“超プロ”K氏の金融講座
このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
安倍新政権の重要課題は経済の回復です。選挙中から声を大にして言っていましたが、安倍総裁はとにかく日銀に圧力をかけ、マネーをもっと市場に放出することによってデフレ状態を脱し、そこから日本経済の回復への足がかりを得なくてはならない、という考えです。
そして財政再建とか日本の持つデフレという深刻な問題も、まずは経済成長がなければ解決できない問題なのであって、とにかくデフレを解消する必要がいの一番にあり、そのためには大規模なリフレ政策、今までとは次元の違う金融緩和状態を作り出さなければならない、という考えです。この理論的な主柱は積極的な金融緩和論者として知られる浜田宏一イェール大学名誉教授です。安倍総裁はこの浜田教授を新内閣の経済運営の指南役として、経済担当の内閣参与に起用することが決まりました。では浜田教授の考えはどんなものなのでしょうか? そこに問題はないのでしょうか? 安倍総裁の言うように、さらなる金融緩和を行えばデフレが解消され、日本経済は救われるのでしょうか? 浜田教授のインタビュー記事をみながらその問題点を探ってみましょう。
本当に日銀の緩和は足りないのか?
12月13日付けの日経新聞に浜田教授のインタビュー記事が出ています。ここでの話から抜粋して、教授の主張や問題点をあぶり出していきたいと思います。
まず浜田教授は、日本のデフレについて「単純に金融緩和が足りないから」という主張です。「デフレも円高も、通貨に関する現象なので金融政策が一番効く。しかしこれが上手くいっていない。日銀の政策があまりに小さく遅いからだ」と述べ、とにかく金融をもっと大胆に緩和する必要がある、ということを述べているのです。
この緩和が足りないというのはある意味、今の一般的な主張の核をなすものです。しかし、金融緩和の度合いをどの程度が適切であるのか図るのは難しい問題です。
日銀は2000年からいち早く量的緩和策と取ってきたわけで、日本ではどの国よりもこの度合いは進んでいるのが実体です。
例えば、金融緩和の度合いはマネーが出る総量と考えていいですから、一般的には中央銀行の総資産の大きさで図ることができます。中央銀行の総資産が大きければ、それだけマネーが印刷され、溢れ出る素地があるわけです。その総資産を日銀、ECB(欧州中央銀行)、FRB(米連邦準備制度理事会)と比べてみると、日銀の場合はすでに2012年度末には日本のGDPの34%を超えてきています。今後、さらなる緩和を約束していますので、この数値は2013年末には40%を超えると予測されているのです。一方でECBの総資産は現在、GDP比で約32%、FRBは約20%ということで、仮にFRBが このまま予定通りQE3(=Quantitative Easing 3 量的金融緩和第3弾)の継続による金融緩和政策を続けたとしても、2013年末でGDPの25%程度に拡大するくらいです。このように日銀は世界の中で群を抜いて金融を緩和しているのです。
ただよく言われることは、リーマンショック後の比較であって、この面ではFRBは一気に3倍に総資産を膨らませたのに対して、日銀は40%しか膨らませていないということで、この面を捉えて日銀は緩和が足りない、というわけです。
しかし、このGDPに対しての絶対的な数字を見ればわかるように、日銀の緩和度合いは常に世界の先頭を行っていますので、FRBのような強引な緩和策は取れなかったと思います。むしろFRBが一気に総資産を3倍にもできたのは、日銀の前例を見ていたからでしょう。日銀の水準と同程度までであれば、インフレにならないという確信の下、思い切った緩和策がとれたということはあったでしょう。
しかも日銀は株の上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)など従来は危険資産と言われて決して中央銀行の資産買い入れ対象にはならなかったものにも購入の手を広げています。このような資産を購入する中央銀行は世界に日銀をおいて他にありません。かように国際比較では日銀は突出してその総資産の度合いは大きく、思い切って危険資産も購入してきました。緩和状況も群を抜いてきたわけですが、どうもプレゼンテーションが下手で、緩和が足りない、足りないと言い続けられています。デフレから脱せないということで結果が出せていないということはありますが、日銀がどこよりも革新的な緩和策に挑戦してきたことは事実なのです。
浜田教授はこれでも日銀の緩和は足りないというわけです。教授は「日銀は、長期国債のほか、企業が資金調達の為に発行するコマーシャルペーパー(CP)や上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)などをもっと積極的に買い増ししていくべきだ。特定の株式の購入も検討課題となる。株式市場や不動産市場が上昇すれば、担保価値が上がり、貸し出しも促進されるはずだ」と述べています。
