ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
2月になった。米中貿易戦争の激化、世界各地のポピュリズムの運動など、2019年は昨年以上に激しい変動の年になりそうだ。しかし、やはり気になるのは経済である。近いうちに深刻な世界不況がやってくる可能性があるのかどうか今回は検討してみる。
日本の主要メディアでは、2019年は日本でもアメリカでも経済のファンダメンタルズがよいので、多少の減速はあるもののゆるやかな成長は堅持されるとの見通しが多い。たしかに、日米の雇用統計や個人消費、そして住宅着工件数などの基本的な指標を見ると、伸びがスローダウンしている数値はあるものの、悪化はしていない。そうした数値を見ると、ファンダメンタルズはよいので不況はないとする見通しにもそれなりの根拠があるように見える。
しかしながら、トランプ政権の保護主義政策、米中の出口の見えない貿易戦争、イギリスの合意なきEU離脱の可能性、ヨーロッパを席巻するナショナリストのポピュリズム運動など世界経済の拡大を支えていた自由なグローバル経済の基本的な枠組みが、目の前で崩壊しつつある。
そうした状況で、世界経済がこれから深刻な不況に突入し、日本を含め各国にも大きな影響が出てくるのではないかという不安がある。ファンダメンタルズがよいので経済は大丈夫だとはいっていられない状況なのではないだろうか? そんな疑問があってもおかしくない。本当はどうなのだろうか? 実際の状況がどうなっているのか知りたいという気持ちが強くなっている。
●IMFによる世界経済見通し
そのようなとき、IMF(国際通貨基金)は2019年の世界経済見通しを発表した。これは、半年前に発表された見通しの下方修正したものだ。
世界経済全体の成長率は2019年では3.5パーセント、2020年は3.6パーセントの見通しとなった。これは前回の発表よりもそれぞれ、0.2パーセント、0.1パーセントに下方修正された。
また、アメリカは従来と同じ2.5パーセントに据え置き、2020年に1.8パーセントに減速すると予測した。共和党主導の減税措置の効果が薄れ、景気が金利上昇に反応すると指摘した。
さらに日本の成長率については、政府が10月の消費増税を見据えた経済対策を発表したのを受け、2019年を1.1パーセント、2020年を0.5パーセントとそれぞれ0.2ポイントずつ予想を上方修正した。
そして中国の今年と来年の成長率予想は6.2%に据え置いた。インドの今年の成長率は従来予想より0.1ポイント引き上げ7.5パーセントとし、2020年は7.7パーセントとの見通しを示した。
これを見ると、2019年や2020年に世界経済の減速は限定的で、不況に突入するとは考えられないという感じだ。
●中国政府の公式発表
またほぼ同じタイミングで、中国政府は2018年度のGDP成長率を発表した。
2018年の第4四半期(10月から12月)のGDP成長率は前年同時期と比べてプラス6.4パーセントにとどまり、2018年の第3四半期の6.5パーセントからは0.1パーセント減速した。昨年1年間のGDPは6.6パーセントで、これは天安門事件翌年の1990年以来、28年ぶりの低水準である。
中国経済の減速は大きく報道されているものの、これは中国政府が2018年の目標成長率が6.5パーセントなので、たいした減速ではないのではないかとの印象を持つ。貿易戦争による厳しい高関税の適用にもかかわらず、中国経済はそれなりに健闘しているように見える。
●IMFの発表したドイツ経済の減速
いま主要メディアで報道されているこのような内容を見ると、将来いずれかの時点で不況がやってくるとしても、少なくともそれは2019年や2020年ではないと考えられる。この見通しは多くのエコノミストの予想とも一致している。
しかし、IMFが発表した経済見通しの数値や、さまざまな機関が発表した中国経済の数値を見ると、こんな悠長なことをいっていられる状況ではないことがはっきりする。
焦点となるのはヨーロッパの数値だ。特にドイツ経済の減速が深刻だ。2019年におけるドイツの成長率の見通しは1.3%と昨年の10月の見通しから30パーセント(0.6ポイント)も下方修正した。2017年のドイツの成長率は2.4パーセントだったので、それと比べるとこの数値は、ドイツが不況に突入したといってもよいくらいの減速だ。
また、国債の利回り上昇が成長の障害となっているイタリアは0.4ポイントの下方修正で、2019年と2020年はそれぞれ0.6パーセントと0.9パーセントの成長になった。さらに「黄色いベスト」の抗議運動が続くフランスは、2019年が1.5パーセント、2020年が1.6パーセントで、2019年は0.1ポイントの減速となった。2019年におけるユーロ圏全体の成長率は、従来よりも0.3パーセント低い1.6パーセントであった。2017年が2.5パーセントの成長率だったので、これは大きな減速だ。
2019年は、イギリスの合意なきEU離脱や、EU解体を主張する極右政党の躍進が予想されているEU議会選挙など、結果が予測できない出来事が多い年になる。これらの出来事の思わぬ結果からEU全体が不安定になり、ユーロ圏全体がさらに減速して、不況に突入する懸念も出てきている。
●中国の実質成長率は1.67パーセント?
