“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2015.06
値上げラッシュ

 「物価目標が達成できない」。日銀は2年で2%の物価目標を達成して日本経済をデフレからインフレへ誘導していく、と公言していたのですが、実際は日本の消費者物価をみると2年経っても全く上がらず上昇率はゼロ%で、統計上全く物価高は起こっていません。
 株式市場や為替市場の関係者は、日銀がインフレ目標達成のために追加的な金融緩和に打って出る時期はいつか、などと盛んに議論しています。

 考えてみると、アベノミクスが始まってからいったい何が変わったのでしょうか?
 円安になり株高が起きたわけですが、庶民感覚からすると給料がやっとここにきて若干上がってきたようだが、他は物価が少し上がったような気がするが、なんとなく以前より景気が良くなったような気もするがはっきりしない、といったところではないでしょうか。
 政府や日銀は日本経済の回復を盛んに主張してきますが、一般的にははっきりとそれを感じ取るというところまでいっていないケースがほとんどと思われます。

●いよいよ、この夏から値上げラッシュ
 そんな中、いよいよ食料品を中心にしてこの夏から値上げラッシュが始まります。政府日銀としては物価目標達成が主眼ですから喜ぶべきことなのかもしれませんが、実際物の値段が上がってくることは庶民感覚としては喜ぶべきことがどうか、疑問です。
 特に夏からの値上げラッシュの品目は、食料品など身近な品物がほとんどです。チョコレートやヤクルト、お茶づけやフリカケ、そして衣料ではユニクロなどの値上げも控えています。ノートやはさみなども値上げ対象です。ヤクルトの値上げは23年ぶり、永谷園のフリカケの値上げは25年ぶりです。各企業とも「企業努力だけではコスト増を吸収するのは難しい」としています。値上げ幅は概ね5−10%となっています。
 これらが正規に堂々と値上げしてくれるならまだいいですが、中には「ステルス値上げ」といって中身を巧みに減らして価格を据え置いて値上げを覆い隠すような行為も頻繁にあるようです。
 皮肉なことですが、原油安によってガソリン価格や石油を使って作るものに関しては値上げは起きないわけですが、食料品や衣料品など衣食住で、誰でも毎日使うような品物が値上げの対象です。これでも政府は、消費者物価の動向としては大きく上がらないので、更なる物価高誘導を行うこととなります。

 日本国民はここまでデフレに慣れきってインフレを忘れ、物が恒常的に上昇するという経験を忘れかけているようですが、これからは政府も日銀も必死にインフレを起こすことに主眼を置いていますので、今回のような食料品などの値上げラッシュは一度で終わるものでなく、今後継続的に起こっていくことと覚悟しなければなりません。

 政府は2%のインフレ目標を何としても達成すると約束しています。この目標達成は今年2%で終わるわけではなく、来年も再来年も2%ずつ物価が上昇する環境を作り出すというわけです。そしていよいよこの本格的な物価上昇は確実に起こってくるわけです。
 物価が上昇し始めると皆さんの保有している現金はその実質的な価値が減少していきます。例えば今年100円で買えたものは来年102円になり、再来年は104円という具合です。政府の目論見通り2%の物価上昇が継続的に起これば、あなたの保有している100万円は10年経つと実質82万円の価値しかなくなります。タンス預金はインフレによって自然に減価していくのです。今回の夏から始まる食料品を中心とした値上げラッシュは、そのようなインフレへの転換を少しは意識する機会になるかもしれません。

●収入によってインフレの感度が全く違うという現実
 考えてみるとアベノミクスが始まってから一番変わったのは資本市場であり、円相場は80円から125円、日経平均株価は8000円から2万円にまで上昇したわけです。
 これらの動きに関して私は、このコラムでも一貫して書いてきましたが、インフレに備えるためには株式投資かドル投資ということで強くアドバイスしてきました。現実に庶民感覚ではそれほど経済が変わったと思えませんが、資本市場の現実をみると明らかにインフレに動き出していることがわかります。
 そして今回のアベノミクスの政策は、基本的に日本国民の格差を爆発的に拡大させていく政策に他なりません。そもそもインフレに誘導していくということが格差拡大を目指すものなのです。今年話題になった『21世紀の資本』の著者トマス・ピケティーは労働による対価である給与所得よりも株や不動産などの資産価格の上昇率の方が歴史的に高く、この状態が続くことで富める者はますます富んでいくとしています。今回のアベノミクスの政策はマネーを限りなく印刷することによってインフレを起こそうとするものですから、格差を爆発的に拡大させていく政策に他なりません。富める者を大きく富ませることで経済を活性化しようとする試みです。
 そして今、日本ではこのような格差拡大の傾向がはっきり生じています。そのことがいろんな角度から見えてくるのです。例えば今回の値上げラッシュですが、このような状況を切実に感じるのはむしろ収入が比較的少ない層です。先に指摘したように政府、日銀は物価目標が達成できていない、と非難されていて、資本市場でもいったいいつになったら物価目標が達成できるのか、と議論になっていますが、現実にはこのように食料品が上がってきたのであれば、確実に物価が上がっていると感じるのは普通のようにも思えます。
 しかし収入が大きく増えていたり給料が大きく上がっていればそのような事は切実に感じないかもしれません。
 となると結果的に、収入の大きさによって今回のインフレへの感度は全く違ってくることとなるのです。このコントラストがアンケート調査にはっきり出ています。例えば今指摘したように、統計上は消費者物価の上昇は全く起こっていないわけですが、現実には食料品などが上昇しています。現実にそれを強く感じていればインフレが起こっていると感じ、将来に備えるなり、将来に対してインフレ警戒的になります。

 2013年と今年2015年に「5%以上のインフレが起こるかどうか」と問うアンケート調査が行われました。これが年収950万円から1200万円の比較的富裕層の回答だとインフレ予想は2013年が16.5%に対し、今年2015年も17.5%とほとんど変わっていません。インフレに対する感度は2年間でほぼ変化なしです。  ところがこの同じ問いを年収300万円未満に行うと同じく2013年の時点ではインフレ予想が20.5%だったのに対し、今年2015年の時点では32.3%と急増しているのです。
 いかに年収950万円以上の層と年収300万円未満の層でインフレに対しての感度が極端に違うかがわかります。

 これは明らかにアベノミクスが始まってから年収が多い層は概ね経済が好転したことの恩恵を受けているか資産価格が上がったことの恩恵を受けている可能性があります。一方で年収が300万未満の層は収入も大きく上がらずに反対に食料品などの日用品の値段が上昇し始めたことでインフレに対しての警戒感が急速に高まっていることがわかります。
 これが今直近で日本に起こってきた実情と思っていいでしょう。日本は1億総中流と言われた比較的安定した社会でしたが、今回のアベノミクスによるインフレ政策によっていよいよ格差の拡大が本格的に大きくなっていくステージに入ってきたと思われます。そしてこの傾向は今後ますます加速、拡大していくのです。私は『株、株、株! もう買うしかない』(徳間書店)という本を書きました。現実に起こることはまさにこれで、インフレに備えないと今後はますます厳しい物価高という現実が襲ってくるわけです。しかも一生懸命節約し預金や保険を行ってもその預金や保険はインフレによって実質価値が目減りしていくという現実が待っていると思わなければなりません。
 このデフレからインフレ、それに伴う格差の拡大という現実は残念ながら時代の大きな流れで止めようもないのです。時代は大きく変化していきます。いいとか悪いとかということでなく時代の流れを冷静に判断して自分なりの対応を行うしかないのです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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