“超プロ”K氏の金融講座

このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2012.10
チャイナリスク

 「今回は全く次元が違う。日中国交の40年間の努力が水泡に帰すかもしれない。最悪の場合は修復に40年以上の歳月がかかるだろう。」
 丹羽中国大使は危機感を露わにしました。日本政府も日本国民も、今回の日中間で起こった問題の深刻さを認識していないというのです。すでに自動車メーカーなどの中国本土での売り上げは5割近く落ちてきています。さらに税関の手続きの遅れや日本製品の排斥運動、また日本の観光地の中国からの観光客も激減状態です。しかし経済的に本当の打撃を被るのはこれからが本番かもしれません。
 日本側から見れば、尖閣の国有化という極めて自然のことを行ったにしか過ぎませんが、今回の中国側の異常なリアクションには呆れと共に戸惑いも持っていることでしょう。すでにあらゆるマスコミを通して言い尽くされている尖閣問題ですが、中国側の背景、今後の日中間の関係の推移など推察してみたいと思います。

中国が尖閣を欲しがる理由
 一般的に領土問題というものは、どうしても自国の立場から見てしまい、感情的に反発してしまうものですが、あれだけ反発する中国側の事情はどういうものかも推察してみましょう。
 中国が尖閣に対して公式に領土と主張し始めたのは1971年からです。それまでは日中間に領土問題の緊張関係は存在していませんでした。これ以前の中国の教科書にさえ尖閣を日本領として記述していたということです。
 明らかに、1969年に国連の報告書が尖閣周辺に膨大な石油資源が眠っていることを指摘してから状況が変わったわけです。何でもなかった小さな島がその周辺が海底資源の宝庫だと判明してからが大きな状況の変化が起こったのです。

 このエネルギー資源ということは極めて重要です。日本が太平洋戦争に追い込まれたのも、ABCD包囲網で資源の枯渇にあったからです。ましてや中国のように膨大な人口を有している大国にとっては、エネルギーの基である資源は国家の生命線と言っていいでしょう。
 中国側は尖閣について「核心的利益」と位置づけていますが、これは中国側にとっては死活的な問題であって決して譲ることはないということです。
 中国は13億人という膨大な人口を抱えていますが、これは強みであると共に、負担でもあるわけです。というのは、中国は国家としてこれら13億人の人間を食べさせていかなければならないからです。今日のように発展してきた社会にあって、この13億人を満足するように食べさせ続けていくだけでも大変なことですが、1979年から概ね10%成長を続けてきた中国は、今後も当然そのペースに近い経済発展をさせて13億人の人々を満足させていかなければなりません。それにはどうしても食料、エネルギーといった基本的な物資の確保は欠かせないものなのです。電力が無くてどうやって人々の暮らしが成り立ちましょうか? 食料が無ければ大変なことになります。発展していく社会にとってこのような食料、エネルギーは必要不可欠なものなのです。

 そして中国にはこのエネルギーが多くは存在していないのです。言わば13億人を養うだけの資源がないのです。そういえば日本だって同じであって、輸入しているではないか、ということではありますが、やはり中国のような大国ともなれば当然、その基本である食料、エネルギーなどは自前で調達しなければ、いざという事態に対応できません。
 言わばこのエネルギーの確保などは、国家の存亡を決める最も重要な問題なのです。そして現在のペースで発展が続いた場合、ないしはこれから低成長に入っていったとしても発展が続くわけですから当然、早晩エネルギー問題という壁にぶち当たってくるのは必至なのです。
 これは国家の存亡の問題で、まさに中国から見れば生きるか死ぬかの「核心的利益」なのです。中国は今や世界で最もエネルギーを消費する国になっています。中国国内の石油はすでにほとんど枯渇して、中東をはじめとする海外からの輸入に頼るしかない状態です。
 今年の中国のサウジアラビアからの石油輸入は過去最大の量となっていますし、これからももっと輸入量を増やしていくしかありません。
 しかし今の世界の石油情勢をみても、新しいシェールオイルという技術は生まれてきたにせよ、やはり基本的には、採掘しつくした地上にある石油の井戸よりは、未開発の海底油田の発掘という流れにあるわけです。
 そしてこの尖閣周辺の大陸棚に埋蔵しているという石油は中東に匹敵するとも言われているのですから、これをみすみす日本に渡すわけにはいきません。ごり押しだろうが何だろうが、自分達が生き抜くために自前の資源はどうしても必要欠かざるものなのです。
 中国はチベットをあれだけ強引に併合してしまって決して独立運動を許しませんが、チベットもヒマラヤから流れる7つの川の起点で水の源泉であって、尚かつ天然資源の宝庫です。中国がチベットを離せるわけがありません。まさにチベットも、そして今後開発ができれば大変な石油が出ると思われる尖閣周辺も、武力を使おうが何をしようがどうしても確保しなければならない国家の生命線と言えるでしょう。
 中国政府にとって議論の余地のない問題で、何を差し置いても奪いに来ると思っていた方がいいでしょう。日本人の考えている人道主義とか理屈とかではありません、これは「生き抜く」という中国の強引な国家の意志です。今尖閣に攻めてこないのはひとえに日本のバックにアメリカがいるからであって、アメリカの言う「尖閣は日米安保の範囲内」という見解が中国の軍事的な侵攻を思い留まらせている全てと言っていいでしょう。

