“超プロ”K氏の金融講座
このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
「新モデル投入を前倒しするため、将来の車両アップを更新した。今年終盤とまでいかなくても、来年2025年の早い時期になると予想している」
4月23日、決算発表後、テスラのイーロン・マスクCEOは安価なEVの投入について、以前表明していた2025年後半から前倒しする方針を表明しました。
これを受けて市場は好感、テスラの株価は13%も上昇したのです。しかしながらここに来るまでテスラの株価は下げに下げ続けてきました。
EVが予想を超えて売れなくなって価格競争に陥り、テスラは「従業員の10%を削減する」と発表していました。テスラの全世界の従業員は14万人、一説では2万人削減されると言われています。また23日に発表された1-3月期決算をみると売上高は前年同期比で9%の減少、利益に至っては56%も減少したのです。テスラが売り上げも利益も減少するのは4年ぶりのことです。テスラは高収益会社で知られていましたが、今回の決算で営業利益率は5.5%と前年同期の11.4%から5.9%も低下したのです。一体テスラ並びにEV市場に何が起こっているのでしょうか? 失速するEV市場の現状を追ってみます。
●EV市場に何が起こっているのか
株価は正直です。業績がよく、また期待が高ければ上がり続けるものですが、一方で業績に暗雲が立ち込めて先行きの不安が高まってくれば下がり続けます。
2年半前からテスラの株は下がり始めました。テスラは世界の自動車業界を将来的に席捲するとみられていました。世界的な環境重視の流れからEVの未来はバラ色と思われていました。2年半前、当時は人気が絶好調であったテスラの株価の時価総額はトヨタの時価総額を1兆ドル(約155兆円)近く凌駕する勢いだったのです。ところが今やテスラの時価総額約70兆円に対してトヨタの時価総額は約60兆円となってきました。いつの間にかテスラとトヨタの時価総額の逆転も視野に入ってきているのです。もっともトヨタは世界販売で圧倒的な世界一で、昨年世界での販売台数は1120万台に達しています。一方のテスラの販売台数は181万台に過ぎません。これではトヨタの6分の1程度です。かような販売台数に圧倒的な差がありながらテスラが時価総額でトヨタを圧倒していたのは、EVの将来性が抜きんでていて、将来的にはテスラが世界の自動車業界の覇者になると思われていたからです。
ところが皮肉なもので、昨年からEVブームは急失速して、逆に世界でハイブリットブームが沸き起こってトヨタの業績は瞬く間に上がってきたわけです。
やはり何と言ってもEVはハイブリット車に比べて価格が高いわけです。EVはハイブリット車に比べて平均して200万円ほど高いのが現実です。更に日本の現状をみればわかりますが、EVはそれを充電するためのインフラが整備されていません。また充電に時間がかかります。
一方、ハイブリット車は性能もよく、品ぞろえも豊富です。更にハイブリット車は燃費がいいわけです。
世界の自動車販売台数の伸びをみると、EVは2022年は前年比63%も伸びましたが2023年は28%増と急失速してきています。一方のハイブリット車は2022年こそ14%の伸びでしたが、2023年は30%増と人気が拡大、ついに2023年販売の伸び率でハイブリット車はEVを逆転してしまったのです。
●欧州でのEVの動き
そもそもEVブームを政策的に推進してきたのは欧州です。欧州ではハイブリット車ではとてもトヨタはじめ日本勢に太刀打ちできないとの思惑から一気にEVシフトに走っていきました。各種規制やEVに対しての常軌を逸した補助金を出して欧州が世界のEVの覇者になろうと目論んだわけです。
ところがその欧州で新車販売におけるEVやハイブリット車、ディーゼル車を含むガソリン車の比率の推移をみると、2017年段階でEVは1.5%、ハイブリット車は2.8%、それに対してディーゼル車を含むガソリン車は94.3%でした。これが6年経った昨年2023年の段階でEVは14.6%、ハイブリット車は33.5%、一方ディーゼル車を含むガソリン車は48.9%となっているのです。確かにディーゼル車を含むガソリン車は大きく比率を下げたものの、一番伸びたのはハイブリット車だったのです。明らかに欧州においてもハイブリットシフトは鮮明なのです。最もEV化を進めた欧州でEVは思ったように伸びずこの現実です。
欧州では2035年までにハイブリット車を含むエンジン搭載車をゼロにすると公言していましたが、今ではその目標を放棄するのは必至の情勢です。欧州のEVシフトは完全にとん挫しました。ガソリン車を全廃して2035年までに全ての車をEVに置き換えるという構想自体無理があったということでしょう。
更に欧州では中国からの安価なEVが大挙して輸出されてきて、それが欧州の港に山のように積まれている状況なのです。中国は国家を挙げて厚い補助金を出して世界有数のEVの輸出国にのし上がってきました。中国国内では不況で自国で作ったEVがさばききれないのです。中国はこれを世界中に安値で輸出攻勢をかけようとする腹積もりです。仮に中国の自由な輸出攻勢を許せば、欧州は中国産のEVで溢れかねない情勢なのです。さすがに欧州当局もこれはまずいということで、中国からのEV輸出に歯止めをかけるよう政治的に動いてきています。
中国のEVは米国にはほとんど入ることができない状況です。一方、日本ではEVはまだ一般的でないので、中国製のEVは日本ではあまり売れていない状況です。勢い中国はタイをはじめとする東南アジアに輸出攻勢をかけています。東南アジアは日本の自動車産業の牙城でしたが、中国勢から激しい競争を仕掛けられているのが実体です。中国が国家を挙げて注力してきたEV化の勢いは凄く、中国車はEV市場で圧倒的な安さで市場を席巻し始めています。日米欧など先進国はこの状況を看過しないと思われます。中国ではとにかく過当競争で膨大な数の自動車メーカーがEVを作り、結果、破棄されたEVが雑草やゴミの中に山のように放置されているのが実情です。
EVが売れづらい要因として中古車市場が育っていないという現実もあります。1年間の価格の下落率をみると中古EVは約30%下落するのですが、中古車全体では下落率は5%に過ぎません。如何にEVは中古車として売るのが難しいかがわかります。実質EVは中古市場がないようなものです。これでは消費者は購買に二の足を踏むのもやむを得ないでしょう。
ブームというものはいきなり収束することがよくありますが、今回EVブームは半年前からあっという間に収束し始めています。欧州はじめ多くの地域でEVに対しての補助金が削除されるようになりました。補助金をもらえないのであればEVを購入する動機が一気になくなってしまいます。
そしてあれだけ好調だったテスラがつるべ落としのように収益が悪化、中国勢との際限のない価格競争に巻き込まれています。昨年からテスラ車の値下げが始まったのですが、そもそも需要が供給を上回っているのなら値下げする必要などないはずです。やはりEV市場が急変して一気に需要が消滅してしまったようです。ここにきて決算で表明したようにテスラは安価なモデルを市場に送り出してくるようです。しかしながら一度消費者が興味を失うと、再び人気を取り戻すには数年の時間を要するように思えます。世界において環境重視の波は変わりませんし、いずれEVは人気化してくるかもしれません。しかしここ数年、EV市場は予想以上の厳しい環境にさらされると思われます。
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★『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/
経済アナリスト。
株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
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