“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2023.02
食糧危機は再燃するか

「ウクライナでの戦争が第二次世界大戦以来、目にしたことのない事態を地域の農業と世界の食料・穀物供給にもたらしている」
 昨年の3月29日、国連世界食糧計画(WFP)のトップであるデビット・ビーズリー事務総長は深刻な危機感を表明しました。ウクライナ戦争のぼっ発を受け、「このようなことが起こるとは、私たちは夢にも思わなかった。ウクライナは世界の穀倉地帯からブレッドライン(パンの配給を受け取る人々の列)に変わった」と先行きを懸念したのです。

●食糧危機は去ったのか?
 この時、穀物市場はパニック状況となり小麦価格が高騰に次ぐ高騰、1ブッシェル12ドルを超える過去最高値となったのです。そして今、ウクライナ戦争がぼっ発してから1年、小麦の価格が史上最高値を付けてから11カ月が経過しました。現在小麦の価格は7.7ドルと最高値から4割近く下げています。懸念された世界的な食糧危機は起きていません。こう着状態にあるウクライナ情勢ですが、小麦など穀物をはじめとする商品価格も比較的落ち着いています。危機は去ったのでしょうか? 検証してみます。

 まず何故、世界の穀物価格、とりわけ小麦の価格は落ち着いたのでしょうか?
 これは単純に世界の小麦の需要と供給のバランスが安定したからです。
 ウクライナ戦争勃発前、世界の小麦の輸出状況をみると、ウクライナとロシアで世界の3割に達していたのです。そのウクライナが戦火に巻き込まれて輸出がままならない状況となっては、世界の需給のバランスが大崩れして、値段が急騰するのも当然の流れでした。しかしその後、小麦の価格は下げ続けたわけです。
 これは、「他の国」の生産量の拡大によってウクライナの減少分を補うことができたからです。「他の国」とはどこでしょうか?
 実はロシアなのです。ロシアの小麦生産量は大きく拡大、2022〜2023年度のロシアの小麦生産量は9100万トンと前年度から2割強も拡大したのです。
 当然、ロシアからの輸出量も拡大、前年度比1000万トン増の4300万トン輸出となりそうなのです。
 一方で、ウクライナの生産量は半減して輸出量は584万トン減少とみられています。となると輸出量はロシアが1000万トン増、ウクライナは584万トン減ですから差し引きで輸出量が増えています。よって、世界の食糧危機は回避されたというわけです。さらにオーストラリアなども豊作だったので、アジア地域の需給も緩和されました。
 結果、現在の小麦価格はロシアによるウクライナ侵攻前の価格にほぼ戻ってきたわけです。

 何故ロシアはかような豊作だったのでしょうか? これも単純な話で、地球温暖化によってロシアが暖かくなって小麦の生産が予想以上となったわけです。
 現在ロシアによる小麦の輸出量は世界の20%を占めるに至っています。皮肉なことですが、ウクライナ戦争を契機として世界の小麦市場におけるロシアの国際的な影響力は更に拡大したわけです。
 これだけではありません。一般的に食糧を生産するには肥料が必要となります。肥料の3大要素は窒素、リン酸、カリウムと言われていますが、そのリン酸とカリウムは世界の生産量の4割近くをロシアとベラルーシで占めているのです。このためリン酸とカリウムの値段はかつてないほど高騰、新興国などではとても手に入る状況ではなくなりました。
 肥料が手に入らなければ農業生産も拡大できないどころか、減少してしまうわけです。こうして穀物市場におけるロシアの影響力は拡大する一方となっています。
 現在、世界的なインフレが話題となっていますが、穀物や諸物価を上げる要因は、これら穀物など商品価格の値上がりだけではありません。
 米農務省の調べですと、米国小麦農家の資材コストは1エーカーあたり183ドルということで、これは2年前の123ドルから4割も上昇しているのです。
 それに輪をかけて人件費や輸送費も上昇しています。とても消費者に届く値段が下がる様相ではありません。
 また、ウクライナ戦争を契機として世界各国の穀物や資源の輸出のスタンスが大きく変化し始めています。と言うのも、今後何が起こるはわからないとなれば、「食料などを今まで通り能天気に輸出し続けるのは危険である」という考えが世界各国で広がってきているのです。
 いわば、どの国も自国の利益を守るために他国の都合お構いなしで行動するようになってきたわけです。自分の利益にならない輸出などやめるというわけです。
 例えば、OPECなど中東産油国は原油の減産を繰り返すようになってきました。
 サウジアラビアなどは、自国に基地を提供している、いわば軍事同盟を結んで自国を守ってもらっている米国からの原油増産要請を平気で拒否しているのです。
 インドネシアは揚げ油などに使うパーム油を独占的に供給してきましたが、これも突如輸出規制を行ってきました。マクドナルドやケンタッキー・フライド・チキンなどのポテトを作るのに欠かせないのがこのパーム油ですが、インドネシアの輸出規制によってパーム油の値段が急騰、世界各国のポテトなどの値段高騰の原因となっているわけです。
 またインドはコメの世界最大の輸出国ですが、自国のコメを確保するため、インドではコメに輸出関税を課したのです。これらは一部の動きであって、世界中が食料や資源などの輸出に対して減産や禁輸を行うようになってきました。食糧や資源などの値段が上がり続けるのは当然の流れであって、この流れは収まることはないと思った方がいいでしょう。
 こう見ていくと、現在の小麦の価格の落ち着きがいつまで続くかは疑問です。