これは当然、実現可能なプランです。中央銀行が力任せに株や不動産をマネーを印刷して買いまくれば、株や不動産価格は上昇して、その結果として株や不動産を保有している人達は潤います。こうしてマネーは市場に回るようになることでしょう。しかし、これこそがバブルでもあります。裏付けがないものを、ただ単にマネーを印刷して幾らでも買えと言うのですから恐ろしいと言えば恐ろしい考えですが、中央銀行がやる気になりさえすれば可能なことです。そして今、この考えに乗って株が上昇し、先行きの不動産価格の上昇を見越して不動産株も連日高値を取ってきました。まさに浜田教授の目指すところが実現されつつあるのです。
浜田教授は続けます。「伝統的な中央銀行の行動からすると、特定の資産を買うことは好ましいことではない。しかし、今の日本経済は、海図のない領域に入っている。どんどん買ってみるしかない」と述べています。とにかくマネーを刷って刷って刷りまくり、株だろうが、不動産だろが、特定の株だろうが何でも買え! と言うわけです。これは確実にインフレを起こすことができます。そして今の日本はこの考えの下、インフレが起きるに違いないという観測の下、株は上昇してきました。ですから私は、この株高は本物であると言っています。浜田教授の言っていることは中央銀行がマネーを増発して無理やりにインフレを起こすことが重要であり、肝要だ、と言っているわけです。非常事態なので何でも許されるという考えです。
浜田教授は日銀の当座預金の金利についても言及しています。「日銀は、金融緩和と言いながら、一方でブレーキを踏むようなこともしている。金融機関が日銀に預けている当座預金のうち、法律で義務づけられた金額を超える部分に現在0.1%の金利が付く。金融機関は、これ以下の金利で貸すぐらいなら当座預金に預けてしまう。これを0.1%でなくマイナスにすれば、金融機関は日銀に金利を払うよりはと、企業や個人への融資に回すようになる」と言っています。これもよく議論になるところです。
ECBはこの当座預金の金利をゼロにしました。一方で、FRBのバーナンキ議長は、この中央銀行の当座預金の金利をゼロにすることについては研究中ということです。現場の感覚からすれば、本当に日銀が当座預金の金利をゼロ、またはマイナスにすれば、当惑することでしょう。確かに巨額な資金を日銀の当座預金においていても金利が付かないのであればおいておく意味がありません。ましてやマイナス金利を課せられてはおいておけません。かといって、その資金を貸し出しに回せるかと言うと話は別です。回収できないようなところに資金を回すぐらいなら、もう一回日銀に売却した国債を買い戻しておきたいと考えることでしょう。要するに危険性があれば投資できないのです。
経済の状況が好転して投資機会があると思えば投資なり融資をするでしょうが、お金というものは非常に臆病なので、「使い道がないから融資に回るはず」というのは現場を知らない学者の考えです。机上の上では、資金が日銀の当座預金から出るから世の中に回るというのですが、今度は困ってしまった銀行は、日銀に国債を売ることをやめるかもしれません。やはり環境が整わなければ簡単にお金は市場に回っていきません。
インフレは簡単に止められるか?
また浜田教授は、金融緩和の行き過ぎから起こるインフレ懸念に対し、「物価上昇に歯止めがかからなくなるハイパーインフレの恐れを指摘する声がある。もしインフレになったらありがたいことで、そこでインフレを止めればいい。オイルショック時の対応をみても、日銀のインフレ退治の能力は世界に冠たるものがある」と言っています。
これも現場知らない驚くべき学者の暴言と言っていいものでしょう。浜田教授の言うように、危険資産だろうが何だろうが、日銀が紙幣を限りなく印刷して買えば、必ずインフレを起こすことはできます。間違いありません。
そしてその後のことなのですが、浜田教授はインフレが起きたらそこで止めればいい! と言っているのです。ここが大問題というか現場知らずの学者の限界を示すもので、空恐ろしさを感じます。
まずはインフレが起こったらそれを止めればいい、というのですが、どのように止めるのでしょうか? 相場に精通している投資家であればわかりますが、勢いのついた相場というものは手が付けられなくなるのです。学者やリフレ派の言っていることは、総じて全て相場感覚がありません。マーケットに対峙したこともなければ、恐らく投資というものを経験したことがないのでしょう。だからこんな無謀なことが言えるのだと思います。
確かに浜田教授が研究していたと思われる20世紀の経済は、金融の力は今ほど大きくなく、マーケットの力もさほどではありませんでした。今では金融のマーケットは怪物のように肥大化しました。かつて1970年代は経済規模を計るGDPの値は金融の規模と一致していました。ところが今では金融は肥大化し、GDPの規模の4倍に達しています。
世界のGDPがおよそ5,000兆円に対して金融の規模はその4倍の2京円です。さらに金融派生商品いわゆるデリバティブの総額は7京円という驚くべき額に膨張しています。このデリバティブの崩壊がリーマンショックを引き起こしました。デリバティブを扱ったこともなく知らなかった学者連はほとんど、このリーマンショックを予想だにできなかったのです。当たり前でしょう、現場を知らないからです。実践を知らずしてどうして今の経済を語れるのですか!
