中村陽子の都会にいても自給自足生活

このページは、認定NPO法人「メダカのがっこう」 理事長の中村陽子さんによるコラムページです。
舩井幸雄は生前、中村陽子さんの活動を大変応援していました。

2020.05.20(第68回)
種苗法改正って何? 
賛否両論の理由と、どうしてもわからない大きな矛盾

 検察庁法改正案が今国会見送りになりました。抗議活動が盛り上がったのは、全国民にわかりやすい構図だったからです。これとは違い、種苗法改正案は表向きの理由の他に、重要な問題が隠れていて、とても分かりにくく、賛成、反対が拮抗しています。どうしてかというと、一つの改正案に、誰でも賛成する改正理由と隠されている危険なことがごっちゃに入っていることと、立場によって利害が違うからです。

 種苗法のことを書くのは2回目ですので、簡単に説明すると、これは、品種改良した人(育種権者)の知的財産権(特許権)を保障する法律です。有効期間は登録してから25年から30年(果樹)です。理由は、育種にはお金と時間と知識と努力が必要なので、その苦労に報いるためです。

 今回の改正では、今までは登録品種でも農家は自家採種や自家増殖が認められていたのですが、改正後は登録品種については、育種権者の許可を取らなければこれができなくなることです。ここで種子には、登録品種と一般品種があることを説明します。登録品種とは育種権者が、開発した新品種の知的財産権を農水省に登録したものです。一般品種とは先祖から伝わる在来種と期間が切れた登録品種です。今回自家採種が許諾性になるのは登録品種だけです。

 この改正で直ちに困る農家がいると、JA水戸の八木岡組合長は言います。彼はイチゴ農家ですが、イチゴはランナーといって色や形や味の良い株から伸びてくるツルを移植して増やしています。鹿児島のイモ農家は、形が良くて美味しいお芋から出た苗で増やしています。種子島のサトウキビ農家は、茎から出た芽を畑に植えて増やしています。この苗一つ一つに許諾料が必要だとしたら、農家はやっていられません。お金もそうですが、申請など書類をそろえるだけでも大変です。

 反面、全く困らない農家の方たちがいます。1つは毎年種子を買っている農家です。特にF1種の野菜を育てている農家は買うのが当然ですから、種苗法改正の影響を受けません。
 2つめは、全部在来種の品種を使っている農家も困りません。メダカのがっこうの米農家に聞いてみたら全員大丈夫でした。
 また利益を得る農家もいます。育種農家で、登録品種を持っている方たちです。
 このように、立場によって賛否が分かれてくるのです。当然のことです。

 しかし誰かが犠牲にならないような改正ができないものか、考えてみましょう。

 今回の改正の一番の理由として挙がっているのが、ブドウのシャインマスカットのような日本のブランド作物が海外に流出するのを防ぐためということです。なるほどと思いますが、実は、現行の種苗法でも農家が自分で増殖するのはいいのですが、それを他に渡すことや海外に持ち出すことは禁止されています。それより海外流出を防ぐ一番いい方法は、相手先の国で期限内に種苗登録することと、発見したらすぐ訴訟を起こすことだと農水省の方もおっしゃっています。違法であることを知っている確信犯だけを封じ込めればよいのであって、まじめな農家を一緒に取り締まらないでほしいです。

 ここからが大きな矛盾の話です。それは、日本の優秀な品種の海外流出を防ぐというとても素晴らしい意図に、真っ向から矛盾する法律が2年前に出ていることを知ってください。
 それは、2018年種子法廃止の直後にできた法律「農業競争力強化支援法」です。
 いかにも日本の農業を強くしてくれそうな名前がついていますが、この中で、日本の公共の機関、農研機構や各県の試験場などが持っている種子の知見を民間に渡すようにと命令しています。そしてこの民間とは、モンサントなどのグローバル企業も入るとのことです。(国会答弁)
 変ですよね。名前とは裏腹に、日本の農業を弱体化する法律だと思いませんか?

