加治将一の精神スペース
このページは、作家でセラピストの加治将一さんによるコラムページです。加治さんは、『龍馬の黒幕』『幕末 維新の暗号』『舞い降りた天皇』『失われたミカドの秘紋』(すべて祥伝社)などの歴史4部作が大反響を呼ぶ一方で、『アルトリ岬』(PHP)や『大僧正とセラピストが人間の大難問に挑む』(ビジネス社)などのカウンセリング関連の著書も好評です。そんな加治さんが、日々の生活で感じること、皆さまにお伝えしたいことなどを書き綴っていきます。
書き方には秘訣がある 1
「筋書きは、あらかじめノートに書いておいた方がいいでしょうか?」
という質問を受けます。
構想とかプロットというやつです。
しかし皆さんが手掛けるのはエッセイ。小説ではありません。無用です。
エッセイは自由に、心で感じたままを書きます。
風が冷たかったら、そう書く。
海が青かったら、そう書く。
都会から逃げたかった、そう書く。
人にやさしくしたいと思ったら、そう書く。
憎たらしいと思ったら、そう書く。
初心者の写生の要領です。
装飾とか、気取りとかは、考える必要はありません。
肝心なのは「本音」。
あくまでも「本音」です。
野暮ったくても「本音」。
「建て前」や、わざとらしい造り文は眉をひそめるばかりで、誰も読みたいとは思いませんね。
むしろ自然に滲み出るダサさは、文のスパイスで、この一振りが、読者の心をほっと温めるのです。
「素敵に低俗」
「清らかな悪趣味」
「透明であけっぴろげ」
「たおやかな誠」
読者は、正直な述懐が好きなのですよ。
人の悪口はノーです。
そんなことは、僕がわざわざ言うまでもないでしょうが、思いの丈を綴っているうちにどうしてもはみ出して、個人攻撃になってしまう書き手がいます。人情かもしれませんが、いただけません。
心に恨みを宿しているからです。
恨みは心の白内障みたいなもので、見るものすべてを曇らせます。
自分が自分の邪魔をするのですね。
フランスにジャン・ジュネという作家がいました。
彼は少年期から犯罪を犯し続け、若い時期のほとんどが刑務所暮しだったのですが、獄中で小説に目覚めます。
『死刑囚』『泥棒日記』
洗練された文は見事で、言い回しは巧みの一言。
犯罪には正当なる理由があると説き伏せる才能は際立っていて、つい、読者もいっしょに牢獄に閉じ込められ、そうだよなあ、世間が悪いんだよなあ、と頷いてしまうほどです。
文は身を助く。
ジャン・コクトー、サルトル、三島由紀夫の心を動かし、政府の恩赦を勝ち取るのですが、「技巧」という衣をはぎ取れば、そこには悲しい「恨み」「憎しみ」「歪んだ劣等感」という毒ばかりです。
毒の含んだ作品の波紋は一時です。時代を耐えられず、のちの世に伝わりません。
どうしたら、解毒できるか?
鍵は愛です。
売春婦を母に持ったジャン・ジュネは、愛を知らなかったのですよ。
愛に飢え、愛情エネルギーが枯渇していました。
愛と犯罪は密接な関係があるのですが、解毒にはセルフ・セラピーがよく利きますね。
日本一のセラピストがいうのですから間違いありません(笑)。
念を押しますが「個人攻撃」と「プライバシーの侵害」は×です。
この二つに近づいてはいけません。エッセイの鉄則として覚えておいてください。
その反対に、絶対に欠かせないが「自由さ」です。
世間体を気にした文ほど、つまらないものはありません。
「体制迎合」は、エッセイストの風上に置けない。
みんながやるから自分もやる。つまり常識や風習に、媚びた文は無価値とはいいませんが、面白みはありませんね。
天皇批判以外は、言論の自由が保障されている国です。
内面から迸(ほとばし)る広大無辺な息吹、自由を存分に味わってください。
恰好よく見せようという文も、鼻につくものです。
かといって、たまに自分の恰好悪さを売りにするプロの書き手がいますが、これはもっといやらしい。
自分の妻を「愚妻」と呼び、自分を要領が悪く、何をやっても「冴えない人物」ふうに描く人です。
ところが読んでいると、本心は決してそうではない。
根底に流れるのは、鼻もちならないプライドです。
はしはしに垣間見える鼻に付く自尊心は、ぜんぜん素敵じゃない。
自分の伴侶を「愚妻」と書こうが、自分のことを「冴えない男」と書こうが、本音はぜんぜん別にある。
読む人が読めば、行間に滲み出ている庶民を見下す驕慢(きょうまん)さを感じるはずです。
こうした書き手が用いているのは、テクニックです。
どういうテクニックかというと、読者の寛容さ引き出す技術です。
つまり他を批判する場合、自分を貶(おとし)めておけば、反論されにくいのです。
「僕は愚妻を持ち、仕事もできず、女にモテない」
と宣言したあとで、
「あなたは、大したことない人ですね」
とやる。
すると反論しづらい。苦笑あるのみです。
というのも、言われた方はだれでも普段から、自分も愚妻を持ち、仕事もできず、女にモテないという気持ちをどこか心に宿しているからです。そこに共感がある。あるいは、君は大変だなあ、僕は君ほどひどくはない。優越的同情心を持っているので腹はあまり立たず、許されます。
ところが、
「僕は美人の良妻を持ち、仕事もでき、女にモテます」
と前もって宣言された後、
「あなたは、大したことない人ですね」
と言われたら、たいがいむかっ腹が立つ。
言われた方に、嫉妬心が芽生えているからですね。
お分かりですか?
