“超プロ”K氏の金融講座

このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2013.11
株式投資に舵を切る年金基金

 「真剣に金利リスクを考えているのか! どうして国内債を60%も持っているのか!」
 東京大学大学院の伊藤隆敏教授は強調しました。国民の大事な財産である年金基金の運用に対しての貴重な提言です。伊藤教授は今年はじめに決まった日銀総裁の人事では、黒田総裁と並んで最も有力な候補の一人とみられていた日本の金融界の重鎮です。その伊藤教授は世界最大の年金基金である、日本の年金積立金管理運用独立法人(GPIF)の資産運用方針に対して提言を行う<公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議>の座長を務めています。長ったらしい名前の機関で何を行うのかわからなくなってしまいますが、この<公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議>は年金基金の運用方針の見直しについて、現状を鑑みて大規模な提言を行おうとする安倍内閣直轄の機関なのです。
 この有識者会議は6月14日に安倍内閣が閣議決定した<日本再興戦略>に基づいて、デフレからインフレへの転換を目指す日本において年金基金の運用を大胆に転換することを目標に有識者に検討を重ねてもらうものです。7月1日から会合を重ね、ここにきて最終提言を行う運びとなりました。8回開かれた長い議論の末に11月24日、最終報告書を取りまとめたのです。
 座長を務める伊藤教授によれば今回の報告書は「かつてない規模の提言」ということで、日本経済が2%の物価上昇を目指す中で、約15年に渡るデフレから脱却しつつある「大きな転換点」を迎えているという基本認識の下、国民の大事な資産である年金基金の運用も現在の日本国債に偏った運用では「危険だ! 国民のためにならない」と大胆に述べています。
 伊藤教授はじめ、有識者の結論として、これから日本はデフレからインフレ方向に舵を切っているわけだから、今までのように年金基金の資産運用において、国債を大量に購入していく運用は損失が膨大に膨らむ可能性が高く危険極まりないと言っています。一般の人達にはピンと来ないかもしれませんが、国債などの債券は一度金利が決まると償還期間までその金利を維持することになりますので、これから想定される金利上昇局面では、価値が減価して値下がりするわけです。そうなれば国債の価格が下がることによって年金基金における国民の資産が目減りして大きな損失を被る危険性が高いと警告しているわけです。日銀が目指すインフレ目標が達成されれば、当然、国債の価格が大きく下落することになるので、そのような危険極まりない国債を国民の年金基金として大量に保有し続けるのは国民のためにならない、とはっきり述べています。
 要は一刻でも早く、年金基金の運用において、国債をすみやかに売却し、運用資産における国債の比率を激減させて、株や不動産などのインフレに対応できる資産を購入して、国民の年金基金の実質価値を守るべきである、と強調しているのです。安倍内閣直結の諮問機関が年金基金の運用における劇的な変更、いわゆる国債投資から株式投資への転換を強く奨励しているところがポイントです。
 <債券から株、国債から株>への大きな資金移動、これは世界的に現在起こっていることでグレートローテーションと呼ばれています。
 <年金基金を早く国債から株へ>その切羽詰まった危機感が「真剣に金利リスクを考えているのか!」という伊藤教授の警告に現れています。私はかねてから国債はいずれ暴落するので危ない、資産は株や不動産などのインフレ対応できるものに移すべきである、と口を酸っぱくして繰り返し述べてきました。これに対して一般的には株や不動産は怖い、元金保証の国債や預金が安全で安心である、と思っている人が大多数と思います。ところが年金の運用を考える日本の金融の専門家の集まりである有識者達の結論はやはり、「金利上昇を考えると国債などの債券投資は危険である」との結論なのです。もちろん、有識者が私のように国債は暴落する、との過激な言動は述べていません。しかしこれから日本国の目指すインフレ目標の達成に向かっていくと、今までのような国債投資は「損失が拡大する」と予見して、この事実を日本政府はしっかりと受け止めて、実際に年金の運用において国債の比率を大幅に減らし、株や不動産などのインフレ対応の資産を年金基金でもっと大きく購入していくべき、と方向性をはっきり出してきているのです。

