“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2023.06
エルニーニョ再来の恐怖

「温室効果ガスの蓄積にエルニーニョの再来が重なることで、地球の気温は今後5年間がこれまでで最も高くなり、未知の領域に押し上げられる可能性が98%ある」
 世界気象機関(WMO)は今後、急激に地球温暖化が進行して世界各地で気温上昇が加速することを警告しています。誰でも何となく感じていることですが、今年、日本でも想定を超える気温上昇が起き驚愕の夏となるかもしれません。
 今年は4年ぶりにエルニーニョが再来することが予想されていますが、このことはインフレが落ち着きつつある世界を直撃すると思われます。

●エルニーニョによって、もたらされるものとは?
 エルニーニョのもたらす常軌を逸した暑さの到来で、世界の供給網が再び寸断される可能性があるのです。そして供給網の寸断は物資の流通をストップさせて、これによって物価上昇が再来してくるわけです。日本を除いて現在の世界はインフレ退治のために利上げラッシュとなっています。そして米国のインフレはようやく収まりかけてきたようにも見えるのですが、この段階で再び気象変動という自然の脅威に見舞われそうな気配です。
 昨今の異常気象は世界中誰でも感じているわけですが、6月の現段階において世界各地で高温や干ばつや山火事の被害が多発するなど、深刻な影響が広がってきました。まだ6月です、北半球ではこれから夏の本番ですが、今年の夏、世界は驚愕するような高温の到来で異常気象に直面するように思えます。猛暑や干ばつになれば農作物は甚大な被害を受けることとなります。世界の深刻な状況を見渡してみます。

 地球温暖化の脅威は誰でも感じていますし、年々気温が上がってきていることは誰でも実感しています。しかしこの3年間はラニーニャ現象が起こっていて、実は統計的には世界の気温は上がりづらかったのです。
 気象現象としてエルニーニョとラニーニャという二つの現象が有名です。
 エルニーニョは赤道付近の海面温度が平年より上がってくる現象ですが、ラニーニャは逆に赤道付近の海面温度が平年より下がるわけです。そのため統計的にみるとラニーニャの場合は、例年より気温が下がるケースが多かったのが世界の歴史でした。ところがこの3年、ラニーニャだったのですが、世界の気温は下がることなく熱波が続いてきました。そして今年エルニーニョの順番となってきたわけです。
 こうなると、温まっている地球は今年さらに暑くなっていくのではないでしょうか。朝倉は世界も日本もデフレからインフレという大きな変化になってきた、とみて、この変化を甘く見ない方がいいと警告し続けてきました。
 日本でも株高傾向が顕著となってきましたが、これなども明らかに日本のデフレからインフレへの大きな転換を示している証左だと思います。
 そして世界を見渡すと、どの国も抑えきれないインフレに苦慮して、利上げラッシュとなっているのですが、ここでエルニーニョによる爆発的な暑さが世界を襲うということになりますと、農作物の不作や供給網の寸断によって、物流が滞って、再び物価上昇が加速してくる可能性があるわけです。
 物価上昇に対して、一般的に中央銀行は利上げによって抑え込むことを目指すのですが、供給網が寸断された場合は、中央銀行がいくら利上げを行っても、供給網を改善することはできません。よって、エルニーニョによって物価上昇が起こった場合、対処するすべが難しいのが実情です。

 過去のエルニーニョのケースをみると、熱帯地域や南半球に甚大な被害をもたらしています。今回もエルニーニョの酷い被害が想定されているのは南半球のアルゼンチンやチリ、オーストラリア、そして赤道直下のインドなどです。最近のケースですと1997-1998年にかけて酷いエルニーニョ現象が起こったのですが、被害はそれらの地域が甚大でした。この時、GDPはその後の5年間で5兆7000億ドル(約800兆円)失われたと言われています。今年はラニーニャの時さえ気温が上昇し続けた後に到来するエルニーニョであり、更に世界中でインフレが問題になっているところなので、その被害は相当なものに発展していく可能性が否定できません。