オバマが大統領になって、黒人が「黒いホワイトハウス」と言えば、誇り高きユーモアを感じますが、白人が「黒いホワイトハウス」と言ったら殴られる。
自分を極端に貶めておく。思ってもいない己の劣等を武器にするわけです。
自己嘲笑、自分卑下は、読者の反発を消すデオドランドみたいなもので、反発を防ぐ盾。逃げのテクニックの一つなのですが、意外と読者はごまかされます。
しかし、長くは言いくるめられない。
読者の器量が整えば、いつしか、見破られます。
「あっ、この人、我々とは身分がぜんぜん違うじゃないか。馬鹿にするな。こんなやつに下々の気持ちが分かるはずがない。庶民の気持ちを弄ぶのはやめろ」
と、共感から離反、反発へとなります。
よくいるでしょう、「ホウレンソウが30円も値上りした。とんでもないことです。政治家は、庶民の苦しみを知れ!」
と、テレビで怒鳴る年収8億円のテレビ・キャスター。
あんたに言われたくない。
おっと話が逸れましたが、本を読めば書き手の心理が見えます。
厄介なのは恨みと劣等感です。
劣等感と逆の優越感はコインの裏表、同時に存在します。この視点にかまけたものは信頼されません。
どうして人は劣等感を抱くかというと、自分と他人を比較するからです。
比較するということは、上か下かという視線ですから、優越感と劣等感を生むわけです。
曰くも因縁もないのに、自分と他を比較する。
では、なぜに人はいじましく比較するのか?
今の自分に、満足していない。これが原因です。
人は食べられて眠れるだけでも果報者なのですが、それが当たり前になるとプラスアルファを求めます。
プラスアルファは曖昧ですから、満足することがない。で、他と比較して、自分の立ち位置を確認します。
言いかえれば軸がないのです。もっと言い換えれば「存在不安」に陥っているのですが、そういう人は根本的なことが理解できていないのですよ。
「人は、他人と比較できない」ということです。
数字は測れます。
しかし幸福は数字ではないので測れない。
幸福度を測る物差しなど、この世に存在ないのです。
仲良く愛情たっぷりの家庭と、憎み合って癌を患った一億円の預金者。どっちが幸せか?
こんな比較は時間の無駄、100年議論しても決着は付きません。
もう一度言います。
『幸福を測る物差は存在しない』
比較の物差しは、他人を測るときはギュンと短く、自分を測るときはグーンと伸びます。でたらめなのですよ。
それでもみな、比較ゲームに精を出す。
測って、誰かを下と決めつけては安心し、上だと分かると悔しがるのですね。
思わず僕のセラピーを受けませんか、と口から出てしまうほど心が歪んでいるのですが、こういう視線でのエッセーは、あとで読んで後悔します。
書きつつ、自分に愛を送り、自分に愛を送りつつ、書く。
そうして出来上がったエッセーを、10年後読んでみてください。
心を揺さぶられ、熱いものが込み上げてくはずです。
続く
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作家・セラピスト。1948年札幌市生まれ。1978年より15年間、ロサンゼルスで不動産関係の業務に従事し、帰国後、執筆活動に入る。ベストセラー『企業再生屋が書いた 借りたカネは返すな!』(アスキー)、評伝『アントニオ猪木の謎』、サスペンス小説『借金狩り』、フリーメーソンの実像に迫った『石の扉』(以上三作は新潮社)など多数の著作を発表。『龍馬の黒幕』『幕末 維新の暗号』、『舞い降りた天皇』『失われたミカドの秘紋』(すべて祥伝社)の歴史4部作は大反響を巻き起こし、シリーズ 50万部の売上げ更新中である。その他、カウンセリング小説『アルトリ岬』(2008年 PHP)や『大僧正とセラピストが人間の大難問に挑む』(2010年 ビジネス社)などがある。
★加治将一 公式音声ブログ: http://kajimasa.blog31.fc2.com/
★加治将一 公式ツイッター: http://twitter.com/kaji1948