ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
「集団的自衛権」を合法化する「安保法制」も可決され、一ヵ月以上経ちました。いまは集団的自衛権反対の全国的な反対運動も落ち着き、あのころの喧噪がなんであったのか思い出すのも難しくなっているのではないでしょうか? いまは、シリアにおける「イスラム国」のロシアの空爆、次に金融危機の引き金になりかねない新興国からの激しい資本流出など、国外のもっと大きな問題に注目が集まりつつあります。日本国内は比較的に平穏な状態です。
このようなとき、日本が向かっている方向を落ち着いて考えるにはよいときではないでしょうか?
それは、いまの安倍政権の背後にはどのような政治勢力があり、彼らのアジェンダ(政治課題・計画)はなんなのかという問いです。現在の安倍政権に賛成するにせよ、また反対するにせよ、知識として知っておかなければならないことだと思います。
前々回の記事では「戦後日本の裏面史」について書きました。ここで、現在の日本の政治に極めて強い影響を及ぼしている「日本会議」という組織を紹介しました。
今回は、「日本会議」の隠されたアジェンダについて見てみましょう。いまやっと日本の主要なメディアでも「日本会議」の存在を取り上げるところが次第に増えてきていますが、「日本会議」を詳しく知ることのできる本や記事はまだまだ少ないのが現状です。いまのところ、ジャーナリスト、菅野完氏の『草の根保守の蠢動』というサイト( http://hbol.jp/55073 )の記事と、塚田穂高著『宗教と政治の転轍点』(花伝社)が入手可能な数少ない情報源です。
●実際の活動目標、「神国への構想」
前々回の記事でも書いたように、「日本会議」の最終目標は、憲法改正による天皇制国家の復活です。しかしながら、憲法改正という手続きを経ることなく目標を実現する方途を示す文書が発見され、菅野氏のサイトで公開されました。
ちなみに「日本会議」を実質的に運営しているのは、「生長の家」の創設者である谷口雅春氏の信奉者が集まった「日本青年協議会」です。会長の椛島有三氏は「日本会議」の事務局長を務めています。「日本会議」と「日本青年協議会」は一心同体の関係にあるようです。そして1979年に「生長の家青年会」から発刊した内部資料、『神国への構想』が発見されました。
●天命を担った安倍首相
この資料には次のようにあります。
「占領憲法体制の解体は、何よりその成立の暴虐的過程を糾弾し、占領軍の強制々定のあり方が、大日本帝国憲法に於ける法的違反および、国際法違反であることももって正統憲法復元を克ち獲らなければならないが、そのためには復憲の大義に、自己生命を捨て得る内閣総理大臣の出現(中略)しなければならない」
ちょっと読みにくい文章ですが、要するに、「現行の日本国憲法はGHQが強制的に制定したものなので、国際法に違反している。だから絶対に改憲しなければならないが、そのためには自己の生命を捨てる覚悟のある総理が必要だ」ということです。
この「復憲の大義に自己生命を捨て得る内閣総理大臣」として見られる存在こそ、「日本会議」が全面的に支持する安倍首相ではないでしょうか? 「日本青年協議会」はこのように見ているに違いないでしょう。
●憲法改正手続きの無視
また、この文書には「日本会議」と「日本青年協議会」の目標を明確に示している箇所があります。以下です。
「それ故、先ず、われらの今日的課題は(中略)、現占領憲法下に於いても可能な限りわが国を防衛する対策を樹て、これ以上失ってはならぬものを死守するために非常なる努力を為さねばならないということである。その第一が、反憲的解釈改憲の“たたかい”に他ならない」
これも少し読みにくいですが、「現行憲法に違反する解釈を行い、憲法を実質的に骨抜きにして改憲した状態にしてしまう」ということです。これを特に「国防」の分野で行うとしているのです。
ご存知のように、憲法を改正するためには、衆参両院の3分の2の賛成と、国民投票における有効投票の過半数が必要になります。これは大変高いハードルです。谷口氏の文章を見ると、「現行憲法はそもそも国際法違反なので、憲法が定める改正の手続きは守る必要性はまったくない」とする理解が前提になっているように見えます。おそらくそうでしょう。そうではないと、「反憲的解釈改憲」などという言葉が使われるはずはありません。
