“超プロ”K氏の金融講座
このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
4月16日に米証券取引委員会(SEC)は、詐欺容疑でゴールドマン・サックスを提訴しました。晴天の霹靂(へきれき)に市場はびっくり! ゴールドマン株は13%も暴落、一日で約1兆2,000億円の時価総額が吹っ飛びました。
米証券取引委員会(SEC)によれば、ゴールドマンは、2007年初頭、債務担保証券(CDO)の組成に絡み、ヘッジファンドのポールソン・アンド・カンパニーの助言を受け、その債務担保証券(CDO)を構成する住宅ローンを選定したとのこと。ところが、ポールソンはその時に値下がり確実な住宅ローンばかりを組み入れ、その債務担保証券(CDO)を作り、自らは空売りして、大儲けしていたとのこと。そしてゴールドマンは、このポールソンが空売りしていたという事実を開示せずに、その債務担保証券(CDO)を販売していたという違反に問われています。もし、ポールソンが空売りしている事実を開示していれば投資家は簡単には買わなかったはず、結果ゴールドマンにとってその債務担保証券(CDO)を販売するのは難しく、投資家は損をすることはなかった、という話になっています。
これに対して、ゴールドマン側は、事実無根、債務担保証券(CDO)を買った投資家はプロの投資家であり、その商品をよく理解していたはずで、上がる、下がるという判断が投資家各人違うわけで、違った見方があるからこそ、値段がつくわけである、と主張。ゴールドマンは取引を仲介したに過ぎず、ゴールドマン自らはその債務担保証券で1億ドル(約93億円)の損失を被っている、と真っ向から反論しています。
またポールソン・アンド・カンパニーは声明を出して、その債務担保証券(CDO)の組成に関して元々ポールソンは資産を選定する権限は持っていなかったと主張(実際、法的な権限は持っていない)、その債務担保証券(CDO)を組成後、トリプルAの格付けを与えたのはムーディズやS&Pであって、それが販売を容易にした、とコメントしています。ちなみに、米証券取引委員会(SEC)はポールソン・アンド・カンパニーは訴えていません。
問題となった債務担保証券(CDO)はゴールドマン社内では「ポールソン・ポートフォリオ」と呼ばれていたという話で、ポールソン・アンド・カンパニーは債務担保証券(CDO)の空売りでは約1,000億円儲けたと言われています。
話を車の販売にたとえて単純化すると、米証券取引委員会(SEC)が言うには、ゴールドマンは、ポールソンというヘッジファンドに頼んでブレーキの効かない欠陥車を作らせ、それと知りながら販売した。その販売された欠陥車は当然、ブレーキが効かないので事故ばかり起こす。そうするとそのたびごとにポールソンに保険金が入る仕組みになっている。しかもCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)という元金保証の契約もあるので、いくら車が壊れても買い代金は戻ってくる仕掛けとなっている、というわけでポールソンは何倍にも儲かる仕掛けになっているのです。確かに一連の流れはその通りで、詐欺と言えば詐欺かもしれませんが、実際問題、法的に証明するのは至難の業でしょう。
扱っているものが相場という値段がつくものだからです。その時の正確な値段などどうやって選定するのか? 上がると思う人と下がる思う人がいるから値段はつくわけ、どうやって不公正な値段と証明するのか? 後で暴落したからこそ不当な値段と言いますが、当時は様々な見方があったわけです。今回の事件で起こった一連の流れは、たとえ専門家であっても起こっていた事実関係を把握するだけでも難しく、とても詐欺容疑を証明するのは難しいと感じます。今後どういう展開に発展していくかはわかりませんが、今回の事件はオバマ政権による多分に政治的な色彩(金融規制改革法案を通すため)が強いと言えるでしょう。
ゴールドマン叩きは、世論のうけねらい!?
