“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2015.09
現れ始めた高齢化社会のひずみ

 日本の景気が予想以上に盛り上がってきません。今年は消費税増税の影響も和らぎ、賃上げも行われた上に夏が例年に比べても暑く、当然消費が盛り上がることが期待されていました。ところが夏場の真っ最中、7月の日本全体の消費は驚くほどに盛り上がらなかったのです。総務省が先月末発表した7月の家計調査によると1世帯あたりの実質消費支出は前年同月比0.2%減の28万471円でした。今年は賃上げもあり、ボーナス支給も好調で7月の勤労者世帯の収入は前年同月比で5.4%増と久しぶりに大幅な増加となったのです。それにもかかわらずこれだけ暑い夏に消費が盛り上がらないのはどうしてでしょうか? 日本全体に何か今までと違った変化が生じているようです。

●景気が一向に盛り上がらない理由は?
 9月25日、総務省は8月の消費者物価動向を発表しました。それによると8月の消費者物価は前年同月比0.1%の下落となりました。安倍政権発足後、怒涛の金融緩和と景気対策によってデフレ脱却を目指し、日銀の異次元緩和から物価が上昇に転じていたわけですが、その物価上昇もついに2年4ヵ月ぶりにストップして前年比マイナスに転落してしまったのです。本来であれば、このように収入が増えて物価の上昇が止まったのであれば、余計消費が盛り上がっていいわけですが、一向にそのような兆候は見られません。
 政府がデフレからインフレへの変化を目指したのは、賃上げで収入も増え、物価も上昇するという経済の好循環を目指したわけで、ある意味、賃上げで勤労者世帯の収入も増えてきたのであれば、目標は達成に近づいてきているわけですが、一向に景気は盛り上がる気配はありませんし、消費も盛り上がりません。むしろ庶民感覚では先行き不安でお金の節約モードとなっているようです。いったい何故、このような状態になってしまうのでしょうか? 収入が増えているのに人々はどうして消費しないのでしょうか?

 一連の流れにはどうも日本全体を覆う、日本社会の構造的な変化があるようです。例えば7月の消費支出の世帯別の内訳をみると、世帯の性格によって極端な差が出ていることがわかります。例えば年金生活など高齢者を主体とした無収入世帯では7月の消費支出は前年同月比2.3%の減少となっています。一方で勤労者世帯は0.7%の増加です。日本全体としてみると0.2%の減少ですが、いわば勤労者世帯の消費は賃金増から増えているのに対して年金生活者など無収入世帯の消費は減少しているわけです。
 このように世帯別の性格で消費支出の傾向が変わるのは仕方ないことといえ、アベノミクスの目指してきたところは賃上げ、物価高の好循環を目指していて、ある意味、その傾向が実現できたのに、消費が全体として盛り上がらない傾向は問題があるとも言えます。
 というのもこのような傾向が続くのであれば、いくら景気対策を行って賃上げして物価高も目指しても、その物価高に対して対応できない年金生活者などの影響が幅広く出てきては、アベノミクスの目指す賃金高、物価高の経済の好循環の目論見が否定されてしまうからです。
 問題は、あまりに年金生活者など無職世帯の占める割合が日本社会の中で大きくなってきたという高齢化が進んでいる日本社会の現実です。
 日本の総人口は既に減り始めていますが、いわゆる生産年齢人口15〜64歳までの現役世代の人口は1990年代から減り始めています。特に日本では金融資産の多くを60歳以上の人達が保有しているわけです。日本の消費全体に占める割合も当然高齢者が大きな影響を持っているわけで、世帯主65歳以上の世帯の消費額をみると2014年以降は日本全体の3割以上を占めるようになってきているのです。そして高齢化の進展により、消費全体に占める高齢者世帯の消費は加速度的に増え続ける一方なのです。

