“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2018.11
中国の危険な挑発

 「米中が南シナ海などで偶発的な軍事衝突を起こし、それが戦争にエスカレートする危険性は以前より高まっている」
 オーストラリアのケビン・ラッド元首相は昨今の米中の対立の激化が抜き差しならない状況に発展していくことを懸念しています。一方、政治学者でユーラシアグループ社長のイアン・ブレマー氏は2017年初頭から世界は地政学的リセッションに突入したと警告しています。ブレマー氏は「かつて、米国が大きな紛争に巻き込まれる可能性があるか? と問われれば、そうは思わない、と答えていたが今は違う。経験不足のトランプ氏が衝動的な反応を抑えられない懸念がある」として米国が軍事的な衝突を起こす可能性を否定していません。このようなリスクが世界経済全体に悪影響を与えるということで地政学的リセッションが到来するというわけです。
 かような警告は様々なツールから発信されていますし、それでも現実にはここまで軍事衝突のような深刻な事態が生じていませんから、普通に考えれば危険性は否定しないが、そのような米国と中国の軍事衝突が現実に勃発するということはあり得ないだろうと考えがちです。

●中国共産党の体質
 ところが現在でも米中は軍事的な一触即発の状態は現実に起こってきていますし、それが米国主導というよりも中国側の強硬姿勢から起こっている事実があるのです。習近平主席の温和な表情をみると、とても中国が軍事的な強硬策をとるようには思えませんし、逆にトランプ氏の行動に危うさを感じるのが普通の見方でしょう。ところが中国共産党は歴史的にみて、軍事力を行使することが多々あったのです。中国共産党の驚くべき強硬な体質を振り返ってみましょう。
 中国共産党は1949年に共産党革命で中国の統一に成功しました。中国共産党はその歴史の中で何回か軍事的な行動を起こしてきました。1950年の朝鮮戦争のケースを振り返ってみます。
 1950年6月、北朝鮮の金日成主席(現在の金正恩の祖父)が38度線を越えて突如韓国側に攻め込みました。当時の韓国軍は弱く、ソウルはわずか3日で陥落、その後金日成の軍は南下して釜山まで1ヶ月足らずで進軍していったのです。韓国は降伏寸前まで追い込まれました。この状況に危機感を抱いた米国は日本からマッカーサー将軍の下、軍隊を投入、軍事介入に踏み切ったのです、当然のことながら米軍は北朝鮮軍を撃破、38度線以北まで押し戻していったのです。強力な米軍部隊はおよそ6ヶ月かかったものの、北朝鮮軍を中国との国境まで追い詰めていったのです。ここで本来なら、米軍の勝利で戦争が終結して朝鮮半島は米国主導の下、一つの朝鮮にまとまるところだったわけです。ところがなんとその時点から怒涛のような軍隊が現れたのです。児島 襄氏の著書『朝鮮戦争』(文春文庫)によれば、中朝国境から突如洪水のように溢れ出すように切っても切れない兵の波が押し寄せてきたということです。これが中国共産党の軍だったのです。この人海戦術に米軍は苦慮、米軍は後退を重ね再び38度線まで押し戻されました。マッカーサー将軍は時の米国大統領トルーマンに原爆使用の許可を要請しました。トルーマンはこれを拒否したのです。結果38度線を境に朝鮮戦争の休戦協定が結ばれたというわけです。それが現在にまで至っているわけです。

 驚くべきはこの時、中国共産党が米国に立ち向かったという事実です。中国共産党は1949年まで蒋介石の国民党と内戦状態でした。それ以前は国民党と協力して日本軍と戦っていたわけです。いわば中国共産党にとって日本軍は極めて強力な敵で、米国やソ連、英国など連合軍の助けをかりて更に国民党とも協力してやっと日本軍に勝利することができたわけです。その一番の立役者は米国です。米国は中国にとっては軍事的にみればとても太刀打ちできない相当な難敵だったはずです。米国は中国に満州国まで作った日本軍を原爆投下で木っ端微塵にしたのです。米国は日本を無条件降伏に追い込んだわけで、当時のことを考えれば米国は世界の中で極めて突出した軍事的を持った国だったわけです。朝鮮戦争に軍事介入した米国はまさか、これだけ強力な軍事力を持つ、米国に対して中国共産党が戦いを仕掛けてくるなどとは夢にも思わなかったわけです。軍事的な力を考えればその実力差は歴然で、まさかそのような相手に中国共産党が戦争を仕掛けてくるなどとは夢にも思えなかったのです。ところが無謀にも中国共産党は核兵器も恐れず、米国に戦いを挑み、米国を朝鮮半島の38度線まで押し戻しました。米国が原爆使用をやめたからよかったものの、かような無謀な戦いを行うのが中国共産党だったのです。

