけだ。事実イランは、この攻撃が最後であるとの声明を出している。
実はいま、イランの経済は成長している。一頃は欧米の厳しい制裁で大変なインフレと経済の後退に見舞われていたが、いまは正式なBRICSのメンバーとなり、中国とロシアとの間で軍事と経済の協力協定が多数結ばれているので、イランは低迷を脱し繁栄している。そのような状況にあるイランは、経済を地盤沈下させてしまうような戦争は、たとえ宿敵イスラエルとの間でも望んではいない。
また、今回の攻撃はイランにメリットがあったことも指摘されている。まずイランは、イスラエル領内を攻撃する能力があることを内外に示すことができた。またイランは、イスラエルの「アイアンドーム」の作動を実際に見ることで、防空システムの突破に必要となるミサイルやドローンの数と戦術を把握することができた。
他方、いまイスラエルの戦時内閣は、目標の選定を巡って内部で意見対立があるものの、イランに報復することでは意見が一致している。報復は、1)イラン国外のイラン系武装勢力、2)イラン国内の軍事施設のどちらかになる模様だ。1)であれば、イランの許容範囲だろうが、2)であればイランのさらなる攻撃があり、報復の連鎖から大規模な中東戦争へと拡大する危険性もある。いま、イスラエルの報復がどうなるのか、かたずを飲んで見ている状況だ。
●予想以上に大きい影響
ところで、今回のイランによるイスラエル攻撃の影響は、予想以上に大きかった。攻撃後の4月15日のニューヨーク株式市場は、ダウ平均株価は6営業日連続の値下がりとなった。
この背景となったのは、イランのイスラエル攻撃による石油を含めた商品相場の世界的な上昇、そして、それに伴うインフレ懸念の再燃から、「FRB」が利下げの時期を再度見送ったことにある。利下げが始まる時期が遅れれば、金融引き締めが長引き、景気を減速させるとの見方から売り注文を出す投資家が多かったのだ。
これが、株式相場を大きく引き下げる原因になった。
しかし、もっと重要なことは、年が明けるにつれて世界のインフレは収まり、物価はピークアウトしたのではないかという期待が完全に裏切られたことだ。むしろ、戦争によるインフレ拡大が大きな懸念材料になった。
さらに悪いことに、イランとイスラエルの直接紛争の継続の可能性は、明らかに市場には織り込まれていないことだ。そのため市場は強く反応し、これからインフレが予想を越えて加速する懸念もある。戦争の状況によっては、原油価格は1バレルあたり100ドルまで上昇する可能性があるとする予想も多い。ちなみに4月17日現在で、原油価格は1バレルあたり85ドルだ。
原油だけでなく、貴金属からコーヒー、ココアまで、他の重要な商品にも上昇圧力がかかっている。資産市場という観点からは、銅、金、その他の商品価格の急騰が特に警戒感を高めている。
最悪のシナリオでは、イスラエルによる強硬な報復がエスカレートのスパイラルを引き起こし、前例のない地域紛争に発展する可能性がある。すると、原油だけでなく、あらゆる商品と資産の相場が急騰することは間違いない。
いまのところ、イスラエルの報復攻撃はイラン領内の核関連施設や、イラン国外のイラン系武装勢力の拠点になる見込みが強い。そうなればイランも報復を自制し、全面的な戦争にはならないと思うが、どうなるかはまだ分からない。
もちろん、インフレの再燃から「FRB」が利下げどころか、さらなる利上げに踏み切るようなことにでもなれば、日米の金利差から円安はさらに加速する。現在、1ドル、154円程度だが、下手をすると160円程度にもなるかもしれない。イランとイスラエルが報復の連鎖になると、こうした状況も十分に考えられるだろう。
●原油価格の急騰が引き起こした食糧危機
いま、アメリカをはじめ各国がイスラエルに報復しないように自制を求めているが、イランとイスラエルの戦争が拡大すると、食糧危機の発生まで懸念されるようになっている。
