ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測

このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。

2018.03.01(第49回)
一触即発の中東情勢

 3月になりました。ピョンチャン・オリンピックの友好ムードのなか一時的に緊張が緩和した感のある北朝鮮情勢ですが、オリンピック以後、韓国のムン・ジェイン大統領がキム・ジョンウン総書記の招きに応じて北を訪問するのかどうかが、この問題の行く末を決定する大きな転換点になる見込みです。

 日本では、韓国が日韓米の足並みを乱し、非核化を求めて圧力をかける統一方針から、一方的に離脱しつつあるとして韓国の先走りを非難する声がほとんどです。しかし、海外のさまざまなメディアでは逆の見方が案外多いことに気づきます。韓国は、混乱の極みにあり、あらゆる国際紛争への仲裁能力を失ったトランプ政権のアメリカに見切りをつけ、北朝鮮情勢の問題解決へと独自の方向性に舵を切ったのではないかとする見方です。
 かねてから中国は、制裁の強化による圧力という方向性に反対し、米韓合同軍事演習の停止と引き換えに、北朝鮮の核実験とミサイル発射を停止するとの交換条件を提示していましたが、ムン・ジェイン大統領の北朝鮮の訪問で、この方向である程度の合意ができる可能性があるのです。
 すると、朝鮮半島では戦争を望まない中国とロシアがこの案に乗るなら、アメリカのあくまで北朝鮮攻撃に固執する方針とはまったく異なる別な問題解決のオプションが出てくるかもしれません。すると、問題解決能力を失ったアメリカに代わり、中国とロシアが調停者として全面に出てくる可能性が高まります。
 いずれにせよ、この方向に実際に動くのかどうか、ピョンチャン・オリンピックの終了以後にどのような展開になるのか注目しなければならないでしょう。

●実は本当に危険なのは、北朝鮮ではなく中東
 このような情勢のなか、実はいまもっとも危険な状況にあるのは、北朝鮮ではなく中東であることがはっきりしてきました。シリアを中心として、いま中東はそれこそ一触即発の危機のなかにあります。
 2015年9月のロシア軍の介入を契機としてISならびにイスラム原理主義の反政府勢力は壊滅し、シリアのアサド政権の存続が決まりました。その後アサド政権は、シリア全土で支配地域を拡大し、一時はロシアとアサド政権主導でシリア内戦を完全に終結させる可能性すらでてきました。しかし、そのようなとき、新たな二つの戦闘が始まったのです。

 ひとつは、シリア北部のトルコ国境近くに自治領を拡大し、独立国家の建設を目標にしているクルド人勢力と、これの掃討を狙うトルコ軍との戦闘です。1月21日、トルコ軍は国境を越え、シリア北西部のアフリンに侵攻し、これを阻止するクルド人勢力との間で激しい戦闘が始まりました。そして2月20日、アサド政権軍側の部隊が、クルド人勢力支援のためにアフリンに入りました。トルコ軍と政権軍との衝突で、新たな戦争が勃発しかねない状況になっています。

 そしてもうひとつは、敵対関係にあるイスラエルとイランの間の戦争の可能性です。2月10日、イランが支援するシリアのアサド政権は、シリアを空爆したイスラエル軍機を撃墜しました。イスラエルは報復として追加空爆に踏み切り、シリア国内に展開しているイランや、イランの影響下にあるレバノンのイスラム教民兵組織、ヒズボラの軍事基地など12カ所を空爆したのです。これで、6名の兵士が犠牲になりました。
 以前から、イスラエルはシリアの空爆を激化させつつありまた。それというのも、シリア内戦でロシアやイランに支援されたアサド政権が勝利した後、シリア国内にはミサイル組み立て工場などを含むイランの軍事基地とともに、イスラエルと敵対しているレバノンの原理主義勢力、ヒズボラの基地が数多く建設されたからです。イランとヒズボラは、シリア国境からイスラエルの安全を脅かす存在になっており、イスラエルにとっては見過ごすことのできない安全保障上の脅威となっていました。
 特にイランに支援されたヒズボラは、シリアのアサド政権の勝利後、イランからシリア、そしてレバノンへと伸びる武器や物資の補給ルートの強化を図ったため、軍事的に強大化しつつあります。イスラエルはヒズボラを叩くべく、イランからレバノンへと伸びるシリア国内の補給ルートを空爆で破壊する必要がありました。これがイスラエルとイラン、そしてヒズボラとの緊張を高める要因です。

●天然ガスの覇権を巡る争奪戦
 これが、いま起こりつつある新たな2つの戦争の火種です。しかし、このように書いたとしても、シリアを取り巻く状況はあまりに複雑で、どうしてこれほど多くの勢力がかかわり、新たな戦端が開かれようとしているのか理解に苦しむことでしょう。唯一分かりやすいのは、独立国家の樹立を目指すクルド人勢力と、これを脅威と見て阻止する構えのトルコとの対立くらいです。それ以外のイスラエル、イラン、ロシア、ヒズボラ、そして背後にいるアメリカを含む対立の状況は、敵対している理由を含めよく分からないかもしれません。頭がくらくらしてくるくらいです。これが大方の印象ではないでしょうか。

 クルド人勢力とトルコとの対立は例外としても、各国の対立の本質は、天然ガスの覇権の獲得を巡る戦いなのです。資源の争奪戦という視点から見ると、いま起こっていることがよく見えてきます。これは今後の戦争を予測する上でも、非常に重要な視点です。

