“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2017.07
仕事はなくなるのか?

 「日本の労働人口の49%は人工知能(AI)やロボットで代替可能になる」
 野村総合研究所とオックスフォード大学の調査結果は衝撃を与えました。最近のAIの驚くべき進化や社会の変化を見ていれば、この調査結果にかなり信憑性があると感じることでしょう。一体、将来我々の仕事は劇的になくなっていくのでしょうか? 本当にロボットに代替されて人間の働く場は消え去っていくのでしょうか? 様々な見方や将来予想がありますが、今回のコラムでは、この問いに対しての極めてユニークで重要な見方、米国のマサチューセッツ工科大学のデビット・オートー教授の考えを紹介します。

●銀行にATMが出現してから銀行員の働き方はどう変わったか?
 まずオートー教授は、銀行のATMの出現から人間の働き方の変化が起こったことを説明しています。銀行業務が45年前大きく変わりました。ATMが導入されたからです。当然のことながら現金の出し入れを主な業務としていた銀行の窓口係の仕事は劇的に変わっていきました。それ以前は、銀行において窓口係の割合は銀行で働く人の3分の1に及んでいたというのですが、ATMの出現によって、窓口係の仕事量は大きく減少したということです。現金を数える必要が激減したのですから当たり前です。それでは窓口係の担当者は次に何を行ったのでしょうか? 仕事がなくなってしまったのでしょうか?

 オートー教授の言うには、窓口係の仕事はより一層重要さを増すようになったというのです。以前はお金の出し入れの勘定を主に行っていたわけですが、この仕事をATMに任せることによって、窓口係はお客様とより緊密な具体的な話をする機会を持つようになったのです。お客様の要望を聞いたり、融資の相談を受けたり、また投資の相談を受けたり、お客様の身になってより緊密、そしてパーソナルな相談を受けるようになっていったのです。お金を数えるのは重要な仕事ではありますが、機械が代替してくれるのであればそれにこしたことはありません、余った時間を利用して窓口係がお客様一人一人の要望を以前よりもじっくり聞いて、そのリクエストに応える仕事はよりお客様との関係を深めることでしょう。いわばお金を数えるという単純作業をATMに任せることによって、窓口係の仕事はより知識や経験を必要とする重要な仕事に変わっていったわけです。

 同じく金融の仕事の変化について一例を出すと、かつては証券会社も、お客様が株式の売り買いを行うとそのお金の勘定が変わりますから、その承認のためにお客様のところに出向いて、株の預かり証や金銭の預かり証の交換を行っていたわけです。売り買いすれば株や現金の勘定が変わるわけですから、そのような変化をお客様が確認するためのプロセスでした。
 ところが時代の発展にともなって、コンピューターや郵送においてもお客様自身がその時現在の持ち株の状況や現金の状況を把握するのが容易になってきました。こうして時代の変化に相応してお客様の現金や株式保有の確認は簡素化される傾向ができてきたのです。
 お客様の売買があったとしても、それはお客様自身が確認する手法が容易に、そして確実にできるようになってきたわけです。こうした変化を受けて証券マンは預かり証の交換のためにお客様のところに定期的に訪問する必要がなくなったのです。こうなると証券マンの仕事も以前より生産性が上がるようになっていきました。証券マンはお客様によりいい投資案件を紹介したり、タイミングをみてタイムリーに株の売り買いを紹介するという頭脳を使う仕事がメインになっていきました。いわば銀行の窓口係の仕事の変遷のように、証券マンの仕事も単純な作業が簡素化されたことによって、より重要なアドバイスという仕事に重点が置かれるようになってきたというわけです。

●AIの出現で現在の仕事がなくなっても問題はない?
 かように時代の変化によって様々な単純な作業が簡素化され、それまで行ってきた手間がはぶけるようになって銀行の窓口係も証券マンも生産性が増すような体制作りができてきたわけです。まさに単純な仕事が機械化されることは、人間がより重要な仕事を行うための下地が出来上がってきたプロセスと言えるわけです。考えてみますとかつての産業革命もオートメーション化も、そして現在のインターネットの普及も含めて、多くの仕事が自動化されることによって、人間の行う仕事がより重要度が増す仕事に変わっていったように思えます。
 しかし生産性が劇的に向上していけば、人間が行うべき仕事がなくなってしまうケースもあります。
 農業を考えてみましょう。
 昔はまずは食べ物を確保しなければなりませんでした。そのため日本でも多くの人たちが農業に従事していたわけです。米国でも1900年以前は人口の40%が農業に従事していました。それだけの人々が農業に従事していなければ全国民が食べる食料を確保できなかったのです。ところが米国でも今や人口の2%未満が農業に従事しているに過ぎません。それでも農業生産は100年前に比べれば劇的に発展しているわけです。この農業のケースでは、生産性が劇的に発展したことで生産するのに人手がいらなくなり、多くの失業者を生み出しました。

