ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
4月になりました。緊迫する北朝鮮情勢、追い詰められるトランプ政権、フランスの大統領選挙など、世界が混沌に向かっていることを示す多くの出来事が起こっています。目が離せません。
そうした状況ですが、今回はほとんど注目されず、見過ごされている大きな問題について解説します。それは、3月15日に期限を過ぎてしまったアメリカの債務上限引き上げ問題です。これはいまはほとんど注目されていませんが、トランプ政権のさらなる危機を誘発する可能性も否定できない問題です。
●債務上限引き上げ問題とは?
まずはこの問題の基本を確認しておきましょう。
アメリカには連邦政府が発行できる国債の額に上限を設定する法律が存在します。これは、国債を発行するたびに議会の承認を必要とする繁雑な手続きを簡素化しながらも、政府の際限のない国債発行を規制する目的で、1917年にできた法律です。議会が承認した一定の上限に達するまで、政府は国債を発行できます。
過去数十年間、米議会は定期的に債務上限を引き上げてきましたが、大きな問題はありませんでした。しかし、最近の10年で状況は大きく変りました。
それというのも、共和党内には連邦政府の支出を削減し、予算の緊縮を強く求める意見が強くなったからです。2009年に現れ、この年の中間選挙で大量に当選した「茶会派」などはその典型です。「茶会派」は、政治と経済の基本的な機能は地域共同体が担うべきだとして、連邦政府の役割を軍事と外交の2つに限定し、大幅に縮小することを主張しています。そのため、連邦政府の予算拡大につながるあらゆる動きに反対します。当然、国債発行を拡大させることになる債務上限引き上げ法案にも、強く反対しています。
さらに共和党の主流派にとっても、債務上限引き上げ法案は、連邦政府から大きな譲歩を引き出すための政治的な武器として使われてきました。
このような経緯のため、債務上限引き上げ法案の可決は難航し、それが原因で過去に大きな問題を引き起こしました。
2011年7月から8月にかけて、「茶会派」を含む共和党の財政削減派が強く反対したため、法案の可決は難航しました。もし可決できなかったら、連邦政府は予算を組むことができず、政府の部分的な閉鎖が余儀なくされていたはずです。予算を使い切るギリギリで可決されたものの、大手格付け機関の「スタンダード・アンド・プアーズ」は、AAAの最高ランクであった米国債をAA+へと格下げしました。これにより、世界同時株安と米国債の下落につながりました。
また2013年には、国債上限引き上げ法案の対立で予算が組めず、一部の政府機関が約2週間にわたって閉鎖されました。
●「2015年超党派予算法」
このように、近年特に政争の具と化すことにより大きな問題を引き起こしてきた債務上限引き上げ法案ですが、2015年以降の約2年間は問題をなんとか回避できました。連邦政府の閉鎖を招いた議会の対立に米国民が強く反発したため、対立を回避するための方策が採られたからです。
それが「2015年超党派予算法」の成立です。これは、2016年の大統領選挙が終わり、次の政権が成立するまで、国債の発行上限の適用を停止するという法律です。この適用により、一昨年と昨年は議会の対立が大きな問題を引き起こすことはありませんでした。
●トランプ政権で期限が切れる
ところが、トランプ政権の成立でこの処置の期限は切れるので、債務上限は復活します。
それが3月15日でした。
現時点では、アメリカの債務は20兆1,000億ドルに達しています。何も対策を講じなければ、連邦政府は予算を使い果たし、あらゆる分野の支払いができなくなります。すると、国債の利払いが困難になった段階で、デフォルトが宣言されることになります。
2011年にはギリギリで債務上限引き上げ法案が可決され、デフォルトは回避されたものの、世界同時株安や米国債の格下げなど、金融市場に大きな混乱を引き起こしました。もし本当にデフォルトした場合、金融に与える影響は計り知れません。
これを回避するため、トランプ政権のムニューチン財務長官は、緊急処置を講じるとしています。それは、連邦政府職員年金への拠出金提供の一時停止などが含まれています。これで、予算が枯渇する期限を7月か8月まで延ばすことが可能になります。この最終的な期限が切れる日はXデーと呼ばれていますが、これが具体的にいつになるのかは、まだはっきりとは分かりません。早ければ6月1日にもやってくるともいわれています。もしXデーを過ぎても債務上限引き上げ法案が可決できず、国債の追加発行ができなければ、連邦政府に入る税収だけですべての歳出をまかなわなければなりません。
そもそも税収が不足しているから、国債の発行が必要になるのです。だから、税収だけで歳出をカバーすることは絶対に不可能です。Xデーを過ぎると、政府のデフォルトは時間の問題となります。
●共和党が多数派の議会では簡単に可決?
