ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測

このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。

2016.12.01(第34回)
トランプの勝利と抑圧されたものの噴出

 12月になりました。激動の2016年もあっと言う間に過ぎ去った感じです。欧米で激増するイスラム原理主義者によるテロ、白人警察官による黒人の射殺事件の多発から全米に拡大する抗議運動、シリアのアサド政権を巡って鋭く対立するロシアと欧米など、世界の不安定化を示す事件や出来事が多発した1年となりました。
 しかし、今年の最大の出来事は、なんといってもほとんどすべての主要メディアや専門家の予想に反して、米大統領選挙で不動産王のトランプ氏が勝利したことです。これで世界に激震が走りました。

●トランプの勝利と抑圧されたものの噴出
 私は、「抑圧されたものの噴出」と「ブラックスワン」という2つのキーワードを手掛かりにして世界で起こる数々の変動の意味と方向性を読み解いてきました。「抑圧されたものの噴出」とは、グローバリゼーションの過度な進展による格差の拡大で、没落した中間層の怨念が噴出する現象のことです。この噴出は、富裕層と支配層への恨み、民族の歴史的なトラウマの炸裂、そして移民の排斥と差別などの強い否定的な感情を伴って噴出するので、とても危険なものとなりかねません。

 こうした否定的な感情は、私が「イミーバ」と呼ぶインターネットのSNSや掲示板、チャットサイトなどで表出し、多くの匿名の他者との対話を通して一層強い感情へと強化されます。これらのSNSのアクセス数が臨界点に達すると、かなりの規模の集団行動へとつながり、それが予想できない出来事を引き起こす背景として作用するのです。2009年のティーパーティー運動、2010年に始まったアラブの春、2011年のオキュパイ運動など、世界を動かした大きな出来事はこのような過程で起こった典型的な例です。
 昨年の10月に出した拙著、『「資本主義2.0」と「イミーバ」で見た衝撃の未来』(ヒカルランド刊)で私は、「抑圧されたものの噴出」は予想のつかないゲリラ豪雨のようなものであるとして次のように書きました。

 「これらの出来事のどれをとっても、「予想を越えた」「突発的」「想像を絶する」といった言葉で形容できるものばかりです。これらの多くの出来事に共通した特徴は、比較的小さな突発的な出来事が、世界を揺るがす大事件へと瞬く間に発展するという点にあります。

 これは、こうした出来事が、最近日本国内の随所で頻繁に発生している突発的なゲリラ豪雨に似た性質をもっていることを表しています。ゲリラ豪雨は、上空の大気が不安定になって発生した積乱雲が原因となって起こります。通常だと積乱雲は、10分くらい続く夕立を引き起こすだけで、一時間に200ミリというような集中豪雨なみのゲリラ豪雨の原因になることはありません。でも、気象庁の予測を完全に裏切り、夏の熱波を冷やしてくれる夕立が、突如としてゲリラ豪雨に発展し、洪水を引き起こしたり、都市の交通を麻痺させる自然災害を引き起こしたりするのです。
 「ティーパーティー運動」「アラブの春」「オキュパイ運動」、そして2014年のトルコやブラジルで荒れ狂った「反格差抗議デモ」などは、ちょっとした小規模の集会やデモにしか過ぎず、夕立程度の雨になるはずだった積乱雲が、予想を越えたゲリラ豪雨を突如発生させた典型的な例です。」

 このように、抑圧された否定的な感情はSNSなどのイミーバを通して強化・増幅され、アクセス数が一定の臨界点に達すると思いもよらない大規模な集合行動を引き起こし、ゲリラ豪雨のような予想のつかない「ブラックスワン」として出現します。
 トランプは、すぐに消えると見られていた泡沫候補のひとりでしかありませんでした。それが予想をはるかに越えた大変なゲリラ豪雨となってしまった典型的な例です。この意味でトランプという人物は、没落した中間層の不満と怨念という「抑圧されたものの噴出」でした。その否定的な感情の象徴こそ、トランプという人物なのです。

