ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
早くも4月になりました。春になりさわやかな季節になりましたが、北朝鮮情勢やロシアと欧米の対立、そして緊張する中東情勢など、世界情勢は大きく変動しています。しかしそうした情勢のほんの一部しか日本では報道されることはありません。
最近発表された米トランプ政権による高関税の賦課(ふか)(※)に関してもそうです。この裏には、日本ではまったく報道されていないトランプ政権の計画があるのです。
(※賦課:税金などを割り当てて負担させること。)
3月1日、トランプ大統領は、アメリカが世界から輸入している鉄鋼には25%、そしてアルミニウムに10%の関税をかけると発表しました。これは、国際競争力が喪失して不振が続く製鉄業を立て直すとともに、兵器にも使われるこれらの原材料の供給先を中国などの海外に依存することを警戒した安全保障上の処置であるとされています。
しかし、アメリカに鉄鋼を輸出しているのは中国だけではありません。むしろ中国からの輸入量は少なく、カナダが最大の輸入先となっています。EUからの輸入量もかなり多い。今回の高関税は海外からの鉄鋼とアルミニウムに一律に賦課するとしています。早速EUはこれを実施した場合、ワインやオートバイなど約28億ユーロ(3500億円)相当のアメリカからの輸出品に同程度の報復関税を適用するとしました。また中国も大規模な報復関税の適用を発表しています。
トランプ政権は高関税の実施に踏み切りました。発表通り実施されると、貿易戦争を誘発する報復関税の連載の引き金になる可能性が大きいのです。
●株価の大幅な下落と国防総省の反対
このような状況なので、発表を受けて株価は大きく下落しました。ニューヨークダウは400ドル、日経平均は600円を越えて下落しました。
一方、トランプ政権内にも高関税に反対する声は多いようです。国防総省は米軍の中国産の鉄鋼やアルミニウムに対する依存度は低いので、高関税を賦課するのであれば、中国などアメリカの安全保障上問題のある国に限定すべきだとしました。高関税を輸入される製品に一律にかけると、カナダやEU、そして日本などの同盟国との関係が悪化するので、反対するとしています。
実はアメリカが、鉄鋼に高関税をかけるのは今回が初めてではありません。2002年、ブッシュ政権のとき、グローバリゼーションの進展で競争力を失いつつあった米国内の製鉄業を救済する目的で、鉄鋼に対し30%の高関税を2005年まで賦課するとした政策が実施されました。
しかし、EU、中国、そして日本などこれに反発した各国はWTO(世界貿易機構)にアメリカを提訴し、アメリカは20億ドルの制裁金の支払いを命じられて敗退しました。その結果、この政策は1年9ヵ月ほどで中止された経緯があります。
今回の高関税の賦課も同様の結果になることが予想され、また国内の反発も強いので、実施されたとしても短期間で終了するはずだとの観測も多く出ています。
●長期的な安全保障戦略に基づく高関税の導入
このような高関税の導入であるが、その目的は今年11月に行われる中間選挙をにらみ、トランプ大統領の基盤であるラストベルトの支持を確実にする必要から実施されたと見られています。
周知のようにラストベルトとは、グローバリゼーションの進展による国際的競争力の喪失で衰退したかつての製造業の中心地域のことで、ペンシルバニア州やミシガン州などの米中東部の地域です。こうした地域では輸入品に押されて不振が続いているので、高関税を賦課して国内の製鉄業を立て直せば、雇用の増大が見込めると判断したと見られています。
しかし、実施される可能性の高い今回の高関税は、中間選挙に勝利するという短期の目的だけではありません。もちろんそうした目的があることは間違いなでしょう。だが今回の政策ははるかに長期的なトランプ政権の政策に基づいています。それを前提にしたとき、今回の政策はほんの端緒にしか過ぎず、こらから多くの製品に高関税が賦課される可能性は否定できないと見たほうが妥当です。
●高関税は昨年7月の大統領令の結果
今回の高関税政策は唐突に出されたものではありません。あまり報道されていないようですが、これは昨年の7月21日に出された大統領令による調査を踏まえた結果なのです。
これは、防衛産業の強化へ向け、国内製造業の防衛関連製品や部品の供給能力などについての実態調査を指示する大統領令でした。すでに大統領令の前からトランプ政権は「国家安全保障上の脅威」を理由に鉄鋼やアルミ製品について輸入規制を視野に調査中でしたが、大統領令によって調査範囲を拡大しました。
調査は国防総省が主導し、商務省やエネルギー省など政府全体で実施し、調査結果と対策案を270日以内に提出することになっていました。国内製造業がこれ以上衰退すれば、軍需品の確保に必要な製造能力や人材、物資、税収などが失われ、国防上の課題になり得るとして影響を幅広く調査する方針でした。
この調査は、トランプ政権の経済の繁栄と力強い製造業、防衛産業の基盤なくしては、軍事大国ではいられないとの判断から実施されたものです。3月1日に発表された鉄鋼とアルミニウムの高関税の実施は、このように昨年から行われていた調査の最初の結果として出されたものなのです。昨年の時点では調査を受けて提出する対策案が、貿易相手国への制裁措置など通商政策にも波及するかどうかには言及されませんでしたが、今回の発表で同盟国といえども高関税適用の例外ではないことがはっきりしたのです。
●軍需産業再編の目標
そして、この大統領令はトランプ政権のさらに大きな構想を前提に出されたものです。
その構想の具体的な内容は、トランプが大統領選に勝利した直後の2016年12月16日に、CNAS(新アメリカ安全保障センター)というシンクタンクが出した「未来の鋳型(Future Fundary)」というレポートの構想です。これは次期国防長官に向けて出された政策提言でしたが、トランプ政権の基本的な政策になっている可能性は高いのです。