●2つのパイプライン案とシリア内戦
 実はシリア内戦とは、ヨーロッパに向けての天然ガスの供給を巡る覇権争いなのです。
 いまパリ協定の締結などが後押しとなり、地球温暖化ガスを大量に発生する火力発電から、温暖化ガスの発生量がはるかに少ないガス発電へと急速に移行しつつあります。
 そのようななか、ロシア産天然ガスへの依存度の高いヨーロッパでは、安全保障上の理由からロシアへの依存度を減らし、ガスの供給先を多様化する動機が存在します。
 そうした状況で2つのパイプライン案が競合することとなりました。ひとつはカタール産の天然ガスをサウジアラビアとシリアを経由し、トルコからヨーロッパに輸送するアメリカのパイプライン案です。そしてもうひとつは、イラン産の天然ガスをイラクとシリアを経由し、海底からギリシャにガスを輸送するロシア案です。このパイプラインはロシアのコントロール下にあるため、これでロシアはヨーロッパへの天然ガス供給の支配を強化することができます。

 2009年、アメリカのオバマ政権は中継地となっているシリアのアサド政権に働きかけ、アメリカのパイプライン案を受け入れるように提案しましたが、ロシアの同盟国であるアサド政権はこれを拒否しました。一方、翌年の2010年、ロシアはイラン産ガスをヨーロッパに輸送するパイプライン案をアサド政権に提示しました。アサド政権はこれを受け入れ、2011年には建設が始まりました。フレンドシップパイプラインです。
 そして、この建設が始まった同じ年、シリア内戦が始まりました。この内戦は民主化要求運動の拡大から始まったのではなく、外部から入ってきた反政府勢力によって仕掛けられたものであることはいまは証明されています。アメリカとNATOは、ISなどの原理主義勢力を支援してアサド政権を打倒し、自らのパイプライン案を実現しようとしました。これがシリア内戦の実態です。
 だが、アメリカの思うようには進みませんでした。ロシアとイラン、そしてイランに支援されたレバノンの原理主義組織、ヒズボラなどの支援を受け、アサド政権は存続しました。反政府勢力のISは、シリアでは実質的に壊滅したのです。これでロシアとイランにコントロールされたシリアでは、ロシアのパイプライン案が実現する見込みが高くなりました。

●イスラエルの脅威
 また、こうした状況はイスラエルにとっても安全保障上の脅威を増大させる結果となりました。上にも書いたように、シリアがイランの影響下に入ったので、イランに支援されたレバノンのヒズボラは、イランからシリアを経由してレバノンに至る補給ルートの強化を図ることはでき、レバノンのヒズボラはこれまでになく軍事的に強大化する可能性が出てきたのです。
 これは、レバノンと国境を接するイスラエルにとっては、見過ごすことのできない安全保障上の脅威です。シリア国内のヒズボラやイランの軍事基地を盛んに空爆しているのはこのためです。

●レバノンで新たに発見された天然ガス
 そのような状況のなか、レバノン沖にあるレヴァント海盆に最大級のガス田があることが調査で分かりました。2月9日、レバノン政府はロシアとの関係が強いフランスのトータル、イタリアのENI、そしてロシアのノバテックなどのガス会社と契約し、開発のための調印式が行われました。開発はレバノンの排他的経済水域内で行われます。
 一方ロシアは、共同の軍事演習などを通してロシア軍との関係の強化を図るレバノンとの軍事協定を締結し、レバノンのガス田の開発を軍事的に背後から支援する姿勢を見せています。

●激怒するイスラエル
 他方これは、イスラエルとっては大きな脅威となります。世界の天然ガスシフトが進むなか、レバノンのガス田が開発されると、これまで破綻に近い状態にあったレバノン経済は大きく発展する可能性があります。その結果、イスラエルに敵対しているレバノンの政治勢力であるヒズボラもこれまでにないほど軍事的に強化される可能性が大きくなります。イスラエルとしては、これはなんとしてでも阻止しなければなりません。
 一方、レヴァント海盆の半分近いエリアはイスラエルの海域に属しています。また、いくつかのガス田はイスラエルと領有権を争っている係争海域になっています。すでに2010年からイスラエルは、このガス田の開発を実施し、天然ガスの自給を達成しつつあります。ヒズボラの脅威に対抗する必要からイスラエルは、レバノンとの係争海域を含めレヴァント海盆のガス田の大半がイスラエルに領有権があることを強く主張し、レバノンと鋭く対立している状況です。
 さらにイスラエルは、レヴァント海盆の天然ガスをヨーロッパに供給する独自のパイプラインの構想も持っており、盛んにヨーロッパ諸国にアプローチしています。もしこのパイプラインの建設が実現すると、ヨーロッパ諸国のイスラエルに対する依存度は強くなるため、ヨーロッパ諸国がイスラエルに政治的に反対することは難しくなります。この状況はイスラエルの安全保障にとって好都合です。

●一触即発の状況
 このように、シリアを中心とする中東の情勢は、天然ガスの覇権を巡る争いが、イランとヒズボラの拡大に強い脅威を感じ、その阻止を狙うイスラエルの安全保障政策と複雑に絡みながら危険な方向に動いています。

 もちろん、イスラエルのこうした動きを支援しているのはアメリカです。アメリカとNATOに支援されたイスラエルが、ロシアが間接的に支援するシリア、イラン、ヒズボラ、そしてレバノンと対立する構図です。イスラエルは、イランとヒズボラの拡大を阻止し、レバノンのガス田開発を中断させるために、なにかを口実にして大規模な軍事行動に出る可能性も否定できない情勢になりつつあります。

 これで、世界のもっとも緊張した地域が北朝鮮から中東に移りつつある感が強くなっています。北朝鮮への軍事行動よりも、イスラエルによる大規模な軍事行動が先行する可能性もあります。どうなるか注視しなければなりません。

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Profile:高島 康司(たかしま やすし)
高島 康司(たかしま やすし)

社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/

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