“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2024.05
農林中金の赤字

「農林中金、1.2兆円の資本増強を検討、米国債券の含み損で5000億円超の赤字へ」
 5月19日、驚くべきニュースが報道されました。農林中金が今期の決算で巨額の損失を出し、それを補うための資本増強を行う予定ということなのです。報道された赤字額は何と5000億円超、そして資本増強額は1.2兆円に上るというのです。
 いったい、何が起こったのでしょうか?

●農林中金、赤字の理由は?
 農林中金は会員と呼ぶJA(農業協同組合)や漁業協同組合からの出資で成り立っています。JAなどから集めた資金を農業従事者に融資したり、有価証券で資産運用を行っています。運用で得た利益を預金金利で還元したり、株主への配当もあるのです。その資産規模は56兆円と巨額です。
 日本の農業は斜陽で、資金需要が比較的少ないのが実情です。よって農林中金は集めた資金を運用して利益を出すようにしてきたわけです。ところが、利益が出るどころか赤字決算になるというのですから、話は尋常ではありません。
 近年、世界を見渡してどこの資産運用機関も巨額の黒字を計上してきました。世界的な株高が背景です。また金融機関は昨今の金利上昇によって巨額の利益をねん出するようになってきています。先日発表になった日本のメガバンク3行も各々1兆円前後の利益を出すという好調ぶりでした。また年金基金を運用する年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)は昨年10-12月期の決算では何と5.7兆円の黒字決算でした。3カ月だけでかように儲けたわけです。現在は巨大な金融機関や資産運用会社はその巨大さから、昨今の金利上昇や株高で膨大な利益を出し続けていて、これが世界の潮流となっています。我々の年金がかように巨額の利益を出し続けて、日本人の多くの人の老後が安心して保証される体制が出来つつあることはありがたいことです。
 ところが驚いたことに農林中金は赤字決算を出すとアナウンスしているのです。このご時世、これだけの巨大金融機関や資産運用会社で赤字などというケースはほぼ聞いたこともないのですが、農林中金は赤字決算を予定しているというのですから、驚きとしか言いようもありません。しかしながらその内容を聞いてみると、また驚愕するしかない稚拙な資金運用の実体が明らかになってきたのです。

 普通、資産運用会社が運用するときに、運用割合は債券50%、株50%が普通です。欧州の年金基金や米国の年金基金の一部は株の割合がこれより多くなっているケースも多々あるのですが、一般的には国債や社債などの債券50%、株式50%がスタンダードです。日本のGPIFは海外債券25%、海外株25%、国内債券25%、国内株25%と教科書通りの運用を行って利益を出し続けています。金融情勢は日々変わりますし、時には株式がいいときもあるし、時には株価が下がって株の運用は良くない時もあります。そのようなケースでは国債などの債券運用がうまくいくというケースもあります。いわばスタンダードな資産運用が基本であって、その時の金融情勢などで、運用成績が上下するのが現実です。
 昨今の場合は世界的な株高によって、これら資産運用会社は運用成績を上げてきたのです。
 ところが農林中金は、あろうことか国債などの債券の比率が56%、株式の比率がわずか2%という極端な債券に偏った運用資産構成になっています。これでは株高の恩恵を受けられないどころか、債券価格の低下(金利上昇)によって容易に損失を被ってしまうわけです。
 普通、国債などの債券は元金が保証されているので損することはないと思われていますが、それは事実ではありません。例えばここで日本の低金利時代の0.1%の債券を購入したとすると、その購入した債券の利回りは、市中金利がいくらに上がっても0.1%のままなのです。仮にインフレ状況になって市中金利が10%になっていった、預金などでお金を預けていても年間10%の金利が取れるのに、購入した債券では0.1%の金利しか取れないとしたらどうでしょうか?

「100万円預けて1年で10万円金利がもらえたよ、ところが購入した債券は金利が1000円しかつかない、こんな酷い商品ないよね、売却しよう!」と言って購入した債券を売却しようとすると、その債券価格は元金を大きく割れてしまうのです。  これがインフレ時代における債券価格の下落、いわば金利上昇時に起こることなのです。これが昨年の米国で起こりました。

 シリコンバレー銀行は昨年2月突如破綻しました。シリコンバレー銀行はその資産の100%近く、米国債で運用していました。ところが米国ではインフレになってシリコンバレー銀行の保有していた低い金利の米国債は売却すると巨額の損失を被る羽目になってしまったのです。このずさんな資金運用に驚いた預金者たちはシリコンバレー銀行からあっという間に資金の引き出しを始めました。それによってシリコンバレー銀行は現金を用意するしかなくなって、米国債を投げ売りするに至ってついに倒産と相成ったわけです。かように一見安全にみえる国債投資など、債券投資には重大な落とし穴があるわけです。
 国債などの債券は元金が保証されているから安全と思いがちですが、実はインフレに弱く、国債などの債券は金利が上がれば上がるほど大きな損失を被ることとなるわけです。
 農林中金の債券に偏った資産運用は今後、大きな問題を生み出す可能性があります。これらの債券は低金利時代に購入したものが多いと思われますので、それらを売却して、ポートフォリオを入れ替えようとすると巨額の損失が出る流れとなっているわけです。ですから農林中金は一部の債券を売却してポートフォリオを入れ替えたいのでしょうが、その時に巨額の損失が発生することとなるので、それに備えて増資したいという意向を示しているわけです。
 しかし考えてみると、金融のプロである農林中金のような巨大な金融機関がかような金融の基礎的なリスクを考慮しないで資産運用に債券ばかり偏った現実の酷さに呆れます。これらは農林中金の経営陣の致命的な失策と思いますが、それを穴埋めして苦しむのは、農林中金に出資してきたJAや漁業関係者たちです。農林中金は平均年収920万円というエリート集団でもあります。これらエリート集団は金融のリスクを理解していなかったのでしょうか? いずれにしてもツケを回されるのは庶民であることを考えるといたたまれない気持ちになります。

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★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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