“超プロ”K氏の金融講座

このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2013.05
株 売却ブーム

 株式市場が荒れています。朝鮮戦争時以来の歴史的な上昇相場になったと思ったら、今度は11年ぶりの大暴落と驚くべき乱高下を繰り返しています。昨年の解散宣言からアベノミクスのブームが始まり、日銀の異次元緩和と続いた日本の経済政策の大変化に、株も為替も債券市場も驚くような変動を来してきています。この相場の行く末はどうなっていくのでしょうか? 私達日本の未来はどうなるのでしょうか?

今回の“株ブーム”の真相は?
 まず指摘しておきたいのは世間で広く言われている<株ブーム>などというのとは全く違う現実です。株ブームというと日本人皆が株式投資に走り、多くの人達が株で利益を出してハッピーな気分が日本中で蔓延していると思えますが、現実は全く違うのです。
 私は今回の株式市場の上昇について、<株ブーム>ではなく、<株 売却ブーム>だと一貫して指摘してきました。
 テレビや週刊誌やマスコミの報道をみていると、ここにきての株式市場の上昇で多くの人達が株に目を向けるようになって、日本中に投資ブームが広がっているような印象を受けます。証券会社が行う株式講演会はいっぱいになり、証券会社のネット口座には申込みをする人が殺到、そして証券会社のコールセンターはパンク状態と言います。それはそれで事実なのですが、これが日本人の株式投資熱に火をつけて、日本全体が投資熱に盛り上がっていると思ったら大間違いです。

 金相場が急騰したときに田中貴金属には大挙の列ができ、多くの人達が金売却をしようと殺到しました。これは投資熱にかられた金ブームというよりは、金を売ろうと急いだ金売却ブームだったと言えるでしょう。思わぬ高騰をした金価格に今までじっと保有していた投資家達が売ろうと殺到したわけです。
 これとは全く同じというわけでもありませんが、今回の歴史的な株式市場の上昇で、実は日本人の投資家層はほとんど株の買い越しにはなっていないのです。昨年11月から本格的な株式市場の上昇が始まりましたが、この間、昨年11月から今年5月まで日本人の投資家が金額ベースで株を買い越した月はひと月たりともありません。日本の個人投資家、銀行、年金、生損保、全て国内の投資家層はこの間、一貫して株を売却し続けてきたのです。
 ちなみに数字を並べますと、今年4月は個人投資家は1兆6,827億円の売り越しというひと月の売却額としては歴史的な水準の売り越しを行いました。一方、金融機関は9,369億円の売り越し、生損保は1,294億円の売り越し、年金を運用する信託銀行は7,293億円の売り越しとなっています。それに対して外国人投資家は2兆6,827億円の買い越しです。
 要は日本株を買い越しているのは唯一、外国人投資家だけで、国内の投資家は個人も金融機関も生損保も年金基金も全て売り越しです。

 これは何も今年4月に限ったことではありません。年間でみても昨年も1昨年も日本の投資家は個人、金融機関、生損保、年金基金と全て株の売り越しです。昨年1年間の推移をみると、個人は1兆9,112億円の売り越し、金融機関は1兆8,982億円の売り越し、生損保は6,976億円の売り越し、都銀、地銀は1,182億円の売り越し、年金基金は1兆193億円の売り越し、やはり買い越しは外国人投資家の2兆264億円だけなのです。
 この傾向は今年になってさらに加速する一方で、国内勢は売却額を増やし、外国人投資家はその全てを拾うかのように8兆円以上買い越しています。
 このように昨年の11月の解散宣言から、今回の怒涛の株式市場の上昇が始まったのですが、それまでも売り越しを続けていた日本国内の投資家層は全て、昨年11月から6ヵ月間、ひと月として株の買い越しに転じた月はないのです。
 繰り返します。日本の投資家層は総体としてみると、どんな投資家層も株を買い越してはいないのです。言い換えれば、一貫してここ10数年、さらには昨年11月からは怒涛のように日本株を売却してきているのが日本人の投資家達なのです。
 これが何故<株ブーム>なのですか! 今、日本で起っていることは<株売却ブーム>なのです! やっと上がってきた株を我先に日本中で売却に動いているというのが数字から見える実情です。