●迫られるインフレ対策
 日本国民は投資に関しては非常に保守的です。株や不動産などの投資は危険、預金や元金保証の国債が安全、と頭から信じています。ところがそうではありません、インフレが進行してイラクのように年に40%の物価が上昇すればマネーの実質価値は確実に目減りするのです。長いデフレに慣れた日本人はインフレは遠い過去で忘れ去られていますが、物価が上昇すればマネーはその分、実質価値を失っていくのです。
 アベノミクスの狙いは日本に強引にインフレを引き起こすことです。表立っては言いませんが、株や不動産の価格を上昇させることによって国民の懐を潤してその資産効果で景気を良くしようという腹積もりがあるのです。実際、昨年から景気が良くなったことは消費拡大が大きく寄与したわけですが、大手デパートで特に売れたのは高級時計や絵画などの高額商品であって、これらは明らかに株高による資産効果が生んだものだったのです。
 政府も日銀もこの株高や不動産高は政策の肝であって、絶対的に株高を維持拡大していきたいのは当然で、そのために日銀は日夜円紙幣を刷り続け、インフレ目標を何とか達成しようと必死なのです。ところが簡単にインフレは起こりません、紙幣をいくら印刷しても今の日本では一般的に物は余っているので、簡単に物価上昇は起こりません、ところがマネーはこれでもかこれでもかと供給され続けます。勢い、有り余った資金はまずは株や不動産に流れ込むわけですが、それは百も承知で政府や日銀の望むところでもあるのです。
 このような目論見が明らかなのにも関わらず、日本人全体が投資には保守的でなかなか株などの投資に資金が回ってきません。<株は危険、怖い>という考えが染みついています。
 私はかねてから日本では<株ブーム>ではなくて<株売却ブーム>が起きてきていると指摘してきました。面白いことにこれだけ株が上昇しているわけですが、日本人は株を買うどころか一斉に、われ先へと売却に走っているのです。今年の投資家別の売買動向を見ても今年1月から10月末まで、日本株を外国人投資家は約13兆円の買い越し、一方の日本の個人投資家は6兆円近い売り越し、また日本の年金基金も4兆円近い売り越し、都銀地銀や生損保も合わせると6兆円近い売り越しなのです。かように数字の上で日本では株式市場の上昇によって日本中で株の売却ブームが起こっているのです。「株はどうなるかわからない」だからさっさと高くなった今、売却しておこうということです。

 このような状況はアベノミクスの思惑にかなっていません。アベノミクスの目指すところは、日本国民のリスク資産への傾倒なのです。国民の多くが利息のほとんどつかない預金に資金を滞留しておいてもらうのでなく、リスクをとって果敢に株式に投資ないしは起業して経済に新しい風をもたらしてもらいたいわけです。
 それが経済活性化の道です。そのために日銀は必死にマネーを印刷してインフレに誘導していくと言明しているのです。そして今回、日銀も日本政府も何が何でもインフレ目標を達成させる、と不退転の覚悟で臨んでいます。簡単に考えればわかりますが、日銀が後ろを振り返ることなく、インフレ誘導のためにマネーを際限なく印刷し続ければ何処かでマネーが反乱をはじめ、インフレも起こるわけです。そこまで持っていくことがアベノミクスの目標です。そして今回の年金基金運用の有識者会議の結論は国や日銀がそのように無理やりにでもインフレに誘導しようとしているわけだから、それを考えると、いずれインフレが訪れ、結果として金利上昇に弱い国債は大幅に損失を被ることになるのだから、国民の年金基金は国債を速やかに売却して大量に保有することはやめなければならない、という危機感なのです。
 株は危険、国債は安全と思ったら大間違いで、金利が上昇すれば国債は値下がり、実質価値が低下するわけで、株式の方が断然有利なのです。
 これは年金基金の運用成績にはっきりと現れてきました。今年、GPIFの資産運用の結果をみると、まず目につくところは年金基金120兆円に占める国債の比率が67%から60%に減少したところです。これは国債を売却したから比率が下がったわけではありません。株の比率は10%程度だったわけですが、この株が値上がりで運用資産に占める割合が急騰してGPIFは株を売却に次ぐ売却を繰り返しました。それでも株の比率は上がり、更に外国債券、外国株の比率も円安の影響で上がりました。日経平均は昨年に比べて8割も上昇しているわけですから本当は株式投資の収益は8割を超えていないとおかしいのですが、実際は株を売りに売りまくった影響でGPIFの株式の運用益は10%に過ぎません。まさに稚拙な運用です。一方で国債ですが損失は1兆円弱に上っています。こうして実質GPIFは国債を売ることなく、保有しているだけで年金基金における国債の保有比率は値下がりと他の保有資産の上昇によって67%から60%へと下がっていったのです。まさに国債の大量保有の悲劇が日本人の年金運用に負の遺産として襲い掛かってきているのです。

