“超プロ”K氏の金融講座
このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
国会での衆議院の解散宣言する時にハプニングがありました。<バンザイ>というところを自民党の議員がワンテンポ早く<バンザイ>と叫んでしまい、議長がやり直すように諭し、再度<バンザイ>と議員みんなで宣言する羽目となったのです。何かしまらない解散というイメージになりました。野党の選挙態勢は整わず、自民党有利という見方が大勢です。しかし選挙は水物、最終結果が出るまでは何が起こるかわかりません。
<バンザイ>という言葉は喜びを表現する言葉ですが、国会での解散は議員にとっては自分の身分がなくなり選挙になることですから、実際は身が引き締まっていることと思います。この局面で<バンザイ>をするのは一見破れかぶれのような印象がありますが、議員にとっては選挙という戦場に向かうために自分を鼓舞するように気合を入れるための儀式でもあるのでしょう。
●<バンザイノミクス>とはどういう意味か?
今回の選挙は<アベノミクス>に対しての評価を問うものと言われています。
<この道しかない>という自民党のキャッチフレーズもピッタリあって好感されるかもしれません。今回の選挙は消費税引き上げ先延ばしを焦点にして国民の信を問うということになったわけです。この消費税引き上げ先延ばし、並びに先般の日銀のサプライズ緩和を一緒に評して、英米の金融関係者の間には今回<アベノミクス>は<バンザイノミクス>に変容したのではないか? という声が上がってきました。折しも国会で<バンザイ>のハプニングがあったわけですが、一体この<バンザイノミクス>とはどういう意味なのでしょうか? 何故<アベノミクス>から<バンザイノミクス>に変わったというのでしょうか?
国会議員が覚悟を決めて<バンザイ>というわけですが、同じく日本の金融市場も<バンザイ>に近づいていくという見方なのです。
<バンザイ>とは何かというと、日本国債が紙になることで日本は<バンザイ>することになる、という意味を込めているのです。日銀は毎月10兆円に上る巨額の円紙幣を印刷して国債を買い続けることを宣言し、そのような無謀な円印刷を続けながら一方で政府は消費税増税を先延ばしするというわけですから、いよいよ日本国はインフレを起こして国債を紙にする政策に転換したということで<アベノミクス>が<バンザイノミクス>に変わりつつあるというわけです。
日本は1000兆円を超える膨大な借金をしています。国民一人当たり800万円を超えると言われる怒涛の借金です。個人だろうが国だろうが借金は借金なので、これはいつか返さなければなりません。借金しているうちは気分がいいですが、借金が返せなくなると途端の苦しみを背負うこととなります。常識的に考えて日本国が1000兆円などという膨大な借金を返せるとは思えません。それでも政府も何とか財政を立て直すためということで、前回の3党合意に基づいて消費税を2回に分けて3%、2%と引き上げることを決めたのです。これはある意味国民が日本国の膨大な借金を正面から見据えて、例え苦しい増税であっても、その苦しさに耐えて後世に借金を残さず、日本の国の順調な発展を目指すための改革を痛みを伴っても成し遂げるという苦しい決断でもありました。
消費増税は直接全ての国民が負担することとなるので、その影響は即座に現れることとなります。昨年の時点では増税に対してやむなしと肯定的にとらえ覚悟を決めていた日本国民ですが、いざ増税で生活に支障がでてくるとやはり気持ちが変わってきたようです。
実際、国民の所得の推移をみていくと、賃上げなどで名目の収入の増加はあるわけですが、円安による諸物価の上昇と増税による物価上昇が重なって、実質的な購買力は低下してきているのです。賃金は上昇してもそれ以上に物価が上昇しているので生活が苦しくなってきたという実感です。
●急速に消費者が節約に走るという大誤算
そしてそれは消費税増税後、夏場には消費が回復すると思われていた国民の消費態度を一変させていました。国民の多くは物価高にたじろぎ、急速に生活防衛のためと節約に走ってしまったわけです。これは政府にとっても大誤算で、これだけ一気に消費税増税の影響が出てきてはとても再度の消費増税は行うことはできない、という判断に至ったわけです。
今回の措置はある意味、国民多くの気持ちを代弁したものであって、民意をくみ取る政治の動きとしては当然の軌道修正だったのかもしれません。与野党全て消費税増税延期賛成で一致しました。そのため消費税増税延期は当然で、これは選挙の焦点ではない、ということになってしまったのです。それでは選挙の大義は何かということで、疑問が噴出して今回の選挙の意味を問うこととなっています。
苦渋の決断で増税合意という歴史的な3党合意がなされて2年も経たないうちに、増税のシナリオは消え去ったのです。有識者会議やマーケット関係者のほとんどはたとえ苦しくても国家財政の先行きを考えれば、ここで増税を予定通り行うべきであるという考えが大勢でした。アンケート調査によれば有識者も株式市場関係者を含めたマーケット関係者のほぼ80%の回答は増税すべしという判断だったのです。