浜田教授の考えは、まずは無理やりにインフレを起こせ、それが起こったら止めろ、というものです。ではインフレを止める方法は何か? と言いますとこれは古今東西はっきりしています。金利を引きあげるのです。いつでもどこの国でもやっていることです。景気が過熱したので金利を引き上げて冷やす、極めて普通で一般的なことです。昨今ではブラジルなどは経済がインフレ体質なので、二桁の金利になっていました。かつての米国では1980年のインフレ時代、FRBのボルカー議長は20%という政策金利を押し通してインフレ退治を行ったのです。
では日本が仮にインフレになったら金利を引き上げることができるのですか?
日本は1,000兆円の借金があります。税収は43兆円です。金利が1%の今は利払いが10兆円に満たないですが、それでも2017年には今の低金利状態で17兆円まで金利支払いが膨らむという試算を日本総研は出してきています。
それでは金利が2%になったら2×17=34、3%になったら3×17=51、5%になったら5×17=85です。浜田教授の目論見通り、インフレになったら金利を引き上げてインフレ退治をするというのですか?
金利を5%にしてインフレ退治しようとすれば利払いが85兆円になります。ましてや米国のボルカー議長の時代のようになったら、20×17=340となり利払いだけで340兆円となるのです! 税収43兆円で利払いが340兆円、利払いだけで税収の8倍です。誰が考えても国家破綻ではありませんか! インフレとはそういうものなのです。
「インフレになったらインフレを止めればいい。」浜田教授に聞きたいものです。どうやって止めるのですか!
日本は日銀が国債を大量に購入して、日銀の国債保有高が100兆円を超えました。インフレ退治ということであれば、この購入した国債を日銀が売却することによって市場から資金を吸い上げるという方法もあるでしょう。量的緩和の逆です。量的緩和政策は市場にある国債を日銀が買い取ることによってマネーを市場に放出するわけです。こうして市場にマネーを流通させようというのが目的です。
ですから、インフレになれば今度はその逆をするわけで、日銀が購入した国債を市場に放出する。となると市場は、日銀から国債を購入しますので、市場に出回っているマネーが少なくなってマネーの量が減り、インフレを抑えるという構図です。
ところがこれもできません。第一に、インフレ気味になるということは金利が上がるということで、これは言葉を代えれば債券価格が下がる、国債の価格が下がる(金利上昇)ということです。このようなインフレ気味になったところに、100兆円も国債を保有している日銀が売り物をだそうものなら、国債の価格は大暴落してしまいます(金利の大暴騰が起こってしまう)。日銀の保有する国債の量が大きすぎて市場はさばくことができません。
いよいよ本格的なインフレが始まる!?
かつて1970年代であれば、日本の経済も健全でしたから、浜田教授の指摘するようにインフレ退治もできたことでしょう。しかし今は状況が一変しているのです。金融は肥大化してコントロールが効かなりつつあります。マネーはグローバルに世界を自由自在に泳ぎ回ります。そしてその力は国家を凌ぐほど強大です。しかも日本の財政は危機的状況で、GDPの200%を超す借金を抱えているのです。全てが浜田教授の現役時代とは変わっているのです。20世紀の過去の遺物のような経済理論をもって、今の日本に適用しようするのですから根本的に無理があります。
しかし不幸なことに、この教授の考えを信奉し、実践していこうとしているのが安倍新内閣なのです。ですからメンバーを見てください。麻生大臣などはリーマンショック後、75兆円もの経済対策を行いましたが、経済は一向に良くなりませんでした。新内閣は公共投資を復活させるということですが、これなどは1990年代に盛んに自民党政権が行ってきた政策の蒸し返しにしか過ぎません。
「今までの自民党とは次元の違う政策を行っていく。」安倍総裁は述べましたが、次元の違う政策というのは浜田教授の言うような常軌を逸したインフレ政策ということなのです。
こうして日本はついに止まることのないインフレに踏み出していくのです。円は売られ、株は買われ、不動産は買われ、いよいよ本格的なインフレの始まりです。それは浜田教授の目指す、まさにバブルの構築なのです。ですから私は今回の円安も株高も相場のスケールは相当大きいし、今後日本は激しいインフレへ突入していくと言っています。それは日本にとって決して幸福な道とはならないでしょう。むしろ日本経済を破壊する方向へ持っていくことになるのです。とにかくバブルは始まります。そしてそれはやがて国債の暴落と共に更に大きなバブルになっていくのです。『2013年 株式投資に答えがある』のですが、投資に慣れている人はいいでしょう。投資好きな人には夢のような時代到来です。
しかし、これから起こるインフレの脅威は投資したこともないような人が、現金の価値が失われることを目のあたりにして泣く泣く株式投資をしなければならない時代が来るということなのです。
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★『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/
経済アナリスト。
株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
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