“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2024.11
中国の現状

 現在の中国によるあらゆる分野での輸出攻勢は、かつて2000 年代初頭に言われた「チャイナショック」を想起させます。
 当時、中国の輸出攻勢にさらされて、米国の製造業は壊滅状態となりました。米国の製造業の雇用は当時200 万人失われたと言われています。この「チャイナショック」の再来が全世界で展開されようとしているわけです。

 特に発展途上国などではせっかく自国の製造業を育てようとしても、まともに中国と貿易を行えば、自国の製造業などほとんど潰されてしまうでしょう。
 こうなっては発展途上国も発展するどころか、最終的に中国の債務の罠に陥ってしまいます。

 米国バイデン政権は、中国に対してEV の関税を現状の4 倍の100%にすると決めました。中国は激しく反発、中国商務省は声明を出して「中国は自国の権利と交易を守るため、断固たる措置を講じる。米国は誤った行動を直ちに修正し、中国に対する関税引き上げを取り消すべきだ」と反発しています。
 すでに中国はEV の部品を巡って米国をWTO に提訴しています。世界で高まる中国排除の流れに反発、「保護主義の台頭だ」と声を荒げているのです。この一連の流れをみる限り、中国は安値輸出の攻勢を改めるつもりはさらさらないようです。中国メディアは「中国の過剰生産能力についての西側諸国の不満は大げさで偽善的」と非難しています。

 かように米中の対立はあらゆる意味で激化する一方です。まさに米中の対立を軸として世界の貿易体制は緊張状態に陥ってきたように思えます。
 2017 年頃から米中の対立は際立ってきましたが、2022 年のロシアによるウクライナ侵攻によって、さらに米国をはじめとする西側諸国と中国やロシアとの溝は深まりました。世界は平和ではなくなり、西側諸国と中露を筆頭とする権威主義諸国との対立が際立ってきました。西側諸国は中国やロシアを除いたサプライチェーンの構築に努め、脱中国を進めています。
 一方で、この西側諸国と中露など権威主義諸国との対立に距離を置いて、両方と友好な貿易体制を築こうとしている国々もあります。それでも、この中国のやり方で攻められれば自国の産業が破壊されてしまうのも見えています。インドなどは中国製品の多くをブロックしています。発展途上国などでは下手に中国と付き合うと、中国依存から離れられなくなって、中国に縛られてしまうわけです。

●自動車産業の世界制覇を狙うBYD
 一方で、この米中対立の中で、中国は西側諸国を除いた全地域において、甚大な影響力を保持しようと積極的に行動しています。米国や西側諸国が中国に対して市場を閉じれば閉じるほど、中国は世界の他の地域に安価な製品を怒涛のように送りこもうとするわけです。このような中国の超安値の輸出攻勢は、まだ始まったばかりと思った方がいいと思います。
 東南アジアでは中国の進出が目立ってきました。中国製のEV がタイやインドネシアでは飛ぶように売れ始めています。東南アジアは日本の自動車産業の牙城でしたが、にわかに情勢が変わりつつあります。
 特に侮れないのが中国でのEV の勝者、BYD の勢いです。BYD は過去3 年で売上を5-7 倍に拡大させてきました。BYD はあれだけ激しい中国国内の過当競争を勝ち抜いて黒字を叩き出しています。そしてBYD は今や世界に羽ばたく勢いです。BYD の昨年度の状態をトヨタと比較しますと、売り上げはトヨタが45 兆円に対してBYD は13 兆円、営業利益はトヨタが5 兆3,000 億円に対してBYD は8,300 億円となっています。
 しながら、目を引くのは研究開発費です。研究開発の人員はトヨタで6〜8 万人と言われていますがBYD は10 万人です。そして車1 台あたりの研究開発費はトヨタが12.1 万円ですがBYD は28.9 万円と、研究開発費でBYD はトヨタの倍以上も投下しているわけです。一連の動きから見えることは、BYD が中国の国家戦略として国家を挙げて育成させているものであり、BYDは究極的に自動車産業の世界制覇を狙っているものと思われます。BYD のEV は今や、タイやインドネシアだけでなく米国や欧州や日本を除いた地域で急速に広がって世界を席捲する勢いです。BYD の勢いは決して侮ることなどできません。
 また、中国は自動運転技術も進んでいます。中国のドローン大手DJI は世界一のドローンの会社ですが、この、ドローンの技術を応用してEV の自動運転の技術を劇的に飛躍させているのです。中国ではいち早く自動運転の大衆化を実現させる可能性も出てきたと思います。
「中国との比較においては、ある領域では大きく遅れている」トヨタの宮沢副社長はトヨタの技術が自動運転などハイテク分野で中国に後れを取っていることを素直に認めています。
 今は業績も絶好調のトヨタですが、今後のEV 化を見据えて、激しい競争が待っていると危機感を高めていると思います。中国のやり方は極めて乱暴で横暴です。しかしながら、14 億人の威力や技術開発の力は決して侮れません。今後、世界はますます分断傾向となっていくでしょうが、この対立の中で、中国から目を離すことはできません。