 みなさんの周りの人達に聞いてみてください。どこの誰が株で儲けていますか? お隣の人はどうですか? 株式投資を行っている人を探す方が大変なのではないでしょうか?
 1980年代のバブル時は違いました。現在、日本株を売り続けている個人投資家はもちろんのこと、ほとんどの国内の投資家は株購入に殺到していたのです。当時、連日テレビやマスコミで株の事が話題になっていました。それだけではありません。生保業界は<ザ生保>と言われ、多くの企業の大株主として名を連ねていました。運用資産の半分以上を株式で保有していましたし、追加的に多額の株式投資を続けていたのです。銀行の株式投資熱も凄いものでした。当時、多くの銀行は取引関係の企業と株式を持ち合っていました。
 株式投資は銀行の資産運用にとって普通のことだったのです。事業会社もその多くが株式投資にのめり込んでいました。<特金>と呼ばれた税制優遇の制度に乗って、膨大な余剰資金を株式投資に回していたのです。それだけでなく銀行が湯水のように企業、個人にも貸し付けてくれたので、その資金を元に日本中投資熱が広がっていたのです。
 オリンパス事件などはその当時のなごりです。まさに1980年代後半は日本全体が投資家となって株と不動産を買いあさっていました。これこそが<株ブーム>と呼べるものなのです。
 現在の状況を見てください、バブル時に株を買いあさった、個人投資家も銀行も生損保も事業法人も株を購入するどころか売却を進める一方で、これこそ、<株ブーム>どころか日本では<株 売却ブーム>が起きているのが真相なのです。
 日本株を継続的に購入しているのは、外国人投資家と信用取引を行うような個人投資家の一部のセミプロだけです。
 このような情勢が続いているうちに、日本株の保有者はいつのまにか外国人投資家にとって代わられているのが現状です。昨年末の外国人の日本株保有額は83兆5,560億円となり、前年比27%に増加となりました。そして今年に入って8兆7,000億円買い越していますので、単純に評価益を加味しなくても92兆円以上の保有となっていることは間違いありません。
 一方、生保業界などはバブル時はその資産の5割以上を株式で保有していましたが、現在は運用資産333兆円のうちのわずか3%の12兆円しか日本株を保有していないのです。これではこれから来るインフレに対応できるわけもありません。

 資産運用というものは、本来バランスをとらなければなりません。デフレ時もあればインフレ時もあります。現状の日本国民の資産構成は全くインフレに対応できない形になっています。なぜ日本全体がこのような有様になってしまったのでしょうか?
 日本人は元々、株で儲けるというような行為に対して罪悪感がありますし、ましてやバブル崩壊後22年にわたって株が下がり続け、株で損をしたという話が山のようにあります。元々が投資に関しては保守的な国民性がありますから余計に、株に対してはいいイメージがありません。
 バブル崩壊後の株式投資の損失体験は多くの日本人にとってトラウマのようになり、「株はこりごり」という考えが日本全体にあります。これは個人だけではありません。昨今の金融機関の赤字決算、生損保、年金基金などの運用不振の原因の多くはそれらの株式運用の不振にあることは広く伝えられてきました。そうなると幾ら株が上がっても、政府に幾らインフレムードを煽られても、株には手を出しづらいという考えが先に立ってしまいます。これが日本全体のムードであって、このような苦い経験、投資に保守的な国民性をバックにして、今、株式市場が急騰してきたその時に、いいチャンスと思って株を売ってしまおうということで日本全体で<株 売却ブーム>が始まってきたのです。
 先日行われた日経新聞とテレビ東京の世論調査で安倍内閣の支持率は68%、経済政策に対する支持率は62%と高水準でした。ところが自らが景気回復の恩恵を受けているかという問いには22%の人達がイエスと答えただけだったのです。要は多くの日本人はアベノミクスで景気が回復していくような気持ちになっているわけですが、実体としての利益を得られていないというのが本当のところです。

株高でも景気回復を実感できない理由
 この辺はその資産構成において欧米諸国と日本との比較をみると歴然です。株式市場は昨年の解散宣言からわずか6ヵ月で8割上昇しました。普通はこれだけ株が上昇すれば自らも株を保有していれば、実感として景気回復を感じてくるという感覚を持つと思いますが、日本人の多くはそのような実感がありません。これは株を保有していないからです。

