ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
早いもので、もう9月になってしまいました。2018年は昨年以上の激動の年になっています。米中の貿易戦争などは近い将来日本を直撃し、景気を大きく減速させることになるのかもしれません。
そのような状況ですが、さらに来年の2019年はもっと混乱が大きくなる可能性があります。EUになんらかの変動があるのかも知れません。その中心となるのが、トランプ政権で主席戦略官兼上級顧問だったスティーブ・バノンの動きです。
一時はホワイトウスで大きな影響力を持ち、実質的には影の大統領ではないかとまでいわれたスティーブ・バノンですが、意外な活動をしていること分かりました。
スティーブ・バノンが主席戦略官を辞任し、ホワイトハウスから実質的にはパージされた昨年の8月、私は発行しているメルマガに次のように書きました。そのときの記事の一部を引用します。
「バノンの下野で、オルト・ライトやトランプ支持層の抗議運動が激化して、さらに全米に拡大することは避けられない情勢になっている。やはり我々はいま、2020年代には本格化する「アメリカ第2革命」の入り口にいるのかも知れない」(引用ここまで)
アメリカ国内ではかならずしもこのような状況にはなっていません。それどころか、ロシアとの共謀疑惑などでトランプ政権は守勢に立たせられ、2016年から17年当時には全米でアピールを繰り返し、恐れられたオルト・ライトの運動も、相当に勢いが衰えているように見えます。この運動のいまの状況は、ほとんど報道されることもなくなっています。
●アレックス・ジョーンズのチャンネルの一斉閉鎖
このような状況で、オルト・ライトの勢いの喪失という印象を特に強くしているのは、ユーチューブにおけるアレックス・ジョーンズのチャンネルの全面的な閉鎖です。このチャンネルの登録数は優に250万を越え、ユーチューブでも突出した存在になっています。またユーチューブのみならず、フェースブックやアップルのituneのサイトもすべて閉鎖されました。
オルト・ライトというと、白人優越主義やファシズム礼讚などの過激な主張を特徴としている、社会の周辺的な存在としての印象が強いかもしれません。ですが、エリートの手から民主主義を国民の手に取り戻すことを主張する草の根右派と裾野では融合しています。支持の基盤は思った以上に広いのです。彼らがトランプのコアな支持層です。いわばアレックス・ジョーンズは、ネットにおける草の根右派の中心的なアジテイターで、オルト・ライトからも支持されている存在でした。
したがって、アレックス・ジョーンズの弾圧は、草の根右派とオルト・ライトの運動全体に、大きな影響を与えることは間違いありません。
●スティーブ・バノンはなにをしているのか?
アレックス・ジョーンズにいま起きていることは、他の草の根右派でも一斉に起きています。さほど過激ではないですが、やはりトランプの熱烈な支持者で、草の根右派の主張を共有するチャンネル「SGTレポート」もそうです。このチャンネルはパソコンでは見ることができますが、スマホで見ようとすると、「このビデオは規制されている」というメッセージが出てきて見ることができなくなっています。これを見ると、オルト・ライトを含む草の根右派系のメディアの全面的な弾圧と排除に向かって進んでいるような状況です。
そうしたなか、やはりもっとも気になるのは、オルト・ライトの思想的な指導者であるスティーブ・バノンの動向です。トランプ政権の主席戦略官の辞任後の動向はあまり伝えられることはありませんでした。辞任直後は出身母体である「ブライトバート・ニュース」のCEOに戻りましたが、バノンの資金源となっていた億万長者のヘッジファンドマネージャー、ロバート・マーサーとレベッカ・マーサーの父娘が支援の打ち切りを決定してから、バノンは古巣の「ブライトバート・ニュース」のCEOを辞任しました。
支援打ち切りの理由は、マーサーのヘッジファンドのクライアントから、バノンを支援していることに対する抗議が殺到したことだといいます。
支援が打ち切られてから、中国共産党内部の汚職をアメリカから強く告発している不動産王、マイルス・クオック(中国名、郭文貴)がバノンの新たな支援者となったとの情報がありましたが、その後バノンに目立った動きはありませんでした。主席戦略官を辞任して下野すると、バノンは古巣のネットメディア「ブライトバート・ニュース」を拠点にして、オルト・ライトの過激なイデオロギーを鼓舞する危険な革命運動を展開するのではないかと見られていただけに、バノンの沈黙は意外です。
●ブリュッセルにいたバノン
一時はトランプ政権の「影の大統領」とまでいわれていたバノンは、いまなにをやっているのでしょうか? 「アメリカ第2革命」の過激な主張者であるバノンがおとなしくしているとは到底考えられません。
そのようなとき、ロシアのニュースサイトがバノンの現在を報じていました。なんとアメリカではなく、ヨーロッパにいたのです。それも、欧州連合(EU)の本部があるベルギーのブルュッセルです。