●共産党権力構造に変化も
 かような中、中国の権力構造に若干の変化が出てきているとも言われています。習近平主席への個人崇拝の声が大きくトーンダウンしてきたと言うのです。やはり習近平政権下での失政が極めて明確になりつつあることが影響しています。中国の経済は予想以上に悪く、対米関係も最悪となっています。かような中で共産党自体が、習近平主席の独裁的に政治を動かして政策ミスを犯し続けることに対して危機感が出てきたように思えます。
 その大きな変化の一部が経済政策の変更です。9月24日に大きな経済・株価対策が発表されましたが、その政策を打ちだす前の段階では中国では<中国経済光明論>が幅を利かせていました。とにかく現実を無視して中国経済は素晴らしいというわけです。ところが、素晴らしいと言っている中国経済が本当は悲惨で失業者が各地に溢れていて、問題ばかりが目に付くようになってきた、いよいよ<中国経済光明論>ではこの厳しい事態に対処できないという当たり前の考えが広がってきたようです。それと共に、かような<中国経済光明論>の基を作ってきた<習近平への個人崇拝>は良くないという考えが共産党内で大きく広がってきたようです。そして2024年9月の段階から<中国経済光明論>から逆に中国経済は厳しく「困難を正視すべき」という論調が増えてきたわけです。光明論であれば経済が素晴らしいのですから、本来対策を打つ必要はありません。大規模な対策を打つためには、現状は厳しいという現状認識が必要です。厳しいことを認めることで単純に「現状が厳しいから大規模な経済対策を断行する」という当たり前の理屈となるわけです。この辺りの変化は習近平自身は許容しているものと思います。
 習近平主席は共産党内部から突き上げられる経済失策の批判を素直に受けて、当面、個人崇拝への批判を受け入れているようです。ですから長老ではかつて首相だった温家宝氏の復権も噂されています。
 そのような権力構造の変化の中で特に注目すべきは、軍の動向です。
 実は軍でも水面下で習近平主席への批判は高まっているようで、軍の広報でも習近平思想を大々的に前面に打ち出すことはなくなってきました。
 現在、その軍の実質的なトップを務めているのが張又侠(チョウ・ユウショウ)です。張又侠は中国軍の最高意思決定機関、中央軍事委員会の副主席ですが、現在、実質的に群を牛耳っていると言われています。

 10月14日、中国軍は台湾への大規模な軍事演習を行いました。その時、北京には中国各地から軍幹部が集まりました。そこで会議を仕切ったのは張又侠です。その姿が中国全土で大々的に報道されました。驚いたことにこの会議に習近平が出席しませんでした。このことが様々な憶測を呼んでいます。共産党内部での権力構造に変化が出てきたのかどうかは不明です。しかしながら現在、習近平への批判が共産党内や中国軍内部で急速に広がっていて、行き過ぎた習近平への個人崇拝への反省機運が高まっていることは間違いないようです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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