一方、トランプ政権では上下両院で共和党が多数を占めています。民主党が少数与党であったときのオバマ政権とは状況が異なるので、債務上限引き上げ法案の可決は、さほど難しくないと見る向きもあります。
しかし、状況はそう簡単ではないことは、オバマケアの改正案で難航しているいまの米議会の状況を見れば分かります。そもそもオバマ政権で債務上限引き上げ法案に強硬に反対し、米国債の格下げや一部政府施設の閉鎖にまで至った大きな要因は、「茶会派」など共和党内の緊縮財政派にあります。民主党ではありません。トランプ政権下でも緊縮財政派の勢力はとても強いのです。今回、政府の行政管理予算局(OMB)局長候補であるミック・マルバニー下院議員も緊縮財政派です。
●トランプ政権独自の事情と予想を越えた結果
また、債務上限引き上げ法案が可決されなかったときの影響を大きくする、トランプ政権に独自の状況が存在します。
周知のように、今回行われたトランプ大統領の施政方針演説でも分かるように、トランプ政権の政策は矛盾に満ちています。法人税の大幅な引き下げや、中間層の減税を行う一方、国防費を10%増額したり、1兆ドルという歴史的な規模のインフラ投資を計画しています。なんと法人税は、35%から15%に大減税するというのです。しかしこれは、減税で税収が落ち込む中、どうやって巨額の支出ができるのか実現性が疑われています。結局は、国債の大規模な発行による債務の増額で賄うしかないはずだという見方が強いのです。
しかし、そのようななかでも、少し前までは大減税や巨額のインフラ投資による景気の浮揚効果が期待され、株式市場は上昇し続けていました。ニューヨークダウが2万1,000ドルを突破するのも時間の問題と見られていたのです。そのような状況で、債務上限引き上げ法案が可決されず、ましてや財務省の資金が尽きるXデーを向かえたとしたらどうなるでしょうか?
相場を押し上げていたのは、先行した期待感でした。債務上限引き上げ法案の問題が長引き、Xデー突入の可能性が強くなるにしたがって、トランプ政権の政策はすべて実現性がないと判断され、その失望感から相場は急落することも十分に考えられます。その余波は、オバマ政権のときよりもはるかに大きいはずです。
●ストックマン元行政管理予算局長官の警告
もちろん、債務上限引き上げ法案は共和党が大多数を占める議会であっさりと可決される可能性もあります。また、トランプ大統領がときおり発言しているように、債務上限引き上げ法案が可決されない限り、国債の追加発行ができないという法律そのものを廃止し、政府の判断だけで追加発行できる制度に改めるかもしれません。これが意外にすんなりと議会を通過してしまうことだってあるかもしれません。
また、このコラムで何度も書いているように、論理的に予測可能な危機は起こらない場合が多いのです。なぜなら、危機が予測可能であれば、回避できてしまうからです。本当の危機とは、だれも予測していない死角から起こる突発的な出来事、つまりブラックスワンです。
しかしいま、債務上限引き上げが期限を過ぎてしまっていることは、トランプ大統領が引き起こすさまざまな混乱の陰に完全に隠れてしまい、ほとんど注目されていない状況なのです。
これがブラックスワンになりかねないとの認識を持つのは、レーガン政権で行政管理予算局長官だったデビッド・ストックマンです。つい最近、ストックマンはネットラジオの対談で次のように発言しました。
「人々は2017年3月15日という日にちを見過ごしている。この日に2015年10月にオバマ大統領とベイナー下院議長のまとめた「超党派予算法」の期限が切れる日だ。現在の20兆ドルの債務が上限となり、これ以上債務を増やすことは不可能になる。これは法律が命じる停止処置だ。
ところが財務省は、2,000億ドルの現金しか保有していない。政府は毎月750億ドルを使っている。このペースだと、今年の夏には財務省の現金は枯渇する。この段階に達すると、政府のすべての活動は停止する。政府の閉鎖もあると思う。オバマケアの撤回も新しい制度への切り替えもない。減税も行われない。インフラ投資もない。これは財政的な血の海になる。だが、債務上限引き上げ法案には、だれも議会で投票しないだろう。」
ストックマンはこのように発言し、この問題がトランプ政権にとって潮目の大きな転換点になると予測しました。
●危機の予想は的中したことがない
いまこのような状況です。3月15日の期限はすでに過ぎてしまいました。これまで数え切れないくらい、相場のクラッシュ、連邦政府のデフォルト、金融危機などが予測されてきましたが、的中したものは皆無といっていいでしょう。論理的に予測可能な危機は、回避が可能だからです。その意味では、3月15日に期限を迎えてしまった債務上限引き上げの問題はこの典型的な例なので、大きな危機の引き金になることはないはずです。
しかし、他方、この問題は、上昇するトランプ相場の楽観的なムードや、トランプ大統領の引き起こす混乱のなかに完全に隠れてしまい、その危険性はほとんど忘れ去られているように見えます。
これは、2007年のサブプライムローン危機の発生時と似ています。2006年の終わり、住宅価格の急騰を警戒したFRBは、これを抑制するために金利を引き上げました。これは、ローン金利の高いサブプライムローンで住宅を買った層で多くの破産者を出し、これがサブプライムローンを組み入れた金融商品、CDOの破綻につながることは容易に予測できたはずです。
しかし当時、イラク戦争の特需景気とグローバリゼーションの拡大による好景気の楽観的なムードのなかで、だれもこの危険性にまともに向き合い、対処しようとはしませんでした。もし早期に対処していたら、サブプライムローン破綻の増加とCDOの破綻は、回避されていた可能性は高いのです。これは、論理的に予想可能な危機は起こらないという公式の典型的な例になっていたかもしれません。危機の可能性を見過ごすことで、これはブラックスワン化してしまったのです。
今回はどうだろうか? ブラックスワン化するでしょうか?