●LEAP2020によるトランプ政権の予想
 では「抑圧されたものの噴出」であるトランプ政権は、どんな政権になるのでしょうか?
早くもフランスの著名なシンクタンク、LEAP2020がトランプ政権の政策に関する詳細な予測を発表しました。

 ちなみにLEAP/E2020(LEAP2020)は、2006年1月にフランスの著名な政治家であるフランク・ビアンチェリが設立したシンクタンクです。
 フランク・ビアンチェリは、すべてのEU加盟国から代表をEU議会に送ることを目指している汎ヨーロッパ政党、ニューロピアンズの党首でした。残念ながらすでに故人となっています。ビアンチェリは、多くの研究者やエコノミストをネットワークで結び、ドルを基軸通貨とした現在の世界経済システムの先行きを分析する目的で、LEAP/E2020を立ち上げました。

 LEAP/E2020は、2006年2月に最初の分析レポートを発表しました。2006年といえば、後にサブプライムローン破綻のきっかけとなるアメリカの住宅価格もまだまだ右肩上がりで上昇し、世界の景気も非常によかった時期です。2007年後半から始まる金融危機を予測していた人々はほとんどおりませんでした。
 このような時期にLEAP/E2020は、将来金融危機が発生し、ドルを基軸通貨にしたいまのシステムは、1)引き金、2)加速、3)衝撃、4)移行という4つステージを経ながらほころび、資本主義の中心が複数存在する多極型の秩序に移行すると予想しました。現実の歴史は、実際にこの予測通りに進行しています。
 また早くも2014年には、近い将来イギリスがEUを離脱せざるを得なくなることを予見していました。これは2016年6月23日の国民投票ではからずも実現したことはご承知の通りです。
 さらに2011年ころから次のように指摘し、大規模なナショナリズムが台頭し、国家が強化される時期に入ったとしました。

 「グローバリゼーションの一層の拡大に伴い、もっとも安定しているとされていた管理職、エンジニア、会計士、弁護士、教師、医師、看護士などの専門職がはるかに賃金の安い新興国へとアウトソーシングされ、多くの専門職が失職した。そして賃金の安い専門性のない仕事に就かざるを得ない状況になっている。
 このため、中間層の没落の波は加速し、これまで社会の安定の基礎であると考えられてきた中間層は、実質的に地盤沈下してしまった。
 さらに、国内の需要にだけ依存したローカルな企業は一層停滞したので、リストラを繰り返して収益を維持する構造が定着した。
 このような変化の結果、先進国、そして新興国でも所得の格差が巨大化し、国内にストレスが充満する状況になった。充満した不満とストレスは、グローバリゼーションに抵抗し、抗議する運動を呼び起こすだけではなく、さらに過激な暴動や騒乱の引き金にもなる。さらに、移民の排斥、ナショナリズム、極右政党の台頭などの極端な現象を誘発している。」

 いみじくもトランプの勝利が明らかにしたのは、数年前にLEAP2020が予見した動きが現実となりつつあるという事実です。
 そのようなLEAP2020ですが、11月16日に発表した最新レポート、GEAB109でトランプ政権がどうなるのか具体的に予測しました。項目別に分けて紹介します。

●トランプ政権全般
 トランプは没落した中間層の怨念を背景に勝ち上がった人物だ。その意味では、グローバリゼーションに適応できなかった米国民の象徴である。だから、トランプが革命的な変革を成し遂げることはないだろうが、既存のアメリカのあり方を大きく変更することにはなるはずだ。
 だが、そうではあっても、トランプが現在のアメリカの支配層の意志に反する政策を実行すると考えることはできない。エスタブリッシュメントの要求を反映して行動するはずだ。

●アメリカ民主主義の崩壊
 2016年の大統領選挙は、54.2%という過去20年間で最低の投票率であった。なおかつ、一般得票数ではクリントンが100万票も上回っていたにもかかわらず、アメリカ独自の選挙人の獲得数でトランプが勝利したのだ。これは一人一票の本来の民主主義は、アメリカでは完全に否定されていることを意味する。アメリカ民主主義の崩壊である。

