“超プロ”K氏の金融講座

このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2012.11
円を売る時がきた!

 「円を売る時がきた!」BRICSの名付け親で有名なゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのジム・オニール会長は、円相場についに歴史的な大転換が起こったと述べました。
 オニール氏は1985年から円相場に関しては一貫して強気の見方をしてきていました。
 ただ最近は、円相場については弱気な発言が目立つようになっていたのです。
 オニール氏によれば、最近のオニール氏の弱気な見方とは裏腹に円相場は高値を取り、ある意味見方を誤っていたということです。しかしながら今回、自民党の安倍新政権の誕生が予想され、安倍氏がインフレターゲットなど金融緩和に積極的であり、また日本は国際収支が赤字方向に向かっていくということを考えると、いよいよ事態は明らかに変わった、というわけで、円を売る時がきたというのです。

 私は一貫して円相場は昨年の10月31日の75.35円で歴史的な高値を付けて、今後は円安方向へ向かっていくと述べてきました。1971年のニクソンショックから始まった円高の流れは、昨年2011年で終了して、40年間に渡った円高トレンドは終わり、今後数十年に渡る大きな円安トレンドに入ったと指摘したのです。
 今年を通してみると、円相場はもみあい状況でしたが、昨年の高値である75円台に突入することはありませんでした。そしてここでついに、円相場の基本的な動きに変化が訪れてきたのです。これからは誰の目にも円安方向への変化が明らかになっていくことでしょう。

円相場に起こっている根本的な変化とは?
 実際、円相場はこれほど買われる理由はないのです。もちろん昨今、円が買われていたのは、欧州危機によるユーロに対する不安からくる消極的な円買いということで、決して円に魅力があって買われていたわけではありません。このような買いは非常に弱い買いで、何かがあると一斉に逆に売ってくるということになります。
 もう一つ根本的な変化が円相場には起こっています。
 貿易収支の赤字によって、実需の円の需要が落ちてきているのです。原発停止によるLNG(液化天然ガス)などエネルギーの輸入代金の拡大によるものです。これは私も何度か指摘してきましたが、昨年の大震災のあと、ご存じのように福島の原発の事故があり、今でもなお、その後始末ができない状態で、これから先も保障問題や廃炉の問題など、全く展望が見えてこない状態です。福島には連日3000人を超える人達が厳しい作業を行っているわけですが、いつ終結するのか一向に光はみえません。
 今回の選挙においても、この原発廃止の問題が大きな争点の一つになってきています。
 日本は唯一の被爆国であり、また今回のような大規模な原発の問題がこの日本で起きてきたということには何か意味があるのかもしれません。私は経済が専門ですから、経済的な見地から考えると、この原発を一遍に廃止するというのは、国のエネルギー政策の在り方として無理があるように思っていました。
 しかし原爆の投下をはじめ、このような原子力の悲劇を日本人だけが経験しているというのも、何か我々に特段の試練を与えられているようで、日本人に課せられた特別の役割があるのではないか、とも思ったりします。
 いずれにしても私は、この原発問題を語るときは、原発を全面廃止するということを主張する場合は、国として深刻な経済的な苦難を生じさせることになるということだけは理解してもらいたいと思っています。クリーンエネルギーは素晴らしいですが、まだ世界中で本格的に商業ベースで成功した例はありません。欧州ではあれだけ補助金を出して太陽光などのクリーンエネルギー政策を押し進めましたが、その高コストに耐えかねてすべて挫折しています。米国でも同じで、太陽光の関連の会社は補助金の削減と共に次々と倒産していきました。
 またエネルギーという観点からすると、米国では新しくシェールガスが大量に出るようになり、それに付随してシェールオイルといって、石油も産出されるようになりました。
 米国は2017年にはサウジアラビアを凌ぐ原油生産大国になるという予想を国際エネルギー機関(IEA)が発表しています。そうなれば米国は安いエネルギー、日本は高いエネルギーということで、日本は産業的にはますます不利に陥っていきます。
 お隣の韓国も、原子力発電を盛んに多用していますし、中国も同じで、また中国にも豊富なシェールガスが存在しています。すでにこのガス価格において1単位当たり日本は米国の7倍近い代金を支払っているのです。このような状態でさらに原発の全面停止となれば、日本の企業はコスト競争力で海外勢に太刀打ちできず、国際競争の敗者となっていくでしょう。
 そうなれば日本全体の雇用も失われ、厳しい経済状況を迎えることになってくると思います。
 経営の悪化が伝えられるパナソニックの社長は、エネルギーコストの上昇からくる電力価格の引き上げについて、「企業努力の限界を超える」と自制を求めました。しかし同じく、各電力会社も膨大な赤字に苦しんだ末の判断です。このように電力会社による電気料金の断続的な引き上げは、電力会社の経営という問題だけでなく、高い電力料金を支払うことで日本の各企業の収益が急ピッチで悪化していくこととなり、ひいては日本全体の雇用にも大きな影響をもたらすことでしょう。原発を廃止することによって、このようなリスクを背負うという強い覚悟を持って、日本中が原発停止ということを決心するのであればそれでいいと思いますが、その覚悟もなく、単にクリーンエネルギーが環境によく素晴らしいからという夢物語に酔うのは余りに短絡的で危険と言えるでしょう。
 いずれにしても、日本人がより原発にアレルギーを感じてしまったことは事実ですし、今後、原発を以前のように再開していくのは難しいでしょう。そうなれば原油やLNGガスなどの輸入を少なくすることなどできません。前述したように、クリーンエネルギーはまだ実用化にどれだけの時間と費用がかるのかわからないのです。このように考えてくと、日本は当分、電力は火力に頼るしかなく、LNGなどの輸入は減っていくことはないでしょう。こうして震災後、日本は輸出額よりも輸入額の方が多い貿易赤字が定着してきました。貿易が赤字になるということは、日本の資金が外に出ていくということです。