●バノンとトランプの創造的破壊と意図的デフォルト
しかし、今回はもっとも不気味なシナリオも考えることもできます。それは、意図的なデフォルトというシナリオです。
現在、ホワイトハウスの主席戦略官であるスティーブ・バノンは危険思想の持ち主です。バノンは、現在アメリカが国家の形態さえも変わる根本的な危機の時期にいるとする認識に立ち、この危機を利用して現在の行政システムを根本から破壊すると宣言しているのです。この創造的な破壊の後、ユダヤ・キリスト教の価値観に基づく新しいアメリカを構築するとしています。
このような立場から見ると、債務上限の引き上げに失敗しデフォルトすることは、既存の行政システムを破壊するには絶好の機会になります。さらにバノン主義者のトランプも、選挙キャンペーンではデフォルトを容認する姿勢を見せていました。
ということでは、意図した計画的デフォルトも引き起こしかねない政権である可能性があるのです。ちょっと驚くかもしれませんが、普通は考えられないそのようなこともやってしまう政権がトランプなのです。
3月15日の期限が過ぎてすでに半月になります。予算を使い果たすXデーが確実に近づいています。これで、アメリカの政局の潮目は根本的に変わることになるでしょう。要注意です。
●ジョン・ホーグの最近の発言
このようななか、著名なノストラダムスの研究者であり、鋭い社会評論家でもあるジョン・ホーグが、興味深いことを言っています。少し前に「エネルギー・ラジオ」というネット放送に出演したときのインタビューです。
・基本的にトランプは平和をもたらす大統領である。就任演説では「平和」という言葉を何度か使ったが、これはアメリカの大統領就任演説としては初めてのことだ。大きな戦争を行う意志はまったくない。
・だれが大統領になっても、変えられない運命というものがある。例えばロシアとの戦争もそうだ。その時期は、2018年の11月だ。もしクリントンが勝利していたら、来年の11月にはロシアとの核戦争になっていたことであろう。それがトランプになることで、少なくとも来年の11月に大規模な戦争が起こるという運命は回避された。
・ところでトランプの政治手法だが、かなり誤解されている。彼はすぐ切れる感情的な側面もあるが、それだけではないのだ。いまホワイトハウスには、影響力のある2人の補佐官がいる。共和党の保守本流に属するフリーバスと、暗い革命思想の持ち主のバノンだ。トランプは、この対極的な2人をとことん論争させることで、天才的なひらめきと直感を得ている。トランプの政治手法は直観的で予想ができないが、天才性がある。これからもこのような手法で政策が決定されるだろう。
以上です。
ジョン・ホーグのこのような発言は実に示唆的です。トランプの施政方針演説では、国防費の10%の増額が発表され、戦争の準備が行われるような印象を持つが、実はそうではありません。国防費の増額の目的は、国内の景気を活性化するための公共投資の増額です。トランプは大きな戦争を望んでいないことは確かです。
そして、もしジョン・ホーグのいうようなやり方でトランプが政策を決定しているとすれば、バノンの影響力はそれほど大きくないことになります。さらに、バノンを含め、対極的な補佐官やアドバイザーたちの議論から、債務引き上げ上限問題でも画期的な解決策が出てくるかもしれません。
この方向に動けばよいのですが。
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
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★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/