“超プロ”K氏の金融講座
このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
<マグニフィセント・セブン>と聞いてピンと来る人は、1年前であれば相当な映画通、そして現在ではかなり株式市場に詳しい人でしょう。
<マグニフィセント・セブン>とは何でしょうか?
これは映画の題名です。2016年米国で公開された西部劇です。町の住民を悪党から守るガンマンの活劇です。実はこの<マグニフィセント・セブン>の基となっている話は日本映画からきています。
日本が誇る世界に名をとどろかせた黒沢明監督、その黒沢監督の1954年公開の映画<七人の侍>が基になって、この<マグニフィセント・セブン>が作られたのです。
この<七人の侍>は69年前に製作された映画ですが、その迫力は言葉で言いつくせないほど見事です。荒くれ者から村を守るために、村の住民が侍を雇って村の防衛をするのですが、その侍たちと村人と悪党たちの合戦シーンがあまりに迫力があり、この映画は世界で絶賛されました。
<七人の侍>は映画監督としての日本の黒沢明氏を世界に知らしめた代表作です。
1954年にできたこの映画をその6年後、1960年には米国でリメイク、<荒野の七人>として西部劇として作り直され、これも大ヒットとなりました。そしてその56年後三たびのリメイクで<マグニフィセント・セブン>としてよみがえったのです。
傑作映画がリメイクされることはよくあることですが、三度に渡ってリメイクされたところに、この<七人の侍>の凄さがあります。古い映画ですが、「名作とはこういうものだ」と感じさせる感動的な映画です。
●いま話題になっている<マグニフィセント・セブン>とは?
そして今、株式市場では<マグニフィセント・セブン>が大きな話題となっています。今度は映画の話ではなく、株の銘柄の総称として<マグニフィセント・セブン>という言葉を使っているのです。
この<マグニフィセント>という英語は「壮大な」とか「偉大な」という意味ですが、米国、あるいは世界の株式市場において壮大かつ偉大な企業が7つほどある、株式市場ではその7銘柄を映画<マグニフィセント・セブン>と掛け合わせて「偉大な7つの企業群」と称しているのです。
ではこの「偉大な企業群」、株式市場における<マグニフィセント・セブン>はどんな企業でしょうか?
偉大な企業群ですから誰でも知っている企業となります。
その企業とは、アップル、アルファベット<旧グーグル>、アマゾン、メタ・プラットホーム(旧フェイスブック)、マイクロソフト、そしてNビディア、テスラとなります。誰でも知っている企業ですよね。これらが今や世界を席捲する7つの偉大な企業というわけです。
かつて昨年ごろまではGAFAMと言って、アップル、アルファベット、アマゾン、メタ・プラットホーム、マイクロソフトの5銘柄だけが有名でしたが、今年に入って半導体関連の雄であるNビディアとご存じイーロン・マスク率いる電気自動車の雄、テスラが加わって7銘柄となりました。
この企業群の時価総額がまた凄い、アップルは2兆9545億ドル(約440兆円)、マイクロソフトは2兆8051億ドル(約418兆円)、アマゾンは1兆5164億ドル(約226兆円)、Nビディアは1兆1800億ドル(約176兆円)、アルファベットは8089億ドル(約121兆円)、メタ・プラットホームは7507億ドル(約112兆円)、テスラは7484億ドル(約112兆円)となっています。日本企業で時価総額最大なのはトヨタで約44兆円ですから、これではアップルの10分の1にしか過ぎません。仮にアップルが自動運転車などEVや新エネルギー車に進出してきた場合、トヨタが牙城を守れるか、心配されるわけもわかるというものです。仮にアップルが巨大な資本力にモノを言わせてAI研究で先行し、一気に自動運転車を作り上げてしまったらトヨタの未来はどうなるのでしょうか? 世界の自動車は次々とアップルの自動運転車で駆逐されてしまい、トヨタは単なる自動車のボディーを作るだけのメーカーに成り下がってしまうのでしょうか。
アップルの時価総額440兆円とマイクロソフトの418兆円を足すと858兆円となりますが、日本のプライム市場の銘柄群全ての時価総額を足し合わせても850兆円で、この2銘柄を足した時価総額に及びません。まさにアップルやマイクロソフトを有する<マグニフィセント・セブン>は世界の経済そして世界の株式市場を牛耳っています。
直近でニュースになったのはここにきて成長著しいNビディアです。Nビディアはこの1年で時価総額を3倍にしました。先週発表になったNビディアの8-10月期決算は前年同期比で売り上げ3倍、利益は14倍という凄ましいものでした。
AI開発にはNビディアが誇る画像処理半導体が必要とされ、この分野で世界の8割のシェアを握るNビディアは超繁忙状態となっています。普通これだけの大型株になると売り上げや時価総額を増やすのは容易でないですが、Nビディアは脅威の成長を続けているわけです。
<マグニフィセント・セブン>は米国のみならず、世界の株式市場においても独り勝ちの様相となっています。米国経済の実体を測るにはNYダウやナスダック市場よりも、米国市場の幅広い銘柄を網羅しているS&P500だと言われています。昨年からS&P500は大きく上げていますが、その中で時価総額が7割も上昇したのは、この<マグニフィセント・セブン>の企業群なのです。一方S&P500の中でこの<マグニフィセント・セブン>を除く490近い企業群の時価総額の上昇率はわずか4%に過ぎません。如何に<マグニフィセント・セブン>の力と成長力が飛び抜けていているか、そして米国企業の寡占化が激しくなってきていて、企業全体の利益構造が変わってきているかわかります。