中国の日本に対する思惑を、こう読む
 一方、アメリカからすれば、日本に問いたいのは、「日本人は血をもって尖閣を守る覚悟があるのか?」ということでしょう。
 日米安保の範囲内と言っても仮に中国と事を構えるとなれば、アメリカ兵の血が流れるかもしれないわけです。日本人が血を流す覚悟がないものを何故、同盟国とはいえ、アメリカ人の血を流す必要があるのか? という素朴な問いに日本人は答えられるでしょうか?
 この問いに答えられるだけの覚悟、準備を見せてこそ、日米安保が機能するという基本的な真理も認識しておく必要があると思います。平和も領土もただでは守れません。血を出す覚悟がなければ奪い取られるだけです。

 ここに至るまでの中国の尖閣に対しての攻防は一貫しています。これは国策がはっきりしているからだと思います。単純にその時の状況とかで対応を判断するのでなく、最終的に中国側は日本から尖閣は奪い取るという目的ははっきりしているわけで、それを戦略的に如何に行っていくのかという判断に基づいて、その時々、彼らなりの最善の行動を行っているわけです。ケ小平は「次の代、その次の代までも」と、この問題の実質棚上げを言っていましたが、その実、中国側は自分達が力をつけるのを待っていたわけです。この辺の戦略は尖閣問題における中国側の出方を時系列的に見ていくとわかります。

 2001年の段階では、日中関係は小泉総理の元で危機的な状況を迎えていました。
 靖国神社の参拝問題です。当時中国側は激しく反発して首脳会談は中断され、日中の政治的な交流は途絶えてしまったのです。ところが当時、中国側は「政冷経熱」と言って、経済的な交流には全く影響がなかったのです。ここが中国の今日の出方と全く違うところで巧妙なのです。
 当時2001年の段階ではまだ中国は、WTO(世界貿易機関)に参加したばかりで、これから本格的な経済発展という段階だったのです。当時の中国のGDPは日本の3分の1で、経済的には日本の援助を受けている状態であって、中国としては日本は経済のパートナーとして必要欠かさざる存在であって、経済交流を止めるなどという判断は、如何に政治的な対立があったとしてもあり得なかったのです。
 中国側は靖国の問題で激しく応酬したものの、経済的には日本、中国共に何も変化なく平穏無事だったわけです。日本の企業が焼き打ちされる今との違いを考えてみてください。
 かように中国はその時々で欲しいものは手に入れている。そして状況が変われば牙を剥くというわけです。

 2010年の尖閣の衝突では中国側は、2001年の時とは一変して、日本に対してレアアースの禁輸という経済的な強行手段に打って出ました。これは明らかに中国側が経済的な力をつけてきたから制裁の方法を変えてきたわけです。しかもこの時行われたレアアースの禁輸は今でも続いています。中国は自らが資源の確保のため世界中から資源をあさってきていますから、その重要性はいやというほどわかりきっているわけです。ですからこの時の衝突を契機として、自らが行いたかった資源の囲い込みを強引に行ってきたわけで、これは言うなれば、元々レアアースを禁輸したかったものを、衝突を口実として実行したにしかすぎません。
 これは当時、中国側が経済的に発展して、日本とのGDPが逆転したから行ってきた措置と言えるでしょう。言わば、中国でしか産出できないレアアースという希少資源を、衝突をきっかけに本当に囲い込んでしまったのです。恐らく日中のGDPの逆転が無ければこのような事は成されなかった措置でしょう。

