“超プロ”K氏の金融講座
このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
「危機解決に残された時間は3ヵ月しかない!」
投資家ジョージ・ソロスは、欧州危機の秩序なき暴発が迫っていることを警告しました。
ギリシアの選挙で一旦は緊縮派が勝利して欧州危機も小休止のように思われていますが、現状はそんなに甘いものではありません。欧州発からの制御不能な混乱が世界経済を破壊に導く日が刻々と近づいてきているようです。ギリシアなど一時的にデフォルトは回避したものの、市場関係者は「その日」が伸びただけで、ギリシアの破綻は必至と見ています。
それどころか今の中心となっているスペインの問題が片付かず、ついにはドイツにまで影響が及び、ユーロ圏からの大混乱は世界に波及、そして次のターゲットと見られている日本にその壊滅的な流れが来ることは必至と思われているのです。
なぜ3ヵ月なのか? ソロスの真意並びに矛盾の拡大が止まらない欧州を再び振り返ってみましょう。
根深い欧州の問題
一人勝ちと見られていたドイツの景況感がここにきて急速に悪化してきました。さすがに域内の不振の影響がドイツといえども広範囲に広がってきた模様です。そしてソロスが言うには、後3ヵ月もするとドイツの景気がさらに悪化することによって、国民の不満が拡大し、現在議論になっているような、ドイツがさらに負担を増やして他国を助けるという方針は、とてもではないがドイツ国民に受け入れられる環境ではなくなっていくというのです。そしてこの、ギリシアから始まって危機の本丸と言われたスペインの危機については実質的には、ドイツが大幅な資金援助を行うしか救済の方法がなく、それがこの時点で行われないようであれば、この後はドイツの国内要因から政治的に不可能となっていくだろうから結果的にスペインの危機は収まらず、さらにイタリアにまで波及することとなり、ついには欧州全域は無秩序の崩壊状態に陥っていくという見解なのです。ソロスはいまだにヘッジファンド界の教祖のような存在です。彼の見方がそのまま世界の巨大なマネーを牛耳るヘッジファンドの中核的な考えとなっていくと思ってよく、これから当局の必死の政策の出し方を横目で見ながら、一方でユーロ崩壊に向けた大規模な仕掛けが起こってくる可能性が高いのです。
実際もうユーロは完全に終わっています。その矛盾は覆い隠しようもなく、一連のECB(欧州中央銀行)やユーロ当局の政策も、やればやるほど危機のマグマがさらに拡大して溜まっていくだけで、救いようもないステージに向かっているだけです。よく言われるように、一つの国でないのに同じ通貨を使うのが無理なのです。問題を解決したければ、財政統合して一つの国になるか、ユーロ崩壊となってそれを諦めるか、究極的にどちらかの選択しかないのです。しかし一つの国になるということはその各々の国にとっては国家主権の放棄という話ですから簡単にのめる話ではありません、そうこうしているうちに時間切れになってユーロ圏の大崩壊という結末が迫っていると言えるでしょう。
リーマンショックから矛盾が露呈し始めたユーロ圏ですが、私は一貫してユーロ崩壊に向けているということを主張してきましたし、ギリシアの破綻、それに続くポルトガル、アイルランドの破綻、そしてスペインに波及した時にユーロ崩壊が現実のものとなると言ってきました。そしてまさにそのスケジュール通りに、今この時にスペインに危機が本格的に波及してきて、ついにユーロ圏は木端微塵に壊れていくことでしょう。
とにかく何をやってもその場限りのことで、本質的な問題は全く解決できません。本質的な問題解決とは、ギリシアやスペインの企業が強くなって生産性が上がり、競争力をつけ、成長して経済活動が活発化することなのですが、これが全く無理なのです。生産性が上がるどころか下がる一方、スペインの不動産バブルの崩壊もまだ始まったばかりです。
不動産は10年で3倍にもなったのにまだ3割も下がっていません。日本のケースではバブル崩壊後、10分の1になったケースも多々あったわけで、今でもあの頃の値段は夢の価格です。スペインは当然日本のようになっていくわけで、危機の本番はこれからなのです。それにもかかわらず、今のギリシアやスペインの失業率を見てください。何と失業率25%です。4人に1人が職がない。若者に至っては2人に1人です。これは1929年の米国の大恐慌の時よりも酷いのです。まさにギリシアもスペインも実質大恐慌状態と言ってよく、しかもこれからさらに悪くなっていく、これからが本番というのですからもう救いようもありません。
