ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
7月になった。日本でも新型コロナウイルスの蔓延が続いているが、アメリカの状況に比べればはるかにましな状況のように見える。感染の拡大がコントロールできなくなっている状況で、激しい抗議運動が全米50州で拡大し、アメリカは今後どのような状況になるのか先が見えなくなっている。そこで今回は、著名な歴史学者と専門家が予想する2020年のアメリカについて紹介する。
すでに10年前から2020年のアメリカが混乱状態になることを予測し、見事に的中させた歴史学者、ピーター・ターチンの最近の発言である。この混乱した状況のなか、ターチンが新たな記事で興味深い予測をしている。
ターチンは、ロシア生まれだが、1977年、父がソビエトを追放となったため、アメリカに移り住んだ人物である。現在はコネチカット州のコネチカット大学の教授で、生態学、進化生物学、人類学、数学を教えている。
1997年まで主要な研究分野は生態学であったが、現在は歴史学の研究が中心になっている。
歴史学ではこれまで、ヘーゲルやマルクスなど歴史の統一的な法則性の存在を主張する理論はあったが、そうした法則性にしたがって歴史が動いていることを証明することはできなかった。つまるところ歴史とは、それぞれ個別の背景と因果関係で起こった個々の事件の連鎖であり、そこに統一した法則性の存在を発見することはできないとするのが、現在の歴史学の通説である。
しかしターチンは、生態学と進化生物学の手法、そして非線形数学という現代数学のモデルを適用することで、歴史には明らかに再帰的なパターンが存在していることを発見した。
●近代以前の帝国のパターン
そのパターンは、人口数、経済成長率、労働賃金、生活水準、支配エリートの総数などの変数の組み合わせから導かれる比較的単純なパターンであった。ターチン教授はこれを、ローマ帝国、ビザンチン帝国、明朝などの近代以前の大農業帝国に適用し、そこには帝国の盛衰にかかわる明白なパターンが存在することを明らかにした。
詳しく書くと長くなるので要点だけを示すが、そのパターンとは次のようなものだ。
まず初期の帝国は、人口が少なく、未開拓地が多い状態から出発する。しかし、時間の経過とともに経済発展が加速すると、人口は増加し、未開拓地は減少する。それと平行して支配エリートの人口も増加する。この拡大が臨界点を越えると、帝国は分裂期に入る。
まず、人口の増加で労働力人口は急速に増加するため、労賃は下落する。さらに各人に与えられる土地も減少する。そのため、生活水準は低下し、これを背景とした社会的不満が高まる。
他方、支配エリートの数の増加は、すべての支配エリートに割り振られる国家の主要なポストの不足を引き起こす。これはエリート間のポストを巡る熾烈な権力闘争を引き起こす。この状態を放置すると、国内は支配層の権力闘争と農民の度重なる反乱により、帝国は衰退してしまう。
これを少しでも回避するためには、人口が増加した国民に十分な生活水準を保証するだけの土地を与え、また支配層には国家の十分なポストを与えることができるように、帝国を戦争を通して外延的に拡大し、新しい領地を獲得しなければならない。
だが、この外延的な拡大の勢いよりも、人口の増加と生活水準の低下、そして支配層のポストが不足するスピードが速ければ、帝国の分裂と崩壊が進む。
このようなサイクルだ。歴史は、多様な出来事が複雑に絡み合った織物のように見えるが、実際は比較的単純なパターンとサイクルが主導していることが明らかになった。ターチンは、こうした歴史的なサイクルが近代以前のどの帝国にも存在したことを証明し、大変注目された。
●現代アメリカの内乱のパターン
しかし、ターチンが注目されたのはこれだけではない。いまターチンは、近代以前に存在したようなパターンとサイクルが、近代的な工業国家である現代のアメリカにも適用可能であるかどうか研究している。研究は2010年に始まり暫定的な結果が発表され、大変注目されている。
なかでももっとも注目された論文は、「平和研究ジャーナル」という専門紙に2010年に寄稿された「1780年から2010年までの合衆国における政治的不安定性のダイナミズム」という論文である。2017年4月には、この論文を元にして「不和の時代(Ages of Discord)」という本として刊行された。
