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「百匹目の猿」というコトバは御存知だと思います。1996年6月にサンマーク出版から拙著の『百匹目の猿』が発刊されました。この本のおかげで(?)、このコトバは多くの人に知られるようになりました。
マンガ家の赤池キョウコさんに、この『百匹目の猿現象』が起きた島の宮崎県の幸島に行ってもらい、約60年間、幸島で猿の世話をし、観察をつづけてこられた92才の三戸サツエさんに、案内してもらい、取材もして、マンガも入れてもらいました。それが私の新著『百匹目の猿現象を起こそう』ですが、その原稿が3月10日に書き終りました。
よい本になりそうです。分りやすいし、楽しいし、実話ですから多くのヒントがあると思います。5月にサンマーク出版から出ると思いますので、ぜひ読んでほしいのですが、その『プロローグ』の原稿を、ここへ転載します。
本が出版される前に、私が、この本にかけた思いを知ってほしいのです。よろしく。
プロローグ
私が「百匹目の猿現象」ということを皆さんに話すようになって十年くらいがたちます。
きわめて重要で普遍的な原理だと考えた私は、私たちも猿に学ぼう。学ぶだけでなく、私たち自身がそれぞれ一匹の賢い猿となって、この百匹目の猿現象を起こそうと呼びかけてきました。
百匹目の猿現象とは何か――。
ある島に生息する猿の群れのうちの一匹が、ある日、餌のイモを川の水で洗って食べることを始めました。すると、他の多くの猿たちも、それを真似して同じ行動をとるようになりましたが、その数がしだいにふえて一定量にまで達したとき、ふしぎなことか起こりました。
その現象を知るよしもない、遠く離れた他の土地や島の猿たちもまた、つぎつぎにイモを水洗いして食べる行動をとりはじめたのです。
つまり最初の一匹が始めた、一つの賢い行為が集団のなかに広がって、群れ全体の新しい知恵や行動形態として定着したとき、その行動は――まるで秘密の合図でもあったかのように――距離や空間を越えてあちこちに飛び火し、仲間のなかに同時多発的に伝わり、広がっていったのです。
いまから五十年ほど前、九州・宮崎県の幸島に住む猿たちから見られた現象であり、現在では、「百匹目の猿現象」として科学的にも認知されている、生物の持つ神秘的なまでにふしぎなメカニズムです。
すなわち猿たちが教えてくれるように、よい行い、よい思いは時間や空間を超えて、周囲に広く伝わり、多くの人の思考や行動も正しい方向へと導く。どこかでだれかが、何かいいことを始めると、それを真似する人がつぎつぎにあらわれて、ついには社会全体に浸透していく。
だから、私たち一人ひとりがみずから率先して、よい思い、正しい行いを実践していこう。そうして社会や世界を変える起点となろう。
そう私が声をあげたのには理由がありました。現在の社会の仕組みや価値観を変えない限り、人間や人間の住む地球環境が、急速に悪化し、人類が滅んでしまう運命にあるようにも考えられます。
たとえば、地球温暖化による森林の減少や砂漠化の進行、食糧やエネルギー不足。それらを加速させる、大量消費を是とし、競争を善とする資本主義の行き詰まり。エゴや欲望をむき出しにして、他人を蹴落としながらひたすら勝ち組をめざすような、とげとげしく殺伐とした社会――。そのうえ、人口は増えつづけています。
私たちの社会はいま、出口の見えない袋小路にあり、地球や人類は破滅の瀬戸際に立たされています。これを変えるのに、大上段に構えた大思想はむしろ無力です。
それより必要なのは、私たち一人ひとりの気づきや目覚め、行動や実践です。文明は森を砂漠に変える手段だという言葉がありますが、その砂漠を再び森へとよみがえらせるためには、一本の木を植えることから始めなくてはなりません。
その一本の樹木を一人ひとりが植えるべく行動を起こそう。それぞれ一匹の猿となって率先してイモ洗いをしよう。
私はそう呼びかけるとともに、僭越ながら、この百匹目の猿現象を人間社会に起こすことを、自分の使命ともライフワークとも考えました。そうしてこの十年、先頭で旗を振ってきたつもりです。猿たちが教えてくれたように、よい思い、正しい行い、すぐれたものには、多くの人に伝わり、広がり、変えていく力があります。
その正しいこと、良いことがさらに多くの人や社会に波及し、社会や地球がもっとよい方向へと変わっていくために、一人ひとりが一匹の猿となり、一粒の麦となろう。
そんな思いがひとりでも多くの人の心に響くことを願ってやみません(抜粋ここまで)。
=以上=
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