ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
4月になった。トランプ政権による、イスラエルが実行支配するシリア領、ゴラン高原のイスラエル併合承認、緊張する米朝関係、内戦さえ起こりかねないベネズエラ情勢など、世界情勢はあいかわらず不安定だ。今回は、そのような状況の背後で進むロシアの勢力拡大について解説する。
●米中対立の背後で進むロシアの急拡大
2月28日、米司法省は、中国の情報通信機器大手、ファーウェイと、同社の創業者の娘で最高財務責任者兼副会長の孟晩舟氏を起訴した。銀行詐欺、通信詐欺、司法妨害のほか、米通信機器大手Tモバイルから技術を盗もうとした罪に問われている。
この逮捕をめぐり、中国とカナダ、そしてアメリカの関係が悪化している。ウィルバー・ロス米商務長官は記者会見し、「中国企業はもう何年も前から我が国の輸出法を破り、制裁に違反し、自分たちの違法活動の便宜のために米金融制度を利用してきた。それはもう終わりだ」と述べ、強硬な姿勢を明確にした。
この起訴は、3月1日にひかえた米中協議で、中国の知的財産権の保護に関して最大限の譲歩を引き出したいトランプ政権の戦略が働いていると見られている。3月1日の協議ではなんらかの妥協が成立し、米中の対立関係は緩和するとの見方も強いが、米中のせめぎ合いはこれからさらに激しくなることは間違いない。
3月1日の協議が決裂すると、中国製品に対する追加関税の導入でIT機器のグローバルなサプライチェーンもずたずたに寸断されることから、米中関係の成り行きには目が離せなくなっている。
このように、いま主要メディアの報道は米中関係に集中している。そのため、2014年3月のクリミア併合以来、一時は軍事衝突の可能性さえあったロシアの動きはまったく注目されなくなっている。最後に注目されたのは、昨年の11月26日に発生した黒海、ケルチ海峡におけるウクライナ海軍艦艇のロシアによる拿捕事件である。
しかし、事件後数日間は緊張したものの、いまではほとんど忘れ去られた事件になった。ロシアの動きは、いわば米中対立の影に隠れてしまい、まったく見えなくなっているのが現状だ。
●ウォールストリート・ジャーナルの特集記事
しかし、注目されなくなったからといって、ロシアの動きが止まったわけではまったくない。むしろ、アメリカと中国が鋭く対立し、それに多くの時間とエネルギーを傾注している背後で、ロシアの影響圏はどんどん拡大しているのが現状だ。
1月23日、米大手経済紙の「ウォールストリート・ジャーナル」は、「新しい鉄のカーテン:アメリカの空軍力に挑戦するロシアの迎撃ミサイル(The New Iron Curtain: Russian Missile Defense Challenges U.S. Air Power)」という長い特集記事を掲載した。これは、ロシアが複数配備した高機能迎撃ミサイルシステムの「S−400」により、米空軍が従来の作戦計画の変更を迫られているという内容だ。
記事には、ロシアがシリア北部から東ヨーロッパ、そして北極圏に配備した「S−400」が、広大な空域をロシアの防空圏としている地図が掲載されている。この空域では、米空軍の自由な活動を実質的に困難にさせている。記事では、「いまのとこシリアでは米空軍は予定した作戦を実施できているものの、「S−400」のため将来は計画の変更を余儀無くされるだろう」との発言を紹介している。
●「S−400」
アメリカの覇権の前提にあるのは、圧倒的な軍事力である。必要であれば、世界のどの地域でも軍を動員して敵を駆逐する能力が、結局は覇権を維持するための前提になっている。
しかしもし、ロシアの配備した「S−400」が米空軍を迎撃する能力があり、これを米空軍が恐れて戦略を変更しなければならないのであれば、世界の一部の地域ではロシアが制空権を握っており、アメリカの軍事的な覇権の前提が崩れつつあることを示しているはずだ。
ちなみに「S−400」は、周囲600キロの飛行物体を探知し、400キロメートル離れた地点で撃墜できる高機能迎撃ミサイルシステムだ。巡航ミサイルであれ、超音速の戦闘機であれ、また、地球の裏側から成層圏を飛行してくる大陸間弾道弾であれ、どんな飛行物体も探知し、危険の及ばない位置で撃ち落とすことができる。