ちなみにCNASとは、2009年にジャパン・ハンドラーのひとりである元国務次官補カート・キャンベルが中心となって設立された軍産複合体系のシンクタンクです。
リチャード・アーミテージ、ジョセフ・ナイなど、ジャパン・ハンドラーの中核的な人物が多数結集しています。選挙中はクリントンを支持していました。
「未来の鋳型」は、ロシアの軍事力はアメリカをすでに上回っており、アメリカは覇権を維持するだけの軍事力を保有していないとする報告書です。その理由は、アメリカの軍事産業がITや製造業などの最先端テクノロジーにアクセスできていないからです。アメリカの軍事産業のベースとなっているテクノロジーは、すでに時代遅れになっているといいます。
この状況を打開して軍事力を再建するためには、軍事産業を再編成し、最先端テクノロジーを基礎にした生産基盤を早急に作らなければならないとしています。
●発表されたロシアの最新兵器
このレポートの前提になっているのは、アメリカの兵器システムはロシアのそれに劣っているという明白な認識です。そのように聞くとちょっとピンと来ないかもしれませんが、3月1日、ロシアのプーチン大統領が一般教書演説で明らかにしたロシアの最新兵器システムを見れば、アメリカのこの不安が決して根拠のないものではないことが分かります。
以下がプーチン大統領が言及したロシア軍の最新兵器です。
・原子力推進巡航ミサイル
推進力が原子力なので航続距離の制限がない。無限に飛行可能。
・ICBM搭載の無人原子力潜水艦
非常に深い深度を高速で音もなく移動できる。
・「キンザール」ミサイル
最高速度はマッハ10で航続距離が2000キロの中距離弾道ミサイル。
・「アヴァンガード」ミサイル
最高速度マッハ20の戦略ミサイル。
これらの兵器で特に注目すべきなのはミサイルです。速度とコースを変えながら飛行できるので、アメリカのミサイル防衛システムを突破できるとしています。
こうした最新鋭兵器はアメリカもまだ保有していないようです。それというのも、CNASのレポート、「未来の鋳型(Future Faundary)」にもあるように、現在のアメリカの兵器システムは1990年代の生産システムによって作られたものなので、AIやロボットなどを中心とした第4次産業革命型のテクノロジーには追いついていないからです。
●製造業のアメリカ回帰
しかし、アメリカの軍需産業を技術的に高度化することは容易ではないはずです。なぜなら軍需産業は国家の安全保障に深くかかわる分野なので、IT産業が行っているように、生産拠点を労働力の安い海外に分散させることは実質的に不可能だからです。兵器の開発と製造は基本的に米国内で行わなければならないからです。
でも、すでにアメリカの製造業の拠点は海外に移転してしまっています。軍事力を高度化するためには、生産拠点をアメリカに戻さなければならないのです。そのためには、高関税を実施して海外からの輸入を抑制し、製造業を保護する政策を実施しなければならないのです。
また、「未来の鋳型」には、アメリカの労働者はグローバリゼーションの進展で没落し、大変な格差が生まれている。これはアメリカの国力を維持するには大変なマイナスであるとする認識も前提にあります。ひとつの家族が夫の給与だけで豊かに暮らせるという、かつてのアメリカを取り戻してこそ、社会は基礎から安定するという認識です。
これは国家の安全保障にとっても非常に重要なことだと考えられています。アマゾンやグーグルなどの最先端のIT企業は、結局は効率的な配送サービスやデータの解析と運用をするビジネスにすぎません。国家の安全保障に寄与するところはあまりないと見られています。
したがって、製造業の国内回帰を促進させて軍事産業を強化し、それに必要となる国内のインフラを整備することで、中間層を復活させなければならないというのです。
●グローバリゼーションの否定と一国主義
これが今回の鉄鋼とアルミニウムに対して、保護主義的な高関税をかける方針の前提にある認識です。これは、安全保障上の脅威からアメリカを守り、軍事技術でロシアや中国を凌駕するとしたトランプ政権の方針から出された政策なのです。
これは、大統領令に基づき昨年の7月から開始された調査の最初の結果です。ということでは、製造業の基盤をアメリカに回帰させて軍需産業を強化するために、半導体などの高度なテクノロジーにこれから包括的な高関税が賦課される可能性は高いと見るべきでしょう。
これはまさに、これまで世界経済をけん引したグローバリゼーションを否定し、軍需産業をベースにした一国資本主義のモデルへの回帰です。
●これから始まる可能性がある世界的に深刻な不況
さて、トランプ政権によるこのような保護主義的な政策が世界経済にどのような結果をもたらすかは、明らかでしょう。この政策は、生産拠点の世界的な分散と、金融資本の発展に主導された現在のグローバリゼーションの否定です。軍産複合体は、グローバリゼーションの結果、ロシアや中国などの新興国が急速に台頭したため、アメリカの軍事的な優位が失われつつあると認識しているのです。
アメリカの覇権を維持して安全保障上の脅威を除去するためには、グローバリゼーションの経済成長モデルを否定してでも、製造業の国内回帰を促進し、軍需産業の高度化を図らなければならないと見ているのです。
この結果は明らかでしょう。保護関税の強化による貿易戦争です。これによりグローバリゼーションは減速し、世界経済は停滞するに違いありません。そうではないことを願いますが、もしこれが今回発動される可能性が高い鉄鋼とアルミニウムに対する高関税の実態であるとするなら、これからトランプ政権は包括的な高関税の適用へと進む可能性が高いでしょう。
もちろんこれは世界経済にとっての決定的な転機になります。これからどうなるのか注視しなければなりません。
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/