“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2017.02
止まらない米国株の上昇

 米国株の上昇の勢いが止まりません、NYダウは何と30年ぶりの記録を塗り替えて9日連騰という快挙を成し遂げました。そしてその後もさらに上昇、11日連騰と記録を更新し続けています。世間ではトランプ大統領の強権的な政策に対しての懸念が渦巻いていて、米国でも個人投資家のアンケートなどをみると、株式市場に対しては強気派よりも弱気派の方が増えてきています。しかしそれにも関わらず米国株の動きは驚くべき強さです。

●今回のNYダウの連続上昇はまさに<びっくり現象>
 一概に11連騰と言いますが、相場の世界においてはある日は上げが行き過ぎてしまって、いくら環境が良くても下がる日も生じるというのは極めて普通のことなのです。ところが今回の上昇局面では、11日連続して上がり続けるということは、驚きを通り越して異常の極みでもあります。舩井幸雄先生は物事が変わるときは<びっくり現象>が起こる、と述べていましたが、まさに今回のNYダウの上昇ぶりは<びっくり現象>であって、これは水面下で大きな変化が起きつつあるということを感じ取るべきでしょう。その変化とは、トランプ政権による思い切った減税、財政出動策から生み出される米国、および世界的なインフレへの大転換です。そしてそれに伴って国債など債券から株式への巨大な資金移動が起こりつつあるわけです。これはグレートローテーションと呼ばれていますが、まさに歴史的な大波が到来しようとしているわけです。

 米国株に比べて日本株の勢いはイマイチですが、それでも日本株においても新興市場であるジャスダック市場は26年ぶり、あのバブル期以来の高値となってきましたし、東証2部市場に至っては史上最高値更新となっているのです。
 注目すべきは、このような現象で投資家や世間が経済の先行きに楽観的になっているわけでもなく、逆に日本でも米国でも、トランプ大統領の政策や言動に不安感が広がっていて、かつてないほど経済の先行きに不透明感が漂っている、この現状下でこのような<びっくり現象>とも言える壮大な上げ相場が始まっているという事実です。「株式相場は不安の壁をよじ登る」と言いますが、まさに多くの人たちの不安感を飲み込むように株式市場は壮大な上げを演出しています。

 多くの日本人は、株式市場の上昇には常に懐疑的でバブル懸念ばかり話題にします。マスコミを見れば、<実体のないバブル>とか<株式市場ははしゃぎ過ぎ>などという言葉が並びますが、NYダウや日本の新興市場の上げっぷりをみると、やはり株高が起こっている現実を素直に受け止めて、その流れをしっかり把握しておく必要があるでしょう。
 昨年11月、予想を覆してトランプ氏が当選してから米国株の壮大な上げ相場がスタートしたわけですが、その米国株の上げに二段ロケットのように勢いがついてきたのは、2月の日米首脳会談の直前にトランプ大統領が「2−3週間以内に税制で驚くべき発表をする」と述べてからです。その後NYダウは、下げる日はなく上げ一方となっていますが、これは打ち出される政策を考えれば当然の上げでもあるのです。

●今回の米国株の上げは、米国の底力と見るべきか
 すでに何度も報道されていますが、米国は10年で米国のGDPの3割に当たる5兆ドル(約570兆円)に上る減税を行うと予想されています。これは1年で考えてみるとGDPの3割の10分の1となりますから、1年ではGDPの3%の規模です。日本に当てはめて考えると1年でGDPの3%ですから、約15兆円の減税規模となります。15兆円と言えば日本では、およそ8%の消費税の額に匹敵します。日本で消費税が廃止されるとなれば、株式が暴騰するのは当たり前と思いますが、米国、トランプ政権の行おうとしている減税策はそれほど強烈なことなのです。これでもあなたは米国株が上がることはおかしい、バブルだと思いますか? むしろ日本において消費税がゼロになるような減税規模で政策が実行されるなら、米国株の上げの勢いはまだこんな程度では収まらないだろう、と感じませんか?

 要するに米国株が上げていることは合理性があるということです。減税策がとん挫したり、減税の規模が市場の予想より縮小するということになれば米国株も反落するでしょうが、現在は有言実行のトランプ政権が減税を確実に実行できると読んでいるわけです。
 一方、日本株が低迷しているのは、米国株の減税策と一緒に、輸入品に対して増税策も発表されるのではないかという懸念があるからです。具体的には輸入品全般に課税する国境税などの税金を課すのではないか、というような保護主義的な政策が減税とパッケージで発表される可能性が指摘されているわけです。このような懸念が杞憂ということになれば、日本株に対しても投資家の慎重なスタンスが変化することでしょう。