だがそれは、ホルムズ海峡の閉鎖など、貿易ルートの途絶によるものではない。貿易ルートの遮断という事態が起こらなくても、食糧危機が発生する可能性はある。
そのモデルとなるのは、2008年から2009年に起こった食糧危機である。これについては、過去に何度か紹介したことがある。これがどういう危機だったのか、再度解説する。
2008年はリーマンショックで頂点に達した金融危機の年だったが、食糧危機の本格的な到来も叫ばれた年であった。トウモロコシを中心とした穀物の価格は高騰し、低開発諸国で大規模な抗議運動や暴動が起こった。コメは217%、小麦は136%、トウモロコシは125%、大豆は107%も上昇した。穀物を飼料とする食肉価格も急騰した。現在よりも激しい高騰である。このときは本格的な食糧危機がやってきたとして、日本でも食糧備蓄を勧める声が大きくなった。
しかし、食料の価格高騰は1年ちょっとで収まった。それというのも、価格高騰の基本的な原因が原油価格の高騰にあったからだ。このとき原油価格は、史上最高値の1バーレル、147ドルにもなった。この価格水準ならば、コストのかかるトウモロコシが原料のバイオエタノール燃料でも十分に採算が取れる。そのため多くのトウモロコシ農家が食料の生産からバイオエタノールの生産へとシフトしたのだ。これが、食料としてのトウモロコシの価格の高騰を招いた。
一方、トウモロコシの価格上昇は、穀物全体の値上がりを期待した投機マネーの流入を招き、国際市場で農産物価格が吊り上がった。この結果、価格高騰は穀物全体に拡大した。さらに、当時世界各地の農業地帯を席巻した天候異変による凶作も影響した。
だが2009年になると、アメリカのシェールオイルの生産も始まり、原油価格は急速に下落した。それに伴い、バイオエタノール燃料の生産は採算が取れなくなり、多くのトウモロコシ農家は食料の生産へと回帰し、供給が増大したトウモロコシの価格が下落した。その結果、穀物市場への投機マネーの流入も止まり、穀物価格も下がった。このようにして2009年後半には食料価格は元の状態に戻り、食糧危機の懸念はなくなった。
●イスラエルの報復攻撃は食糧危機を引き起こすか?
これが、2008年から2009年に起こった食糧危機の構造である。その引き金になったのは、明らかに原油価格の高騰であった。
いまイスラエルのイランに対する報復攻撃がどのようなものになるのかかたずを呑んで見ている状況だが、イラン本土の人口密集地などが攻撃されると、報復の連鎖から戦争の拡大は止められなくなる。すると、原油のみならずあらゆる資産と商品の価格は急騰することだろう。「FRB」も利下げどころか、インフレを抑制するために、再度の利上げに踏み切る可能性もある。その結果、高金利の景気への悪影響が災いとなり、株式相場は大きく下落することになるだろう。
では、食糧危機はどうだろうか? イランとイスラエルの戦争がエスカレートすると、食糧危機を引き起こす水準まで食糧価格は高騰するだろうか?
いまのところ、これはまだ分からない。しかし、2008年から2009年のときのように、原油価格の高騰がバイオエタノール燃料の需要を増大させ、食糧としてのトウモロコシの生産が大きく落ち込むような事態になると、中東や北アフリカなどの一部の地域では食糧危機が発生してもおかしくない事態になるだろう。
また、トウモロコシの価格高騰は激しい投機マネーの流入を発生させ、穀物全般の相場を急騰させ、さらに食糧全体の高騰を招く可能性もある。すると、日本の輸入食糧価格の高騰につながる恐れも出てくる。
とにかく、いくつかの条件があるが、イスラエルによるイラン本土の攻撃があると、食糧危機が日本まで及ぶ可能性もまったくゼロではないと考えておいたほうがよいだろう。
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
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