 まず暑かった昨年の被害を振り返ってみます。
 昨年7月米国カリフォルニアのデスバレーでは気温が54.4度という1930年以来世界の最高気温の記録を塗り替えました。カナダのブリティッシュ・コロンビア州では6月に突如、最高気温が49.6度に達する異常な熱波に襲われました。この時、暑さで500人が死亡したのです。また熱波ではなく洪水による被害も甚大でした、パキスタンでは大洪水となって国土の3分の1が水没するという前代未聞の異常事態となったのです。
 海水温が低い昨年のラニーニャの時にかような被害が出たのですから、海水温が高くなる今年のエルニーニョではそれ以上の被害が出てもおかしくないでしょう。

●すでに報告されているエルニーニョによる今年の被害
 実は6月のこの時点で、世界から様々な異常気象とそれによる被害が伝えられています。暑さという点ではインドの北東部で猛烈な熱波が襲ってきて、6月の気温が50度となりました。熱中症で170人の死亡が伝えられています。50度というのも信じられない暑さです。しかも6月の時点で起こっていることです。
 お隣の中国でも大変な事態となっています。6月22日、北京市、天津市、河北省、山東省など多くの地域で観測史上最高の気温を記録したというのです。北京では連日41度を超える異常事態です。
 北米に目を向けると、これも異常事態です。カナダでは山火事の発生が止まらないのです。カナダでは山火事は毎年起こるのですが、今年は規模が桁外れなのです。今年のカナダの山火事の発生は6月8日時点で429件と例年の10倍となっています。しかもその半数以上が制御不能になっていて鎮火できないのです。この山火事の影響はカナダと地続きの米国にも多大な影響をもたらしています。煙が米国にやってきて煙害が酷くて通常の活動が出来なくなっているのです。例えば学校で対面の授業が難しくなってしまいニューヨークの学校ではリモートでの授業となっています。ホワイトハウスも予定していたセレモニーを延期に追い込まれるなど大変な事態となっています。バイデン政権もこの現状を重く見てカナダに助け船として600人の消防士と支援部隊を派遣したほどです。また南半球ではアルゼンチンが酷い干ばつとなって農作物が甚大な被害を受けています。アルゼンチンの主要な産業は農業ですからこの影響は大きく、結果的に産業が破壊されてしまい、アルゼンチンではインフレが止まらなくなってしまいました。アルゼンチンでは5月消費者物価が前年同月比114%の上昇と驚くべき事態となっています。
 さらに欧州でも被害が報告されています。欧州はロシアから天然ガスが入らなくなって今年の冬はエネルギー価格の高騰が懸念されていたのですが、幸いにも今年の冬は記録的な暖冬となって、天然ガスの需要は高まることはなく、よってガス価格は下落してインフレは多少収まりました。ところが今年南欧では干ばつが酷くて農作物が育たないのです。フランスやスペインは豊かな農作地として知られていますが、ここで全く雨が降らず深刻な事態となっています。スペインの農作物の収穫は例年の6割減になるとの予想も出てきました。かように現在、世界中、気候変動で大変な事態となってきています。この6月の段階でこれでは、7月8月はどうなるのでしょうか?

 さらに中長期的には温暖化がもたらす海面上昇の問題があります。世界中で氷河が溶け出し、南極や北極の氷も溶け出しています。世界の海面上昇はここにきて加速しています。国連のグテーレス事務総長は「標高の低い地域や国全体が永遠に消滅する可能性がある」とこれからの世界の海面上昇にただならぬ危機感を表明しています。というのも世界の多くの人は平地に住んでいて、実は海面上昇に弱い地域に多くの人が暮らしているわけです。東京もそうですし、米国のニューヨークやマイアミ、中国の上海、インドのムンバイなど数えだしたらきりがありません。これらの地域は海面上昇や台風やハリケーンなどの気象災害、更にそれに伴って起こる洪水などの被害で壊滅的な状況になってしまうこともありうるわけです。海面上昇はかように様々な被害を生じさせるのですが、現在のところ、人々にそのような深刻な危機感は薄いと思います。
 こうみていくと今後、地球温暖化の影響は世界の随所に現れてくるでしょう。
 そして今年はエルニーニョの被害がどのようなところまで大きくなっていくのか、気温がどこまで上がるのか。この7月8月は世界各地で驚愕の事態に見舞われる思った方がいいかもしれません。

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★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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