“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2018.06
米中対立とトランプ劇場

 「米国の目的は、やはり我々を打倒することだ」。中国の習近平主席は共産党の内部会議でこう漏らしたと言われています。米国のトランプ大統領は来月7月6日に中国に対しての関税実施の制裁を発動すると言っています。それに対して中国もそれ相応の報復制裁を発動するとしていて、更にトランプ大統領は中国が制裁を発動するなら倍以上の制裁を追加するとしています。
 既に米国の各国に対しての関税強化の経済制裁は実施され、EUはその報復として米国に対して関税を実施しました。世界は貿易戦争の様相を見せてきましたが、やはり本当の意味での激しい対立は米中の対立です。この対立が激化した場合は、世界のナンバー1とナンバー2の激しい争いとなりますから、世界経済に与える影響は計り知れません。現在、新興国を中心として世界の株式市場をはじめ、為替市場などが混乱の状況を呈してきたのは、かような懸念が広がってきたからです。

●現在の米中対立の行方は?
 トランプ政権はこのまま暴走を続けるのでしょうか。一体米中の貿易戦争は激しさを増して収集がつかなくなるのか? それともトランプ大統領の強引な手法は中間選挙をにらんだ一時的なパフォーマンスに過ぎず、いずれは収まるものなのでしょうか? 世界の市場関係者もこの米中の争いを固唾を飲んで見守っているのですが、一向に先行きが予想できていません。
 まさにトランプリスクで読み切れない、とう事なのですが、この背景として、米中の争いが世界の覇権を賭けた宿命的な激しい争いとなるのか? それとも米国の中間選挙をにらんだ一時的なものとなって収まるのか? との争いを巡る根本的な見極めが難しいからです。今回のトランプ大統領の手法が単に中間選挙のための米国国内向けのパフォーマンスであるならば、話はいずれ収まるはずです。トランプ大統領としては国内向けの果実が欲しいわけですから、対中国との交渉においても対EUでも対日本でも、それなりの成果があれば鉾(ほこ)を収めるわけです。そうであればこの秋が山場で中間選挙が終われば、混乱は収拾することとなります。
 ところが現在の米国の強硬姿勢をみていると、単に選挙対策というよりは、将来的な米国と中国の覇権争いという最も峻烈な争いに激化していくように思えるのです。
 「新しい新興勢力が従来の覇権国に取って変わろうとするとき、新旧2大国に極めて危険な緊張が生じてくる。それぞれが困難かつ痛みを伴う行動を起こさなければ、両国の衝突、すなわち戦争は免れないだろう」。ハーバード大学のグリアム・アリソン教授はその著書 『米中貿易戦争』において今後起こるであろう米中の深刻な対立を予想しています。米中の軍事的な戦争はお互いの破滅ですから、そのような戦争は起こる可能性は極めて低いとしても、お互いが激しく本気で争う貿易戦争はすでに始まってきたようです。仮に今回の争いを米中の将来的な覇権を争う戦いとすれば、現在は序盤戦ですからまだ事が始まってきたばかりと思わねばなりません。