 一方で、日本には今までの貿易黒字で貯めてきた蓄積があります。この大きな蓄積をもとに海外へ投資してその投資収益が日本に還元されてきているのです。これは経済学では資本収支の黒字といって、日本の国際収支を見る場合、この資本収支と貿易収支を合わせた額をみるわけです。これが日本に入ってくる資金です。これを経常収支というのですが、国力を見る場合この経常収支が黒字であるか赤字であるかということが重要なファクターの一つになります。
 例えばギリシアなどは、この経常収支が赤字ですから、絶えず外国からの資金の流入がないと国が成り立たないわけです。ところが日本はこの経常収支が黒字ですから、資金に余裕があり、ひいてはこの貯まっていく資金を利用して日本国債を買うことができたわけです。この事実を捉えてギリシアと日本は違う、ギリシアは経常赤字国、日本は経常黒字国、根本が違うわけだから日本国の状態をみる場合に、ギリシアのケースと比較するのは筋が違うということが言われます。

「円安への大転換」、その根拠とは?
 それはその通りなのですが、問題は、その経常収支も日本では赤字方向になる日が近づいているということです。そもそもなぜ、日本国が金持ちになったのかといえば、これは貿易で資金を稼いできたからです。そしてその稼いだ資金を海外に投資することによって、利子その他を得ることができました。ところが、稼ぎの元となっている貿易収支が、この原発停止の影響でエネルギー輸入の拡大によって赤字化という構造的な変化をもたらしました。また昨今の円高によって国内の工場は海外に移転してしまっています。こうなると行ってしまった工場は二度と返ってきてくれません。工場が返ってきてくれなければ製品は作れず輸出するものがありません。これは日本の「空洞化」と言われるものですが、このように日本は、エネルギーの輸入代金の増加と円高によって生じた国内の空洞化という要因で急激に貿易構造が赤字体質となってしまっていて、この傾向は続いていくのです。
 となると、元は貿易の黒字で稼いできたお金が貯まってお金持ちになって(資本収支が増えた)大きな額となっていたわけですから、元の貿易収支で稼げなくなっていくと、やがて貯まったお金(資本収支)も少なくなっていきます。
 これは定年後の収支を考えるとわかりやすいと思います。例えば現役で働いているときはお金も稼ぎますから貯金もたまっていくわけです。いわば貿易収支による稼ぎのようなものです。ところが定年後は働きませんから、この稼ぎはなくなってしまいます。ですが、今まで蓄積した蓄えがありますから、その利子などで食べていくわけです。これが資本収支で貯まっている資金と思えばいいでしょう。ところが働かなくなると貯金も段々少なくなっていきます。いわゆる貿易収支の黒字がなくなるように、稼ぎがないので、貯金を取り崩すようになっていくのです。これが資本収支の取り崩しと思えばいいでしょう。そうなると段々蓄えは減っていきます。いわゆる資本収支の減少です。