 高齢者世帯は主にリタイヤしているケースが多く、いくら賃上げ、物価高の好循環の経済を目指す、といって、賃金が上がってきても、高齢者で働いていないで、年金生活の場合は賃上げなど全く関係ありません。むしろ昨今は年金の給付額は抑制傾向で、年金生活者の暮らしは食料品や生活必需品価格の上昇など、日用品の物価高で厳しくなってきている傾向なのです。これでは賃金と同じように年金を上げるようにしなければ消費が盛り上がらないということになってしまいますし、現実に年金の支給がここ数年で抑制されてきたので、日本全体の消費が盛り上がってこないのは明らかなようです。
 しかも日本はますますの高齢化が加速していきます。いわゆる団塊の世代と言われる1947年から1949年のベビーブームで生まれた人たちは2025年には75歳以上となります。こうなると日本の全人口の2割以上の2200万人が75歳以上ということになるのです。これでは日本社会は高齢化社会ならず、<超高齢化社会>に変容することとなるのです。このような怒涛の勢いで日本の社会は超高齢化が進み、年金生活のような無職世帯が爆発的に増えていくのであれば、賃上げ政策などして物価高を引き起こす政策は年金生活者を苦境に陥れ、その購買力の著しい減少を招くのは避けられないでしょう。
 現在賃上げが実現されて消費が盛り上がってこないのはその走りのようで、これではアベノミクスでいくら経済活性化、賃上げを目指して、それが実現できても、日本全体の消費を盛り上げることが難しくなる可能性もあります。
 しかも超高齢化社会が訪れれば医療費などの爆発的な拡大は明らかで、医療費、介護、年金などの社会保障の費用は鰻登りとなっていくのです。財務省によると社会保障費は2012年時点で110兆円ですが、2025年には149兆円へと跳ね上がるというのです。こうなると日本の財政破たんも必至ということでしょうが、現在はその前段階です。世界で最も早く超高齢化社会を迎える日本ではまずは消費減少という形で経済対策が効かない深刻な傾向が出てきたとも言えます。

●深まる高齢者に関わる社会問題
 さらに現在の日本では、この高齢者の貧富の格差が社会問題になりつつあるのです。財務省によりますと高齢者の一人世帯で貯蓄高の二極化が進んでいるというのです。1994年と2009年で貯蓄高を6段階に分類して比較すると<1500万円以上>が6.1ポイント増の33.0%と最も高いのですが、反面<300万円未満>が2.4%増の25.7%となって2番目に高いというのです。収入ベースでみても一人世帯の高齢者のうち年収300万円未満の割合は1994年の74.3%から77.7%へと増え続けているというのです。このままで行くと高齢者の一人世帯は2020年には668万世帯まで増えて1995年比で約3倍にまで膨れ上がっていくというのです。
 かように二極化、貧困化という高齢者世帯の問題がますます深刻化していくなかで、現在ではその状況を捉えて<下流老人>という言葉も出てきました。高齢者で突如、貧困に陥る世帯が急増しているというのです。
 昔であれば大家族が当たり前だったので、年を取っても子供夫婦に面倒を見てもらうのが普通でした。ところが現在では核家族となっていますし、頼りの子供もニートや派遣労働ともなると親の面倒を見るどころではありません。まさに家族に頼ることもできず、そんな状態で仮に大病にでもなって貯蓄が尽きてしまったらどうなってしまうでしょう?
 いくつかの例を挙げてみます。一部上場企業で働いてきた男性が離婚してから食事や趣味にかけるお金を節約できず貧困に陥ってしまったという話や、かつての不動産会社の社長がスーパーでお茶と弁当を盗んで捕まった時、所持金が100円しかなかったのに、立派なスーツを着込んでいたという例もあったということです。その不動産会社社長もまさか自分が食いっぱぐれるはずがない、老後の心配など無用、と年金もかけず嵩をくくっていたということですが、思わぬ人生の変転となってしまったというわけです。かような例が日本全土で頻繁に起こるようになってきたわけです。

 このような<下流老人>に転落するパターンとして<カフカの階段>と呼ばれる階段があるそうです。まずは仕事を失っていく、そして次に家族を失っていく、さらにその次に住んでいるところ(住居)を失っていくのです。そして最後はいよいよお金が尽きて究極の貧困に転落していくというのです。この<カフカの階段>を一段ずつ落ちていくわけですが、最下段まで落ちてしまうと簡単に這い上がることはできなくなるというのです。
   いよいよ日本では高齢化の深刻な影響がはっきりと現れてきつつあります。子育て支援など遅ればせながら安倍政権も対策を打ち出してきています。しかしとても将来の大きな混乱を回避できるとは思えません。平穏無事に見える現在の日本社会も数年後には重大な過渡期を迎えることを覚悟する必要があるのです。

15/12

2016年の展望

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15/09

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日米同盟強化の恩恵

15/03

アベノミクス その光と影

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ギリシアの悲哀

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止まらない<株売却ブーム>


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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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