“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2023.03
国債投資で破綻した米銀

 金融危機が話題になっています。米国では突如全米16位の資産規模を持つシリコンバレー銀行が破綻してしまいました。その後、それに続いて仮想通貨企業に強いとされていたシグネチャーバンクも破綻しました。この流れは欧州にも波及していきました。
 世界の主要な銀行として世界の30位に入る重要な銀行と目されているスイスのクレディスイス銀行が突如経営危機が叫ばれ始めたのです。そしてクレディスイス銀行はあっという間に同じくスイスのUBSに買収されることとなりました。

●なぜシリコンバレー銀行は破綻したのか?
 この過程でクレディスイス銀行が発行していたAT1債と呼ばれる債券が価値がゼロと算定され、紙くずとなってしまいました。実は昨年からの世界的な金利上昇を受けて、銀行業界はその金利高の恩恵を受けるとみられていたのです。
 実際、日本では今後の金利上昇の可能性をはやして銀行株が人気化していました。ところが実際起こってきたことは突如の銀行の破綻の連鎖です。一体何が起こっているのでしょうか? なぜいきなり巨大銀行が破綻したのでしょうか?

「リスクについて銀行側は問題を認識し、当局からも指摘を受けていたのに、必要な措置を取らなかった。ずさんな経営の教科書的な事例だ」
 今回のシリコンバレー銀行の破綻について、FRBのバー副議長はシリコンバレー銀行の経営陣の姿勢に致命的な問題があったと糾弾しています。
 ところが、一般的に銀行の経営の健全性を示す自己資本比率をみると、破綻直前の段階でシリコンバレー銀行は11%であり、クレディスイス銀行は14%となっていました。
 この銀行の自己資本比率とは、その銀行の総資産に対して、その銀行がどの程度の資本を持っているか測る指標であって、一般的に銀行の財務の健全性を測る指標となっています。日本では都市銀行は8%以上、地方銀行は4%以上の自己資本比率が求められています。ということは、一般的に銀行の自己資本比率が4%以上、世界的な大手銀行においても10%以上もあれば十分健全な銀行なはずなのです。
 それなのに、自己資本比率の高い銀行があっという間の破綻の連鎖です。
 これでは、投資家はじめ預金者も事前に取引している銀行が安全なのか、そうでないのかわかりようもありません。前の日までは、圧倒的に健全で財務が万全と言われていた銀行が一夜にして不健全な銀行に様変わりしてしまうのでは投資家や預金者はどうしたらいいのでしょうか? 一体、銀行の財務の健全性を測ると言われている自己資本比率とはデタラメなのでしょうか?

 現実をみれば、この自己資本比率から換算される銀行の安全性とか健全性はデタラメと言っていいでしょう。
 シリコンバレー銀行が破綻したケースをもう少し掘り下げてみましょう。
 シリコンバレー銀行は、預金者から預かった資金を主に米国債や住宅担保ローン証券に投資していました。一般的に、米国債や米国の住宅担保ローン証券は投資対象の中でも最も安全性が高いと言われているものなのです。
 ところが、シリコンバレー銀行は投資対象として最も安全とみられていた米国債や住宅担保ローン証券に投資していたのに、破綻してしまいました。
 要するに、米国債や住宅担保ローン証券などが安全な投資対象ではなかったということです。例えばシリコンバレー銀行が日本の年金基金の運用のように株に50%、債券に50%と分散投資していれば破綻することはなかったのです。
 投資対象を国債をはじめとする債券投資にばかり傾倒していったので、あえなく銀行破綻となりました。シリコンバレー銀行が米国債だけでなく株式投資を行ってそのまま保有していれば株式の含み益で破綻は免れていたでしょう。
 このあたりが世間の誤った常識と真実の違いです。

●「自己資本比率」のカラクリ
 シリコンバレー銀行は主にIT企業やベンチャーの投資家がお客様でした。折からのインフレ到来で米国の金融当局は昨年初頭から利上げを断行しました。
 この利上げを受けてIT企業は資金繰りが厳しくなり、預金を断続的に降ろすようになっていきました。その預金解約に抗し切れなくなったシリコンバレー銀行は、自ら投資していた、米国債や住宅担保ローン証券を売却して資金確保しようとしたわけです。ところがその米国債や住宅ローン担保証券はいざ売却しようとしたら値段が安く、結局、シリコンバレー銀行は膨大な売却損失を計上することとなりました。
 この事実を発表した途端に、シリコンバレー銀行は危ういとの噂が広がり、ますます預金が流出するようになってあえなく破綻に至ったわけです。こうみればわかりますが、元をただせばシリコンバレー銀行は預金の運用先を国債投資など債券投資に偏り過ぎたことこそが問題だったのです。
 一般的に、国債や社債など債券投資は満期になると元金が全額戻ってきますから、最も安全な投資とみられています。特にその発行元が米国政府である米国債や実質米国政府が発行しているに等しい、米国の住宅担保ローン証券などは、世界で最も安全な投資とみられているわけです。
 この国債投資などはどこの国でも概ね同じですが、一般的にリスクが全くないと財務上は換算されるわけです。例えばシリコンバレー銀行が米国債や住宅担保ローン証券に投資すればそれはノーリスクの投資であるとみられるわけです。シリコンバレー銀行が米国債に100億円投資すれば、それは安全資産に投資したとみなされ、銀行の自己資本比率を換算する場合に、100億円そのままの自己資本として計上されるわけです。ところが同じケースで株式などを購入した場合は、リスク資産の購入とみられ100億円で購入したものが約50億円の自己資本と見積もられるわけです。となると銀行側は自己資本を良くしたいし、自らの銀行は財務が健全とみられたいですから、当然リスクが全くないとみられている米国債など債券の購入に走るわけです。銀行の立場からすれば米国債などの債券ばかり購入していれば、銀行の財務の健全性を示す自己資本比率は全く問題ないように見えるというわけです。