ひたすら「ドイツ頼み」の現状
今まで欧州当局がやってきたことは全てその場限り、金を配っただけです、お金を配れば、当然お金の問題なのですから事は収まります。しかし、本質的なことは改善していないし、改善しようもないので、しばらくするとまた危機がぶり返すのです。
例えば昨年暮れ、ECBはLTRO(長期資金供給オペ)と言って、域内の銀行に107兆円もの資金を1%という破格の金利で、しかもどんな担保でもいいという条件で貸し出しました。しかし驚く事なかれ、その資金はあっという間に使われて無くなってしまったのです。何に使ったって? まず銀行の社債の償還です。欧州の銀行は資金に詰まっている状態なので、社債を償還して資金を返してしまうとたちまち資金ショートを起こして立ち行かなくなってしまうので、その償還資金に使って急場を凌ぎました。さらに余った資金でスペインやイタリアでは自国の国債を大量に買ったのです。国債市場の暴落を止めるためです。これで昨年末の欧州危機は一時的に封じ込めました。ところが今度はその時に購入した国債が値下がり(金利上昇)して、さらに銀行は一回り大きな苦境に陥っているのです。簡単に言えば、借金で首が回らなくなった時に膨大な資金を借り入れることができた、その資金を使ってまた投資をしたら更にまた大損してしまった、というわけです。
これでは半年前よりも状況は悪化ではないですか。だって返せない借金の額も損金の額も増えたわけですからね。それが今のスペインの銀行危機の発端です。
一時が万事これなのです。借金を返せないからさらに借金を重ねていくことで借金の額が天文学的になるまで行っているわけです。そしてまた借金をするしかないのです。
今回スペインで起こってきたことは、今まではスペインという国が借金をしてこの自国の銀行の問題を解決しようとしていたわけですが、今ではスペインが自国の銀行を助けようとして国家が借金をすると、今度はスペインという国家の信用がますます落ちていくので、どうにもならなくなってしまったのです。まさにスペインもイタリアも自国の銀行とグルになってお互い資金繰りを行ってきたわけですが、完全に化けの皮が剥がれ信用を失墜、もう誰からも相手にされなくなってしまったのです。
だからドイツの出番なのです。ギリシアもポルトガルもアイルランドもイタリアも、自らが借金をしようとすれば、市場はもう100%返せなくなっていくと思われるので、ますます信用度が落ち、金利が上がるという悪循環に入ってきてしまったのです。こうなると抜け出すことはできません。勢い、自らの借金は封印して他からの援助、ないしは他からの保証の下の資金に頼るしかないところまできてしまったのです。
そして頼れるところはドイツしかないのです。スペインやイタリアに資金を出すのにギリシアやポルトガルやアイルランドが参加できるわけもなく、またフランスももう余裕がありません。ドイツが救いの手を差し伸べるしかもう方法がないのです。それが今一生懸命模索されている状態です。
具体的に焦点となっているのは、ユーロ共同債、ユーロ圏の銀行同盟、ないしはECBによる域内国債の買い付けか、あるいは昨年12月に行ったLTROという域内銀行への大幅な貸し付けの再開です。これらは全て結果的にはドイツの膨大な負担となるしかないのです。
ユーロ共同債は、ユーロ圏皆の信用を下に一緒に借金をしてそれを皆で一緒に返そうということです。実際はそのユーロ共同債でギリシアを助ければ、ギリシアは他国の信用の下に低い金利で借金ができるわけです。そして皆で返すといっても、ギリシアは元々資金がないので借りているくらいですから、返済に回る資金が捻出できるわけもなく、結局ドイツに返してもらうという構図です。銀行同盟だって同じことです。今預金が急激に引き出されているのはギリシアやスペインの銀行です。そしてギリシアやスペインの銀行は屑のような自国の国債を大量に保有していますので、財務状況は危機的で、実際債務超過状態でしょう。こんな状態で銀行同盟を作って皆で助け合って銀行を潰さないように維持させようということは、結局、ドイツの銀行がギリシアやスペインの銀行に資金供与することに他なりません。ECBの活躍も同じことです、例えばECBは昨年12月からLTROで107兆円という大盤振る舞いをしましたが、これはスペインの銀行の例やギリシアの例も持ち出すまでもなく、不良化してきています。現実にECBが損失を被れば、その損失はECBに対しての出資比率に応じて欧州各国が負担するしかなく、そうなれば結局出資比率が一番大きいドイツが負担するしかありません。第一に皆で負担すると言っても、他の各国は借金で今にも破綻しそうなのですから払えるわけもありません。こうして全ての借金はドイツが面倒をみることになるしかないのです。そして今はもうそうするしかこの急場を凌ぐ事態がないのです。
