ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測

このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。

2021.02.01(第84回)
トランプを大統領に押し上げた勢力

 2月になった。しかし、いまだにトランプの支持者は多く、勢いを失っていない。
 いまトランプは大統領という立場を越え、「アメリカ第2革命」や、世界の民衆をエリートの支配から解放する革命のリーダー、さらに「アセンション」をもたらす「光の勢力」の戦士などという、極端に膨張したイメージで見られるようになっている。アメリカやヨーロッパ、そして日本でもこのような一種のファンタジーが急速に膨張している。
 しかし、もしこうした抗議運動が肥大化し、欧米各国の政府を不安定化する水準にまで激しくなると、この運動が抗議と反抗の対象のひとつにしている中国をむしろ利する結果になる。
 政権が不安定になっている状況では、既存の世界秩序の変更を求めて活動を強める中国に対して、各国は必要な対抗処置を取れないだろうからだ。中国にしてみれば、「ありがとうトランプ、ありがとうQアノン」ということになるだろう。

 いま急速に盛り上がりつつあるトランプや「Qアノン」を象徴的な存在として崇める運動は、怒りの対象を本当の敵から焦点を逸らす効果のほうが大きいように思う。そのような罠にはまらないためには、トランプの実像と真実をしっかりと認識しなければならないだろう。そもそもトランプは、どのような勢力を母体にして大統領になった人物なのだろうか? これははっきりさせておかなければならないだろう。

●コーク一族と富裕層のリバタリアン
 もともとトランプが、「アメリカ第2革命」のリーダーでもなんでもないことははっきりしている。民主党を強く嫌悪するリバタリアンのコーク一族にかつがれた神輿だったのだ。
 ちなみにコーク一族とは、カンザス州、ウイチタ市に本部のある「コーク・インダストリーズ」を所有する一族だ。今年亡くなったチャールズ・コークと、その弟のデビッド・コークが経営を全面的に担っていた。「コーク・インダストリーズ」はアメリカ国内最大手の石油精製業者のひとつである。石油精製業を中核として、パイプラインの敷設や原油の掘削など、エネルギーに関連した幅広い産業に多くのグループ企業を持つ。
 株式は未上場だが、全米で第2位の規模の巨大企業である。未上場であるため、株主の利益を保護するために設定されているさまざまな会計や金融の規制は適用されない。金融当局の監督なしに、巨額の資金を好きなように動かすことのできる自由がある。特にチャールズ・コークは、ジョージ・ソロスさえ越えるこの膨大な資金を自らの理想を実現するために使っている。
 その理想とは、「リバタリアニズム」を基礎にした社会にアメリカを作り替えることである。コーク一族が信奉している思想家に、亡命ロシア人作家のアイン・ランドがいる。彼女は1930年代から70年代まで活躍した作家で、政府をとことん縮小し、規制のまったくない完全に自由な市場原理に社会をゆだねることが、理想的な社会を実現する最速の方法であるとする思想を展開した。これを、「リバタリアニズム」と呼ぶ。

 チャールス・コークもこの思想を強く支持し、セイフティーネットも公教育も、そして企業活動に対する一切の規制が存在せず、さらに法人税も存在しない世界を理想としている。ここでは政府の機能は、外交と軍事という2つに限定され、極限まで縮小されなければならない。そうした状況で、社会のすべての領域は企業家が自由競争で利益を最大化するためのリソースとして、全面的に開放される。
 このような「リバタリアニズム」の理想に反し、強力な政府によるセイフティーネットの充実や、環境保護のための数々の環境規制、さらに地球温暖化防止のための二酸化炭素排出規制、そして所得再分配のための富裕層への増税などを推し進める民主党は、まさに強い憎しみの対象だった。この傾向が強いオバマ政権は、万死に値するほどの大罪を犯していると見えた。特に、オバマ政権が強化した環境保護のための石油産業の規制策に対しては、強く反発した。

●ティーパーティー運動を仕掛けたコーク
 チャールズ・コークはこうしたオバマ政権を打倒するために、あらゆる手を尽くした。コークは無尽蔵な資金を使って、アイビーリーグの有名大学や著名なシンクタンクに巨額な寄付を行い、実質的に買収した。「ケイトー研究所」、「ヘリテージ財団」、「フーバー研究所」などのシンクタンク、さらにジャパンハンドラーが結集する「CSIS」にもコークは巨額の寄付を受けている。こうした大学やシンクタンクは、チャールズ・コークが強く支持する「リバタリアニズム」に基づく政策を立案し、歴代の政権に提案してきた。
 さらにチャールズ・コークは、「アメリカ人のための繁栄」という財団に同じ超富裕層のリバタリアンを結集し、全米の無数の財団や非営利組織、政治団体、慈善団体に寄付を行い、「リバタリアニズム」の思想を推進する運動を続けた。2009年、オバマ政権が提案した国民皆保険(オバマケア)に反発する200万人の米国民がワシントンに結集し、「ティーパーティー運動」が始まったが、これは自然発生的な運動ではなく、チャールズ・コークが仕掛けたものであった。
 コークは300を越える「ティーパーティー」の組織を全米で立ち上げ、訓練されたプロの運動員を多数送り込んだ。これにより、オバマ政権に反対する「ティーパーティー」の運動は、燎原(りょうげん)の火のごとく全米で拡大した。

