“超プロ”K氏の金融講座
このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
「そこにいる共和党議員、上院議員らに言おう。大規模な歳出削減を彼らが約束しないなら、デフォルトもやむを得ない」
来年の大統領選に出馬表明しているトランプ前大統領は引き続き乱暴な発言で注目を集めています。たとえ米国が国債の利息を払えず、国家として破綻宣言(デフォルト)状態となろうとも、決してバイデン大統領率いる民主党政権に譲歩してはならないと言うのです。
この米国の国債発行額を拡大する債務上限問題は常に米国政治の紛糾の種になっています。今回も米国の国家としての財源がギリギリの段階にきていると思われ、このまま国債の追加発行を行えないと実際、デフォルトの危機が迫っていたわけです。
かような中、5月28日、バイデン大統領と共和党のマッカーシー下院議長は債務上限問題でようやく基本合意に達したということです。いつものことながらお騒がせでデフォルト寸前の現在の状態で決着したわけですが、今後、米国議会での採決がありますし、なにより混乱によって米国への信認が失われた事実は大きいものがあります。市場はかような政治的なギリギリの攻防を何度もみてきたので、どうせ最終的には解決するはず、と高をくくっていたのですが、今回も最後までドタバタ劇となりました。混乱する米国政治とデフォルトの問題のごたごたでの影響、並びに今後の行方を考えてみます。
●分断が進む米国社会の現状
この債務上限問題の話は米国特有の問題です。日本や他の国では国債の発行額の上限を定めているわけではありませんから、米国のような国債の追加発行問題で政治が紛糾することはありません。
米国では1971年に成立した法律で、米国政府の債務の上限、いわゆる借金できる額について上限が決められました。米国で予算を決めるのは議会となりますので、この米国の債務上限を引き上げる権限は議会が持っているわけです。具体的には議会が法案を成立させて米国の国債発行金額の上限、言い替えると債務上限を引き上げる必要があるのです。米国の議会では毎回恒例のように政治的な紛糾を繰り返していますが、歴史を振り返ってみると、これまで議会は80回に渡って債務上限を引き上げてきました。それによって米国政府は追加的な国債発行を行ってきたわけです。しかしその結果、米国の国家の借金である米国債の発行総額も31兆ドル(約4200兆円)という途方もない額に膨らんでいるのです。
従来ですと、かような債務上限の引き上げについては国家の一大事ですから、民主共和両党もすんなり政治的な合意にたどり着いていたのですが、昨今は民主共和両党の勢力が極めて接近していますので、余計に政治的対立が先鋭化しているのです。
また、昨今の米国社会は完全に分断状態になっています。民主共和両党の主張が真っ二つに割れて、お互いがお互いの主張を全く受け入れようとしていません。人工中絶の問題とか、LGBTの問題、政府の在り方の問題など多岐に渡ってお互いの主張は水と油のように全く相いれない状況となっています。そこに持ってきてトランプ氏のような過激な指導者が民衆をあおりますので、余計に社会の混乱が収まりません。
トランプ氏は依然、前回の大統領選では不正があったと主張していて、この主張は根拠がないとみられていますが、多くのトランプ支持者に選挙の不正は強く信じられているのです。現在の社会ではSNSの発達によって、皆自分が好むニュースばかりと接するようになってきています。
例えば皆さん自身を振り返ってみるとわかると思いますが、皆さんも自分が信じる、あるいは好むニュースばかりを追いかけるようになっているのではないでしょうか。誰でも自分が定期的にみているニュースソースがあると思います。それは自分が好きな、それは自分が信じるに値すると感じているものでしょう。そして実はそれによって様々な同じ考えを持った人たちのグループができていて、それらの人たちは結果的に同じようなニュースばかりを追うようになっていきます。これをまた現在のAIの技術が後押しします。
例えばトランプ氏の主張するように「前回の大統領選挙は不正があった」というニュースを追いかけていると、これは面白いのですが、現在のAIによる推奨機能で、同じようなニュースが次々と自分のパソコン上に現れるようになるわけです。そうなると選挙の不正という疑惑や事象が山のようのパソコン画面上に映し出されることとなります。パソコンをみていてかように膨大な事例があるということは、これはトランプ氏の言うように選挙は間違いなく不正があったと思うようになり、更に自分のパソコン画面上に出てきたニュースを追いかけていくことでますます選挙の不正の確信を持つに至るわけです。どんな人でも選挙の不正の話は一つや二つでなく延々と限りなく出てくれば、これはマスコミ報道と違って選挙の不正は事実に違いないと考えるようになるわけです。
かような事象は「フィルターバブル」に入った状態と言われています。