ライバルのアメリカの防空システム、「パトリオット」との決定的な違いは、全方位の目標を見つけ出し撃ち落とす能力だ。アメリカのシステムは、あらかじめ指定された180度の範囲しか探知できない。
さらに「パトリオット」は、発射装置を準備し戦闘態勢を整えるのには30分かかる。くわえて、「パトリオット」が目標を破壊できる距離は、「S−400」の400キロに対し180キロと半分以下だ。
これはミサイル防衛だけでなく、戦闘機や爆撃機との戦いにおいても重要な意味を持つ。「S−400」に狙われたら最後、戦闘機や爆撃機にはミサイルを発射したり爆弾を投下したりする時間的な猶予は一切ない。
このように「S−400」は、現存する迎撃ミサイルシステムで最先端の兵器でアメリカも開発できていない。そのため、中国やシリア、そして将来的にはイランのようなロシアの同盟国のみならず、サウジアラビア、トルコ、インドなどのアメリカの同盟国も購入を決定している。いまインドネシアが導入を検討しているところだ。
「ウォールストリート・ジャーナル」の記事にもあるように、いま「S−400」の防空圏はシリア北部から東ヨーロッパ、そして北極圏というロシアの領土に比較的に近い地域に配備されているが、これが中国やイラン、さらにアジアの他の地域に配備されるようなことにでもなれば、これらの地域におけるアメリカの作戦能力は限定され、アメリカの軍事的な覇権にほころびが出てくるに違いない。
●ベネズエラのロシア軍基地
このように、米中対立の背後ではロシアの「S−400」の配備拡大によって、アメリカの軍事的覇権が挑戦される状況になっている。
さらにロシアは、南米のベネズエラにも軍事拠点を築き、アメリカの喉元に迫る勢いだ。周知のように、いまベネズエラは、選挙で勝利宣言をしたマデュロ大統領に反旗を翻したグアイド国会議長が暫定大統領就任を宣言し、内乱状態にある。アメリカはグアイド氏をマデュロ氏に代る正式な大統領として承認し、マデュロ大統領を退任に追い込むために圧力をかけている。ベネズエラ産原油のアメリカへの禁輸処置も発動された。
長くなるので記事を改めるつもりだが、イギリスの大手紙、「インディペンデント」のなどの取材記事でも明らかなように、マデュロ大統領の追い落としを画策したのはCIAである。これは、作戦を担当したCIAの幹部本人が記事で明確に証言している。
そして、マデュロ大統領の追い落としにトランプ政権が躍起になっている大きな理由は、ベネズエラのロシア軍基地の建設である。昨年の12月23日、ロシア軍基地がベネズエラの首都カラカスから北東におよそ200キロにあるカリブ海のラ・オルチラ島に建設されることが発表になった。その規模はまだ明らかにされていないが、軍艦の停泊が可能で、戦闘機の離着陸できる滑走路も建設する計画のようだ。
この軍事基地の建設を予告してか、昨年の12月10日にロシアの戦略爆撃機、「ツボレフTu-160」が2機、大型輸送機、「アントノフAn-124」 が1機と「イリューシンIL-62」がパイロットや技術者ら100人を乗せてカラカスのシモン・ボリバル・デ・マイケティア空港に到着した。
これは、南米というアメリカのまさに喉元に、ロシア軍が展開するということだ。もしベネズエラのこの基地にも「S−400」が配備されるようなことにでもなれば、アメリカ軍の軍事力が及ばない一角がアメリカの裏庭である南米に誕生することになる。第2のキューバである。トランプ政権はマデュロ政権の打倒に必死になるだろうが、もしマデュロ政権が持ちこたえると、南米にロシアの影響圏が誕生する。中東におけるシリアのような存在になるだろう。
●アジアにおけるロシアの拡大
これだけ見ても、ロシアの拡大には目を見張るものがある。しかし、それだけではない。ロシアはアジアにも確実に影響圏を拡大しつつある。
ロシアは「上海協力機構」などにも加盟し、中ロ同盟と呼ばれるほど、アメリカに対抗する強固な協力体制を中国との間に築いている。中国はアジア地域でいち早く「S−400」の導入に踏み切った。またインドも「S−400」を導入した。ロシアが中国とインドに築いたこのような関係は、広く知られている。
しかし、ロシアの影響がある新たな国々が次々と出現している。それらは、ベトナム、ミャンマー、そしてインドネシアだ。