 それにしてもNYダウの11連騰も、そして2万ドルに乗せたという事実も歴史的なことで、素直に米国の底力を感じ取るべきでしょう。世の中も変化していきますが、米国のダイナミックな変化はやはり世界の最先端を走っていると言っていいでしょう。今回のNYダウの上昇をけん引して、新高値を取ってきたのは、アップルやゴールドマンサックスなど世界に冠たる企業です。2月14日にはゴールドマンサックスが250ドルを突破、リーマンショック時に50ドルを割り込んだ株価から10年弱で5倍になりました。アップルも同じく14日2年ぶりに新高値を更新しました。
 一般的に米国株の上昇は、トランプ新政権の政策に対しての期待感から生じていますが、アップルの場合は世界に展開している企業ですから米国内の政策の影響を受けたものだけではありません。アップルは昨年2016年1−3月期は13年ぶりに減収減益になって、アップルの成長は終わったのか、と危惧されていたのです。ところがここに来ての革新的次期モデルの登場で、再び業績回復の期待が盛り上がってきているのです。まさにイノベーション、企業努力の賜物です。かようにダウを構成するような世界に冠たる米国の企業群は時代と共に変化、発展し続けているのです。

 NYダウ指数は1896年に初めて導入されました。最初はわずか12銘柄でのスタートでした。NYダウは現在30銘柄で構成されています。NYダウ30種と言ってNYダウ構成の銘柄数が30銘柄になったのは1928年のことです。その直後、1929年に世界大恐慌でNY市場が大暴落したことは歴史の悲劇でもありますが、NYダウ30種は米国の代表銘柄、時代を映す企業が選ばれてきたのです。その時代、時代において成長性があり、知名度も高い世界に冠たる企業がNYダウ30種を飾ってきました。当然、時代の変化と共に銘柄の入れ替えも行われてきたわけです。
 ちなみに、現在の世界ナンバー1の時価総額を有するアップルは、わずか2年前、2015年にNYダウに採用されたばかりなのです。1896年のNYダウ発足当時から今まで変わらず残っている銘柄はゼネラル・エレクトロニクス(GE)ただ一つです。このGEはあのエジソンが作った会社です。NYダウ30種の中でも浮き沈みがあり、かつてカメラメーカーの雄だったイーストマンコダックなどはダウ採用銘柄から消えて、会社もなくなってしまいました。自動車のGMやコンピューターのヒューレットパッカードなども近年NYダウ30種から除外されてしまいました。かようにNYダウ30種という指標は株価指数としては長く伝統のある指標であり、米国、そしてその時代を映す指標でもあるのです。

 株式投資に懐疑的な人も多いですが、NYダウの順調な上げの歴史を振り返ってみれば、経済の発展、企業、そして社会の持続的な発展を感じることでしょう。中長期的にみればNYダウはさらなる高みに上がっていくことは必定なのです。世界一の投資家と言われるウォーレン・バフェット氏は、昨年の大統領選挙の前に「例え誰が大統領になっても米国株は上がり続ける」と述べていましたが、バフェット氏の強い信念を映すかのようにトランプ大統領が出現したあとも米国株の上げの勢いが収まりません。

 米国では金融資産に占める株式や投資信託の割合は5割近くなっています。一方で現金や預金の割合はわずか14%に過ぎません、投資に対しての積極姿勢が一般化しているわけです。当然今回のような株高では多くの人たちが潤います。一方で日本では金融資産に占める現金や預金の割合が52%です。この膨大な資金はゼロ金利で全く収益を生みません。そして日本では株式や投資信託の割合は金融資産のわずか13%に過ぎません。日本の場合はNISAなど政府が一生懸命預金から投資へと政策的な後押しをしても、投資熱は盛り上がらず、ずっと株式などに対しての投資は嫌われています。国民性もあると思いますが、日本の場合は投資などで汗水たらさずにお金を儲けることは悪いことというようなイメージが強いわけです。またバブル崩壊で長い間株価や土地の価格なども低迷していたために、株式投資などでは損失を被ったケースが多く、それが投資を萎縮させる環境を作ってしまいました。この長い失敗続きの体験からの投資に対してのアレルギーが日本においてはなかなか払しょくできません。

●そもそも投資は世の中に満ちている
 しかし「投資が悪い」 という考えは間違っています。そもそも世の中の全てと言っていいほど我々のまわりは投資に満ちていて、投資があるからこそ我々の暮らしが成り立っているのです。あなたの服や靴を考えてきてください。それは誰かが作って売っているわけですが、それはどこかの誰かがリスクを取って投資して製品を世に送り出して、あなたの手に届いているわけです。食料やそれを売るスーパーやコンビニさえも、誰かがリスクを取って売ったり、店を開業したりして結果的にあなたの手元にあるわけです。家の中の椅子もテーブルも電化製品も全て誰かの投資によって作られ、あなたがそれを購入しました。こうしてあなたの手元に置かれています。世の中全て投資によって成り立っているわけです。そう考えると「投資が悪」などという発想はあり得ないのです。
 日本政府はデフレからインフレへと必死に変換させようとしていますが、なかなか成果を出すことができず、長いデフレ状態から抜け出せません。しかしNYダウや日本の新興市場を見ればわかるように情勢は変わってきています。アベノミクスが始まる前の日経平均は8000円台でした。それが今は倍加しています、デフレからの脱却は難しいようですが、着実にデフレからインフレへの変化は起こりつつあります。NYダウのびっくりするような上昇は、デフレからインフレへの世界的な潮流という巨大な変化を我々に示しているのです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/

Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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