「フィルターバブル」とは、同じような考えを持った人の集団が同じようなニュースばかりに接していることで、その集団の考えや思想が強くなっていく状態を言います。そもそも自分の興味や好みでニュースを追いかけているなかで、同じような考えや自分が好きな考えやニュースに出会うのは楽しいことですから、ますますかようなニュースソースにはまっていくわけです。こうして右翼なら右翼、左翼なら左翼、ないしは特定の思想など自分の考えや思想がさらに強化されていくわけです。かような状態となると他のニュースソースや他の考え方は偽りと思えるようになっていきます。結果的に、多くの人たちはかような時を経て、知らず知らずのうちにお互いが理解できなくなって、気が付いてみたら酷い分断状態になっていたというわけです。現在の米国では特に分断が酷くなっていますが、日本や世界を見渡しても同じような傾向はみられます。
●中国やロシアのような権威主義国家の場合
中国やロシアのような権威主義国家ですと、マスコミが権力側に支配されているのでかような事象を起こすことはありません。中国においては習近平主席の話がまず一番に報道され、いかに習近平主席の功績が偉大であるかが報道され続けます。また習近平主席を否定あるいは非難するような報道は実質禁止されています。これによって人々は現政権に対して多少の不満も持っているでしょうが、知らず知らずのうちに習近平主席を崇めるようになっていくのです。
ロシアも同じです。ウクライナに侵攻したのはロシアであって明らかにロシアによるウクライナへの侵略ですが、ロシアの報道ではウクライナは、かつてのドイツのナチズムの流れを踏襲するネオナチ勢力によってウクライナにおけるロシア住民が酷い扱いを受けているとの報道になっています。そこからロシアではこのネオナチ勢力を粉砕する必要があるとの口実でウクライナ侵攻が正当化されています。ですからロシアでは今回のウクライナ侵攻では戦争と言う言葉は使われず、特別軍事作戦と呼ばれているわけです。
またロシアにおいてプーチン大統領への非難はタブーです。プーチン大統領への批判を公に行えば治安機関に連行されてしまいます。そして戦況が悪化してきた現在ではロシアにおける今回の戦いは、第二次世界大戦でナチスドイツと戦って勝利した大祖国戦争という位置づけと変化してきています。国民に危機感を共有させようということでしょう。かように権威主義国家において権力者は自分の都合のいい報道しか行わず、都合の悪い情報は遮断してしまいます。
こうして権威主義国家ではマスコミへの支配は完全に行き届いています。
ところが現在の民主主義国家は言いたいことが言える状態ですから、誰でもが自らの好きなニュースを選んでみるようになっていき、偽情報にも頻繁に遭遇します。結果的に人々は様々な考えを持つようになっていきます。こうなると国民の考えがまとまらず、分断傾向に陥っていくという深刻な問題が生じているわけです。考えてみると米国の債務上限引き上げの問題など権威主義国家では起こりようもない問題です。
歴史を振り返ってみれば、民主主義は素晴らしいシステムと思いますが、時にはうまく機能するものの、意見が大きく分裂するという民主主義特有の問題が起こって、無用な政治的な紛糾を起こす場合もあるわけです。
今回、ギリギリで民主共和両党の妥協が成立しました。
バイデン大統領は「景気後退や数百万人の雇用喪失につながるデフォルトを防ぐ、米国民にとって朗報だ」との声明と出しました。また、共和党のマッカーシー下院議長は「まだやるべきことはたくさんあるが、これが米国民にふさわしい合意であると信じている」と述べています。
●本当の危機はこれから!?
これで一件落着と安心していいものでしょうか? 実は本当の危機はこの米国の債務上限問題が解決してから起こる可能性も高いのです。
どういうことかと言いますと、債務上限問題が解決しますと、米国政府はここまでたまりにたまった資金ショートを解決するために一気に大量の米国債を発行することを迫られるからです。現在の市場環境で一気に大量に発行された米国債が順調に市場でさばけるかどうか疑問です。
米国債の発行は、債務上限問題が解決したからすぐに数週間に数千億ドルの発行が集中するとみられています。
例えば5000億ドルであれば日本円で約70兆円となります。現在米国のMMF(マネー・マーケット・ファンド)の利回りは5%を超えています。MMFは明らかに米国債よりも高金利で魅力的な投資対象なのです。米国債の金利が3%台では米国国内や世界の投資家が購入してくれるでしょうか? 仮に購入してくれないで米国債の発行の金利が急騰するような事態となれば、金利高騰は世界に波及して一大事となります。
ただでさえもめにもめた米国債に対しての信頼は落ちています。格付け会社のフィッチは米国債の格下げの可能性も示唆しています。現在の世界の金融情勢は流動的であり一気に混乱が広がり、至る所で危機が表面化する可能性もあります。米国の債務上限引き上げの問題は最終的にはギリギリのところで政治的な妥協が図られました。しかし真の問題はこれから現れるかもしれないのです。
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★『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/
経済アナリスト。
株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
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