 ところが、米国債も住宅担保ローン証券も値段が動くものであり、特にインフレ時など金利上昇の局面では大きく値段が下がるものなのです。
 これは国債など債券投資の仕組みを単純に考えるとわかります。国債などの債券投資では購入する時点で決まっている金利が満期まで続きます。例えば日本国債10年物の昨年までの金利は0.1%程度ですが、仮にこの日本国債を100万円購入するとその利息は年間1000円となります。これを満期まで保有すると10年間で1000円×10=10000円となります。日本国債を購入した人は満期の10年保有することで利息が1万円と元金の100万円、合計101万円が10年の満期を経て手に入るわけです。ところがこれが金利が上がってくるとどうなるかと言いますと、仮に米国のように5%近い金利となりますと、100万円の国債は1年で利息が5万円となります。それが10年間続きますので10年ですと元金の100万円と利息の5万円×10=50万円、合計150万円が満期時に手に入るわけです。更にもらった利息を毎年複利で回せばもっと満期時の合計金額は増えます。
 となると、同じ日本国債を購入した投資家なのに金利上昇前に購入した投資家は利息が低く、0.1%の時は満期時に101万円しか手に入らないのに、少し遅れて金利が上がった後、日本国債を購入したケースでは150万円超が満期時に手に入るのです。1年で金利が5%上がるのが現在の米国の状況ですから、かような国債投資の時期による大きな差が米国において出てしまったわけです。
 これが国債の価格下落、金利上昇が更に酷ければ国債の暴落ということです。
 かように金利が低い時に購入した国債は、金利が上昇したことでその価値が大きく減価するわけです。
 考えてみてください。金利が5%で10年続く国債が発行されているのに、どうして金利が0.1%で10年も固定されるものが欲しいのか、当然かような低金利の時に発行された国債は手放すとすれば大きなディスカウントしなければ売れるはずがありません。これが国債の価格の暴落を引き起こすのです。
 こうみれば、国債投資も絶対的に安全などという考えは全く間違っていることがわかります。金融商品である以上、国債も株式投資と同じようにリスクは十分あるのです。特に国債投資など債券への投資は、金利情勢に十分注意しなければなりません。不運なことに、シリコンバレー銀行は金利の最も低い時(価格が最も高い時)に大量の米国債と住宅担保ローン証券を購入したために後の悲劇に直面することとなりました。

 かように、国債など債券というものは最初に決まった金利で満期まで続きますので、金利が上昇する局面では国債などの投資は割が合わないわけです。
 そしてそれはついに全米16位の銀行の破綻にまで至ってしまったということです。これは日本の地銀などにとっても決して他人事ではありません。
 日本のほとんどの銀行は、日本国債の金利はほぼゼロの最も低い金利の時(価格が最も高い時)に大量に日本国債を購入してきました。また、海外の国債もここ数年大量に投資してきました。これらの国債の投資は今後、インフレ到来でとんでもない事態を引き起こすでしょう。

 こうみていくと、安全と言われている国債などの債券投資が金利上昇局面では如何に危険かがわかるということでしょう。ですから朝倉は一貫して、日本のこれからのインフレ到来を見越して株式投資ならいいが、債券投資は決して行うべきではないと言い続けてきたわけです。
 国債は元金保証で安全と思っているかもしれませんが、金利上昇局面では元金などどんどん実質的に目減りしていくのです。インフレとは恐ろしいもので、かように金利の急上昇は国債など債券価格の下落から銀行の破綻を引き起こしてしまうのです。

 3月29日、衆議院金融委員会で日銀の副総裁の内田真一氏は、「長期金利が2%に達した場合に日銀の保有国債に生じる含み損は約50兆円になる」との試算を示しました。ところが会計上は含み損を換算しないので、日銀の財務は全く問題ないということです。含み損が100兆円を超えようが200兆円を超えようが、会計上国債は簿価、購入した額で換算されるので表面上日銀の財務が痛むことはないということです。
 しかしながらこの表面上財務は健全であるという日銀と同じ理屈を通していたシリコンバレー銀行は、数日で破綻しました。日銀は円紙幣が自ら印刷できますから破綻することはありません。しかしかような含み損は換算しないで財務上、簿価で換算するというシステムが日本のあらゆる銀行に適用されている事実は恐ろしくないですか? シリコンバレー銀行と同じように実質的に目を覆うような財務状況が日本の多くの銀行に隠されているわけです。
 インフレ時代の到来は、<偽りの会計>を激しく罰することとなっていくでしょう。国債や債券が安全であるというのはまやかしに過ぎません。シリコンバレー銀行の破綻にみる米国におけるインフレ時の激変をみて、日本人全員が、これから来る日本のインフレの到来、そしてそれに伴う国債投資の本当の怖さを知ることとなるでしょう。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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