“超プロ”K氏の金融講座
このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
「すべての不動産会社向け融資の手続きを全行で停止する。」
中国で第7位の規模を持つ興業銀行の行内に向けた通知が市場に漏れ伝わると、不動産市場に対しての懸念があっという間に広がったのです。順調に推移していた上海市場はいきなり不動産市場の先行きを不安視、不動産株の急落が始まりました。
2月24日上海市場は節目の2100ポイントを一気に割り込み、今年最大の下げを演じ、全面安の嵐に見舞われたのです。不動産の最大手の万科企業は6%の急落、その他の不動産株も同じく急落、上海市場はミニパニックに陥りました。翌25日になっても衝撃は収まりません。続落となったのです。
●米国のリーマンショックに匹敵する中国の不動産バブルの崩壊が起こる!?
かねてから中国の不動産バブルの崩壊は先進国の間で大きな懸念材料として叫ばれていましたが、実際の中国の状況を追ってみると一向にそんな兆候はありませんでした。むしろ逆に懸念をあざ笑うかのように、中国では主要都市を中心として住宅価格をはじめとした不動産価格は上がり続けていたのです。北京や上海などでは郊外のマンション価格は上がる一方で、今年1月の統計でも価格は昨年比18%近い高騰となっているのです。昨年末も中国主要都市70の中で69の都市は不動産価格が大きく上昇していました。
先進国中心に叫ばれている中国の不動産バブルの崩壊などというプロパガンダに付き合っていては大事な投資機会を逃がしてしまいます。第一に中国は1%とか3%とかの経済成長がやっとなされている先進国とは違い、いくら経済の成長速度が一時よりは低下したとはいえ、依然7%を上回る経済成長を続けているわけです。
不動産価格が毎年10%を超える勢いで上昇しても、それは経済成長に見合った動きであって、成長の度合いから考えれば少しもおかしいことではないのです。中国ではもう20年以上に渡って不況らしい不況もなく経済成長を謳歌してきたわけで、成長することが当たり前、それに応じて不動産価格が上昇するのも当たり前という風潮が中国社会全体を覆っていたのだから、中国人にとってはバブルの崩壊など何処か地球の裏側の話に思えていたことでしょう。
外から見ている風景と内側から体験される風景では全く違うことがよくあります。中国では不動産を保有すればするほど成功者となったわけだし、利回りが10%を超える理財商品は山のようにあり、この理財商品も一度として大規模なデフォルトはないのですから公定の預金金利の3.5%に資金を寝かしているよりは高利回りを求めてこのような金融商品に資金を預けておかないのは愚かに思えていることでしょう。中国人にとっては先進国の評価など気にもしなければ、関係のない話というわけです。
一方で、客観的にみれば中国を覆う危機は徐々にそして、大きく拡大しつつありました。
今年に入ってからまずは理財商品の償還がなされるかどうか世界の注目の的だったのです。中国の炭鉱会社が発行した理財商品の償還金520億円は1月末が償還期限でしたが、発行した炭鉱会社が実質倒産しているために償還金の不払いが懸念されていたのですが、これは償還日直前に電光石火のごとく<謎の投資家>が現れ、償還金520億円を工面してくれたのです。しかし中国では今後も膨大な額の理財商品の償還を控え、その理財商品の累積額も銀行を経由して販売されたものだけでも日本円にして170兆円もの巨額におよび、先行きが懸念されていました。
局地的に倒産した炭鉱会社の債務だけを負担するような1月末のケースであれば、例外的に<謎の投資家>に現れてもらって、実質政府が負担することは可能でしょう。ところが170兆円も発行した理財商品全般に深刻な危機状況が訪れると、小手先の解決策は通用しません。
例えば全国的に不動産価格が下落するような波が仮に中国で発生しようものなら、理財商品はじめ、その担保のほとんどは不動産ですから、金融的な混乱の収集は不可能となる可能性が高いのです。
中国では地方政府が地方平台(プラットホーム)という投資会社を通じての不動産開発に血眼になってきました。
中国では計画経済による成長率の目標死守は公共投資によって狂いなく達成されてきたのです。人の入らないマンションや使われない空港や高速道路、その他の施設も中国全土で次々と建設されてきました。すべて不動産価格の上昇があってこそ持続可能だったのです。いくら借金しようが、どんな法外な投資を行おうが、不動産価格さえ右上がりで購入した物件が上がり続けるのであれば、不動産投資も無謀な開発投資もすべてはうまく回り続けるのです。日本の1980年代の後半のバブル、ないしは戦後一貫して上がり続けた不動産や株式を大きく保有していれば、日本では大きな財産を残せていたに違いありません。バブル崩壊時までは日本の成功者の代名詞は、土地持ちであり株の大きな保有者でもあったのです。
米国のリーマンショックは、サブプライムローンの大拡張が原因でした。誰でも家が持てるというフレーズを下に、米国の金融機関はあらゆる人達に住宅ローンを提供して、それを小分けにして世界の投資家に売りさばいてきました。そして米国ではどんな人であっても、購入した住宅が値上がりし続ける以上はデフォルトすることはあり得なかったのです。購入した住宅価格の上昇が確実で大きかったので、例え収入などなくても住宅の値上がりによって利益を確実なものにできました。当時サブプライムローンは、例え、どんな貧困層が家を購入した場合であっても、住宅価格の値上がりという大きな波が続く限りはデフォルトなどということは起こり得なかったのです。
この米国の住宅上昇神話に陰りが出始めたのが2007年からです。そして翌年2008年には住宅価格の下落は加速、大量に販売された金融商品は次々とデフォルトの危機に瀕していきました。こうしてあっという間に危機は連鎖、米国はリーマンショックに襲われ、米国の金融機関は軒並み政府の救済を仰ぐ事態へ至ったのです。こうして米国経済は崩壊寸前にまで追い込まれ、世界にその影響が波及、世界全体が震撼状況に陥ったのは記憶に新しいところです。
あまりに大きな米国の住宅バブルのつけは想像を絶するものとなりました。自由経済であれば好況の後に不況が来る、そして好況が長く大きければ余計にその後に来る不況が大きくなるわけです。山高ければ谷深しというわけで、これは資本主義経済であれば当然の帰結です。日本でも1980年代後半のバブルが余りに大きかったために、失った20年と言われるほどに長いデフレ不況に陥ってしまったのです。
市場経済であればこのような大きな景気循環は不可避です。米国の住宅バブルがつぶれて米国が破産寸前の危機に陥ったように、仮に中国の不動産バブルの崩壊が来れば、今度は米国のリーマンショックに匹敵するか、それを超えるような経済的な混乱が中国に襲ってきて、世界に波及することは当然です。そして今回の中国の不動産市場の急落は、非常に危ないサインを発してきたと警戒する必要があるでしょう。
●バブルは終わってから、バブルとわかる!?
