“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2018.09
輝き失った金相場

 金相場が低迷しています。金価格に連動しているETF(上場投資信託)からも資金の断続的な流出が止まりません。米中貿易戦争で世界経済に対しての先行き不安が広がっていますので、本来ならば、この不透明な状態から金が買われておかしくない展開ですが、金相場は一向に人気化しないどころか、逆に下げを止めたい、ないしは投機筋による「今後金相場がさらに下がる」との見方から投機筋の思惑的な売りも膨らみつつある状態です。
 世界経済を見渡せば、米国の一人勝ち状態となって米国に資金が吸い寄せられる状態で、米国の長期金利も上昇気味でますます米国ドルだけに資金が集まってくる状態となってきています。金の売買も基本的には原油などの売買と同じく、世界市場においては通常ドル決済となりますので、ドルが通貨として強い状態となれば、どうしても相対的に金は売られる展開となるわけです。しかも金は金利がつきません。であるならば金を保有しているよりもドルを買って金利をもらっている方が理に合います。こうして金の人気は近年下がる一方です。
 金相場のここ数年の推移を振り返ってみると、金相場は2011年9月に1トロイオンス1923ドルと大天井を打ってから一貫して下がり続けるようになりました。
 2015年暮れには1080ドル台まで下がりました。その後反発したものの、上昇の勢いは以前のようには続きませんでした。今年2018年金相場は1月に高値1362ドルを取り、また4月に戻り高値1360ドルとなって上昇が目一杯となりました。金相場はチャートでいうダブルトップの形を作ってしまいました。金相場はその後下落基調となり8月のお盆の時期8月16日には今年の安値1160ドル台まで下がってしまいました。その後反発して1200ドル台まで戻したものの、下げすぎによる自立反発の域を越えられず、現在1200ドルを挟んだ動きとなっています。
 金相場に対しては様々な見方がありますが、私は2008年、朝倉慶として経済評論を始めるようになってから当時は「金は買い」と一貫して金購入を勧めてきました。その後2012年になってからは金相場の構造的な基調変化を感じ取り、「金相場は大天井を打った」として、「金は売るように」とアドバイスするようになったわけです。その後一貫して金相場は大相場が終わったとみて、買いを勧めることはありませんでした。その後は株式の買いを積極的に推奨してきているわけです。

●金相場はなぜ低迷状態から抜け出せないのか?
 金相場はなぜ、低迷状態になって上がれないのでしょうか? 一つは相場というのは素直なもので、大きな相場が終わると長い低迷状態に入ることが起こるわけです。相場は一つのサイクルですから年単位で長年にわたって上がり続けた相場が大天井を打つとその上がり続けた反動として下がり続ける期間も数年、あるいは数十年に及ぶという極めて長期に渡るわけです。金相場は1999年の250ドルから上がり始め、2011年の1923ドルまで12年間にわたって約8倍と、上がり続けましたので、天井打った2011年からは長い下降局面に入っているわけです。基本的に12年上がり続けたのであれば10年超下がり続けてもおかしくないわけです。
 現に金相場は1979年の高値から下がり続け、1999年まで20年にわたって下がり続けた経緯があります。基調トレンドとして金相場は1979年から20年下がり続けてその後1999年から12年上がり続け、その後2011年から現在に至るまで7年間下がり続けているわけです。
 投資においてはかような長期のトレンドを意識することも重要です。基本的に長期のトレンドに逆らった投資は行わない方が賢明です。私は2012年の段階で金売却を勧める一方、同時期ビジネス社から『2013年、株式投資に答えがある』を出版し、日本株が歴史的な大底を打って大きな上昇相場に入ることを世の中に宣言したわけです。これは歴史的な日本株の大上昇相場の始まりなので、基本的に株はどの時点でも買って長期に保有していればいいわけです。
 日本株の歴史的な流れを振り返りますと、日本株は1949年に東証が再開されてから1989年まで40年にわたってほぼ一本調子で上がり続け(途中石油ショックにおける大きな下げはあったが)、その後1990年から2012年まで基本的に22年近く下落(インターネットバブルで2000年前後の上昇はあったが)、ないしは低迷状態が続いてきたわけです。それが2012年から日本株は本格的な超長期の上昇波動に入ったと思えるわけです。低迷期間が22年という長きに及んでいたことを考えるとその反動としての上げは相当長期にわたって続くと思われ、相場のスケールも相当大きいと思われます。日本株が2012年暮れから本格的に上げ始めてまだ7年目に過ぎません。まだまだ基本的には相当の上げが続くと思っています。もちろん上げ相場も下げ相場もその最中には揺り戻しが何度もありますから長期上げ相場の中の下げもあるし、長期下げ相場の中の上げもあるわけです。
 金相場で見ると現在の金相場は長期の下げ相場の中の踊り場的な状態だと思います。金相場をみる場合にドルベースでみていないと感覚を誤ります。円ベースでみるとドル円相場いわゆる為替が絡んできますので、違った動きになってしまうわけです。今年などはドル円相場の動きも激しくないので、国際的な金相場の流れと日本国内の金価格の推移が大きく違わないわけですが、これは今年だけの特殊な状態と捉えるべきです。

