“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2024.10
トランプ関税がもたらすリスク

「私にとって辞書の中で最も美しい言葉はタリフ(関税)だ」
 自らをタリフマンと呼ぶトランプ前大統領は選挙で当選すれば即座に大幅な関税引き上げを実施することを公言しています。トランプ氏は中国には60%、日本を含む他の国には10-20%の関税を課すと言うのです。そのトランプ氏はここにきて選挙で優勢と伝えられてきました。トランプ氏が大統領に返り咲く可能性を株式市場などでは強く意識し始めています。トランプ氏は公約を守る人ですから、仮に大統領選でトランプ氏が勝てばこの関税は実施される可能性が高いと思います。具体的に関税がもたらす問題点や、今後世界経済に対して及ぼす影響を考えてみたいと思います。

●関税が及ぼす影響は?
 関税は税金ですから米国国家にとっては大きな収入になります。仮にトランプ氏が言っているように中国に60%、他の国に10-20%の関税を課せば、米国政府の収入は約2.7兆ドルという巨額な黒字になるということです。しかしながら実際はこの増加分はほとんど米国民が支払う羽目となっていくと思われます。
 どういうことかというと、関税を引き上げれば米国の輸入業者はその分を販売価格に転嫁する可能性が高いからです。そして仮に関税が効いて、米国の消費者が他国からその商品を買い付ける、ないしは米国で生産されたものを買い付けるとなると、当然消費者は以前より割高な商品を購入することとなります。こう考えてみると関税の引き上げは回り回って結局米国の消費者がつけを払うこととなるわけです。かようにエコノミストの多くは「関税はそのかなりの部分が物価上昇を通じて、課した側、すなわち米国側の消費者が負担する」という見解が大勢です。
 また関税は自国の弱い製造業を守ることが目的ですから、結果的に自国の生産性の低い産業を必要以上に守ることとなります。これが上手くいって自国の製造業が切磋琢磨して生産性を上げて、今まで輸入してきた他国の業者よりも生産性の高い、優れた企業に生まれ変わればいいのですが、かような理想的なケースは先進国ではほとんどありません。結局関税を課して、自国の産業を守ることが、逆にかような生産性の低い国内産業に保護を与えることとなってしまい、産業自体の真の活性化を阻み、ゆがんだ生産体制を放置することとなってしまいます。

 更に大きな問題はその製品の代替があるか? ということです。具体的には中国で作っている製品を全て米国で作れるのか? ということです。例えばおもちゃとか靴とか繊維製品とかは人件費の低いところで作った方が当然安い製品を作れるわけです。それが米国で工場を建設して人を雇っておもちゃとか靴とか繊維製品を作ろうとすれば当然、人件費が高いので、それが製品製造のコストは異様に高くなり、結果、最終製品の価格に跳ね返ってしまいます。どんな工場であってもその工場設備をゼロから作っていくのは至難の業です。かつてのように米国の製造業があらゆる意味で盛んに活動していた時期ならともかく、かような労働集約型の産業はとうに中国や東南アジアなど新興国に依存するような経済体制が出来上がってしまっているわけです。そのような中にあって、いきなり中国や他国に多額に関税を課して、それらの地域からの輸入品に膨大な関税を課せば、自国の生産体制が整っていない段階ですから、それらの製品は膨大な価格上昇となってしまう可能性が高いわけです。結局のところ、高い関税を支払っても中国や他国からの輸入の方が安いということになりかねません。これでは米国の消費者はただ単に今まで安く買っていた商品をかなり高い値段で買うことになるだけです、何のために関税を課すのかわからなくなってしまいます。
 こう見ていくとトランプ氏の公約通り、多額の関税を課した場合、米国の消費者は思わぬ物価上昇に見舞われて悲鳴を上げる可能性も高いと思われるのです。
 トランプ氏は交渉上手なので、この辺りの混乱は実は理解していて、実は交渉によって中国などへ、米国からの大幅な輸出増加の約束を勝ち取るつもりなのかもしれません。
 しかしながら関税引き上げは大きな公約となり、大々的に言ってしまったことをひっこめるわけにもいかない可能性は高いわけです。鉄鋼産業や自動車産業などの労働者はかような関税引き上げを強く期待しているわけです。元々がこれら関税引き上げは米国のラストベルトにみられるようなさびれた工業地帯を何とか復活させるために言ってきた公約ですから、彼らラストベルトの人びとの意見を受け入れないわけにいかない米国の国内事情もあります。
 米国の選挙の帰趨を決めるのは、このラストベルトにまたがるミシガン州やペンシルベニア州、ウィスコンシン州などで、彼らは米国大統領を決めるキーパーソンとなっているのです。この米国の国内政治における事情は強烈であり、これらの地域の意向を無視した政策は米国では取れないのが実情です。

