“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2016.03
トランプ旋風が写すもの

 米国の大統領の予備選挙も佳境に入っていますが、特に今回驚かされているのがトランプ候補の人気です。派手な振る舞いで暴言を繰り返すトランプ候補はその変わったパフォーマンスから話題になっていましたが、まさか共和党の代表候補になるほどまでになると全米のマスコミも世界のマスコミも予想はしていませんでした。一時的に人気にはなっても、さすがに大統領を決める選挙ですから、あまりに極端な人種差別的な発言を繰り返すトランプ候補が最後まで候補者として残るなどとは思えなかったからです。
 ところが米国でのトランプ人気は、一向に下火になることなく、却ってますます人気が盛り上がる一方となっていったのです。こうしていつの間にかトランプ候補は共和党の予備選で勝ち続け、今では共和党の代表として大統領選本戦に臨むのは必至という情勢になってきました。

●過激思想のトランプ候補が支持される理由は何か?
 いったいなぜ米国民はトランプ候補のような過激な思想を支持するようになったのでしょうか? 我々には見えない怒りやうっ積した欲求不満が米国全土に広がっているようにも感じます。米国民はどうなってしまったのでしょうか、過激な思想を後押しするのはなぜでしょうか。そして水面下で米国内で起こっていることを探ってみたいと思います。

 トランプ候補の圧倒的な支持者は主に中低所得層の白人と言われています。米国は移民の国ですから白人の数は年々減りつつあるわけですが、この白人層の中で思わぬ衝撃的な変化が起こっているようです。その変化がトランプ候補を持ちあげていくエネルギーになってきたように感じます。
 まずは働き盛りの30代から40代の米国の白人層に起こっている変化をみてみましょう。
 30代から40代と言えば典型的な働き盛りであり、社会の中心的な存在であるはずです。一般的には家庭にも仕事にも忙しく、いろんな面でフル活動しているイメージがあります。現在全米での、この働き盛りである30代から40代の白人男性の労働参加率なのですが、何と昨年2015年は79%と、5人に1人は失業、働いていない状態なのです。この白人男性の無職の層は、働く意欲もないので職探しさえしていないと言われています。この白人男性の30代から40代の労働参加率ですが、かつて1968年の時は96%と、ほとんどの白人中年男性が職を持っていたのです。それが時と共に自分に合った仕事が極端になくなっていくという大きな変化が起きているのです。職もなければ当然、結婚するわけにもいかないでしょう。この30代から40代の白人男性の既婚率は労働参加率が高かった1968年には86%だったのですが、職がなくなるにしたがって減少傾向になっていったのです、昨年2015年の段階での30代から40代の白人男性の既婚率は52%にまで落ちています。米国社会の中心的な担い手であった30代、40代の白人男性の約半分は今や独身状態です。

 かつては白人層が大きな力を有していた米国において、明らかに白人社会の影響力が落ち、白人の力そのものの衰えが見えるのです。なぜ一部の白人層はこれほどまでに職を失い、職を探す気力さえなくなってしまったのでしょうか?
 さらに驚くべきことですが、全米ではこの中年世代の白人男性の死亡率が年々上昇しているというのです。働かないで働く気もなく怠惰な生活を繰り返しているうちに荒れた生活となっていくようです。この白人中年男性の死亡率は1983年から1998年までは毎年1.8%ずつ低下していきました。現在の医療技術の発展を考えれば当然のことで、寿命が延びているのは全世界共通のことで、死亡率が低下することは普通です。ところが、この全米の白人中年男性の死亡率は驚いたことに1999年から毎年上昇し始めるのです。何と一昨年の2014年まで15年間、死亡率が毎年0.6%ずつ上昇し続けているのです。驚きではないですか? この長寿が当たり前のご時世に先進国である米国の、しかも働き盛りの白人中年男性の死亡率が年々上昇傾向にあるというのですよ。荒れた生活でのドラッグの服用過多による早死にや自殺なども増えているようです。特に教育水準の低い白人男性ではこのような傾向が著しく増加しているということです。