バブル、バブルと叫ばれながらも、バブルというものは簡単に破裂しません。
「バブルは終わってからバブルとわかる。」元FRB議長のグリーンスパンはこのように述べましたが、実際バブルの判定は難しく、どこまでが正常で何処からがバブルなのか誰も判別できないでしょう。中国で全国的に建設される人の入らないマンション群やショッピングセンターや高速道路をみれば、これはいずれ問題を起こすと思っていても、実際、作られ続けているし、マンション価格は上がり続けているのです。
10%を超えるような金融商品が持続可能なわけがない、と思っていても現実に無事に償還なされ続けているのです。この状態に人々は酔い、さらに多くの資金を導入し続けています。
中国共産党政権は仮に理財商品のデフォルトを許容すれば、その影響は瞬く間に全国に波及して金融危機に瀕するのは必至とみて、デフォルトを許しませんでした。人々は当局を信じ続けることで資産を膨らませてきました。ですから人々は今までの投資行動を変える動機を持たないのです。そして当局は、危機を一時的に回避してその場を凌げばなんとかなるという姿勢を貫くしかなかったのです。全ては不動産価格が下落するまでの宴なのです。中国は当局が絶対的な権力を持つ中央集権国家ですから、行き過ぎた不動産バブルが崩壊するような危機も、日米欧などの資本主義の歴史から学べる知恵によって解決可能と思っていたかもしれません。中国では当局が何度も何度も不動産バブルや理財商品の行き過ぎに警戒を鳴らすように努めようとした形跡はありますが、実際には景気減速の恐れを抱き、根本的な解決策に着手できなかったのです。
こうして中国の不動産バブルは野放し状態が続いてきて、その規模は限りなく拡大して、膨れ上がった風船が一気に破裂するように終焉を待つばかりなのです。
相場というものは行き過ぎると、何かをきっかけにして一気に崩壊します。日本ではバブル崩壊は当時の大蔵省による総量規制、いわゆる行政指導で大蔵省が銀行に対して不動産融資を抑制することを求めたのです。資金源を失った不動産会社はあっという間にもろくも崩れ去りました。宴の後には屍のような不良債権の山が築かれ、やがて日本の多くの金融機関は債務超過に陥っていったのです。振り返ってみると、あまりに目に余まる不動産価格の上昇に少々の規制を発動させただけだったのですが、それがきかっけで日本の土地の価格はそれまでの上昇が幻だったかのように激しく暴落に至ったのです。
今回の中国の興業銀行の政策が日本の時のようなドラスティックな変化を生じさせるかどうかはわかりません。しかし限界に近づいている不動産価格は、いずれ何かをきっかけに激しく下落する運命にあるのです。世界一の債券運用会社ピムコのCEOビル・グロスは中国の理財商品や隠蔽的な政策について、あまりに不透明な事を批判し、中国経済は「腐った肉のようだ」とこけおろしました。
同じく世界ナンバー1の投資家と言われるジョージ・ソロスは現在の中国の政策は後2年続けることはできないとして、「今年の世界経済の最大のリスクは中国である」と断じました。世界の投資家の中国に対しての目は厳しくなってきています。
バンク・オブ・アメリカの世界の機関投資家への調査によれば、中国の不動産バブル崩壊と理財商品の問題が噴出することを懸念するという見方が毎月増え続けて、1月の調査では、調査対象の46%の投資家にまで懸念が拡大し始めたということです。このような世界の投資家の見方を受けて中国への投資は時を追うごとに減り続けています。
米調査会社EPFRグローバルによれば中国を中心とした新興国へ投資するファンドからは資金の流出が止まらないということです。この2月の第二週までに何と68週連続で資金流出が起こっているのです。完全に中国は世界の投資家から見捨てられつつあるのです。中国は解決策の見えない環境問題の袋小路に陥っています。環境問題に手を付ければ確実に経済成長は激減します。当局は不動産バブルが危険水域まで来ていることは重々承知していますが、経済成長の激変が怖くて規制を行えないのです。こうして行き着くところまで来た不動産バブルはソフトランディング不能な水準に到達しました。中国発のリーマンショックは絵空事ではありません。危機は我々の目の前に近づきつつあるのです。
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★『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/
経済アナリスト。
株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
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