 時代の流れでもあるのですが、かような米国の<孤立主義>、トランプ氏が掲げる<米国第一主義>はもはや米国全体の流れになりつつあると言えるでしょう。この孤立主義、米国第一主義は世界にとって厄介です。日本では日本製鉄がUSスチールを買収して、何とか中国の鉄鋼業に対抗できる形を日米協力で作り上げたい、これを日米の政府も内々には支持していると思いますが、残念ながらトランプ氏は徹底的にこの日本製鉄によるUSスチール買収を阻止しようとしています。米国の鉄鋼業の将来を見据えれば合理性を欠いた感情的な理論なのですが、米国の鉄鋼労働者には受けていて、現実にトランプ氏が大統領になれば、日本製鉄によるUSスチールの買収話は消え去ってしまうでしょう。
 この米国第一主義によって、トランプ氏の公約通り関税が実施されると世界経済は大きな打撃を受ける可能性があります。
 先に書いた米国内の物価上昇だけでなく、米国の関税に対して他国が対抗して報復関税を課す可能性が高いからです。<自国第一主義>はどの国も自分の国のことだけ考えます。どの国も自国の産業を守りたいわけで、どの国も政策が内向きになってしまう危険性が限りなく高まっていくわけです。

 1929年の世界大恐慌の時に、米国は自国の産業を守るために輸入品に多額の関税を課す法律を制定しました。スムート・ホーリー法と呼ばれる法律で1930年に制定されました。これは大不況に陥った米国が国内産業保護のために農作物などを中心に2万品目の輸入関税を平均して50%引き上げたのです。この時、報復措置として多くの国が米国商品に高い関税を課すこととなりました。結果世界貿易は著しく縮小して、世界大恐慌で悪くなった世界経済が更に激しく悪化していったのです。この時、ヨーロッパから米国への輸入は1929年の13億3400万ドルから1932年の3億9000万ドルまで3分の1に縮小。ヨーロッパへの米国からの輸出は1929年の23億4000万ドルから1932年の7億8400万ドルまでこれも3分の1に激減しました。ただでさえ不況になっているのにこれら関税により貿易の激減が追い打ちをかけて世界経済は破滅的な状況となってしまいました。これが第二次世界大戦を引き起こした大きな要因であったことは否定できません。
 大統領選で勝利する可能性が高くなってきたトランプ氏ですが、その政策が及ぼすリスクから目が離せない状況でもあります。

■□-----------------------------------------------------------------□■
★「ASAKURA経済セミナー」(11月18日開催)の、
 音声ダウンロード、CD、DVDを予約受付中!
 ご自宅にいながらセミナーを受講。
 お好きなときに、お好きな場所でお聴きいただけます。
  ●収録時間 約3時間
  ●価 格
  【DVD版】16,000円(税込)
  【CD版】13,000円(税込)
  【音声ダウンロード版】13,000円(税込)
 ※音声ダウンロードはEメールでお届けするので、一番早くお届けできます◆
 →https://www.ask1-jp.com/shopping/study/seminar_media.html

★ASAKURA経済セミナー2024年 !★
【東京】
  11月16日(土)
  → https://www.ask1-jp.com/shopping/seminar/live-tokyo.html

※参加者全員に復習用の動画をお届けいたしますので、当日参加が難しくても大丈夫です。
 復習用動画は次のセミナー前日まで視聴可能です。
■□-----------------------------------------------------------------□■


バックナンバー


暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/

Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/

数霊REIWA公式サイト 佐野浩一 本物研究所 本物研究所Next C nano(ネクストシーナノ) 成功塾説法 舩井幸雄動画プレゼント 高島康司先生の「日本と世界の経済、金融を大予測」 メールマガジン登録 舩井メールクラブ 佐野浩一note