●安倍政権の「集団的自衛権」
これは、憲法改正の手続きのハードルが高いので、現行憲法を全否定し、憲法の解釈を変えることで改憲してしまうという方法です。まさにこれを実行したのが、先月可決された「集団的自衛権」の容認を含む「安保法制」です。
ご存知のように「集団的自衛権」は、政府答弁によると、日本に対して直接の武力攻撃をしていない国に対して、防衛出動、武力行動をすることは法律上可能になり、さらに、日本に対する攻撃の意思がない国に対して、日本から攻撃する可能性を排除しないともしています。これは、「先制攻撃」を禁止した現行憲法の明白な違反です。
圧倒的に大多数の憲法学者も違憲としている「集団的自衛権」を強行採決で突破しようとしている安倍政権の手法は、まさに谷口氏の前掲文章の「反憲的解釈改憲」の手法を踏襲したものです。この文章こそ、「日本会議」と安倍政権の「改憲マニュアル」だと言ってもよいでしょう。
今回「集団的自衛権」が可決されたので、この手法は憲法の「国防」のみならず他の分野にも適用され、今後、憲法全体が実質的に骨抜きにされていてしまうことにもなりかねません。
●先に見える「超階級国家」としての「天皇制国家」
おそらく「日本会議」はこうした「解釈改憲」を繰り返して、明治憲法下の「天皇制国家」に近い体制に日本を誘導したいのではないかと思います。戦前の経験のない私たちには、「天皇制国家」と言ってもはっきりとイメージできないかもしれません。しかし、現在「日本会議」と安倍政権が目指している「天皇制国家」とは、この連載の以前の記事で何度も解説したことのある日本版「超階級社会」のことではないでしょうか?
(参照コラム1、2)
いま先進国は、成長の限界に突き当たりつつあります。このまま行くと、経済危機と失業率の増大から国内の不満は爆発し、各国で社会が不安定になる恐れが出てきます。そのため超富裕層と支配層は結託し、国民を徹底的に管理して不満をおさえ込み、彼らの既得権益が維持できる体制の構築を模索しています。これは現在の階層間格差を固定することになるので、「超階級社会」と呼ぶことができるはずです。
結局「天皇制国家」とは、戦前の支配層の末裔と現在の支配層、超富裕層、そして戦前を理想化する一部の宗教団体が既得権益を維持するための装置である可能性が大きいと思います。
●天皇の「内奏」
でもいま、「集団的自衛権」への抗議の全国的な拡大で、安倍政権の支持率も30%台に低落しています。支持率の低迷が今後も続くと、たとえ「集団的自衛権」が可決されたとしても、「反憲的解釈改憲」による現行憲法の全面的な骨抜き化は今後は難しくなることでしょう。
そのようなとき、安倍政権の戦前回帰の動きに明白な抗議の姿勢を鮮明にしているのが今上天皇です。
主要メディアでは報道されない場合もありますが、今上天皇はいまの憲法の擁護を示唆する発言がとても多いのです。もちろん、天皇は日本国の「象徴」であるので、政治的な発言は憲法上できません。しかし今上天皇は、憲法の枠内のギリギリのところで、そのような姿勢を明確にしています。
実はほとんど知られていませんが、天皇は「内奏」という制度化された機会が与えられており、そこでは天皇自身の意見がやんわりと表明されているのです。
もともと「内奏」は、天皇がときの情勢を知り、世間を理解するための個人的な学習の場でした。しかし「内奏」はそれにとどまらず、天皇の政治的な意見表明の場として利用され、その意見はときの政権の意思決定をも左右する大きな影響があるともされています。もちろん、「内奏」における天皇の政治的発言は絶対的に秘密であり、外部に漏れることはありません。
ケネス・ルオフ著の名著、『国民の天皇』(岩波書店)は昭和天皇の「内奏」とその影響について詳しく述べています。
たとえば、1950年から53年まで続いた「朝鮮戦争」について以下のようにあります。
「天皇は『「火は既に門前に迫っている』と考えていた。敗戦まで四十年間、日本の植民地だった朝鮮半島が共産化されれば、昭和天皇にとっても見過ごせない脅威となるはずだった」(153ページ)
さらに北海道の防衛では次のようにあります。
