ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測

このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。

2021.11.01(第93回)
働かない人々はどうやって生活しているのか?

 いま、あらゆる製品でグローバルサプライチェーンの寸断が大きな問題となっている。その背景には東南アジアで続くロックダウンの影響もあるが、もっとも大きな原因は、先進国を中心に発生している労働力不足だ。それはすでにさまざまな産業分野の生産と供給に影響を与えているが、それとともに物流コストの上昇をまねいている。これがインフレを押し上げる原因にもなっている。アメリカと中国の物流の状況を見て見よう。

●アメリカと中国の物流の状況
 船会社のスケジュールを分析している会社「eeSea」によると、ロサンゼルスとロングビーチの沖合には輸入貨物を満載したコンテナ船が60隻以上停泊しているが、中国の上海と寧波の沖合にはその2倍以上の154隻の輸出貨物の積み込みを待っているコンテナ船が停泊している。

 上海と寧波沖で停泊しているコンテナ船の数は、ここ数週間で急増している。10月4日の時点で、全国で242隻のコンテナ船が接岸を待っている。これは太平洋貿易にとって新たな問題となっている。
 これに伴い、物流コストの上昇も著しい。物流大手の「フライトス社」の指標によると、10月、中国から米国西海岸への標準的な長方形の金属製コンテナの輸送コストの中央値は、過去最高の2万586ドルとなり、7月の約2倍となった。

●物流では労働力不足が原因
 この物流コスト上昇のもっとも大きな原因は、実は労働力不足である。必要な貨物処理機器が必要な場所にないことが多く、また、必要な場所にあっても、それを操作するトラック運転手や倉庫作業員の数が不足しているのだ。このため、物流の需要にサービスの供給が追いつかず、物流コストを上昇させている。

 これは、過去30年間支配してきた世界経済モデルに疑問を投げかける結果となっている。コロナウイルスのパンデミックが始まったとき、この物流とグローバルサプライチェーンの寸断の問題は一時的なものと考えられていたが、現在では2022年まで続くことが確実視されている。

 そして、このような状況に対して、物流に関係する多くの国際組織は警鐘を鳴らしている。
 9月30日、このような前例のない状況に対して、「国際海運会議所(ICS)」をはじめとする業界団体は国連総会に出席している各国首脳に宛てた公開書簡を発表した。そのなかで、「世界保健機関(WHO)」が認めたワクチンを優先的に受けられるようにして、各国政府が輸送労働者の移動の自由を回復しなければ、「世界的な輸送システムの崩壊」を招くと警告した。
 各団体は、「世界のサプライチェーンは、2年分の輸送労働者への負担の結果、不安定になり始めている」としている。この書簡には、「国際航空運送協会(IATA)」、「国際道路運送連合(IRU)」、「国際輸送労働者連盟(ITF)」なども署名している。これらの団体は、全世界で6500万人の輸送労働者を代表している。さらにこの書簡では次のように指摘し、労働力不足の深刻さを強調している。

「すべての輸送部門でも労働者が不足しており、パンデミック中に何百万人もの人々が直面した劣悪な待遇の結果、さらに多くの労働者が離職することが予想され、サプライチェーンがより大きな脅威にさらされている。」

 もちろん労働力不足は、すでにあらゆる産業分野で発生しており、モノの生産と供給に甚大な影響を与えている。しかしそれとともに、物流にも大きな影響が出ており、サプライチェーン寸断の原因になっている。

●昂進(こうしん)するインフレとモノ不足
 さまざまな産業分野での労働力不足、ならびにこれが原因で発生している物流コストの上昇が原因となり、世界各国でインフレが昂進している。アメリカの例を見てみよう。
 アメリカでは、車のコンピューター部品からホリデーシーズンの買い物リストに入っているギフトやおもちゃまで、あらゆる製品の価格が上昇している。

 アメリカでのベーコンの平均価格は、過去12ヶ月間で28%近く上昇している。この理由もやはり労働力不足である。米農務省の新しいデータによると、アメリカの豚の飼育数は過去20年間で最も大きく減少した。昨年、屠殺場での労働力不足と飼料高騰のために、農家が豚の飼育頭数を大幅に減らしたことによる。

 このような状況はもちろん豚肉だけではない。モノ不足がさまざまな農産物でも起こっている。例えば、フロリダ州のファーストフードチェーン、「バーガーキング」では、ジャガイモの不足からポテトの提供ができなくなっている。どの店でも、「どの注文にもフレンチフライは付きません。ポテトがありません」との張り紙が出される始末である。やはりこの背景にあるのは、農業労働者不足によるジャガイモの収穫量減少である。
 すでにアメリカでは5%に迫るインフレ率になっているが、労働力不足と物流コストの上昇が解消しないと、この状況はこれからも続くことは間違いないだろう。