オバマ大統領も先日G7でメルケル首相に直談判していたわけです。ユーロ圏の銀行同盟の要請です。あらゆる意味で世界中、全てドイツに圧力をかけているわけです。
「ドイツが全てを救えるわけではない」とメルケルの必死の防戦ですが、実際、ドイツももうギリギリです。第一に各国の中央銀行経由という形で、「TARGET2」というシステム(拙著新刊の『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)の中のレポートを参照)ですでに域内に70兆円近い資金を貸し出している形になっています。
また銀行同盟と言いますが、ユーロ圏の銀行の総資産はおよそ2,000兆円ですが、その資本は100兆円程度です。このユーロ圏の銀行は軒並み自国の国債を購入しているわけで、仮にギリシアの離脱から国債の連鎖的な暴落が起きた場合はとても払い切れる額ではありません。こんなものをドイツが本気で全て保証すれば、ユーロ圏各国の国債暴落が起きればそれを銀行同盟という形で保証する羽目に陥ってしまいますから、ドイツといえども破綻の道へまっしぐらでしょう。ECBの再三の大盤振る舞いも同じことです。結局はドイツにしわ寄せがくるしかありません。市場は完全にこのようなシナリオを警戒し始めてきました。国家破綻を図るCDS(クレジット・デフォルト・スワップ =いわゆる倒産保険)の値はドイツは1%を超えて米国の倍以上、今や日本よりこのCDSの市場では信用度が低いのです。
実際、今のギリシアやスペインを救う方法はありません。ギリシアやスペインはお金がないのにもう借金ができない状態なのです。自国の中央銀行があれば紙幣を刷りますが、それができません。そして為替の調整もできません。まさにユーロと言う共通通貨の悲劇でこうなってくると経済危機を自分で解決する方法がなく、緊縮財政がさらなるデフレを引き起こし、奈落の底に落ちていくだけです。ですからここまで来ると今のギリシアやスペインは実質的なドイツの援助なしでは立ち行きません。
一連の要請や問題に対してメルケルは、一貫して筋を通し、正論を述べています。
「ユーロ共同債や銀行同盟、追加の救済基金、それが必要だとドイツを説得しようとする人、全てに言いたい。これらの提案は完全に非生産的だ。これらは平凡さを欧州の基準にしてしまう。ひいては国際競争の中で繁栄を維持するという我々の目標は放棄を余儀なくされてしまう。」
生産性を上げて、競争力を向上させてこそ経済が立ち直る、援助に頼っていてそれをスタンダードにしては全体が落ちていく、という真っ当な考えです。しかしこのような正論はギリシアやスペインなど南部欧州には通じないのです。
グリーンスパン前FRB(米連邦準備制度理事会)議長は言っています。
「欧州域内で共通通貨を導入すれば、それによって文化的な違いが克服され、イタリア人もギリシア人もドイツ人と同じような経済行動を取る、と仮定されていた。だが最初から、そして一度もそうはならなかった。」
まさにドイツ人とイタリア人そしてギリシア人は全く違う人種だったのです。価値観の統合など夢物語でした。
そしてグリーンスパンは「通貨統合という崇高な試みは失敗だった」と断じたのです。
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★『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/
経済アナリスト。
株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
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