●ヨーロッパにおけるポピュリズムのドミノ
 周知のように、現在のヨーロッパでは次の2つの政治的諸力が存在する。

1)EUを主体にしたグローバルエリート
 これは、現在もEUを主導している中心的な勢力である。EUの本部のブリュッセルを拠点に、EUの国民国家を超越した高い政治的、経済的な統合の実現を目指す政治エリートの集団だ。いまEUは明らかに分裂に向かっているが、これをなんとか押し止どめている。

2)国家主権強化を目標にした極右勢力
 一方、各国にはEUのこのような統合強化に反対し、反グローバリズムと国家主権の擁護を主張するポピュリズムの運動が存在する。この運動の統一したシンボルとなっているのが、アメリカの価値観の強制に反対しているロシアのプーチン大統領だ。
 ロシアは模範的な民主主義国家とは言えない。その意味では、ヨーロッパとはかならずしも価値観を共有しているとは言えない存在だ。これまでは、これが限界となり、プーチンを賛美するヨーロッパのポピュリズム運動は拡大することができず、極右という狭い枠組みのなかに押し込められた状況になっていた。
 しかし、民主主義の価値を共有するアメリカで同じ反グローバリズムのトランプ政権ができることで、ヨーロッパのポピュリズム運動は、極右という狭い枠組みを突破して、幅広い国民層に支持を拡大することができる。その結果、ヨーロッパではポピュリズムの嵐が吹き荒れることだろう。この結果、次の3つのことが起こると予想できる。

・2017年夏前後
 来年はフランス、ドイツ、イタリア、オランダ、オーストラリアなどで総選挙が予定されている。この選挙で各国のポピュリズム運動が大きく躍進する。だが、EUの統合を目指す既存の政権与党はこれに激しく抵抗する。

・2018年から2019年にかけて
 しかし、ヨーロッパの主要国ではポピュリズム政党の政権が多数出現し、EU統合派は敗退する。この結果、EUの分裂は加速する。
 だが、これでヨーロッパの統合が失われるわけではない。反グローバリズムのポピュリズム政権は、トランプと同じように「ヨーロッパ第一主義」を標榜し、ヨーロッパの共通した価値観を前提に、新たな連合を形成する。それは主権国家を基礎にした緩やかな連合となる。

・2020年以降
 しかし、ポピュリズム政権の間の連合は長続きしない。国家間でさまざまな問題が出てきて、連合の結束にひびが入る。

●TTIP(大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定)の行く末
 トランプ政権はTTPやTTIPの多国間の貿易協定には反対して、脱退を表明している。しかし、ことヨーロッパとアメリカのTTIPに関する限り、脱退はない可能性の方が高い。アメリカに不利だと思われる条項について、再交渉を要求されるだけだろう。TTIPは協定として成立し、「大西洋横断同盟」がアメリカとヨーロッパとの間に形成されるだろう。これはヨーロッパ諸国でポピュリズムの政権が台頭したとしても、ヨーロッパに主権国家の同盟が成立する限り、変わらないはずだ。

●ロシア、中東、そして多極型世界が正式に成立
 このEUとアメリカの「大西洋横断同盟」にはロシアも参加することになる。2014年に発生したウクライナ危機による欧米とロシアとの対立関係は、民主主義を共通の価値観とする欧米に、ロシアを統合するのに失敗した結果起こったことだ。一方、ロシア、アメリカ、EUの「大西洋横断同盟」は、欧米的な価値ではなく、プーチンの多極型のモデルを土台にして形成されるはずだ。
 この同盟関係の成果は、まず中東における「IS」との戦いに顕著に現れるはずだ。これまではロシア、イラン、そしてシリアが、アメリカ、EU、サウジアラビアに敵対する関係だった。それが、これらの勢力すべてにイスラエルさえも加わり、「IS」の撲滅で共闘することが可能になる。これはあまりに楽観的なシナリオに聞こえるかも知れない。だが、これは現実になるはずだ。

 これをひとつのきっかけとしながら、多極型世界が正式な世界秩序となる。これがトランプ政権のもたらす最大の成果となる。もしクリントンが大統領になっていたとするなら、ロシアとの敵対関係は頂点に達し、2017年の春には軍事衝突が発生していたことだろう。トランプが次期大統領に選ばれたことで、少なくとも当面は、戦争の危機は回避されたと見てよい。
 だが、世界の覇権を握る超大国が存在しない多極化した世界は、不安定である。1930年代の世界も多極化していたことを我々は忘れてはならない。