「北海道北部はソ連から近距離にある。昭和天皇は長期間、東アジアの覇権をめぐって争ったソ連を危険な軍事上の脅威と見なしていた」(155ページ)
そしてこの本では、「内奏」全体について次のようにまとめています。
「天皇が政治的発言を続けたことは明らかである。共産党対策をとった方がいいとはっきり口にしているし、首相が選んだ閣僚についても疑問を呈した。側近の更迭にも反対した。日本が米国と同盟関係を結ぶことも望んだ。戦前における天皇の政治的関与は、戦後も継続した」(157ページ)
「反共」や「日米同盟」などは、実際に戦後日本が辿った方向です。この方向性の決定に天皇の非公式な発言が影響を及ぼした可能性は否定できないようです。
ところで日本では、終始戦争に反対であったとする昭和天皇のイメージが定着しています。ところがルオフは、昭和天皇の戦前の「内奏」をまとめると、以下のように結論できるとしています。
「さまざまな機会に昭和天皇が外国との開戦に留保を表明しているとき、最大の関心は日本が勝てるかどうかに向けられている。その上、日本を降伏に導く過程で昭和天皇がいちばん関心を持っていたのは、国体ないし万世一系の皇統の維持であって、これ以上犠牲を多くしないようできるだけ早く戦争を終わらせることではなかったのである」(191ページ)
これは平和主義者としての昭和天皇のイメージとは掛け離れています。しかし、これが現実なのでしょう。
●今上天皇の「内奏」
このように、「内奏」で行われる天皇の政治的な発言は、ときの政権に非公式に影響を与えるほどの力があります。では今上天皇の「内奏」はどうなのでしょうか? 今上天皇も昭和天皇以上に頻繁に「内奏」を行っていることは知られています。以下のビデオの冒頭部分に今上天皇の「内奏」が出てくるのでぜひご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=KA8Hut5NEms
今上天皇が安倍首相から「内奏」を受けている状況がよく分かります。
今上天皇が「内奏」でなにを発言しているかは秘密にされており、私たちはうかがい知ることはできません。ですが、天皇の憲法擁護の姿勢を明確にしたこれまでの発言から、「内奏」でも安倍政権の戦前回帰的な政策に対して、突っ込んだ発言をしている可能性はあります。これは、政治が「日本会議」のような組織にコントロールされている現状では、政治のバランスを取るためにも重要なことではないでしょうか?
●「分散型経済」か「超階級社会」かの別れ道
ところで、ちょっと話は変わりますが、アメリカの著名な投資家のジム・ロジャースは雑誌『現代ビジネス』とのインタビューで次のように発言しています。
「株価が上がり、それに舞い上がる人々がいる一方で、人口減少に歯止めがかからず、借金は膨らむばかり。日本の若い人に言えることがあるとすれば、『外国語を覚え、日本株を持って、国外に逃げ出したほうがいい』ということですね。
いまから10年、20年経って日本人の皆さんは気づくでしょう。『安倍総理が日本を滅ぼした』と」
これは衝撃的な発言ですが、このまま行くと10年や20年ではなく、下手をすると3年から5年で「安倍総理が日本を滅ぼした」ことがだれの目にも明らかになる時期が来る可能性は、やはり否定できないかもしれません。
いま「アベノミクス」で一見景気がよくなっているかのように見えますが、結局「アベノミクス」とは、岩盤規制で官僚の既得権益が守られた60年代製の古いポンコツ車を、燃料を満タンにして最高スピードで突っ走っているようなものです。いすれ、限界にぶち当たり、車体が大破することだってあるかもしれません。
この「大破」の後にやって来るのが、「超階級社会」なのか、または中央集権と官僚制の解体による「分散型経済」に向かうのかの選択です。低成長でも持続可能な「分散型経済」のほうが、私たちのような一般人にとってはよいに決まっています。
しかし、「日本会議」と安倍政権のアジェンダは着々と進み、戦前の支配層の末裔と超富裕層、そして一部の右翼的な宗教教団が結託した「超階級社会」に向かっている可能性は否定できなくなっているのかもしれません。
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/