 実際、あらゆる意味で米国に対しての中国の追い上げは激しくなっています。米国は依然として世界を牛耳るスーパーパワーですが、中国は激しく差を詰めてきています。歴史上、現在の中国ほどの勢いで世界に台頭してきた国はないのです。米国自身も英国が世界を牛耳っていた時代から目覚ましい発展を遂げて世界の覇権国になっていきました。
 米国が英国に代わって世界の覇権国となっていった時期、これは1860年から1913年にかけてと考えられますが、その時期米国経済の成長率は年平均4%だったと言われています。ところが中国の経済成長のペースは1980年以降平均10%と、現在に至るまで驚異的な成長を続けているのです。今はもう忘れてしまったかもしれませんが、日本は7年前までは米国に次ぐ世界第二位の経済大国でした。それが尖閣の衝突問題が起こった2011年の段階で中国に抜かれたのですがその後7年も経たないうちに中国は日本の倍の経済規模となったのです。これこそが高度成長の勢いなのです。10%の経済成長をすれば経済規模は7年で倍増するのです。この勢いを続ければ経済規模で中国が米国を抜き去るのは時間の問題なのです。
 現在中国の一人当たりの労働生産性は米国の労働生産性の25%に過ぎません。それが50%まで高まれば中国の経済規模は米国の倍になってしまいます。すでに物を購入する力で図る、購買力平価ベースで経済力をみると中国は世界一で、米国の経済を凌駕しています。現時点で中国は多くの指標で米国を追い抜いています。船舶、鉄鋼、アルミ、家具、衣料品、繊維製品、携帯電話、コンピュターなど、これらの製品に関して中国は世界最大の生産国であり、且つこれらの製品で中国は世界最大の消費国なのです。また中国は世界最大の自動車市場であり、世界最大の石油輸入国であり、エネルギー消費国でもあるのです。人口が13億人ということを考えれば当然でもあるわけですが、それらが全面的に先進国に追いついてきた状況を考えれば必然的に経済規模は拡大するわけです。人口1億人の日本と13億人の中国とでは経済力で差がつくのも必然です。
 中国国民の年間の平均所得をみると1980年には193ドルだったものが現在は8,100ドルと40倍超になっています。更に平均寿命もこの間、倍になっているのです。
 これらの事実はある程度知られているところでもあるのですが、我々日本人も含めて先進国は、中国は単なる模倣経済に過ぎず、技術力はたいしたことがない、安い労働力を基盤として大量生産をしてきたに過ぎない、と嵩をくくって見ていたと思われます。
 ところがここにきてのあらゆる意味での中国の技術発展には目を見張ります。軍事的な脅威はもとより、ハイテク技術も急速に発展してきているのです。むしろ現在は日本より中国の方が先進的な技術が次々と花を咲かせてきています。

●“中国らしい”「中国製造2025」とは?
 そして中国は今回、「中国製造2025」という国家の大目標を掲げ、次期ITなどの情報技術、ロボット、新エネルギー、電気自動車など10の先端産業に的を絞って重点的に強化育成するというのです。「中国製造2025」はこれら先端産業を具体的には3段階で発展させる構想で、最終的に中国共産党建国100年にあたる2049年に中国は世界のトップに立つということです。
 しかもその手法も中国らしいのです。先進的なハイテクの基幹技術を中国が国産化するためには、技術の取得が必要です。そのために中国は中国に進出してきた外資系の企業に対して技術の供与を強制するというのです。その上で自国の企業に対しては補助金などを投入して徹底的な育成を図り、自前の技術を確立するという計画です。これでは他の国や企業はたまりません。日米欧などの企業が中国に進出した途端に中国に技術を強制的に奪われ、その巨大な資本力と膨大なマーケットを通じてあっという間に覇権を握られてしまいます。ですから今回の「中国製造2025」に対して米国が<知的財産権侵害>と激しくかみついたのです。
 在中国の米国商工会議所は、中国において公平な事業環境を実現するために米国政府はあらゆる手段を講じるべきとの立場を表明しています。中国においては国内企業を支援する体制になっていますから、外国企業の活動余地は著しく狭められていると指摘しています。現実にグーグルやフェイスブック、アマゾンなど米国の巨大企業も中国での活動は低迷しています。グーグルなどは撤退を余儀なくされたわけです。
 今回のトランプ大統領の強引な貿易政策について、世界各国から批判が相次いでいますが、それをいいことに中国は「自由貿易を守ろう」と呼びかけています。しかしこれこそお笑い種です。米国のポンペオ国務長官は「中国の指導者らは過去数週間にわたり、開放とグローバル化を主張してきたが、これはジョークだ! はっきりさせておきたいのは、中国こそ今の世界に対して最も略奪的な経済体制の国である点だ。中国の知的財産権の侵害は前例のないレベルの窃盗だ」と非難しました。
 日本の新幹線の技術がいつの間にか中国発の技術となって、中国発として世界に高速鉄道の輸出攻勢をかけられている事実を鑑みれば、米国の中国に対しての非難もうなずけます。今回米国は中国との貿易交渉に対して相当強気で対応し続ける可能性が高いでしょう。