●運動の失敗とマーサー父娘
 この「ティーパーティー」運動には、金融界の熱烈なリバタリアンも参加していた。アメリカを代表する屈指のヘッジファンド、「ルネサンス・テクノロジーズ」の代表、ロバート・マーサーと、その娘、レベッカ・マーサーである。ロバート・マーサーは現在のグーグル翻訳の基礎となった人工知能の開発者である。その経験を金融に生かし、巨額を生み出すヘッジファンドを設立した。ソロス並の資産規模を持つ。
 コークとマーサーはオバマの再選を阻止するために手を組み、「ティーパーティー」運動を中核にしたあらゆる妨害工作を仕掛けた。しかし、その結果は惨憺たるものに終わった。2012年の大統領選挙でオバマは再選を果たした。
 これはチャールズ・コークや「アメリカ人のための繁栄財団」に結集する超富裕層のリバタリアン、そしてマーサー父娘を強く落胆させた。2016年の大統領選挙では、リバタリアンの政策を強く推進する共和党の候補を擁立し勝たせることを強く誓った。

●擁立されたトランプとスティーブ・バノン
 そして2014年ころになると、チャールズ・コークとマーサー父娘を中核とするチームに、後にトランプ政権の主席戦略官となるスティーブ・バノンが加わった。バノンは、社会を市場原理で統治することを夢想するいわゆるリバタリアンではない。エリートの支配するアメリカ政府と国家の枠組みを一度革命で解体し、その後にユダヤ・キリスト教の原理を基礎にしたアメリカに作り替えるという革命主義者だ。
 ただバノンとリバタリアンのコークやマーサーは、大きな政府を志向する民主党のアメリカ政府を解体し、とことん機能を縮小した政府に置き換えることでは一致していた。大きな政府の解体論である。

 さらにバノンとコークやマーサーのグループには、一致している点があった。それは、2016年の大統領選挙に確実に勝つためには、民主党も共和党も票田としては無視し続けている層の怒りを追い風にしなけれなならないという認識だ。
 その層とは、グローバリゼーションの波に乗れずに没落した労働者層である。この層は、自分たちの生活を崩壊させたワシントンのエリート層への怒りと怨念を強く持ち、彼らの代弁者になれる候補であれば確実に勝利できると見たのだ。
 そして、バノンとコーク、ならびにマーサーはこの層を対象にした入念な世論調査を実施し、どんなタイプの人物を大統領として希望しているのか発見した。それは、外部から乗り込んでワシントン政界を壊すことのできる「普通の人」というイメージだった。

 そこで白羽の矢を立てたのがトランプだったのだ。トランプが著した4冊の本を読むと、トランプはかねてから大統領になる野心を持っていた。トランプはこのオファーを受け入れた。トランプの選挙キャンペーンは、チャールス・コークとマーサー父娘の巨額の資金を使って始められた。そしてバノンとマーサーは、SNSからの個人情報を取得し、効果的な選挙広告を個人別にカストマイズできる「ケンブリッジ・アナリティカ」を創立し、いままでにはない効果的なキャンペーンを展開した。

●勝利したトランプの政策とコーク一族の離反
 トランプは、この前例のないキャンペーンで勝利したが、トランプが最初に実行したのは、エネルギー産業の規制撤廃、環境保護規制の撤廃、パリ協定からの離脱、富裕層向けの減税などであった。これらの政策は、リバタリアンの信奉者であるチャールス・コークが長年提唱していた政策であった。
 初期のトランプ政権は、まさにコーク一族とマーサー父娘に結集するリバタリアンの目標実現に近づくための政権であった。それは、最小限の政府機能を持ち、一切の規制のない完全に自由な市場経済による社会統治という理想である。トランプの主張するスローガン、「ドレイン・ザ・スワンプ(ワシントン政界の浄化)」というスローガンは、まさに大きな政府の解体論であった。そのように考えて間違いない。

 しかし、トランプとコーク一族との蜜月関係は長くは続かなかった。リバタリアンのコーク一族は、完全な自由貿易主義者であった。彼らは2017年後半からトランプが採用した保護主義的な高関税、ならびに移民の規制策に強く反対した。移民の流入は、労働力の価格を押し下げるためには必要な政策だと見ていた。チャールス・コークは強い不満を表明した。
 これに対してトランプは激しく反応した。また政府解体論で革命主義者のスティーブ・バノンも、コーク一一族の金は中毒になると警告した。その後、トランプを強くバックアップしていたコーク一族とマーサー父娘は、トランプから離れた。そしてトランプには、別の人脈が結集した。ナショナリストの人脈である。
 非常に興味深いことに、トランプはチャールス・コークを筆頭にしたリバタリアンの人脈と決裂したタイミングで現れたのが、あの「Qアノン」なのである。コーク一族とマーサー父娘の豊富な資金源を失った後、自らの支持基盤を強化するための戦略のひとつとして始まったのが、あの「Qアノン」であった。
 これを見るとはっきりするが、トランプの背後にいるのはアメリカを支配するエリートの勢力である。トランプは救世主でもなんでもない。トランプとバイデンとの闘争は、実は2つの異なったエリート間の争いでしかないのだ。

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Profile:高島 康司(たかしま やすし)
高島 康司(たかしま やすし)

社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/

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