しかし、これ以上に深刻な状況は中国だ。さまざまな機関が中国経済の数値を発表しているが、どれも予想を越えた悪さだ。
2018年12月の輸入は5パーセントの増加を予想していたものの、対前年比で7.6パーセントの減少だった。また輸出も、3パーセントの増加を期待していたものの4.4パーセント減少していた。
そのうち、スマホの輸出は、前年度比15.5パーセントの下落、自動車の販売台数は5.8パーセントの減少であった。
また失業率も悪化している。2018年は4.9パーセントであった。これは、世界経済が実質的に収縮した2008年から2009年の金融危機のときの失業率、4.2パーセントと4.3パーセントよりも高い。このときは、失業率の悪化による社会不安の増加が懸念された。
10年前ほどではないものの、中国の製造業は、依然として内陸部の農村から都市部に移動してきた農民工の労働に依存している。もしこの層の失業率が金融危機時の水準を越えて上昇すると、社会不安の背景にもなるとも懸念されている。
このような中国経済の状況を見ると、成長率は政府発表の6.4パーセントなのかどうか疑念が出てきてもおかしくない。政府が発表する統計値には以前から疑念があったが、それが再燃している。
そのようなとき、北京にある有名大学のひとつである「中国人民大学」金融学部教授、向松祚(シャン・ソンゾウ)は、参加した経済セミナーで驚くべき発表を行った。
シャン・ソンゾウ教授はある政府機関には中国の実質的な成長率の試算した内部報告書があり、それには2つに成長率が記載されていたという。そのうちのひとつは成長率を1.67パーセントとしていた。そしてもうひとつの試算はマイナス成長であったとしている。
もちろん日本の主要メディアでは報道されていないが、このシャン・ソンゾウ教授のこの発表は世界を駆け巡った。いくらなんでも1.67パーセントとは低すぎるのではないかと異論も多いが、それでも実態は公式成長率の6.4パーセントよりははるかに低いはずだとの見方が一般的になっている。
しかし万が一、シャン・ソンゾウ教授のいうように中国の成長率は1.67パーセントであったとするなら、これは改革開放政策の実施で中国の資本主義的な発展の端緒が切られた1978年以前の、1974年前後の成長率だ。もしこれが事実なら、中国は不況どころではない。これまで40年間、中国の成長モデルであった国家資本主義の妥当性が問われる事態にもなりかねない。
もちろんこれは、これから世界経済に甚大な影響を与えるはずだ。
●OECDの景気先行指数
また、最近発表されたOECD(経済開発機構)の景気先行指数もこれから深刻な不況に入ることを示唆している。
これは、OECDが各国の経済指標から今後6ヵ月の景気動向を予測した数値だ。この数値が99.3を下回ると、今後数ヵ月以内に不況に突入する可能性が高くなるとしている。過去に99.3を下回った1970年、74年、80年、81年、2001年、2008年と予測は的中し、すべて不況に突入している。景気先行指数は昨年の11月に発表されたものが最新だが、ちょうど不況突入の分かれ目となる数値の99.3であった。ということは、昨年の11月から半年以内、つまり5月くらいまでに世界が本格的な不況に突入してもおかしくないことを示している。
●アメリカの危ない数値
また、IMFの経済見通しでは2.5パーセントに据え置かれた2019年度のアメリカの経済成長率だが、そのような楽観的な見通しに逆行する数値が多い。
