“超プロ”K氏の金融講座
このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
「仮に台湾に有事が起きた場合、米軍は軍事的に関与しますか?」
昨年5月、日米首脳会談後の記者会見でこのように問われたバイデン大統領は「待ってました」と言わんばかりに即座に返答し「Yes それが我々の約束だ!」と答えました。重大な発言であり、民主主義を守る世界のリーダーとして当然の方針と安心した人も多かったでしょう。
一方で、今年1月の台湾の総統選挙で民政党の頼正徳氏の当選が決まると、バイデン大統領は一言「米国は台湾の独立を支持しない」と短いコメントを発表したのみでした。この時は拍子抜けのように物足りなさを感じた人も多かったと思います。国際関係は極めて微妙なバランスの上に立っていますが、台湾問題は米国にとっても中国との関係を考える上で、非常に複雑で扱いの難しい問題です。台湾問題に対しての米国の大統領の発言は特に重く、極めて影響力が強いので、台湾総統選の後のコメントでは慎重な言い回しになるのもやむを得ないところもあったと思います。米国にとって極めて扱いの難しい台湾問題、実は米国の台湾政策は米国の法律<台湾関係法>に強く左右されています。米国の台湾政策、そして<台湾関係法>について考えてみます。
●米国の法律<台湾関係法>とは
昨年5月のバイデン大統領の台湾防衛発言に対して、ホワイトハウスは米国の立場を弁明、「米国の台湾政策に変更はない。バイデン大統領は『一つの中国政策』と台湾海峡の安定とは平和への関与を再確認した」として、ホワイトハウスとしては米国の台湾政策は従来と変わらない姿勢を強調しました。
ホワイトハウスとして踏み込み過ぎたようにみえるバイデン発言に対して釈明したのです。米国の台湾政策とは基本的に、軍事的に関与するかしないかはっきりさせない、いわゆる<あいまい政策>が基本なのです。そういう意味ではバイデン大統領の発言は台湾問題に対して踏み込み過ぎであり、ホワイトハウスとしては従来通り、台湾有事に対して米国は国家としてどう動くかははっきりさせないという従来の姿勢を踏襲すると発言したものでした。
バイデン発言と矛盾するホワイトハウスの発言の真意は何でしょうか?
その一方で、「バイデン大統領は『台湾関係法』に基づき、台湾の自衛のための軍事的手段を提供するとの約束も繰り返した」ともコメント、見方によってはホワイトハウスの声明はバイデン大統領の踏み込んだ発言を裏付けるような姿勢にも見受けられます。有事に米国が参戦するかどうかという最も重要な政策について、かようにどちらとも取れる姿勢を示すホワイトハウスの見解には疑問を感じる人も多いと思います。
この一連の発言、バイデン大統領とホワイトハウスの訂正発言、この流れはわかりづらくないですか?
「一体、台湾有事なら米軍は関与するのだろうか?」「なぜバイデン大統領は米軍が台湾を軍事的に守ると言っているのに、ホワイトハウスは従来の台湾政策に変更はないと中国に釈明するのだろうか?」「そもそも米国の台湾政策とは何だろうか?」「台湾関係法とはなにか? なぜ米国に台湾に関係する法律があるのだろうか?」と疑問がつきません。
このあたりは中国と台湾、米国と日本の歴史を振り返ってみないとわかりづらいと思います。そもそも台湾とは元々中国の領土でした。これは誰もが知っていると思います。ところが1840年のアヘン戦争から中国は欧米列強に侵略されました。アヘン戦争で負けた中国は1842年の南京条約で英国に香港を割譲しました。そして1894年、中国と日本との間で日清戦争が勃発しました。ここで日本は勝利、中国は台湾と遼東半島を日本に割譲しました。こうして当時台湾は日本の領土となりました。その後、日本が太平洋戦争に負けた1945年まで台湾は日本の施政下だったわけです。日本が太平洋戦争に負けた1945年当時、中国では毛沢東率いる中国共産党と蒋介石率いる中国国民党が内戦を行っている真っ最中でした。
蒋介石率いる国民党は共産党に負けて中国本土から撤退に追い込まれました。そして蒋介石は台湾に逃げていったわけです。その後、蒋介石は台湾に自らの政府を「中華民国」として設立したわけです。こうして中国は共産党率いる中国本土を収める「中華人民共和国」と国民党が率いる「中華民国」とに分裂してしまいました。これが台湾を巡る歴史であり、この分裂が基でそのまま分裂した統治が現在まで続いているのが台湾と中国の現実です。
世界の歴史をみても珍しいケースと思いますが、仮に日本の歴史に当てはめて考えてみると、明治政府が設立した当時を考えるとわかりやすいでしょう。