まずベトナムだが、ここは同じ社会主義国でありながらも中国と対抗していたので、もともとソ連と近い関係にあった。しかし、ソ連崩壊後、ロシアの国内的な混乱から、そうしたかつての近い関係は消滅しかけていた。しかし、数年前からベトナムはロシア製兵器の購入に踏み切り、両国の関係が強まっている。昨年の9月には10億ドル同等の兵器の購入契約を結んだ。また、ロシア製潜水艦6隻を20億ドルで購入し、最後の6隻目は昨年の1月に届けられた。
また、少数民族の「ロヒンギャ」の虐殺で欧米各国の制裁下にあるミャンマーは、ロシアが中心的な兵器の購入先になっている。すでに14機の「MiG-29」戦闘機、9機の「Mi-35」攻撃用ヘリコプター、12機の「Mi-17」輸送用ヘリコプターを購入している。そして、さらに6機の「Su-30」戦闘機が導入される予定だ。
かつてミャンマーと同じ立場にあった国がインドネシアだ。1990年代、「東チモール」の独立戦争でインドネシア国軍が虐殺に関与したとして、アメリカの制裁下にあった。そのとき、武器の中心的な供給先になったのがロシアだった。アメリカの制裁は2006年に解除されたものの、インドネシアとロシアとの関係は続き、最近ではさらに強固になっている。いまインドネシアは「S−400」の導入を真剣に検討しているもようだ。
●ロシアの影響圏拡大の目的
これが、アジアにおけるロシアの影響圏拡大の状況だが、これを見るとある矛盾に気づく。紛争の当事者双方に兵器を売っているのだ。例えば、ベトナムがロシア製潜水艦を購入した理由は、「S−400」を中心としたロシア製兵器を導入している中国の南シナ海における拡大を抑止するためだ。また、中国とインドはともに「S−400」を導入しているが、これは中国とインドとの「カシミール」を巡る争いで相手を牽制するために使われるはずだ。これを見ると、アジアでロシアは需要のある国にただ兵器を売っているだけで、そこにはなんの戦略もないようにみえる。
しかし、多くの地政学者や軍事アナリストはそうではないという。ハイテク覇権を巡る米中の対立はその典型だが、このまま行くと世界はアメリカと中国という2つの陣営に二極化する方向に向かう。ロシアは、こうした二極型の秩序に抵抗し、ロシアの影響圏という第三極を、世界秩序の柱のひとつとして構築することを目標にしているのではないかという。
●アメリカが包囲される?
いずれにせよ、ロシアの影響圏拡大の勢いは止まりそうもない。すると、ハイテク覇権を巡ってアメリカが中国と争い、中国を封じ込めるためにエネルギーを消耗している隙に、「S−400」のようなロシア製最先端兵器の拡散で、アメリカの軍事的な覇権の一角が崩されることにもなりかねない。
こうしたロシアの拡大を阻止する目的で、トランプ政権は早くも2017年8月に、「敵対者に対する制裁処置法(CAATSA)」を制定し、ロシアの武器輸出に歯止めをかけようとしている。しかし、各国のロシア製兵器の需要は大きく、十分な歯止めにはなっていないようだ。ロシアの影響圏の拡大は止まらない。
おそらく2020年代の前半には、なんらかの安定した世界秩序が形成されるか、または大きな戦争による世界的に無政府状態になるという2つ可能性がある。どちらの方向になるかのカギは意外にロシアが握っているのかもしれない。米中対立の裏で進むロシアの動きは目が離せない。
19/12 | |
19/11 | |
19/10 | |
19/09 | |
19/08 | |
19/07 | |
19/06 | |
19/05 | |
19/04 | |
19/03 | |
19/02 | |
19/01 |
24/12 | |
24/11 | |
24/10 | |
24/09 | |
24/08 | |
24/07 | |
24/06 | |
24/05 | |
24/04 | |
24/03 | |
24/02 | |
24/01 | |
23/12 | |
23/11 | |
23/10 | |
23/09 | |
23/08 | |
23/07 | |
23/06 | |
23/05 | |
23/04 | |
23/03 | |
23/02 | |
23/01 | |
過去年 | |
社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/