 このような状況、更には政府や日銀の思惑通りにインフレ目標の達成がなされれば、もっと国債の状況はひどい値下がりとなり悲惨極まりないことなることが見えているので、有識者会議はすぐさま、国債を売却して株や不動産を購入するように提言しています。
 伊藤教授は11月22日のテレビ東京の放送で年金基金の国債や株の保有比率について私案を提示しました。それによると現在60%の国債の比率を半減させて35%程度に、国内株や外国株の比率は各々12%から20%に引き上げるべきという私案です。そして「これが年金資産運用における海外の平均的な姿だ」と紹介したのです。
 国債を67%も保有していたなどとは運用の世界では異様であり、GPIFは世界の笑いものです。分散投資という資産運用の基本がわかっていません。だから利回りも取れません。

 もはや、日本は変わるのです。長かった株式の低迷の時代は終わり、政府の目論見通りインフレが到来することでしょう。仮に簡単にインフレにならなければ、国も日銀もインフレが起こるまで、円紙幣の怒涛の印刷を止めないのです。アベノミクスと黒田日銀は堅い決意でインフレ誘導にまい進し続けるのです。そして国民の年金基金も国の政策に相応する形で株式購入に大きく舵を切っていきます。すべては国策に従うということです。少額投資非課税制度(NISA)も同じです。政府は国民に何とか株式投資を行ってもらうために無税特権を与えるNISAを強力に推進するのです。
 国策は株高、インフレへの誘導なのです。いつまでも国債は堅い、預金は安全と思っていたら時代の孤児となるでしょう。預金も保険もインフレには対応できません。保険会社など国債ばかり購入していますから時代に取り残されるお荷物となっていくのです。国策に反して国債ばかり買い続ける保険会社など頼っていては泣く目に合う事は目に見えています。変化を感じ取らなければなりません。国や日銀の強い意志を感じなければならないのです。冷静に考えれば日本の累積された借金1,000兆円は返せるはずなどないのです。小学校の算数の知識があれば誰でもわかるはずです。だから国はインフレにして1,000兆円の借金を返すのです。だから年金基金もそれに対応するために株式投資を大々的に行うのです。本音と建て前は違います、しかし時代の本当の行く末、政府の本当の狙いを見極めなくてはなりません。時代はインフレに向かっていきます、政府もそのように誘導していきます。劇的な変化が起こる前夜です、インフレに備えた者だけが生き残る過酷な将来が到来するのです。

13/12

インフレに向かう日本

13/11

株式投資に舵を切る年金基金

13/10

金相場のたそがれ

13/09

新刊『2014年 インフレに向かう世界』まえがき より

13/08

崩壊に向かう新興国経済

13/07

ドルが復権する世界

13/06

激動前夜

13/05

株 売却ブーム

13/04

異次元の世界

13/03

日本の行く末

13/02

株バブル勃発、円は大暴落(新刊まえがき)

13/01

「アベノミクス」がもたらすもの


バックナンバー


暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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