この論文でターチンは、アメリカが独立間もない1780年から2010年までの230年間に、暴動や騒乱などが発生するパターンがあるのかどうか研究した。すると、アメリカでは、農業国から近代的な工業国に移行した19世紀の後半からは、約50年の「社会的不安定性」のサイクルが存在していることが明らかになった。
暴動や騒乱が発生し、南北戦争のような本格的な戦争を除くと、アメリカで内乱が多発した時期がこれまで3つ存在した。1871年、1920年、1970年の3つである。
これをグラフ化したのが以下の画像だ。ぜひ見てもらいたい。
http://www.yasunoeigo.com/us2020.jpg
明らかにこれらの年には、社会で見られる暴力は突出していることが分かる。
●社会的不安定の原因
その原因はなんだろうか? ターチンによると、近代の工業国家は前近代の農業帝国に比べて、経済成長のスピードが極端に速いので、人口の増加とそれによって発生する労賃の低下、生活水準の低下、エリートのポストの不足などにははるかに容易に対処することができるという。その結果、これらの要因が深刻な社会的不安定性の原因となることは、かなり緩和される。
だが、これらの要因が近代工業国家でも作用し、社会的不安定性の背景となっていることは間違いないとしている。
●アラブの春におけるエジプトの例
最近、これをもっともよく象徴しているのは「アラブの春」ではないかという。たとえば、エジプトのような国は年5%から6%の経済成長率を維持しており、決して停滞した経済ではなかった。
しかし、出生率は2.8と非常に高く、また生活水準の上昇に伴って高等教育を受ける若者の人口が大きく増大したため、経済成長による仕事の拡大が、高等教育を受けた若者の増加スピードに追いつくことができなかった。その結果、高い教育を受けた若年層の高い失業率が慢性化した。これが、アラブの春という激しい政治運動を引き起こす直接的な背景になった。
●格差の固定と現代アメリカの不安定
これとほぼ同じような要因の組み合わせが、やはりアメリカの社会的不安定性の50年サイクルにも当てはまるとターチンは主張する。
人口数と高学歴者の数が増加していても、高い経済成長が続き、生活水準の上昇、ならびに高学歴者の雇用数が増大している限り、社会は安定しており、社会的な騒乱はめったに発生しない。どんな人間でも努力さえすれば、社会階層の上昇が期待できる状況である。
しかし反対に、格差が固定化して、政治や経済のシステムが一部の特権階級に独占された状況では、たとえ経済が成長していたとしても、社会階層の上昇は保証されない。格差とともに社会階層は固定化される。すると、たとえ高等教育を受けていたとしても、期待した仕事は得られないことになる。
このような状況が臨界点に達すると、社会的な暴力は爆発し、多くの騒乱や内乱が発生するというのだ。
●新しい記事でも予測
そして、今回の新型コロナウイルスのパンデミックが発生した後に書かれた論文、「コロナウイルスの長期的な影響」では、社会不安が爆発する危険性はさらに高まったとして、次のように書いている。
「合衆国に関する国内対立の私の予測はどちらかというと暗い。アメリカの政治エリートは自己中心的で、分断していて、いつも内輪もめが絶えない。だから私は、これから膨大な数のアメリカ国民は、それこそ、底が抜けてしまったかのような状態に陥るはずだ。
一方、政府財政は破綻の危機に直面しつつ、支援は大企業に限定されるだろう。その結果、格差のさらなる拡大と政権への国民の信頼感の完全な低下、そして社会不安の激増、エリートの間の激しい闘争が起こる。そして、私が予測のために使っている構造的な人口モデルのあらゆる負の側面が、アメリカで爆発するだろう。私はこの否定的な予測が間違っていることを心から望む。」
ターチンは歴史学者なので大袈裟な表現はしない。この論文の表現も比較的に抑制的だ。だが、「私が予測のために使っている構造的な人口モデルのあらゆる負の側面が、アメリカで爆発する」とは、要するに内乱の発生の警告である。ターチンが2010年に最初に予測したことが、まさに目の前で起こりつつあるのではないか?