●中国との緊張した関係
 一方、中国との関係は緊張する可能性がある。それというのも、トランプ政権が実施するとしている保護主義はなによりもまず中国に適用されることになるからだ。中国製品の関税が引き上げられる。しかし中国は、同様の報復処置を発動することだろう。以前から我々は、2020年前後には中国とアメリカとの緊張関係は危機的なレベルに高まると予想しているが、そうなるだろう。
 しかし、そうした緊張関係にもかかわらず、中国の拡大を止めることはできない。中国とロシアとの協力関係は深まることがあっても、疎遠になることはまずない。ロシアの協力もあり、中国は自国に有利な国際秩序の構築を淡々と推し進めるはずだ。トランプ政権は、苦痛を味わいながら、この新しい国際秩序を容認する方向に動くはずだ。

●ユーロの今後
 ヨーロッパの主要国で拡大する反グローバリズムのポピュリズム運動によって、現在のEUは分裂し、主権国家を前提にした緩やかな国家連合へと置き換わる。しかし、それでもユーロは存続すると我々は考える。
 それというのも、ユーロを廃止しそれぞれの国の通貨に移行するにはあまりに大きなコストがかかるからだ。ユーロはすでに国際的に確立された通貨なので、将来立ち上がる国家連合もこれを容認するだろう。少なくとも、2017年にもユーロは存続しているはずだ。

●トランプ政権のちぐはぐな経済政策
 このように、トランプ政権は国際関係では多極型の国際秩序を容認し、それに適応するという大きな成果を残すことになるはずだ。しかし、経済政策ではちぐはぐで一貫性がなく、失敗する公算が高い。
 トランプは1)巨額のインフラ整備、2)富裕層と低所得層、ならびに企業への大減税という2つの矛盾した政策を実施しようとしている。インフラ整備のための財源をどこから調達しようとしているのだろうか?

 防衛費や社会保障費の削減に限界があるとしたら、国債発行による債務の増大しか財源はない。トランプは、2010年に施行された「フランク・ドット法」を廃止しようとしている。この法律は、商業銀行の金融商品への投資を制限するものである。しかし、この法律を廃止したとしても、資金がインフラ整備に向かう保証はない。おそらく向かわないだろう。

・政府がFRBを直接コントロールする

 とすれば、国債発行以外に財源はない。最終的には、FRBに国債を直接引き受けさせ、ドルを増刷する方向に向かうことだろう。そのためには、FRBを国営化して、政府の完全なコントロール下に置くことだろう。

●当面は金利上昇とドル高、長期的にはドル安
 債務に過度に依存したこうした経済政策の結果は明らかだ。いままで以上に国債が発行されるので、国債の価格は低下し、それに合わせて長期金利は上昇する。高い金利は国外の投資資金を米国内に引き寄せるので、当面はドル高になるはずだ。この集中した資金はインフラ整備に使われる。
 しかし、資金調達のための国債発行は増加し、FRBによる紙幣の増刷は増えるので、長期的にはドル安とインフレが発生する。このような展開になるはずだ。

●トランプ家による経済の私物化
 そして、トランプ政権にもっとも特徴的なことは、経済の一部がトランプ家によって私物化されることだ。我々はこれを「ポロシェンコ化」と呼ぶ。これは、ウクライナのポロシェンコ大統領にちなんだ名前だ。ポロシェンコ大統領は、自分の所有するチョコレートメーカーの製品を、国際空港で独占的に販売できるようにしている。これと同じように、トランプ家の所有する企業は政府によって特別に優遇され、独占的な利益を与えられることだろう。

 以上です。

 これはかなり包括的な予測です。これまでのLEAP2020の高い的中率から見て、これらの予測のかなりの部分が実現すると見てよいかもしれません。

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Profile:高島 康司(たかしま やすし)
高島 康司(たかしま やすし)

社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/

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