 かように金相場は今後もじわじわと安くなっていく傾向でしょう。現在世界を見渡して金購入を行っている国や国民をみると、偏った傾向があるのがわかります。金購入は例えばインドなどでは伝統的に人気があるわけですが、これは自国の通貨が信用できないという歴史的な体験を持っている国の人々にはよくある傾向です。リーマンショック後、金の購入を推奨したのはリーマンショックによって米国の国力が大きく落ちてドルの権威が失墜してきた傾向が顕著になってきたからでした。世界の中心である米国とその世界的な通貨ドルが失墜しては世界的なマネーの対しての不信感が広がるのも当然でした。そのようなマネーへの不信感が金人気の背景でした。
 ところが現在米国経済は世界一好調で、米国経済は潤っていますので、米国民はあえて金を購入する必要はありません。ところが例えばベネズエラの国民のように自国の経済が破綻してしまって自国の通貨の価値が全くなくなってしまうような状態では、そのような国の国民は通貨で資産を保全するよりも金を購入した方がいいわけです。自分の資産防衛のためです。

 現在金購入が目立つ国をあげると、筆頭はイランです。イランはご存知のように米国に経済制裁を課され、原油輸出が止められる直前です。このためイランではドル不足となり、インフレ模様となっています。イランの人々は自国通貨を信用できず、また敵国の通貨ドルを購入するわけにもいかないでしょう。勢い、イラン政府も巻き込んだ金購入の動きとなるわけです。イランの金需要は今年になって爆発的に増え、今年1−6月のイラン国内の金需要は昨年の同時期の3倍となった模様です。ロシアも同じく金購入を増やしています。ロシアの金保有量は6月末時点で1944トンと世界第5位です。ロシアでは昨年2017年末から半年で105トン金保有量が増えました。
 逆にあまりに経済が悪化しすぎたり、国家自体が危機的な状況となると、政府が資金調達のため国民に金売却を呼びかけたり、もっと酷い時は強制的に政府が金を没収することもありました。最近ではトルコ政府が為替市場においてトルコリラが大きく売られたのを契機に国民に対して「金を売却してトルコリラを購入せよ!」と奨励したケースもあります。
 かように見ると金購入に走っている国は苦境と思えるところが多く、これでは世界的な金投資ブームにはなりようもないのがわかると思います。
 「金は生産量が増えないので希少価値がある」と言われますが、金の生産量は年々増えているのが実情です。2017年の金の年間生産量は3300トン、その内訳は中国が429トン、オーストラリアが289トン、ロシアが272トン、米国が244トンとなっています。金の年間の生産量は2008年から2017年までで800トンも増えました。ただ生産量の増加の勢いは止まってきています。というのも世界で新しい金鉱山が発見されてこないからです。とは言っても金は腐ることや酸化もしないので、一度産出された金は永遠に存在し続けるわけです。ですから生産が拡大する限り全世界における金の総量は増え続けることとなります。因みに現在の世界の金の総量は18万7000トンと見積もられています。
 金の代表的なETFであるSPDR(スパイダーゴールド)の残高は9月現在で747トンと、4月に比べて14%も減少しています。世界的に見れば米国経済の堅調さは続き、ドルの人気も衰えないでしょう。このような流れを写して「金相場は当面上がらない」という考えが世界の資本市場では支配的です。金相場は長い目でみれば1トロイオンス1000ドル割れに向かっていくでしょう。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/

Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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