●最新記事「2020」
さらに、このような全米規模の抗議デモの拡大が止まらなくなったいま、ターチンは新しい記事を6月1日に自身のサイトで発表した。それは「2020」という刺激的な題名の記事だった。その記事でターチンは次のようにいう。
「2010年に私が2020年頃にアメリカ国内で内乱が発生すると予測したのは、当時の政治情勢の分析に基づくものではまったくなかった。どの社会にも社会の回復力を損なう不安定要因が存在する。それらは、1)貧困と格差、2)エリートの権力闘争、3)政府機関の機能不全の3つである。これらの変数を数値化し、私は「政治ストレスインデックス(PSI)」という指標を作った。
2010年当時、この「PSI」がアメリカとヨーロッパでは急速に上昇しており、2020年には危険な状態になることを示していた。それが予測の根拠であった。
しかし、2020年になったいまでも「PSI」は上昇するばかりだ。下がる気配はまったくない。新型コロナウイルスのパンデミックは、この上昇をさらに加速させている。ということは、ジョージ・フロイド氏への怒りがきっかけで始まった今回の抗議デモがたとえ収まったとしても、新たな出来事が契機となり、社会不安は一層激しくなることが予想される。」
以上である。ターチンは「PSI」は西欧でも上昇しており、アメリカと同じく西欧も激動の時期に入ったので、今後アメリカと同じような状況になるだろうともしている。
●イゴール・パナリンの予測
さらにターチンだけではない。2020年代と特定されているわけではないが、将来のアメリカの分裂を予想しているもう一人の専門家がいる。現在、ロシア外務省外交アカデミーの教授を努めるイゴール・パナリンの予測だ。
1998年、もともとKGB(ソ連国家保安委員会)出身だったパナリンはロシア連邦保安庁から得た機密性の高いデータに基づき、2010年頃にアメリカは6つに分裂するという予測を発表した。これは大手経済紙の「ウォールストリート・ジャーナル」に取り上げられ、ちょっとした評判になった。
パナリンがいうには、今後アメリカは経済崩壊や極端な格差などが原因となり、富裕な州と貧困な州との間に深刻な対立が生じ、次第に富裕州が合衆国の連邦から離脱することで、アメリカは6つの地域に分裂するとした。
他方パナリンは、アメリカの分裂はロシアの勢力を拡大させるのでよい面もあるが、ユーゴスラビア型の内戦を伴う分裂になると、その世界的な影響力は図り知れず、ロシア経済にも相当なダメージがある。そのため国際社会は協力し、チェコスロバキア型の秩序ある平和的な分裂を実現できるように努力しなければならないとした。
●予測の評価
このような予測であったが、もちろん2010年にアメリカの分裂は起こらなかった。だから、この予測がまったく無意味であったかといえばそうではないだろう。
2007年にサブプライムローンの破綻が引き金となり、深刻な金融危機が起こった。その影響でアメリカ経済は、2008年と2009年は実質的にマイナス成長となり、国内経済は大変に混乱した。
そのような状況を受け、2009年には米政府の横暴に抵抗し、地域共同体と国民の自立を主張して200万人をワシントンに結集した「ティーパーティー運動」や、2011年には格差に反対して全国に拡大した「オキュパイ運動」などが燎原(りょうげん)の火のように拡大した。
もちろんこれらの運動で、アメリカは分裂こそしなかったものの、かつてないような政治的対立が生まれた。これはまさに、2010年ころに経済崩壊から分裂に至るとしたパナリンの予測に近似した展開であった。そうした意味では、評価する声も大きい。
一方パナリンは、2010年に、これでアメリカの矛盾は解決されるどころか、予測が発表された1998年よりももっと深刻になっているとし、分裂の火種はさらに大きくなっていると発言していた。そして、時期は明示できないものの、将来アメリカは分裂する可能性は高いとした。
そして、いま我々は2020年の大混乱を目の前にしている。これは、やはりターチンが予想する大混乱や、パナリンの予想するアメリカの分裂に向かって進んでいる可能性を示唆してはいないだろうか?
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/