ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
早いもので6月になりました。もう年の半分が終わってしまいました。「パナマ文書」はほとんど報道されなくなっていますが、今回の記事は前回の続きです。前回詳しく解説したように、「パナマ文書」は米政府の国策機関である「ICIJ」が分析を進め、一部を公開した文書です。これは、決して偶然公開されたものではありません。そこには、米政府の国家戦略上の目的があると見て間違いありません。
ではその目的はなんでしょうか?
●アメリカがタックスヘイブンを独占
もっとも大きな目的は、パナマをはじめとした主要な租税回避地(タックスヘイブン)を潰し、アメリカに富裕層の資金を集中させることです。ネバダ州、ワイオミング州、サウスダコタ州、デラウエア州の4州はすでに租税回避地として機能していますが、それらを世界最大の租税回避地として強化するのが目的です。
そのためには、富裕層の資金の集中がすでに始まっているロンドンを先に潰す必要がありました。それが、英首相の税金逃れの資金運用の実態を公表した理由でしょう。
タックスヘイブンに集中している富裕層の資産は、概算では21兆ドル程度ではないかと見られています。ちなみに、ニューヨーク証券取引所の株価の時価総額が16.7兆ドル、日本の東京証券取引所は3.5兆ドル、そして全世界のGDPの総額は45兆ドルですから、その額がいかに大きいのかが分かります。
日本円ではおおよそ2400兆円ほどになります。日本政府の国家予算が96兆円程度ですから、その25倍です。まさに天文学的な額です。
●アメリカをタックスヘイブンにする仕組み
少し調べるとすぐに分かりますが、アメリカは自国がタックスヘイブンになるための枠組み作りを数年前から周到に準備していました。
2007年、スイスの国際的な金融グループ、UBSがアメリカ人富裕層の口座を国外の租税回避地に隠蔽していることが判明しました。米政府はアメリカ人の口座の全面的な開示を求め、同様の隠蔽を行っていたクレディスイスを含む80もの金融機関に50億ドルもの罰金を課しました。
こうした事件がひとつの契機となり、2010年には「外国口座税務コンプライアンス法(FACTA)」が制定され、2013年から施行されました。この法律は、アメリカの市民権を持つすべての人々に、保有する金融資産の「米国税庁(IRS)」への報告を厳格に義務づけます。また、米国内のみならず海外の銀行も、米国民の口座をすべて「米国税庁」に報告しなければなりません。もし米国民が国外のタックスヘイブンに秘密口座を持っていることがばれると、巨額の罰金が課せられます。
その後2015年9月には、「香港上海銀行(HBSC)」のスイス支店からおびただしい数の秘密口座がリークするという事件がありました。その総額はおおよそ1200億ドル(14兆3000億円)で、口座の保有者には多くの著名人が含まれていました。
これまでスイスの銀行では口座所有者の秘密が保持されたため、本国で租税の支払いを回避したい富裕層の理想的な資産移転場所とされてきたました。だが「外国口座税務コンプライアンス法」の制定後、「HBSC」の事件なども手伝って、スイスの銀行はその伝統となっていた守秘義務を維持できなくなり、現在ではもっとも透明性の高い金融機関になっています。
そして2012年、OECD(経済協力開発機構)はアメリカの「外国口座税務コンプライアンス法」にならい、「共有報告基準」を成立させた。これはタックスヘイブンの出現を防止するため、各国が銀行口座、投資信託、投資などの情報をオープンにして共有するための協定です。これまで理想的なタックスヘイブンとして見られていたシンガポールや香港を含め、97ヵ国が調印しました。もちろん日本も調印しています。