ここでバノンは、「ザ・ムーブメント」という運動団体を設立し、政治活動を展開していました。「ザ・ムーブメント」はヨーロッパ各地の極右運動のネットワークを作り、欧州連合を内部から崩壊することをねらった運動です。
周知のようにいまヨーロッパ各国では、大量に入ってくる移民に対する脅威などが背景となり、反EUの機運が強くなっています。それを背景として、移民排斥を訴えるナショナリスティックな極右運動が大きな広がりを見せています。英国独立党のナイジェル・ファラージや、ボリス・ジョンソン元外相、イタリアのマッテオ・サルビニ副首相、フランス国民戦線のマリー・ルペン党首、そしてハンガリーのビクトル・オルバン大統領、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領などはその代表です。
すでに政治的に著しく躍進しているこうした極右運動を結集し、2019年に実施される欧州議会の選挙で、議席を増大させることを当面の目標にしています。ちなみに欧州議会の選挙は5年に一度実施され、現在の極右系党派の議席は751議席中43議席にとどまっています。バノンの「ザ・ムーブメント」は、各国の極右の力を結集し、204議席まで一気に増大させることがねらいです。そのようにして、欧州連合を内部から解体へと導くのがバノンの戦略です。
●極右のナショナリストがまとまるのか?
一方、こうした極右は、自国民と自国の文化を第一義に考えるナショナリストです。そうしたナショナリストの極右が国際的に連帯し、欧州連合を内部から解体する運動を実際に展開できるのかどうか大変に疑わしいとする意見もあります。連帯する以前に、相互の対立で分裂する可能性が高いというのです。
ところで、いまのヨーロッパにおける極右運動は、ナチスが躍進した1930年代の運動と多くの共通点を持つとされています。しかし、決定的に異なる点は、ユダヤ人の排斥というイデオロギーが現在の極右運動にはないことです。それに代わり、排斥の対象となっているのが、イスラム教とイスラム系移民です。それらに対する強い憎しみはどの極右の政治勢力にも共通しています。
どうもバノンが立ち上げた政治組織、「ザ・ムーブメント」は、極右の共通したメンタリティーである反イスラムの感情を扇動し、イスラム系移民の受け入れを各国に割り当てている欧州連合を内部から分裂させ、最終的には崩壊させる計画だと思われます。
●巧妙な選挙キャンペーン
これは大変に危険な政治運動です。ブリュッセルにある「ザ・ムーブメント」の本部では、これまで10名だった専従スタッフを25名に増員して2019年の欧州議会選挙に準備しています。
バノンは、ヨーロッパの政治情勢にはまったく無知なので失敗するはずだという意見も見られますが、かならずしもそうは言い切れません。バノンはトランプ陣営の選挙マネージャーであり、いち泡沫候補にしか過ぎなかったトランプを、あっと言う間に大統領まで押し上げたもっとも重要な立役者のひとりなのです。
バノンは、フェースブックの個人情報漏洩問題で注目されたデーター分析会社「ケンブリッジ・アナリティカ」のような、ビッグデータやSNSで集めた情報から、特定の候補者を支持するように投票行動を誘導するテクノロジーを持つ会社を活用してトランプに勝利をもたらしたのです。最先端のITを駆使したテクノロジーを、来年の欧州議会選挙に適用することは間違いないでしょう。すると、2016年の大統領選挙で起こったようなどんでん返しが、欧州議会選挙でも起こり、極右政党が大躍進するかもしれないのです。
もちろん、こうしたキャンペーンには相当な資金が必要になります。資金源としては、ヘッジファンドのマーサー父娘や、ティーパーティー運動の支援者で億万長者のコーク兄弟、さらにはオンライン支払いサービス、ペイパルの創業者、ピーター・ティールの名前もあがっていますが、誰がおもな支援者なのかははっきりしません。
●さらに南米に進出
また、バノンのこうした活動はヨーロッパに限定されているわけではありません。最近は、南米にも進出していることが確認されています。
ブラジルでは、今年の10月に大統領選挙が予定されている。ブラジルでは、いまだに労働者出身のルーラ・デシルバ元大統領の人気が高いのですが、現在汚職で有罪となり刑務所に収監されているので、大統領選挙には立候補できません。
そうした状況で支持を着実に集めているのが、極右のメシアス・ボルソナロ候補です。この候補はヒトラーを礼讚し、ブラジルの原住民を寄生虫と呼び、多民族国家のブラジルで黒人のゲットーへの隔離を唱え、貧困層は強制的に避妊すべきだと主張しています。さらに、地球温暖化は捏造なので、アマゾンの熱帯雨林の開発を進めるべきだとも主張しています。
バノンは、このボルソナロ候補の選挙キャンペーンをいま強力に支援しているようなのです。そのためもあってか、ボルソナロ候補の人気は現在2位まで上昇しています。
●結局バノンはなにがしたいのか?