 ですから、今回の種苗法改正の理由は全く意味を成しません。海外に渡すようにという法律を2年も前に出しておいて、今更海外流出を防ぐための法改正なんて、おかしいです。
 本当の目的は何なのでしょう?

 政府はこの法律の可決を急いでいます。2021年の4月施行の予定だそうですが、もっとおかしいことが1つ、自家増殖の許諾性だけが、2020年の12月から前倒しで施行されることになっていることです。なんで自家増殖だけそんなに急ぐの? 疑問は深まるばかりです。

 自家増殖禁止は登録品種だけです。大したことが無いように思えます。登録品種は種子全体の10%だから影響は少ないと農水省も説明します。ですが実際に農家が栽培している種子を調べると、一般品種より登録品種のほうが断然多いのです。今はほとんどの登録品種を公共の機関が持っていますから、まだ許諾料は安いです。しかし数年の間に民間に渡されます。国がそう命令しているので。すると今まで安かった許諾料や種子の価格が高くなると考えられます。今でも民間の種子は公共の種子の10倍もするのですから。何でこんなことをするのでしょうか?

 今危うくなっているのは「種子はみんなのもの」という哲学です。できるだけ多くに人に種子を託した方が、多様な品種を維持できます。農家には登録品種や在来種の区別なく自家増殖を認めるのは当然です。農家も数年に1回は種苗を購入します。農家からは種苗代を取るのはそれだけでいいではありませんか。あとは一般の消費者から取ればいいでしょう。

 農業は産業ではありません。生きるための営みです。土から離れてしまった都市部の市民も、この種苗法改正を機会に、食糧を確保するために何が必要か考えてみてください。これからは都会でも有機栽培と種取りをしたほうが良いと思います。

 国連では2008年にグローバル企業がすすめる少品種大規模農業が気候変動に弱いことが分かり、小規模・家族農業の地産地消の循環社会にシフトしました。日本もシフトしましょう。それには、なんだか心が安らぐ経済規模が小さくて幸せな循環社会を構築しましょう!日本には江戸時代というモデルがあります。温故知新でカッコよく始めたいものです。

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Profile:中村 陽子(なかむら ようこ)
中村 陽子(なかむら ようこ)
首のタオルにシュレーゲル青ガエルが
いるので、とてもうれしそうな顔を
してい ます。

1953年東京生まれ。武蔵野市在住。母、夫の3人家族。3人の子どもはすべて独立、孫は3人。 長男の不登校を機に1994年「登校拒否の子供たちの進路を考える研究会」の事務局長。母の病気を機に1996年から海のミネラル研究会主宰、随時、講演会主催。2001年、瑞穂(みずほ)の国の自然再生を可能にする、“薬を使わず生きものに配慮した田んぼ=草も虫も人もみんなが元氣に生きられる田んぼ”に魅せられて「NPO法人 メダカのがっこう」設立。理事長に就任。2007年神田神保町に、食から日本人の心身を立て直すため、原料から無農薬・無添加で、肉、卵、乳製品、砂糖を使わないお米中心のお食事が食べられる「お米ダイニング」というメダカのがっこうのショールームを開く。自給自足くらぶ実践編で、米、味噌、醤油、梅干し、たくあん、オイル」を手造りし、「都会に居ても自給自足生活」の二重生活を提案。神田神保町のお米ダイニングでは毎週水曜と土曜に自給自足くらぶの教室を開催。生きる力アップを提供。2014年、NPO法人メダカのがっこうが東京都の認定NPO法人に承認される。「いのちを大切にする農家と手を結んで、生きる環境と食糧に困らない日本を子や孫に残せるような先祖になる」というのが目標である。尊敬する人は、風の谷のナウシカ。怒りで真っ赤になったオームの目が、一つの命を群れに返すことで怒りが消え、大地との絆を取り戻すシーンを胸に秘め、焦らず迷わずに1つ1つの命が生きていける環境を取り戻していく覚悟である。
★認定NPO法人メダカのがっこうHP: http://npomedaka.net/

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