●労働力不足の実態
 では、なぜ労働力不足が発生しているのだろうか? その実態とはどのようなものなのだろうか? これもデータが入手しやすいアメリカを例に見てみよう。

 アメリカの労働市場では、パンデミック前とは全く異なる仕事の選択が行われており、仕事の再評価があらゆる場面で行われている。退職者数は過去最高となり、パンデミック前に比べて13%増加している。仕事をしていない、あるいは仕事を探していない人の数は、パンデミック前に比べて490万人の増加した。退職者数も急増しており、パンデミック期間中に360万人が退職し、予想よりも200万人以上も多くなっている。

 アメリカの20歳から64歳までの成人男性の労動参加率を見ると、人々が働かなくなっていることは明白だ。アメリカのこの層の労動参加率は、1949年10月に87.4%でピークに達し、それ以降は右肩下がりになっていたが、パンデミックによるロックダウンなどの影響で、2020年には大幅に下落した。だが、経済活動が再開したいまになっても労動参加率は元に戻っていないのだ。現在は67.7%である。つまり、この層の3割を越える人々が働いていないということだ。

 このような状況に対して、2006年から2014年まで「米連銀(FRB)」の議長を務めたベン・バーナンキは、「多くのアメリカ人は、どこでどのように働きたいかを再検討している。人々は、自分にとって最良の選択肢は何か、どこにいたいのかを考えているようだ」と発言している。

●人々はどうやって暮らしているのか?
 これはいまのアメリカの状況である。しかしこれは、欧州や日本などの先進国でも次第に見られるようになっている。

 またアメリカでは、各州が失業給付金を停止してからも、労働参加率は上がっていない。かつての仕事に戻ることを拒否するか、または働くことそのものを止めてしまうという選択をする人々も増えているようだ。しかし、そうなると、どうやってそうした人々は生活をしているのだろうか? 単純に労働市場を脱落しただけでは、生活は成り立たない。なんらかの生活の糧を見つけなければならない。

 もしそれが困難であれば、時間が経つと多くの人々は以前の仕事に戻り、その結果、生産や物流の労働力不足も解消に向かうだろう。そしてインフレも緩和することだろう。そうなればよいが、実際はどうなのだろうか? 人々が復職する可能性はあるのだろうか? または、新しい生計の手段を発見し、永遠にかつての仕事には戻らないのだろうか?

 そのような疑問を持ってリサーチすると、アメリカの「ヤフー・ファイナインス」が同じような調査をしていた。すると、以前の仕事を退職した人々は、次のような方法で生計を立てていることが分かった。

1)退職金と年金
 やはり一定数の退職者は退職金と年金で生活できているようだ。64歳以下の男性の数百万人が、少なくとも部分的には年金や401Kで生活している。

 アメリカには、約6000の公的機関の退職金制度がある。これらの制度は合わせて4.5兆ドルの資産を持ち、1470万人の現役会員と1120万人の退職者を抱えている。これらの制度では、年間3230億ドルの給付が行われているが、その一部は64歳以下の男性に支払われている。実際、これらの制度のほぼ3分の2では、25歳で働き始めた場合、57歳で最高額となり、仕事をやめるきっかけとなる。
 こうした人々は、パンデミックをきっかけに完全に退職することを選んだようだ。

2)預金、株取引やビットコインなどの投資
 次は、預金や投資によって生計を維持している人々だ。パンデミック以降、アメリカ人の貯蓄額は上昇している。可処分所得に占める貯蓄の割合は、2020年春に33%と過去最高を記録し、現在も14%とパンデミック前の約2倍になっている。こうした貯蓄に依存して生活している人も多い。
 しかし、なんといっても多いのは投資で生計を建てている層の増加だ。米国株はパンデミックが始まったあたりの2020年3月の時期から見ると、約80%も上昇している。この18ヶ月間、ロックダウンで一日中なにもすることがなく家に閉じこもっていた何百万人ものアメリカ人が、株の売買で時間を潰していた。この結果、「クレディ・スイス」の推計によると、2020年初頭以降、市場全体の活動に占める個人取引の割合は、15%から18%の間から、30%以上へとほぼ倍増した。こうした個人投資家は、投資の収益で生活できてしまっている。働く必要はない。
 また、暗号資産への投資も見逃せない収入源だ。ビットコインの価格はパンデミックが始まった2020年3月12日には4861ドルだったが、10月5日には4万7763ドル、つまり10倍に上昇している。今年の春には6万4888ドルを記録したこともあった。ビットコインだけではなく、爆上げしたコインも数多くある。暗号資産はまだ上昇を続けている。この投資で、仕事から解放された人々も膨大にいる。

3)親との同居
 また若年層に目立つのは、親と同居して生活費を節約し、働かない選択をした層だ。パンデミックが始まった2020年初頭以降、親と同居する18歳から29歳の割合が過半数となり、過去の大恐慌時代のピークを超えている。7月には、若年層の52%が両親のどちらか、または両方と同居しており、2月の47%から増加している。こうして生活費を切り詰めながら、投資で収入を得ている人々も多いだろう。

