中村陽子の都会にいても自給自足生活

このページは、認定NPO法人「メダカのがっこう」 理事長の中村陽子さんによるコラムページです。
舩井幸雄は生前、中村陽子さんの活動を大変応援していました。

2019.03.20(第54回)
今年も醤油を搾って、来年のもろみを仕込みました。

 3月の醤油搾りは、醤油組のみんなの楽しみです。あきる野の近藤醸造店に朝8時半集合で夕方5時ごろまでかかるので、とても大仕事なのですが、1年間醸造してきたモロミが、美味しい醤油に生まれ出る瞬間に立ち会うのはなかなか味わえない喜びです。近藤醸造店で搾ると言っても、ここで搾っていただくわけではなく、長野から手造り醤油の指導をしている搾り師さんに搾り舟と火入れの釜を持って来ていただき、搾っていただきます。みんなはそれを手伝います。長野では昔からある冬の風景です。

 楽しみの一つはここにたくさんの樽が集まり、いろいろな醤油を味わえることです。1年前にはみんな同じ原料の醤油麹を受け取ったはずなのに、1年間各家や各農場で醸造されたモロミは、色も水分量も豆の状態も違い、搾り出てくる醤油の色も味も違ってきます。搾り師さんは、このモロミがどういう環境に置かれていたか、温度が十分あったか、足りなかったか、モロミを樽の中で均一にするための天地返しはされていたか、醤油の要素は十分醸造によってできているかなどなど、モロミの状態から読み取ります。

 私たちはそれを聞きながら、みんなの醤油を味見し、自分の醤油が一番おいしいと思いつつも、気になる醤油があると醸造の環境を聞きだし、自分たちには何が足りなかったか、今度はこんなところに置こう、もっと均一にするように気を配ろうなどと反省します。酵母菌や乳酸菌や美味しいお醤油を造ってくれる菌に働いてもらうには、どんな環境を用意したらいいのか研究します。愛情は必須です。今回、途中までよい匂いがしなかったモロミが、毎日愛情をかけていたら、ある時から醤油らしいよい匂いに変わったという方がいました。

 醤油搾りは村仕事です。一人ではできません。みんなでみんなの醤油を搾る作業をし、自分の分を持ち帰ります。自分の醤油を搾ったら、帰ってしまうことは許されません。搾り袋から搾りかすを出し、袋をよく洗って干し、完全に片付け終えるまで働きます。これは都会暮らしの私たちにとっては、なかなかない経験です。でも3代前までは当たり前のことでした。1年に1度のこの村仕事にはまる人もかなりいます。でも何年たっても途中で帰りたがる人もいます。昔の村の長の苦労が偲ばれます。

 メダカのがっこうの醤油造りは、今年で12年目、会員農家が育てた自然栽培の大豆と小麦と、伊豆大島の阪本さんの塩だけで、お醤油を造ります。アミノ酸もブドウ糖も醸造の過程で生まれてきます。醸造にはお日様と風が必要で、これで醸造に必要な菌が存分に働きます。暗いところで毎日かき回す醤油屋さんの造り方とは違います。この方法は長野県の萩原忠重さんが40年かけて研究し20数年前にほぼ完成してくれたもので、小ロットで失敗なくおいしい醤油ができるという自給自足を目指す人にはありがたいものです。

 メダカのがっこうは、醤油を始めとして、味噌、オイル、梅干し、たくあんと種からこだわり、有機栽培の原料を使い、無添加で手造りしています。醤油は1年ですが、味噌は2年以上、梅干しは3年かかります。毎年作り、醸造し、保存し、前のものから出して使います。常に先のことを考え、段取りし、今年の米や大豆や小麦の作柄を気にします。

 食べることは生きること。とても大切な仕事です。最近はすべてお金で買えますが、有機栽培の原料と良い塩だけで無添加で作られたものはほぼありません。醤油は自給率0%ですし、味噌もオイルも6%くらいです。除草剤グリホサートを収穫前にかけられ、さらに枯葉剤2,4-Dをかけられた小麦やオイルの種子が原料です。

 この仕事をできるのは、家族の健康を守る主婦だと思います。そして搾りや仕込みには夫や子どもたちの手伝いが必要です。片手間で出来る仕事ではありません。しかしこのことでお金を稼ぐことはできません。全部無償の働きです。報酬は家族の健康と自己実現の人生です。私はGNPに換算されないこの働きが日本の隠し財産だと思います。これが女性が真に輝いている生き方だと思いますが、皆さんはどう思いますか?

 オイルは4月から梅干し作りは6月です。メダカのがっこうの自給自足の教室、先のための食料生産をはじめませんか?

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Profile:中村 陽子(なかむら ようこ)
中村 陽子(なかむら ようこ)
首のタオルにシュレーゲル青ガエルが
いるので、とてもうれしそうな顔を
してい ます。

1953年東京生まれ。武蔵野市在住。母、夫の3人家族。3人の子どもはすべて独立、孫は3人。 長男の不登校を機に1994年「登校拒否の子供たちの進路を考える研究会」の事務局長。母の病気を機に1996年から海のミネラル研究会主宰、随時、講演会主催。2001年、瑞穂(みずほ)の国の自然再生を可能にする、“薬を使わず生きものに配慮した田んぼ=草も虫も人もみんなが元氣に生きられる田んぼ”に魅せられて「NPO法人 メダカのがっこう」設立。理事長に就任。2007年神田神保町に、食から日本人の心身を立て直すため、原料から無農薬・無添加で、肉、卵、乳製品、砂糖を使わないお米中心のお食事が食べられる「お米ダイニング」というメダカのがっこうのショールームを開く。自給自足くらぶ実践編で、米、味噌、醤油、梅干し、たくあん、オイル」を手造りし、「都会に居ても自給自足生活」の二重生活を提案。神田神保町のお米ダイニングでは毎週水曜と土曜に自給自足くらぶの教室を開催。生きる力アップを提供。2014年、NPO法人メダカのがっこうが東京都の認定NPO法人に承認される。「いのちを大切にする農家と手を結んで、生きる環境と食糧に困らない日本を子や孫に残せるような先祖になる」というのが目標である。尊敬する人は、風の谷のナウシカ。怒りで真っ赤になったオームの目が、一つの命を群れに返すことで怒りが消え、大地との絆を取り戻すシーンを胸に秘め、焦らず迷わずに1つ1つの命が生きていける環境を取り戻していく覚悟である。
★認定NPO法人メダカのがっこうHP: http://npomedaka.net/

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