 こうして資本収支が減少していくわけですが、すでに貿易収支も赤字が定着していきますから、資本収支の黒字は減り、貿易収支の赤字は増え、結果として両方を合わせたものである経常収支も赤字に陥っていくのです。
 簡単に言うと、日本全体でお金が足りなくなっていくわけです。これが今の日本が進んでいる道です。そのことを捉えてジム・オニール会長は、円安への大転換がなされたと言っているのです。そうなれば今度は、国債を購入する資金がなくなります。国債を売るのに国内では賄いきれず海外に頼るしかありません。海外勢は1%なんていう低い金利では日本の国債を購入してくれません。これが金利高騰の始まりとなるということです。ひいては円安を加速させる要因となっていくわけです。

 もう一つ大きな隠れた円安要因があるのです。これは先日日銀が行った「貸出支援基金」という制度の創立です。
 この貸出支援基金というのは何かというと、日銀は金融機関に対して、貸出の資金であれば無制限に貸出していくという制度です。要するに民間の銀行が貸出に使うと言えば日銀はいくらでも融通するわけです。こうなると面白いこととなります。普通の金融というものは銀行が預金を集めてそれを企業に貸出すわけです。ところがこの制度では、企業が借りたいと言えば、日銀が円紙幣を印刷して貸出すわけです。当然マネーの供給量は爆発的に増えます。
 このような常識外で画期的な政策が日本の新聞では大きなニュースになりません。
 さらにこの政策の凄いところは、この日銀の資金を海外の銀行にも貸出すのです。
 一般的に日本では資金需要がなく、資金を借りに来る企業がありません。ところが海外は違います。発展続けるアジア地域などは多くの資金を必要としています。今回の日銀の新政策では、海外の銀行のみならず、ノンバンクにまで貸出すのですからたまりません。
 これでは資金が必要なところは、日銀からただのような0.4%の金利で引っ張ってきて、それを円からドルに転換して海外に投資すればいいのです。これではヘッジファンドをはじめ無尽蔵に日銀に殺到する可能性があります。こうして海外勢が日銀から資金を借りてその円をドルに転換させることによって円安に誘導しようという思惑もあるのでしょうが。仮に止めどもない資金需要が起こってきたら大変です。円からドルへと怒涛のような資金の流れが起きてくるでしょう。そしてその後円相場が暴落して、円が紙のようになればどうか? 仮に円資金で100億円借りて、それをドルに転換して海外で投資して、その後、円相場が暴落して半値にでもなったら、ドルを円に戻して半分の50億円分を返せば事が足ります。
 1997年のアジア危機の時は、ジョージ・ソロスなどヘッジファンドはタイのバーツで膨大な資金を借り入れ、それをドルに転換して投資、その後アジア危機でタイの通貨バーツが10分の1になったときにドルをバーツに転換して返し(元金の10分の1)、借り入れた資金を実質ほとんど奪い取ってしまったのです。

いよいよ本物のインフレが始まる!
 すでに自然に放置していても円安に向かっていく流れなのです。日本は貿易赤字になり、世界一の借金をしているのです。国内の全金融機関が判を押したように国債を購入しています。こうして国債の相場は今のところ堅調です。ここで安倍新政権ができます。そしてすでに報道されているように怒涛のような金融緩和、国債発行、とインフレ政策を行っていくのです。この流れを読んで円相場は円安に動きだし、株式市場も上昇が始まりました。
 新しく首相につくことが確実視される安倍総裁は、物価が上昇するまで無制限の金融緩和を行うと言っています、本当の大規模な政策転換です。世界一の借金国が恐れを知らぬさらなる国債増発に動き、日銀法を改正して政治が中央銀行を乗っ取るというのです。こうして日本ではいよいよ本物のインフレが始まるのです。
 円安を志向しながら、実は歯止めのないマネー増刷、国債発行によって実は止まらない円安、そして大きな株高に向かっていくのです。
 その行く着く先は、人々が想像もしないインフレでしょう。やがて金利が上昇すれば国債の利払いができなくなります。安倍総裁の言う3%の物価上昇が本当に実現すれば、日本国債は暴落します。日本国の借金1000兆円の国債の利払い、金利30兆円も支払う資金は日本にありません。40兆円の税収で30兆円の利払いで財政が持ちますか?
 安倍新政権は大きな期待と喝采を持って日本国民に迎え入れられることでしょう。こうしてこれから円安、株高のハッピータイムが訪れます。しかしその後に来るインフレで現金は実質価値を失い、人々は驚愕することになるのです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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