4)違法な仕事
 こうした仕事をしない選択肢のなかで無視できないのが、違法な仕事だ。なかでも突出しているのが違法薬物の販売だ。このビジネスに参加しているアメリカ人の実数は分からないが、どんな人たちがビジネスをしているのかはだいたい分かっている。麻薬密売犯の大半は男性(84.9%)で、判決時の平均年齢は36歳、70%は米国市民だった、麻薬密売犯のほぼ半数はほとんど、あるいは全く犯罪歴がなかった。

 アメリカでの麻薬販売はどのくらいの規模のビジネスなのだろうか? 1000億ドルとも言われている。「ワシントンポスト」によると、2020年の薬物の過剰摂取による死亡者数は9万3000人で、2019年から30%も増加している。過剰摂取のほとんどはオピオイドによるもので、ヘロイン、オキシコンチンなどの合成オピオイド、特にフェンタニルが原因だ。この増加は麻薬取引の違法なビジネスがパンデミックで急速に増大していることを示している。

5)土地に根ざした生活
 次に生活を立てる手段になっているのが、土地に根ざした生活とも呼べるものだ。これには、ガーデニング、釣り、狩猟、アサリ、ベリー類、そして一般的な採集が含まれる。
 例えばカリフォルニア州では、パンデミックの間、釣りと狩猟のライセンス販売が10%増加した。また、ハマグリ漁の人気が高まっている。この理由は、人々が屋外でできる安全なアクティビティを求めているだけでなく、自給自足のためにハマグリ漁をしたり、貝を売ってお金を得ようとする人々が増えたことによる。
 これはワシントン州も同様だ。2020年のライセンス年度が始まった5月から12月31日までに、「ワシントン州魚類野生生物局」が販売した釣り用ライセンスは2019年よりも約4万5000件多く、狩猟用ライセンスは1万2000件多い。新規ライセンス保持者数は、釣り用ライセンスでは16%、狩猟用では40%近く増加した。

 また、家庭菜園での野菜作りも盛んだ。パンデミック以前から、アメリカの家庭の3分の1が野菜を作っていると言われているが、さらに急速の増加しているようだ。いま野菜の種の注文が殺到しているという。

●社会からの脱落を選ぶ?
 おそらくこれが収入源のすべてではないだろう。他のさまざまな記事を読むと、小規模なオンラインビジネスやSNSで収入を得る人も大きく増えているのが分かる。
 いまテレワークが可能な職種では、可能な限りテレワークが導入されている。日本もそうだが、アメリカのテレワークの導入率は極めて高くなっている。こうした人々は、自宅で仕事をしながら収入を得ることのできる立場の人々だ。

 そのような状況を考えると、上のような手段で生計を立てている層の多くは、テレワークができないエセンシャル・ワーカーの人々が中心だと見て間違いはなさそうだ。もちろん、生産や物流などグローバルなサプライチェーンの中核となるような職種もエセンシャル・ワーカーだ。むろん、1)の退職金や年金で生活できている人々は除くが。これは自治体の職員が中心だろう。
 では、上のような収入の手段で継続して生計を維持できるのだろうか? もしこれらが短期的なもので、持続的な生計の手段にはならないのであれば、時間が経つと生産や物流分野のエセンシャル・ワーカーは職場に復帰し、これらの分野の労働力不足は解消に向かうかもしれない。すると、物流コストも下がりインフレ圧力も緩和するに違いない。グローバルサプライチェーンは、パンデミック以前の2019年くらいの時期に戻るかもしれない。

 しかしながら、上のような代替的な生計手段が持続性のあるものであれば、エセンシャル・ワーカーが元の仕事に戻ることはないだろう。麻薬取引は論外としても、株や暗号資産への投資、SNSでの稼ぎ、小規模なネットビジネス、農業や狩りと採集などを有機的に組み合わせ、それぞれが独自な生活圏を形成することが可能になっているのかもしれない。
 もしこのような生き方が大規模に進んでいるなら、労働力不足は慢性化する。そして、最先端のテクノロジーを導入した労働力に依存しない生産と物流の体制ができるまで、インフレの昂進は止まらないだろう。

 だが、一人一人が複数の手段を組み合わせて収入を得て、それぞれが独自の生活圏を形成するという方向性は、労働力として自分を企業に売ることの拒否であり、その意味では資本主義の基本原則からの脱落を意味する。こうした動きこそ、これから資本主義に転換を迫る水面下の動きになる可能性もある。そしてそれは、意識の大きな変化も伴うはずだ。

 そしてこの動きは、いまの日本でも水面下で始まっている。

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Profile:高島 康司(たかしま やすし)
高島 康司(たかしま やすし)

社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/

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