医療改革法案、核安全サミットと勢いつくオバマ政権は、中間選挙をにらみ、ゴールドマン叩き、金融機関叩きの金融規制改革法案を通したいのです。オバマ大統領は、「金融危機の再発防止へ向けてあらゆることをする必要があり、ウォール街の改革と消費者保護のために戦う」と述べ、そして金融機関に対しては、「今まで通りの商売で利益を上げようとしている者が金融改革法案を潰そうと金を使ってロビー活動に励んでいる」と非難、「デリバティブ市場に関する新たな規制が入っていない金融規制改革法案は断固拒否する」と法案成立にかける覚悟を示しました。
なにしろ今や、金融機関叩き、特にこの不況にもかかわらず莫大な儲けを出し続けているゴールドマン叩きは世論にうけるのです。職もない、給料も上がらない一般市民からすれば、今回の不況の元凶であり、公的資金までもらっておきながら懲りずにまた相場で大儲けして多額のボーナスを支給されているゴールドマンは感情的にも許せません。
とは言うものの、アメリカの政治や政策はひと筋縄ではいきません。今回のゴールドマンの提訴も若干無理もあり、政治的な争いの影もちらつくのです。公表された米証券取引委員会(SEC)での会議の模様によれば、ゴールドマンを訴訟するかどうかを決める投票結果は何と3対2の小差、共和党系の2人の委員は反対したということでした。この事実は非常に重いと言えます。
いわば2大勢力が拮抗していて、今回の措置にはアメリカの権力構造の内部で賛否両論あることが明らかになったからです。現に共和党の議員らは、今回の措置を行ったタイミングについて、まさに金融規制改革法案を通すための政治的な思惑が絡んでいるとオバマ政権を非難し、証券取引委員会(SEC)とホワイトハウス、民主党らの委員とのやり取りのすべてを公表するように求めてきたのです。
これに対して証券取引委員会(SEC)は一切政治的な影響は受けていないと明言、さらにオバマ大統領は経済専門局(CNBC)とのインタビューで、「事前に証券取引委員会(SEC)の行動を知っていたという噂は作り話、証券取引委員会(SEC)と政府が協議したということは断じてない」と述べました。
またゴールドマン側は、昨年11月までオバマ政権の法律顧問を務めたクレッグ・クレイグ氏と弁護契約を結びました。ホワイトハウスの内情を知るクレイグ氏が弁護人ではオバマ政権も気にかかるところでしょう。
ゴールドマンに対する各々の思惑
これら一連の動きは、アメリカの権力構造をみる上で重要で、この両者の拮抗状況を見る限り、ゴールドマンが一方的に沈められるという懸念は遠のいたと言えるでしょう。ゴールドマンは証券取引委員会(SEC)の提訴を受けて立つつもりですが、それはそれなりのバックがついていると思った方がいいでしょう。著名投資家のマーク・ファーバーは今回の事件について、「ゴールドマンに打撃を与えるものではなく、一般大衆を喜ばせることを意図したものかもしれない。単なる見せしめだ」と述べました。また世界一の投資家と言われるウォーレン・バフェットは、「ゴールドマンに対する投資(バフェットは50億ドル、約4,670億円をゴールドマンに投資)については全く心配していない。満足している」と絶大な信頼を見せたのです。
一方、詐欺容疑などというと、日本のイメージでは金融機関としては重大犯罪で、免許停止かと想像しますが、この辺は少しニュアンスが違うようです。
バークレイズのアナリストによると、今回に事件だけみると米証券取引委員会(SEC)がゴールドマンに求める利益返上や罰金支払いは1億ドル(約92億円)に過ぎず、ゴールドマンにとって大した影響もなく、顧客も逃げないとして、かえって1日で13%も下げたゴールドマンの株を買い推奨しています。
とはいえ、この問題の今後の展開は目が離せません。4月19日に英国とドイツの当局は「ゴールドマンに対する調査に着手を検討」と表明しました。
というもの、問題になっているゴールドマンが組成した債務担保証券(CDO)で、英国のロイヤルバンク・オブ・スコットランド(RBS)とドイツのIKB産業銀行は巨額な損失を出しているからです。
ロイヤルバンク・オブ・スコットランド(RBS)は、同行が2007年に買収したオランダのABNアムロが取得したゴールドマンの債務担保証券(CDO)で8億4,090万ドル損をしたということが報道されています。
またドイツのIKB産業銀行に至っては、投資額1億5,000万ドルをすべて失ったのです。英国のブラウン首相もドイツのメルケル首相もゴールドマンに対しては怒りを見せています。ゴールドマンはギリシアの国家の粉飾決算に絡んだということもあり、この機会にゴールドマンを叩くことで世論を味方にできるということは感じていることでしょう。
また事件が発展していくと、現在存在している店頭市場(相対取引)の605兆ドル(約6京円)のデリバティブの帰趨(きすう)がどうなるか? というところまで行く可能性もないわけではありません。この6京円などというお金は世の中に存在していませんし、下手にこのすべてを明らかにするハメになれば、その多額の決済不能額が明らかになり、世界は再び金融危機に落ち込むでしょう。今後の展開は注意深く見る必要があると思いますが、今のところ、今回の騒ぎがこれ以上拡大していくとはみていません。数週間で収まると思います。
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朝倉氏の最新情報を【A】レポート、【B】CDマガジン、【C】セミナーから
詳しくはコチラ→http://www.funaimedia.com/asakura/index.html
経済アナリスト。
船井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を船井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』
2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』
(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』
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(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』
(徳間書店刊)を発売。