ところが、アメリカ、バーレーン、ナウル、バヌアツの4ヵ国だけが調印しませんでした。アメリカはこの協定に入っていないのです。
●アメリカ国内のタックスヘイブン
これはどういうことかというと、アメリカは「外国口座税務コンプライアンス法」を楯にして、他の国々の金融機関に口座内容などの情報をすべて開示するように求めますが、アメリカ国内の金融機関の情報は他の国に対して一切公表しないということです。つまりこれは、アメリカ国内に租税回避のための秘密口座を持っていたとしても、これを他の政府に開示する義務はないことを意味しています。つまり、アメリカ国内のタックスヘイブンはまったく問題ないということです。
米国内にタックスヘイブンを作ると、国内外から集まる富裕層の資産は米国内で投資・運用されるため、米経済の成長に利することになります。反対に、米国人の資産が海外のタックスヘイブンに流れると、海外で運用されるため米経済にはプラスになりません。
いま米国内には、ネバダ州、サウスダコタ州、デラウエア州、ワイオミング州の4つの州がタックスヘイブン化しています。アメリカでは租税は基本的に州政府が決定していますが、これらの州では「法人地方税」と「個人住民税」がありません。さらに、破産したときに州内にある財産の差し押さえをできないようにする「倒産隔離法」なるものが存在しているところも多いのです。また、どの州でも簡単な用紙に記入するだけで、誰でも会社が設立できます。
OECDが成立させた「共有報告基準」にアメリカが参加していないことは、米政府が国内のタックスヘイブンを維持し、そこに集中した世界の富裕層の資産を、米政府自らが他の国の政府の追求から守ることを宣言しているようなものです。
●資金をアメリカに集中させる「パナマ文書」
さて、このように見ると米政府の国策機関である「ICIJ」がなぜ「パナマ文書」をリークし、なおかつその内容を選択して流しているのか分かってくるはずです。
世界の富裕層は「モサック・フォンセカ」でペーパーカンパニーを設立して実態を隠し、架空の法人名でパナマをはじめ世界のタックスヘイブンのオフショア金融センターで資金を運用しています。「パナマ文書」のリークでペーパーカンパニーの本当の所有者がだれであるのか分かってしまうため、米政府やOECD諸国が「外国口座税務コンプライアンス法」や「共有報告基準」を適用してオフショア金融センターの銀行に口座の開示を迫ると、実際の資金の運用者の名前が明らかになり、本国の租税の徴収対象になってしまいます。
これを回避するためには、ペーパーカンパニーと銀行口座の所有者の本当の名前が公表されるリスクが絶対にない地域に、富裕層は資金を早急に移す必要があります。そうした地域が米国内の4つの州なのです。これから世界の富裕層の巨額の資産は、いまアメリカへと一気に移動しています。この資産をアメリカ国内に引き寄せることが、「ICIJ」のような国策機関が「パナマ文書」の内容を選択的に公開した理由だと見て間違いないでしょう。
●不況に突入する米経済
では、なぜ世界の富裕層の資金を、アメリカをタックスヘイブン化して集中させなければならないのでしょうか? 昨年のFRBによる利上げ以後、世界の投資資金は新興国からアメリカに移動しています。それなのになぜ、パナマのような海外のタックスヘイブンを壊滅させてまで、いまの時期にアメリカに資金を集中させる必要があるのでしょうか?