●今後の世界の小麦の輸出は不透明
 戦時の中、黒海を通したウクライナからの小麦の輸出が再開されていますが、戦争の先行きと相まって今後の行方は不透明です。そもそもウクライナからの小麦輸出は、ウクライナ・ロシア・トルコ・国連の4者の合意で実現したものです。ところがこの合意の期日が3月にやってきます。ウクライナ・トルコ・国連は、当然延長を希望していますが、ロシアは拒否の構えです。
 ロシアの外務次官は「ロシアの農産物輸出に関わる制裁が解除されない限り、合意を延長することは不適切である」と早くも延長交渉に揺さぶりをかけています。
 またロシアの小麦が豊作だったのは地球温暖化が寄与したことを指摘しましたが、この地球温暖化は逆に考えると、常に農業生産の波乱要因でもあります。

 例えば、小麦を例にとってもロシアでは豊作だったものの、南半球のアルゼンチンでは酷い不作だったのです。何故かというとアルゼンチンでは酷い干ばつ状態となって、昨年度は小麦の生産量が44%も減少してしまい、結果、小麦の輸出は57%の減少となりました。
 今後、豊作だった国でもどのような事態が起こるか予断を許しません。オーストラリアは昨年度豊作でしたが、東部産地では降雨量が予想を超えて過多となり、品質が著しく悪化。結果、それらの小麦は食糧用から飼料用に格下げとなり値段も3割下がってしまったのです。

 米国は世界最大の農業国でもありますが、小麦の穀倉地帯では高温乾燥状態が続いています。世界各地を見渡すと、ラニーニャ現象とエルニーニョ現象が年ごとに頻繁に起こるような状況で、穀物生産は安定しません。いつ需給のバランスが崩れて大凶作と共に、小麦などの価格高騰がぶり返すかわからないのです。
 ちなみに国連が算定している食料価格指数は現在131.2となっています。これは昨年3月の159.7からみると下げていますが、2011年2月、アラブの春で中東地域が酷い食糧難となり、アラブ各国の政権が次々に倒れていった時は137.6でした。現在の水準はアラブの春の時と大きく変わっていないのです。現下の穀物市場では何かが起これば一気に世界中が緊迫化する可能性が高いのです。

●日本の状況はどうなのか?
 日本の状況も甘く考えない方がいいでしょう。日本は小麦の消費量の8割超を海外に依存しています。日本政府は一括して小麦を輸入しています。日本政府の価格は、直近半年の買い付け価格を反映して決められます。ところが昨年10月の改定では値段が据え置かれました。インフレが酷くなってきたので、一時的に値上げを凍結したのです。
 そしてその時、日本政府は「今後1年間の変動を元に新しい価格を設定する」との方針を打ち出しました。この方針に基づけば、4月からは小麦価格は13%値上げされる計画です。しかしこれも予定通り行われるかどうか怪しいところです。野党などの要求もあり、再び政府は小麦価格を凍結する可能性が高いでしょう。となれば小麦を使う、パンや麺の値段は今後上がらないでしょうか? そうはいかないでしょう。というのも、例えば食パンに占める小麦価格の割合はわずか8%に過ぎないのです、輸送費や光熱費や人件費の高騰を考えれば、小麦の価格だけ抑えても、パンや麺の価格が上がらないと考えるのは甘いと思います。
 結局、政府が小手先で価格を調整しようとしても、全体的なインフレの波に抗することはできないのです。しかも日本政府は本来、国内の小麦増産を政策として行っているわけです。そのような中で、輸入小麦に実質的に補助金を与えては国内の農家が育ちません。かように小手先の補助金捻出では根本的な問題は何一つ解決されないのです。
 こうみていくと、世界も日本も今後の食料情勢の変化は十分に警戒する必要があると構えておいた方がいいでしょう。ウクライナ侵攻から急騰した小麦をはじめとする食料の高騰は現在、一時的に落ち着いているだけです。今年、あるいは来年には再び食料を巡る大規模な混乱が襲ってきてもおかしくないのです。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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