住宅販売件数は、景況判断の重要な指標である。昨年12月の販売権数は11パーセントと大きく下落した。これは2016年以来最大の下落だ。
また新築住宅に限ると、2018年12月はピークだった2017年12月と比べて18パーセントも下落した。ローン金利の上昇を受けて、2008年のリーマンショック以降比較的順調に上昇していた住宅価格は、下落に転じる可能性が大きくなっている。
さらに、新卒者の求人件数も下落に転じた。昨年末には、過去8年間で初めて求人数は1.3パーセント下落した。ある調査機関によると、無作為に350名の新卒者を抽出して調査したところ、75パーセントが就職できていなかったという。
●広がるアメリカ経済の悲観的な見通し
こうした状況を受けて、大手コンサルの「PwCコンサルティング」が1300社の大手企業のCEOの調査機関したところ、30%が2019年は不況になると回答した。2018年には5%だったので、これは大きな増加だ。普通、企業の経営者は悲観的な見通しの公表を好まないものだが、今回は例外的だ。経済の落ち込む可能性を深刻にとらえている現れだ。
また、大手投資銀行、「モルガン・スタンレー」の債権担当ストラテジストは、これから少しでも悪い数値が出てくると、ダウは昨年のクリスマスイヴの下げ幅を越えて下落し、それに伴い不況は確実にやってくるとした。そして、「不況を怖がってはならない。受け入れるしかない」とアドバイスしている。
さらに、メリーランド州議会の「予算税収委員会」に参考人として呼ばれた大手格付け機関、「ムーディーズ」のアナリストは、すべての指標がこれから不況に突入することを示しているとし、遅くとも2020年の半ばまでには深刻な不況になるはずだと予測した。ということで、2019年にも不況に突入してもおかしくない状況だ。
●1929年に少し似ているかも?
これがいまの状況だ。海外のメディアを読むと、楽観的な情勢判断はなりを潜め、経済の先行きを懸念する悲観的な見通しを伝える記事や番組が日毎に増えているのが分かる。
これは大恐慌の引き金になった1929年10月の「暗黒の木曜日」とそれに続く数年間に似た状況のような気もする。
1929年には設備投資、住宅販売、雇用率、個人消費などのファンダメンタルズが若干悪化していた。しかしその下げ幅は景気循環の下降局面に典型的な水準だったので、翌年には自律的に回復できるレベルだった。しかし、バブルで膨れ上がった当時の株式市場はこのファンダメンタルズの悪化に過剰反応してパニック売りとなり、株は大暴落した。
そして、この大暴落が引き金となって発生した金融危機により、実体経済はどん底まで突き落とされた。その本格的な回復は、1940年代の戦時体制までかかった。
つまり、ファンダメンタルズの悪化によって不況が徐々に進行したのではなく、市場の暴落による金融危機が実体経済を深刻な不況へと引き込んだのである。
もしかしたら、いま世界はこの方向に向かっているのかもしれない。アメリカや中国で予想を越えた悪い数値がひとつだけ発表されただけで、市場は暴落しかねない。崩壊しつつあるグローバル経済の枠組みと、その後にやってくる不確定な未来を目の前にして、市場関係者は大きな不安に駆られている。
いつクラッシュが起こるかは予想できないが、筆者のメルマガでは全力で情報収集し、それが起こるタイミングと、対処方法を提示したい。
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/