その理由は、米政府はこれから米経済が深刻な不況に突入することを予見しており、それに備えるためです。
景気が減速している中国などの新興国にくらべ、米経済は堅調に成長しているとの報道が目立ちます。ニューヨークダウは最高値を更新し、GDPの成長率も年率で2%台の後半になる見通しです。これは先進国としてはかなり高く、0.4%の成長率の日本を大きく引き離しています。
でもいま、米経済は深刻な不況に突入する可能性が高くなってきているのです。その理由は、米企業の大幅な債務の増大と利益の減少、そしてそれらが引き起こしているある悪循環の存在です。
●米企業の抜け出せない悪循環
これは次のような悪循環です。
2008年のリーマンショック以降FRB(米連銀)は、ゼロ金利政策、ならびに米国債と住宅ローン債権の買い取りを骨子とする量的金融緩和策(QE)を昨年まで3度にわたって実施してきました。そのため、市場はほとんど金利のかからない資金があふれることになりました。
他方、アメリカの実体経済は伸び悩み、需要の減少による慢性的なデフレ状態が恒常化しつつありました。このため、特に中小企業を中心に利益は減少し、厳しい経営状態が続いていました。
そこで企業は、利益の減少を補い好調な業績を演出する必要から、社債を膨大に販売し、それで得られる収入に依存するようになったのです。社債は債務にほかなりません。要するに、借金をしてあたかも業績が好調であるかのような状態を維持するということです。現在では、債務は企業の稼働資本のなんと35%に達しています。これは過去20年間で最大の債務の規模です。
だがもし社債市場が大きく下げ、自社の社債が下落すると、この自転車操業は維持できなくなります。また自社株が大きく下落すると、業績に対する市場の不安から社債が売れなくなります。このような危険性があるため、企業はさらに借金をして自社の社債と株を購入し、値崩れが起きないようにしなければならなくなりました。
幸い量的金融緩和で超低金利状態が続いていたので、借金はとても容易でした。この結果、企業の債務は全時価総額のなんと2.5%に達しました。これは4000億ドル相当の額です。
つまり、米企業は好調な業績を演出する必要から社債を販売して債務を増大させましたが、この値崩れを防止するためにさらに借金をして債務を増大させるという悪循環です。一見好調な米経済の背後では、企業によるこのような自転車操業が恒常化しているのです。
●株の暴落と利上げの先送り
これは大変に危険な状態です。もしここでFRBによるさらなる利上げがあると、利払いの増大に耐えられなくなった企業から破綻し、これをきっかけにして社債と株の市場は暴落しかねません。
●「パナマ文書」のリークと富裕層の資金の呼び込み
さてこのように米経済の状況はかなり危ういのですが、FRBが利上げを先送りしたとしても、現在の状況ではちょっとしたことがきっかけとなり、社債と株式の両市場は暴落しかねません。それを契機に、リーマンショックを上回る金融危機に突入する恐れも強くなります。
もしこれが大統領選挙が実施される11月8日以前に起こると、オバマ政権にとっては大打撃となります。もちろん与党の民主党にも逆風が吹き、共和党に有利になることでしょう。
こうした最悪な状況では、もし外部から豊富な資金を米国内に呼び込むことができれば、それによる投資で社債と株価の暴落を防ぐことができます。今回「パナマ文書」のリークでパナマなどの海外のタックスヘイブンが潰され、富裕層の資産が米国内のタックスヘイブンに移動してくると、こうした資産はやはり米国内で運用されることになります。かなりの部分が社債と株式の購入にまわることは間違いありません。市場の暴落と金融危機は回避される可能性が高くなります。
●EU諸国の社会不安は好都合
他方、「パナマ文書」のリークで税金逃れをしている富裕層への反発は大きくなり、社会不安が高まることも間違いありません。5月10日にさらに多くの情報が「パナマ文書」で公開されました。でも、米政治家やそれと関連する米大手企業の情報はほとんど公開されていません。
いまのところ、選択的に公開された情報は、EU諸国やアフリカに関するものが多いのです。このため、さらに情報が公開されるにしたがい、特にEU内では富裕層に対する抗議運動がこれから増える可能性があります。社会不安の高まりです。これはいまの難民問題とともに、これからEU諸国を揺さぶる大きな問題になることでしょう。
しかし、オフショアのタックスヘイブンが潰され、各国で富裕層への反発と抗議が高まれば高まるほど、富裕層の資産は、米政府によって秘密が保護されている米国内のタックスヘイブンに殺到するはずです。皮肉にも、他の国々の社会不安の増大がアメリカへの資産移動を加速させるという構図です。
また、このようにアメリカが世界の中心的なタックスヘイブンになることで、基軸通貨としてのドルは延命し、アメリカを中心とした現在のグローバル資本主義のシステムも維持される結果となります。米国内に集中した富裕層の資産は、やはり米国の金融機関を通して世界の他の地域に分散的に投資される。
このようにして、グローバル経済に資金を循環させる心臓としての役割をアメリカは引き続き担い続けることが可能になります。これはまさに、上海協力機構を中心に結束している中国とロシアの台頭に対抗し、アメリカの覇権を引き続き延命する方策でもあります。
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
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★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/