 それでは、全米において全人口の40%に当たる農業従事者がわずか2%未満になってしまったのであれば、その余った38%の農業従事者はどうしたのでしょうか? 仕事がなくなったのに簡単に転職できたのでしょうか? 歴史を振り返ってみればわかるように誰も長く失業することなく、新しい流れ、新しい仕事に就くようになっていきました。まさに人間の欲と創造性は限りなく、人間は次から次へと仕事を作り出していきました。
 昔は農業が一番の産業だったわけですが、今ではありとあらゆる仕事が存在しています。
 例えば金融でも保険でも多くの仕事がありますが、このような仕事は100年前は概ね存在していなかった仕事です。ITやゲーム関係の仕事も昔は全く存在していませんでした。100年前の人にITとかゲーム関係の仕事と言っても全く理解できないことでしょう。医療や介護の仕事にしても確かに昔から存在はしていましたが、今のやり方とか技術とかには比べものにならないことでしょう。それだけ社会が発展して人間はかつてない仕事を作り出してきた歴史があるわけです。これを読んでいるみなさんの仕事も、そのほとんどが100年前には存在していなかった仕事のはずです。まさに現在、我々が行っている仕事のほとんどは、人間のたゆまないニーズとか欲求が作り出してきたことがわかります。ポケモンGOなどというゲーム作りも時代が生み出したもので、そのようなゲームで遊ぶことが全世界に拡大していくことで、また新たな仕事が構築されてきたわけです。
 そう考えると、将来、人間の発展過程において、今後どのような仕事が生まれてくるかは、我々が正確に想像できるわけもありません。かように現在の仕事がなくなっていっても、人間の歴史を見る限り、将来に考えもつかない仕事が生まれても不思議はないわけです。
 しかしながら先に指摘したように、人類の発展過程で機械化が進むことで各々の仕事の重要性が増してきたという事実を捉える必要があります。重要性が増せば仕事においてはより豊富な知識が求められます。

 1800年後半から1900年前半にかけて、米国では社会に劇的な変化が起こりました。産業革命の本格化です。農業技術が飛躍的に向上して、まさに農業で失業者が溢れるようになってきたのです。一方で工業化は発展のプロセス途上にあり、直ぐに農業で働いてきた人が工業で働けるという状態でもありませんでした。多くの人は工業で働くための基礎的な知識や教養をその時点では持っていなかったのです。
 米国では当時、<ハイスクール運動>と呼ばれた若者を高校に行かせる運動が展開されたのです。若者を高校に行かせようとすれば多くの高校を作る必要があるわけですが、これには膨大な費用がかかります。しかし米国政府はこれを断行しました。また当時は農業従事においても若い労働力は貴重だったわけですが、若者を高校に通わせてはこの貴重な労働力を失うこととなるわけです。かような犠牲を払っても米国政府は<ハイスクール運動>を行って若者に教育を受けさせて工業で働けるような基本的な知識を学ばせる機会を構築したというわけです。
 これが後の米国の発展に大きく寄与しました。農業から工業化へという歴史的な流れのなかで、若い労働者を教育して、その社会の変化に労働者が対応できる体制を作り上げたのです。まさに教育の重要性がわかる一例です。

●現在は過渡期、将来はもっとよくなる
 米国のマッキンゼーの調査によりますと、2020年までに高いスキルを持った人材は全世界で4000万人不足するということです。一方で低スキルの労働者はロボットなどに仕事を代替され9500万人余ってくるということです。ビル・ゲイツは将来の課題として「ロボット税」を提唱しています。人間の仕事を奪ってしまうロボットの労働に税金をかけるべきだというのです。また多くのAIの専門家も将来、人々の仕事が激減する状態を考えて、人々が働かなくても暮らせるように最低限の暮らしを保証するための援助、<ベーシックインカム>と呼ばれる資金援助を全ての人に与えるべきだと主張しています。
 かように現在は歴史的な過渡期に来ています。ITやAI、そして加速する機械化の中にあって、将来的に人々の仕事がロボットなどに代替される可能性も高いでしょう。そしてそのような流れの中にあっては、より高度な知識や経験が必要とされる仕事が増えていくでしょう。そのような流れに対応するには、自らの知識を更に高めていく必要があるのでしょう。
 一方、人間の歴史を見ればわかるように、今後も人間は現在では想像もつかないような様々な新しい仕事や可能性に挑戦していくことでしょう。それが新しい才能を開花させていく流れも作っていくことでしょう。いずれにしても現在はかつて人類史になかったほどの激しい変化が世界中で起こりつつあります。そしてその激しい変化に対応するには、時代にあったスキルを身につけて時代に対応していく必要もあるのです。
 一方で、AIなどの利用拡大によって多くの仕事がなくなっていく可能性も高いのですが、今までの人類の歴史を振り返ってみればわかるように、これから様々な新しい仕事が生まれてくるはずです。過度に悲観やまた反対に楽観視しすぎることもなく、変化を冷静に捉えてしっかりと対応していきたいものです。

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朝倉は今年10月27日から11月4日にかけて、イスラエル旅行を企画しました。ここまでみてきたように、イスラエルの持つサイバー技術とその技術が集積されたサイバーパーク、そしてその隣に位置する砂漠との対照的、且つ鮮やかなコントラストを感じたいと思います。またもちろんイスラエルに行くわけですから、イエス・キリストの足跡をたどる旅も楽しみます。3つの宗教の聖地であり世界遺産の宝庫であるエルサレム観光も見逃せません。旅の始まりはイスラエルの巨大な砂漠、ネケブ砂漠のクレーターが見下ろせる豪華ホテルから始まります。そしてパレスチナ自治区を見学して、死海での浮遊体験を行います。イスラエルは現在全く安全な状態です。ガイドは<バラさん>こと榊原茂さんです。榊原さんは40年前にイスラエルの地に渡り、生涯をイスラエル人ユダヤ人と一緒に過ごし、イスラエルの地では知らない人はいないと言われる名物ガイドです、彼のガイドが受けられるのは希少な体験と思います。幸いなことに舩井勝仁社長に榊原さんを紹介していただき、今回のご縁をいただきイスラエル旅行を企画することができました。今回の旅行は10月27日金曜日の夜出発で、翌週11月4日に帰国ですが、11月3日は文化の日で祝日となっています。よって都内にお住いの方なら11月第1週4日間連続休暇を取っていただければ旅行に参加可能です。大変いい旅になると思います。興味のある方は奮ってご参加ください。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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