●<マグニフィセント・セブン>の日本への影響
一方<マグニフィセント・セブン>は当然のことながら日本も席捲してきています。例えばアップルですが、日本でもアイフォンなどの携帯電話だけでなく音楽配信などでも相当の売り上げをあげています。朝倉もアップルのアイフォンを使い、アップルの音楽配信を利用しています。音楽配信ですと月980円ほど取られますが、高いというイメージはありません。
先日、ロック界の大御所、ローリング・ストーンズは新しいアルバムを発表、英国で売り上げNO.1、米国でも大人気となりました。ローリング・ストーンズのメンバーは80歳になるというのにロックのアルバムを出し、来年2024年には全米でツアーを行うのですから驚きです。朝倉は若いころからローリング・ストーンズの大ファンであり、今回のアルバムの凄らしい出来栄えにはびっくりしました。よく80歳になってこのような曲が作れて、また歌う、演奏できるということに驚きを禁じません。
このようなアルバムですと従来だとCDを購入すると3000円近いと思いますが、アップルの音楽配信に加入していることで、新作でも無料で聞けるわけです。またアップルの音楽配信に加入していることで、ほぼあらゆるアーティストのアルバムも聞くことができるわけです。そういう意味では月980円という値段も高いとは感じません。アップルは値段相応、ないしはそれ以上のサービスを提供しているように感じます。またアマゾンでも月1000円弱でアマゾンが配信する無料映画は見放題です。従来DVDを借り入れたりすると1つのDVDで400円近くかかっていましたから、アマゾンの定額サービスも高いとは思えません。こういう具合でアップルやアマゾン、人によってはアルファベット(旧グーグル)やメタ・プラットホーム(旧ファイスブック)にも相当お金を支払っている人も多いと思います。かように我々日本人も皆知らず知らずのうちに<マグニフィセント・セブン>のサービスを自然に利用するようになっています。
実はかような我々日本人がアップルやアマゾンなど米国のIT企業に支払っているお金ですが、日本全体としてみると馬鹿にならない額に膨れ上がっているのです。これらIT企業に支払っている資金は日本の貿易収支の中でデジタル赤字として、サービス収支として集計されています。その日本のサービス収支ですが、今年1-9月まで5.1兆円の赤字です。これは昨年同時期の3.8兆円から3割も増えているのです。これらのデジタル赤字は我々日本人がアップルやアマゾンなど米国のIT企業に支払った資金の総計です。
因みに昨今話題になっているのは、海外から来た観光客が日本でたくさん物を購入して日本の貿易収支に貢献しているということです。
これは貿易収支で見ると旅行収支の黒字としてカウントされます。その旅行収支ですが、今年1-9月は2.3兆円の黒字でした。海外から大勢の観光客が来て、デパートやドラッグストア、ホテル、鉄道、観光地など、日本全体が大いに潤いました。これら海外からのお客様は日本経済に多大な貢献をしたわけです。
そして日本人は手厚いおもてなしで海外からのお客様に対応して2.3兆円もの黒字を稼ぐことができました。これは素晴らしいことです。
ところが一歩、立ち止まってみてみましょう。
日本全体、肉体労働で知恵や体を使って一生懸命海外からのお客様をもてなして、2.3兆円もの旅行収支を稼いだのは喜ばしいことではあります。しかし反面、我々日本人は音楽や検索、映画やモノの購買、これらを通して<マグニフィセント・セブン>はじめ、米国のIT企業に知らぬ間に5.1兆円もの膨大な資金を支払っているのです。日本中大騒ぎではしゃいで旅行収支で2.3兆円稼いだはいいですが、その倍以上のお金を<マグニフィセント・セブン>に持っていかれています。これではまるで日本人は肉体労働で一生懸命稼いだあげく、ITを駆使されて<マグニフィセント・セブン>の会社に自動的にお金を吸いあげられているように感じませんか? アップルもアマゾンやグーグルやフェイスブック、マイクロソフトもほとんど人を使わずに、ITの機器を利用するだけで利用料を自動的に取り続けているわけです。こうして日本はこれら<マグニフィセント・セブン>に毎日毎日お金を貢いでいるわけです。これがIT時代の現実なのです。偉大なる、壮大な<マグニフィセント・セブン>の企業群、我々は今後も、そして永遠に彼らに使用料を払い続けるでしょう。そしてそこから生じる日本の貿易赤字の拡大から円は益々安くなり、日本のインフレは激化するというわけです。
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★『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/
経済アナリスト。
株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
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