 日本人の金融資産における株式の保有比率はわずか6%台です。一方の現預金は56%、圧倒的に金融資産の構成比で現預金に偏っています。これを米国と比較すると米国人は金融資産における株と投資信託を合わせた比率が45%になります。
 一方で現預金は14%にしか過ぎないのです。日米の国民性の違いはあるというものの極端な違いがあります。自分の金融資産の半分近くを株や投資信託で保有する米国人にとって、株高は実際に彼らの懐を潤すものになるのです。ですから、米国では株式市場の上昇が個人消費を刺激し景気を大きく浮揚させる力となります。

 ところが日本では株が上がっても投資家は売却する一方であり、そもそも金融資産の6%程度しか株式を保有していないのですから、当然株が上昇しても多くの人達は自らの利益を実感することができないのです。昨今消費が拡大しているのは高級時計や絵画など富裕層の消費であり、日本全体としてみればごく一部の動きにしか過ぎません。
 このようにみていくとわかりますが、欧米の人達に比べると日本人の資産構成は極端に現預金に依存しているために、デフレには対応できますが、実はインフレには全く対応できないようになっているのです。
 こんな日本にあって現在行われている国の基本政策は、インフレに誘導しようという事なのです。政府も日銀も何とかしてインフレを作り出そうと日々、奮闘しています。その方策として異次元緩和、想像を絶するような日銀による国債の買い入れを行うというわけなのです。
 中央銀行が円紙幣を止めどもなく印刷して、国の借金である国債を買い付ければ、インフレに誘導されるのも時間の問題でしょう。その証左として株式市場が上昇してきたのです。
 今株式市場が突如の変調をきたし、急速に下げてきていますが、もしこのまま下げ続ければ、政府も日銀もさらに金融を追加的に緩和して、円紙幣の印刷速度を速めることでしょう。政府のブレインである今回のアベノミクスの立役者であるエール大学の浜田教授は5月28日、インタビューに答えて「日銀の黒田総裁は自らの判断を信じ、目標が達成できない場合は一段の金融緩和を行うべきだ」と述べたのです。
 すでに日銀は毎月7兆5,000億円の国債を円を印刷して購入しています。年間で90兆円に上る額を円紙幣を印刷して買うのです。日本の今年度の国家予算は92兆円ですから、現在の日本は税金などないのも同じ、日銀の輪転機によって都合良く動いているのです。「それをまだ緩めるな、もっとやれ」と浜田教授は説いています。日本中、その政策を支持しています。

 政府は、何が何でもインフレに誘導するという固い決意を持っています。インフレを作り出すことこそが日本経済再生の道であると信じられているのです。本来の経済学であれば、需要を増やすことによってその結果として物が売れるようになってインフレが起こるはずなのですが、浜田教授をはじめとするリフレ派の考えはまず紙幣を大量に印刷することによってインフレになる、という期待を起こせということなのです。
 その期待感がやがて人々の消費行動に目を覚まさせるというわけです。そしてまずは期待は株の上昇から起こるので現在起こってきたことは予定通りというわけなのです。
 こうして基本的な株高基調への誘導は止まることがないのです。元よりデフレの日本をマネーの印刷を爆発的に増やして株や不動産価格を上げることによって、その資産効果で景気を刺激しようというのが日本政府の本音です。ですから基本的には株式市場も不動産市場も巨大な上昇トレンドに入ってきているのです。これに関しては昨年からこのコラムで何度も書いてきました。
 このような現状があるにもかかわらず、日本国民は一向に積極的に株式投資に乗り出そうとはしていません。マスコミに報道されている<投資ブーム>は一部の動きであって、真実はここまで書いてきたように日本では<株 売却ブーム>が起こっているに過ぎないのです。庶民がお金を預けている銀行、生損保、郵貯、年金、全てが株式投資を嫌い、個人投資家自らも株式投資に二の足と踏んでいるのが実情です。そこに持ってきて直近で起こったのは株の急落です。新聞に踊る「株式市場の暴落」「11年ぶりの下げ幅」はまた一層の投資意欲を削いでいくものでしょう。人々に「株は怖い」と印象づけることでしょう。

 政府も日銀も必死になってインフレに誘導するというのですから、本来それに対応して資産防衛を考えていくしかないのです。いやがおうにも行動するしかないのです。ところが22年間のデフレに慣れて、預貯金に固執した日本人の多くはそこから抜け出すことができません。こうして多くの日本人は全くインフレに対応できず、これから来るさらなる怒涛のような株式市場の上げを享受することができないのです。そしていずれ訪れる国債の大暴落、止らないインフレに驚愕し、泣く時がやってくるのです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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