 トランプ候補は不法移民を絶滅させるためにメキシコとの国境に万里の長城のような巨大な壁を作ると公言しています。米国では移民は合法ですが、反面、不法移民が爆発的に増えてきた歴史があります。米国ではこの20年間に、不法移民の数は4倍に増えて何と1100万人、東京都の人口にも達する勢いなのです。これでは不法移民など当たり前で、不法などと言える状況ではないでしょう。そして不法に入ってきた移民が、職を得るために安い賃金での労働でも積極的に引き受けるようになって、その結果として米国では単純労働などの労働力の安売りが日常茶飯事となってしまったのです。
 結果的に、教育水準の比較的低い白人層はこの犠牲となりました。かつてはほとんどの白人が職にありつけていたのに、今では移民のヒスパニックなどに単純作業などの職を奪われていきました。こうして比較的教育水準の高くない白人層は、自分に合った職を探すのも一苦労となり、失業者が溢れる事態となったのです。いくら白人とはいえ、ある程度のスキルがないと不法移民などと職探しが競合してしまいます。こうして白人層の一部は溢れかえる移民に押し出されるように職が得られなくなって、無職となり、生活のすべやプライドまでも失いつつあるようです。結果的にこうした白人層は、社会から断絶されてしまう状況も増えてきたわけです。
 こうして白人男性の一部は移民に仕事を奪われた形となりました。不法移民は不法であるにも関わらず、これまで米国の二大政党、共和党、民主党の議員たちは実質的に取り締まりの政策を何もしてこなかったのです。仮に議員たちが不法移民を厳しく取り締まるような主張を声高に叫べば、それらの議員は差別主義者と反自由主義のレッテルを張られてしまったのです。事なかれ主義で多くの議員は不法移民の問題をタブーとして実質的に黙認してきたのです。トランプ候補は不法移民をやり玉にあげました。一部白人層は溜飲を下げたことでしょう。これら水面下でうっ積した白人男性のやり場のない怒りが政治に対しての不信として返ってきて、トランプ候補への圧倒的な支持に変身しているように感じます。

●イメージとは違う、米国社会の実態
 米国の白人層の没落傾向を見ましたが、これは白人層に限ったことでなく、社会全体でいわゆる中流層と言われる社会の中核をなす層が没落していく傾向が顕著でもあります。
 中流層は一般的に米国においては世帯年収で500万円から1400万円と言われる層です。これが1971年には米国社会の61%に及んでいたのですが、今では50%と減少傾向です。中流層が下流層に落ちていくという傾向は、格差拡大という全世界的な傾向の中で自然に起きつつあることなのですが、米国では特に中流層の没落が目立ってきているのです。元々米国は貧富の差が激しいと言われてきたのですが、一度下流層に落ちてしまうと這い上がるのが難しいのはどの社会でも同じかもしれませんが、特に最近のITの進展などでその傾向が顕著になってきたようです。

 さらに、米国内の社会的な指標を追ってみますと、子供の貧困率が著しく低いのがわかります。「子供の貧困率」とは、親の収入が少なく、子供が貧困家庭に育っている現状を図る指標ですが、米国の場合、先進国35ヵ国中で2番目に悪いという悲惨な水準です。
 さらに米国における一般的な人々の資産状況を追ってみますと、成人の保有資産の中央値(この中央値というのは上から数えてちょうど真ん中の人の数字をみるものですが)、この中央値で見る資産では、先進国27ヵ国中、最下位ということです。米国では上の方は途方もない金持ちがいるわけですが、反面、半分以下の層は世界的にみても決して豊かではないのです。
 また米国は犯罪が多く、刑務所の数が足りないことが話題になりますが、この囚人の数でみると、全世界227ヵ国中、当然のことながらトップなのです。かようにみていくと一見、豊かで繁栄している米国というイメージと違った姿が見えてきます。もはや米国は米国全体としてみると決して豊かという状況ではないようです。米国社会に病理があることはかねてから報道されてはいましたが、現状はさらに矛盾が拡大傾向になり、社会が大きく歪んできたように思えます。特に白人男性社会を中心に、大きな構造変化が起きていることが伺えます。この辺の米国社会の構造的な変化が水面下で怒りとなって、現在のトランプ人気を生み出していると感じます。
 米国はかつて奴隷制度もあり、米国社会の大きな問題として人種差別の問題があります。しかし最近はますます雑多の人種が集まるようになり、白人の数は年々減る一方です。そのような中、オバマ大統領も黒人として初めて大統領に就任するなど米国社会も少しずつ変わりつつあり、依然ほど人種差別の問題も酷くなくなってきたようです。もちろん人種差別が全くなくなったということはないでしょうが、改善していることは疑いないでしょう。
 ところがここで現在の米国において、もう一つの大きな社会的な差別が生じてきていると見るべきでしょう。それは端的に言えば<持つ者と持たざる者>。肌の色でなく社会における<勝ち組と負け組>といった<階級アパルトヘイト>です。
 中流層が下流層に没落していって、わずかに上流層に上れる者もいますが、多くは下流層に落ちていく傾向です。先ほど指摘した不法移民も<社会の勝ち組><持つ者>にとっては安い労働力が手当てできるから好都合なのです。一方で、<負け組>や<持たざる者>にとっては、移民は自分の仕事を奪い取られる脅威でしかありません。大富豪のトランプ氏が、欲求不満に駆られた<持たざる米国人>の圧倒的な支持を得ているようです。集会で反対者に対して「つまみ出せ」と叫ぶトランプ氏の声はまさに支持者の怒りの声の代弁でもあるのでしょう。トランプ旋風は明らかに米国の病理を示しています。この現象は決して一時的な現象でなく、現代社会にはびこる構造的な問題を写しているのです。そしてこの傾向は<先鋭化する世論>という危うい一面を加速させる危険をはらんでいるのです。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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