 その後、中国とソ連は同じ共産党政権でありながらいつの間にか激しく対立するようになりました。1969年には中国とソ連の間で激しい国境紛争となったのです。中ソ両国はシベリアのウスリー川を挟んで小競り合いを繰り返すようになりました。本来であれば中国も辺境の地域の国境での争いですから、国力を左右するような戦争にまで紛争を拡大させる必要はないと思われます。ましてや当時のソ連は核爆弾1万発保有していると言われていました。とても当時のソ連は中国が軍事的に勝てる相手ではなかったのです。ところが中国共産党はかような強力な敵、ソ連にウスリー川で先制攻撃を仕掛け、ソ連兵90人を殺害したのです。この時ソ連は中国に対しての原爆使用を検討したようですが、米国の強い警告に従って原爆使用を留まったと言われています。それにしてもこの中国共産党の向こう見ずな戦闘意欲には驚かされます。しかしこれこそが中国共産党の伝統的な軍事戦略なのです。毛沢東はかような戦い方について「断固たる交戦を通じた積極防衛」と述べていますが、要するに中国共産党は戦いで勝利を収めるというよりも強い相手、米国や当時のソ連のような強力な軍事力を持つ国に対して「我々は戦うぞ」という強烈な意志を表示することで、相手に心理的な打撃を加えるということを目的としていたわけです。
 中国で古くから伝わる「孫氏の兵法」では「百戦百勝は善の善なるものにあらざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」としていたずらに軍事的な勝利を目指すのは良いことではない、戦わないで相手を降伏させることこそ最良の策である、と説いています。基本的に中国共産党は軍事力を使用することは最善の策ではないと考えています。ですから例えば南シナ海の人工島建設やベトナムとの領土紛争ないしは台湾との争いにおいても中国は決して軍事力を行使しません。軍事力を行使するのは愚かと考えているからです。ですから中国はこれらの国と紛争が起きてもじっくり経済制裁を強化して軍事力を行使することなく、じわじわと外堀を埋めていきます。フィリピンなど、バナナの輸出を止められた時点で大きな経済的な打撃を受けましたし、ベトナムも中国に経済封鎖されることで経済が回らなくなりました。台湾は世界各国から断交されるようになって経済的な力も年々弱まってきています。かように中国は、自分より力が弱いと思われる国に対しては決して軍事力を行使しようとしません。軍事力を行使すれば簡単に勝てることはわかっていますが、その反動の方が軍事的な勝利以上に大きいと計算しているので、軍事力の行使は割に合わないと判断しているのです。これは極めて合理的な判断です。
 ところが逆に中国共産党は自分より強い相手となると、先に指摘したように相手に圧迫感を与えるために軍事力を行使する傾向があるのです。これは中国が戦争をしたいのではないし、戦争して勝算があるわけではないのですが、ともかく相手との駆け引きでの手段なのです。かように強い相手には凶暴な中国共産党は実に危険です。

 2013年12月、米国の駆逐艦カウペンスは公海を航行中、突然中国の軍艦に前をふさがれ、前進することを阻まれたのです。当時カウペンスは中国の空母「遼寧」を偵察していたわけですが、公海上を航行していたにすぎません。その行為に対して中国側は「これ以上近づくな」とカウペンスに対し実力行使してきたわけです。カウペンスは異常接近した中国船に対して停止するように警告しましたが、中国船は無視しました。そのままではカウペンスと中国船が激突してしまうので、やむなくカウペンスは自ら停止したわけです。こうしてその前を中国船は堂々と通過していきました。大きなニュースにならなかったものの、中国共産党の向こう見ずな軍事挑発の姿勢をみることができます。
 今年9月30日、「航行の自由作戦」で中国の人工島の近くを航行していた米国のイージス艦ディケーターに対して中国の駆逐艦が異常接近してきました。中国側はディケーターに「この水域を離れるように」と警告、それを無視したディケーターに対して中国の駆逐艦は平行して航行している状態から強引にディケーターの前に繰り出してきたのです。ディケーターはあわや衝突の事態となったので、あと数秒という時点でディケーターは舵を切って衝突を免れたわけです。元々中国の人工島の建設自体が国際法を無視した暴挙であって、米国のイージス艦が「自由航行作戦」として公海を堂々と航行するのは当然ですが、中国側はそれを許さないという姿勢で実力行使してきたわけです。これが温和に見える中国共産党のやり方です。「当たるのもなら当たってみろ!」と度胸試しをしようというのです。仮にディケーターが実弾を使ったら事態はどのようになっていたのでしょうか?
 この米国の姿勢を舐めたような中国の姿勢に米国首脳部も本気で怒ったに違いありません。これを機会に米国側は中国側と本気で戦う意志を固めたように思えます。10月4日、米国のペンス副大統領は中国に対して驚くべき激しい非難の演説を延々と40分に渡って行いました。米国と中国の争いは決定的になったように思えます。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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