 そして2012年の今度は官製デモを使った日本企業に対しての破壊行為です。これは今では中国から見て日本の価値が下がっていることを示しています。
 日本の輸出先の一番手は中国ですが、逆に中国にとって日本は、EUや米国などにつぐ4番手の輸出先になっているわけで、中国側から見れば一時よりも日本への依存度が下がっているわけです。
 極端な見方をすれば、日本などもう必要ないということです。ですから尖閣の国有化という措置に怒りを思う存分、発散して日本企業に対して見せしめ的な破壊行為に及んだというわけです。こうして世界に中国側の怒りを認知させ、尖閣奪取の階段を一つ一つ昇ります。
 中国は今世界に対して、「尖閣は中国のもので、日本は尖閣を日清戦争の時に中国から奪い取った」と宣伝しています。まさにこれも一つのステップです。最終的な目的は変わりません。尖閣を我が物にして、石油資源を国家の存亡をかけて奪取することです。最終的には米国の出方を見ながら時期を窺うだけということでしょう。

 かように時系列的に見ていくと、中国側の経済的な発展、国家の力が増強されるに従って日本に対しての出方が変わってきているのがわかります。そして今では世界に対しても、今後、尖閣に軍事進攻するための理由づけを発信してきたと見ていいでしょう。
 はっきり認識しておかなければならないのは、こういうふうに、中国側は確実にステージを上げて階段を昇っているということです。
 そして今後ですが、一般的には除々にこの対立関係も時がたつにつれてお互いが損をするわけだから冷静になって、沈静化に双方が努めていくようになって行くだろうという見方が多いかもしれません。ところがそのような楽観的な方向には行かないでしょう。というのも、中国自体が曲がり角に来ているからなのです。
 昨今は中国の経済統計に対しては疑惑の目が向けられています。それは、中国当局が発表しているよりも実際の中国経済の鈍化の状態は激しいのではないか、という疑問なのです。

今後の中国
 私はこのコラムでも指摘したことがありますが、中国の企業はグーグルやマイクロソフト、インテル、日本で言えばキャノンとかトヨタのような世界を技術で席巻している企業がありません。ここまで中国経済が発展してきたのも、ひとえに安い豊富な労働力が力の源泉だったのです。この安い労働力が昨今の賃上げラッシュで中国から消えていってしまっています。そうなると中国経済の質的な転換が難しいのです。リーマンショックの後、中国は常軌を逸した公共投資の連発で不況を切り抜けました。しかし今、その反動で中国全土でバブルが発生し、いらないマンションや空港、高速道路が山のようにあります。これが地方の不良債権となって地方財政を圧迫し、ひいては景気対策も打てなくなってきているのです。
 本来は、公共投資主体の投資型経済発展から、個人消費を通じた先進国型の経済発展に移行しなければならない時期なのですが、それが上手くいきません。そうして再び腹いっぱいの公共投資に戻ろうとしています。
 これらの政策矛盾や、急激な経済発展から生じている激しい貧富の格差などは、中国経済を蝕んできています。表面的にははっきりとは見えないものの、あのデモの時の日本企業に対しての暴挙をみると中国全体に病理がまん延してきていると言ってもいいでしょう。
 この際どい状況にあって、今後、さらなるバブルの崩壊や不良債権の顕在化が襲ってきたらどうなるか? また今年は、世界から中国への投資は激減しています。8月までその穴を埋めていたのは唯一日本企業だったのです。日本企業だけが前年比で中国に対しての投資を増加させていたのです。これも今回の事件で、日本企業の中国への進出に急ブレーキがかかるのは必至です。
 もちろん欧州の危機は簡単には収まらないでしょうが、これから訪れる中国経済の危機的状況はそれをも上回る深刻な問題となってくることでしょう。そうなったときは、中国の指導者は国内の諸問題から民衆の目をそらすために、間違いなく尖閣に今以上の摩擦を引き起こしてくるに違いありません。中国当局にとっては「反日」ほど都合のいいスローガンはないのです。
 いずれにしても今後の中国は、重大な不安定要因です。フィリピンやベトナム、そして日本と領有権争いをしているのは、中国側から見れば「資源確保」という自国の生き残りのための切実な戦いなのです。引くことはできませんし、あり得ません。
 そして中国経済は、今後不安定さをさらに増し、中国社会は混乱の度を強めていくことでしょう。日本との関係は、中国経済の衰退が大きく影響してきます。
 今後、日中関係は悪化することはあっても改善することはないでしょう。そして再び中国内の鬱積した不満が日本企業への攻撃に向けられていくことでしょう。
 丹羽大使は「今後40年、日中の関係改善は難しくなっていくだろう」と懸念を示していましたが、大使の予想通り、ないしは予想以上に日中関係の悪化が始まるのはこれからが本番で、いよいよ中国へ進出した日本企業は正念場を迎えることになると思います。
 まさしく深刻な「チャイナリスク」が始まってくるのです。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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