ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
7月になりました。6月23日、英国のEU離脱が国民投票で僅差で決定されました。これは予想外の結果だったため、世界に大きな衝撃が走りました。その結果、ポンドは急落し世界同時株安になったのです。おそらく時間が経つごとに離脱の影響の大きさが明らかになってくるでしょう。
またアメリカの大統領選挙ですが、これもこれから一層混迷することでしょう。7月には民主・共和両党の党大会が開催され、そこで両党の統一候補が決定されることになっています。でも共和党では、トランプの統一候補指名に対する党内からの批判が強く、共和党首脳部は党規約を変更してこれまでの予備選挙の結果の一部を無効にし、トランプを統一候補から無理やり引きずり落とすことも考えています。こんな非民主的なことをすると、トランプの支持者は激しく抵抗し、選挙戦は予想を越えて荒れることでしょう。
このように見ると、7月は予想を越えた大きな出来事が起こり、歴史に残るような月になる可能性だってあります。
●世界的な反エリート主義の台頭
私はここ数年「抑圧されたものの噴出」というキーワードをひとつの手掛かりとして、いま世界で起こっている出来事を分析してきました。「抑圧されたものの噴出」とは、グローバリゼーションの拡大で没落した中間層の不満、移民排斥を主張する極端な人種差別的感情、戦争や虐殺など過去の歴史的なトラウマを背景とした怨念など、これまで危険がないように管理されてきた否定的な感情が、経済停滞と格差の拡大を引き金にして噴出する状況です。この感情のマグマの爆発で、規定の社会秩序が撹乱され、混乱が拡大します。
英国のEU離脱支持や、米大統領選挙でトランプやサンダースのような候補が圧倒的に支持されたのも、「抑圧されたものの噴出」が背景にあります。極端な格差社会で利益を享受している支配エリート層に対する怒りとなって、「抑圧されたもの」が噴出しているのが、これらの出来事が象徴していることです。
すでにいろんなメディアで報道されていますが、この荒れ狂った怒りと怨念を表現する政党が、右翼や極右、そして急進左派といわれる政治勢力です。フランスの「国民戦線」やイタリアの「5星運動」、そしてギリシャの「黄金の夜明け」などが有名ですが、これらの政治勢力はヨーロッパ各地にあります。アメリカでこうした人々が支持・結集しているのがトランプとサンダースです。
●ロシアの果たす役割
しかし、こうした政治勢力が抑圧された怨念や不満をただぶちまけているだけかと言えばそうではありません。彼らには強く支持する思想が存在します。
それが、「新ユーラシア主義」というロシア発の思想です。7月から始まる激しい動きを深く理解するためにも、これを知っておくことは重要です。
「新ユーラシア主義」とは、1917年のロシア革命の後、西欧諸国に亡命したロシアの知識人から生まれた「ユーラシア主義」を、現代的に引き継いだ思想です。
「ユーラシア主義」とは、著名な言語学者のニコライ・トュルベツコイが1921年に最初に提唱した思想でした。トュルベツコイは、ロシアはアジアでもヨーロッパでもない独自の「ユーラシア国家」としての文化的なアイデンティティーを基本的に有しているので、自立した個人の活動を前提にする西欧流の資本主義の方向性は追求すべきではないとする思想です。むしろ、民衆に寛容な優しい全体主義こそ、「ユーラシア国家」が目指すべきものとされました。
現代では、モスクワ大学政治学部の教授であり、プーチン大統領のアドバイザーでもあったアレクセイ・ドューギン博士が、「ユーラシア主義」を「新ユーラシア主義」として現代に復活させ、広く受け入れられるようになっています。
●それぞれの文化圏の独自性を尊重すべき
ドューギン博士の「新ユーラシア主義」の思想はさほど複雑なものではありません。それぞれの国の文化は独自な価値を有しているので、この文化的な価値を尊重し、それに基づく社会システムを形成すべきだとする主張です。
ドューギン博士は、20世紀までは、1)自由民主主義、2)マルクス主義、3)ファシズムという3つの思想が社会形成の基礎に存在していたと考えます。しかし21世紀になると、マルクス主義もファシズムも姿を消し、「自由民主主義」が唯一の思想として残りました。
自由民主主義には、市場経済と民主主義という2つの基礎があります。現代の世界は、このシステムがあまりにグローバルに拡大したので、だれも「自由民主主義」をイデオロギーとしては認識せず、当たり前の常識としてみなしています。このため、それぞれの文化圏が本来もつ独自な社会思想は無視され、どの文化も、市場経済と民主主義というまったく同一の鋳型にはまらなければならない無理のある状況になっています。これがグローバリゼーションがもたらす悪しき普遍性と統一性だとドューギン博士は考えます。
これは、それぞれの文化圏の独自性をあまりに無視する思想です。どの文化圏も、その文化に独自な社会思想を基盤にしてユニークな社会を構築する権利があるはずです。この権利を追求し、グローバルな「自由民主主義」に対抗する第4の思想の潮流こそ「新ユーラシア主義」です。
「ユーラシア」は、アジアでもなく、またヨーロッパでもない独自な価値と社会思想が伝統的に存在している地域です。その価値と思想は、多民族的で多文化的であり、多くの民族のバランスと協和のもとに成り立つものです。
ロシアは、このユーラシア的価値の守護者として振る舞い、どこでも同じ価値を強制する「自由民主主義」に対抗しなければなりません。そして、ロシアが「新ユーラシア主義」の守護者となることで、中国は中華文化圏の、日本は日本文化圏の、ヨーロッパは欧州文化圏の、そして北米は北米文化圏のそれぞれまったく独自な価値を社会思想として追求し、それぞれ独自な社会を構築することができるのです。
ロシアこそ、こうした運動の先駆けとなれなければならない。これが、アレクセイ・ドューギン博士が提唱する「新ユーラシア主義」の思想です。
●拡散する「新ユーラシア主義」とロシアの影響力
この思想が、ヨーロッパの極右や極左のみならず、格差の発生や伝統的な社会秩序の解体など、欧米流の規制のない市場経済と民主主義の拡大がもたらした負の効果に憤っているあらゆる党派や集団を強く引き付けているのです。伝統的な文化とその価値こそもっとも貴重なものであり、これに基づいた社会こそ、安定した社会であるとする思想です。
こうした「新ユーラシア主義」は、プーチン大統領の基本的な哲学にもなっています。そのためプーチン大統領こそ、規制されない民主主義と市場原理主義のグローバリゼーションに抵抗するあらゆる勢力から、新しい第4の思想的な潮流の守護者として称賛されているのです。米大統領候補のトランプが主張するアメリカ第一主義や孤立主義ともかなり共通する部分が多い思想です。トランプはプーチン大統領を高く評価し、ロシアとの関係改善を主張している理由も分かります。
さて7月には、アメリカとEUではさらに激しい変動があり、政治的に不安定な状況にもなるはずです。そして、格差の拡大や行き過ぎた市場原理主義への「抑圧された怨念」の噴出が変動の根源にあり、なおかつこれらの問題に対する解決策のひとつとしてロシアの「新ユーラシア主義」が広く支持されているのだとすれば、欧米の混乱はロシアが政治的な影響力を拡大する好機となることは間違いないでしょう。
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/