長い徳川幕府の施政の時代が終わって明治の時代が訪れました。幕末の時代、徳川幕府は軍事的に敗れ、薩長を中心とする明治政府ができたのです。この時、徳川幕府の残党が北海道の函館まで逃げて、一時期、徳川幕府を主体とする政府を北海道に設立しました、当時幕臣の榎本武明とか新選組の土方歳三らが函館の五稜郭に立てこもって徳川幕府主体の政府を北海道に設立したわけです。こうしてほんの短い一時期、日本でも東京を中心とする政府と北海道を中心とする政府が並び立っていました。この時は明治の新政府は北海道の函館に攻め入って、これら旧徳川幕府の残党を軍事的に圧倒して北海道も自らの施政下に置くこととなりました。こうして日本は統一されて新しい日本国家の歩みが始まって今日に至っています。
中国の場合は、中国共産党が国民党が支配する台湾を軍事的に制圧することができなかったので、日本の歴史に当てはめてみると、北海道で旧徳川幕府系の政府が、自らの国家を作った状態で、日本が東京を中心とする本州主体の政府と旧徳川幕府主体とする北海道を統治し続ける政府とで分かれているようなものと考えればわかりやすいと思います。このような歴史的な経緯を考えれば、中国共産党がやり残した大仕事として、「中国本土と台湾との統一」を自分のものとして強く願う気持ちもわかると思います。
このような経緯がある台湾問題ですが、米国が1972年のニクソン訪中で、米中で国交回復したときに、当時分かれていた中華人民共和国と中華民国の、二つの中国でなく<一つの中国>として共産党率いる中華人民共和国を中国の正当な政府と認めるに至ったわけです。
そしてその後1979年に、米国は中国と正式に国交回復を成し遂げて、同時に台湾と断交しました。因みに日本は1972年、当時の首相の田中角栄が中国を訪問して日中国交回復をして、同時に台湾と断交しました。この時点で外交的には日本も米国も台湾は中国の一部であって、中華人民共和国が中国を代表する一つの政府であると公式に宣言しているわけです。
一方1979年、米国では台湾と断交すると共に<台湾関係法>が成立しました。これは台湾の安全保障のための規定を含む米国の法律です。
その内容は、「台湾を防衛するための軍事行動の選択肢を米国の大統領に認める」と言うものです。
凄い法律だと思いませんか? 台湾を巡る軍事行動を決める権利を米国の大統領に与えたのです!ということは仮に台湾が中国に攻められたら米国の大統領は台湾を守るために軍事行動を起こすこともできるし、逆に中国に台湾が攻められても、傍観することもできる、そのまま中国の侵略を許すこともできるのです。
このように米国の大統領は、台湾に軍事関与する権限を持ち、米国にとっても、中国にとっても、更に台湾にとっても、最も重要な生存権を握る決定権を<台湾関係法>を通じて持っているわけです。それが正々堂々と米国の国内法で規定されているのです。
米国としては、中華人民共和国を中国で唯一の国家と認めるものの、その中華人民共和国が台湾を軍事的に制圧して紛争が起こることは避けたい、という強い思惑がありました。ですから大統領に「台湾の紛争に対して米国が軍事力を行使するかしないか決める」という大きな権限を与えたのです。
この1979年の<台湾関係法>の成立以後、米国の台湾政策の基本方針は、台湾防衛は大統領の一存で決められるわけなので、「はっきりとは言わない」「台湾を防衛するとも防衛しないとも言わない」あいまい戦略を続けてきました。というのも先に書いたように歴史的な経緯を考えれば、どう解釈しても明らかに台湾は中国のものであり、<一つの中国>と言った以上は公式的には「台湾は中国の一部である」と公言し続けるしかないからです。ところが現実には台湾には台湾の政府があって、それが民主主義を貫いているわけで、この台湾を現在の中国に飲み込ませるわけにいかない、と言う現実的な問題があります。しかし歴史を振り返れば台湾は中国の一部です。この矛盾ジレンマから抜け出せないのです。
ニクソン訪中を演出した立役者、元米国の国務長官のキッシンジャー氏は昨年亡くなりましたが、生前「台湾問題は解決できない」「台湾問題は時間に任せる以外にその術はない」と言っていました。台湾問題は永遠に現状維持を続けるしかなく、解決できない問題なのです。
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★『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
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経済アナリスト。
株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
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