このように、いま下野したバノンの活動は、国際的に拡大しています。これはいったいどういうことでしょうか? バノンは、アメリカをエリートの手から米国民に取り戻す「アメリカ第2革命」の必要性を主張していたのではないのでしょうか? そのようなバノンは、ヨーロッパと南米で極右の選挙キャンペーンを支援することで、結局なにをやりたいのでしょうか? 最終目標はなんなのでしょうか?
バノン自身はなんの発言もしていないのではっきりとは分からないものの、オルト・ライトの革命家としてのバノンの思想を見ると、最終目標は予想することができます。バノンの思想を参照し、バノニズムといわれるバノンの思想の全体像を概観してみましょう。
●ユダヤ・キリスト教の価値観の再興こそ目標
バノンの思想の大きな柱になっているのは、ユダヤ・キリスト教の価値への回帰と再興です。バノンは資本主義が暴走し、あまりに巨大な格差を生み出した最大の原因は、資本家がユダヤ・キリスト教の価値観を喪失し、あまりに自己中心的になったためだと考えます。ユダヤ・キリスト教の価値観が普遍的に信じられていれば、資本家は社会的格差を縮小するために積極的に寄付を行い、社会に貢献するはずです。こうした資本家の行動によって社会福祉がゆきわたり、格差は是正されているはずだというのです。
これこそ、ユダヤ・キリスト教の伝統的な価値に基づいた本来あるべき資本主義の形です。資本主義が今後も存続するためには、資本家をはじめとした国民はこのユダヤ・キリスト教の伝統的な価値観へと回帰しなければならないとバノンは考えます。
●必要となる創造的な破壊と反イスラム
だが、伝統的な宗教的価値観への回帰は簡単ではありません。教育やメディア、そしてグローバルな金融システムや経済システムをはじめ、現代の資本主義にはびこり、自己中心的な価値観を宣揚している既存の制度とシステムを根本から破壊し、ユダヤ・キリスト教の価値観を基礎に、社会を再構成しなければならないと考えます。
これは、新しい社会へと再生するための創造的な破壊にほかなりません。破壊こそ、本来の伝統的な社会を実現するためにはなくてはならない条件なのです。
しかし、ユダヤ・キリスト教の価値観に基づく純粋な社会を構築するためには、大きな敵と戦わなければなりません。それは、ユダヤ・キリスト教を敵対視するイスラム教の原理主義勢力です。これをとことん社会から排除しなければなりません。
バノンは、イスラム原理主義勢力をイスラムファシストと呼び、一般のイスラム教から明白に分けています。そのようにして、イスラム教そのものへのあからさまな批判は回避したいようです。しかしながら、さまざまな発言を見ると、やはりイスラム全般に対する憎しみは隠すことができません。この感情はヨーロッパやアメリカの極右を共有しています。
●世界各地の極右を扇動
さて、これがバノンの思想の核心です。こうしたバノニズムの思想を前提に、いまバノンがヨーロッパと南米で行っている極右の政治党派を支援する選挙キャンペーンを見ると、バノンの目標が見えてきます。それは、極右の運動を利用してグローバルな資本主義のシステムを内部から崩壊させ、その後にユダヤ・キリスト教の価値観に基づいた純粋な社会の構築を目指すということです。そのとき、ユダヤ・キリスト教の価値観を拒否するイスラムは、とことん排除します。
もしこの運動が成功するとどうなるでしょうか? おそらく、バノンが代表するアメリカのオルト・ライトの思想が世界的に拡散し、国際的な広がりを持つ危険な政治的潮流になる可能性が出てきます。オルト・ライトの国際化と普遍化、そしてその強化です。
すると、その普遍化した潮流は改めてアメリカへと逆輸入され、国内のオルト・ライト運動をさらに強化する結果になることでしょう。「アメリカ第2革命」に向けた動きの強化です。もしかしたら、スティーブ・バノンはこれをねらっているのかもしれません。
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
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★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/