 ライトハイザー米通商代表は「技術にこそ競争力と未来がある」として米国優位のハイテク技術を決して中国に渡すべきでない、との姿勢を示しています。そして通商交渉には極めて強気で臨んでいて、「米中の通商関係には相当な緊張が生じ、米中対立は数年続くだろう」と米中の話し合いが先行き困難な展開になることを予想しています。
 更に強硬なのがナバロ米通商製造政策委員長です。ナバロ氏は「中国による死」というドキュメンタリー映画を監督、プロデュースしているほどの対中強硬派で知られています。昨今では『米中もし戦わば』(文藝春秋刊)とのベストセラーも出版しています。かようなナバロ氏の経歴や主張を気に入ってトランプ大統領はナバロ氏をホワイトハウスに招いたわけです。そのナバロ氏は「中国の軍事的脅威を弱めるには、経済的に弱体化させる必要がある」として中国に対してその力をそぐように持っていくべきとの対応をトランプ大統領に助言し続けています。ナバロ氏は中国のここまでの姿勢を捉えて「中国は通貨操作、違法な輸出補助金、知的財産権侵害、自国市場保護など、数々の不公正な貿易慣行を行っている」として、これを是正させるとの強い意志を持って交渉に臨んでいるようです。米中協議において、かようにナバロ氏やライトハイザー氏のような米国においても最も中国に対して強硬な意見を有している人物を交渉の最前線に送っているわけですから、中国との交渉が簡単にまとまるはずもないわけです。
 トランプ大統領は昨今の中国との交渉結果を受けて「中国は、米国の知的財産権や技術に関連した不当な慣行を是正する意志がないようだ。こうした慣行を是正するどころか、何も悪いことをしていない米国の企業や労働者、農家を脅かしている」と述べています。これは多分に中間選挙向けということもあるでしょうが、かようなトランプ大統領の姿勢が米国民に受けるようで、トランプ大統領の支持率は着実に上昇してきているのです。気を良くしているトランプ大統領は益々貿易問題に対して強硬路線を突き進む可能性が高いでしょう。

 今回の米中対立や貿易戦争は単に中間選挙を見据えているだけに留まらず、米中の覇権をかけた峻烈な争いになりつつあるのです。そして現在の世界はトランプ大統領という特異なキャラクターを有する、トランプ劇場の様相となっています。世界のニュースシーンにトランプ大統領の話題が出ない日はありません。これこそトランプ氏が望むところなのです。トランプ氏は何が何でも話題になってほしいのです。まさにトランプ大統領が世界をかき回す一人舞台を演じていて、これが簡単に収まる気配はありません。そしていよいよその影響が深刻に広がってきたのです。トランプリスクが激しく吹き荒れています。その嵐は否応なく世界を巻き込み、日本をも巻き込んでいくのです。

18/12

欧州混乱から見える世界の潮流

18/11

中国の危険な挑発

18/10

米中間選挙(衰えぬトランプ人気)

18/09

輝き失った金相場

18/08

急進化する米国政治

18/07

衰えぬトランプ人気

18/06

米中対立とトランプ劇場

18/05

監視社会

18/04

イラン攻撃はあるか?

18/03

強権、独裁化の時代

18/02

新著『株の暴騰が始まった!』まえがき

18/01

イアン・ブレマーの警鐘


バックナンバー


暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/

Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/

数霊REIWA公式サイト 佐野浩一 本物研究所 本物研究所Next C nano(ネクストシーナノ) 成功塾説法 舩井幸雄動画プレゼント 高島康司先生の「日本と世界の経済、金融を大予測」 メールマガジン登録 舩井メールクラブ 佐野浩一note