しかし国民の民意は急変しました。苦しい家計や収入を考えれば当然かもしれません。アンケート調査によれば国民の80%近くが増税を延期すべきと答えています。まさにこの辺の民意を敏感に察知して捉えた政治の臨機応変さがあったのでしょう。
かように世論は政治を動かすものです。民主主義ですから民意に沿って政策が遂行されるべきであって、今回も日本国民全体の悲鳴を受けた政治が増税延期という方向転換を成し遂げました。民意は力であり、国の方向を決めていくことなのです。
予定通りの増税を求めていた有識者会議やマーケット関係者の意見は、増税反対の世論に封殺されました。ここで財政再建を行わないといよいよ国債のマーケットがおかしくなっていずれ暴落(金利急騰)が起こる可能性がある、とは指摘され続けていますが、実際問題、国債暴落説などはまるでオオカミ少年のように数年言い続けられているだけで、実際のマーケットを見れば日本国債の相場は岩盤で暴落しようもありません。暴落どころか日銀による怒涛の国債買い付けによって国債マーケットは干上がり、売り物がなくなってついにマイナス金利にまで突入です。国債金利が急騰(暴落)するどころか起こっていることは真逆であって国債金利は低下(国債価格上昇)しているのであって、国債暴落説などばかげているように思えます。日銀はマーケットを巧みに支配して国債の売りものはほとんど全て日銀による円印刷によって購入されているわけです。
こうして全てはうまくいくわけです。消費税など引き上げなくたって混乱が起こるわけではありません。財務省の言動に惑わされて国民生活を苦境に陥れる必要などないのです。
安倍首相が奇しくも発言したように「経済が失速しては何のための増税かわからない」のであって現状、経済の落ち込みを考えて消費増税を先送りするのは英断に違いないと国民は納得するでしょう。
実はこのような流れは今までもずっと続いてきました。まずは経済を活性化させてから増税を行うべきという意見が必然的に大勢となってくるわけです。国債暴落と言いますが、そんなことは誰もわかりませんし、識者でも180度意見が違うわけで、日本の潜在的な国力を考えれば、困難な問題でもいずれ克服できるはずという思いが強いのです。そしてそのような期待を下に常に財政再建や増税の議論は封印され、今回も増税は延期され、結果としてマーケットは歓迎して株式市場は大幅に上昇、国債市場は安定しています。恐れることはありません。日本の国力を信じ、政策に期待して経済活性化に期待しようではありませんか!
こうして常に、いつも、どんな時も、痛みを伴う改革というものは拒絶されてきました。そして何事もなかったかのようにマーケットは動き続けるのです。
消費税増税について黒田日銀総裁は予定通りの増税断行を主張していました。黒田総裁は「消費税増税を延期した場合、極めて低い確率ではあるが、国債暴落が起こった時に政府も日銀も対応のしようがない」と述べていました。マーケット関係者も消費税増税を先延ばしすれば国債暴落のリスクが高まる、そのようなギャンブルを国の政策として行うべきではないとの声も大きかったのです。
如何なる声があろうが、民意は強く、民主主義である以上、国民多くの願いが政策に反映されるのが当然なのです。かくして消費税増税は延期、そして2017年4月まで延期されたわけですが、仮にその時点での景気の落ち込みが大きければ再び先延ばしの議論が沸騰してくるでしょう。財政再建など本当に、本当に景気が良くなって国民皆が納得できた時に行うべきことなのです。民意には誰も勝てません。
こうして民意は常に楽な方へ動き、結果的にインフレ(国債暴落)のマグマは溜まっていくのです。発行される全ての国債を日銀が購入しています。異常な事態が続きますが、国民は完全に慣れっことなりました。誰も納得できて痛みを伴う、増税や社会保障費削減のような改革を行う世論は永遠に訪れないでしょう。アベノミクスが大成功して、日本にかつてのような理想的な景気循環が訪れるのでしょうか? それとも円安と株高ばかりが進行して今後も庶民は物価高に苦しむことが続くのでしょうか? それとも何を行っても再びデフレに逆戻りするのでしょうか?
冒険家で投資家のジム・ロジャーズはアベノミクスで「日本は破壊される」と述べています。通貨を安くする政策について「歴史的に通貨安政策で本質的に経済が救われた例はない。欧州や南米の様々な国が試みたが、一時的な刺激にはなれど長期的には成功しなかった。日本政府は大きな流れを誤っており、あのときにお札を刷り過ぎて問題を深刻にしたのだと10年後に振り返ることになるのではないか」と述べています。そしてロジャーズは今回の流れについて「私のような投資家や、一部の輸出産業には良い、だが若者をはじめとする大半の日本人には悲惨なことだと思う。日本は対外的には債権国だが対内的な巨額の債務を賄いきれなくなってきている。なのにもろもろのコストは上がり、生活水準が低下するからだ」と言うのです。
永遠に借金ができるわけではありませんし、民意は常に楽な方向に動きます。<アベノミクス>は民意の力によってさらにパワーアップして<バンザイノミクス>と姿を変えたのです。解散バンザイ! 消費税増税延期バンザイ! そして国債が紙になってバンザイ! 新しく始まる<バンザイノミクス>によって時間の経過と共に止まらない円安と株高が加速されていくでしょう。起こっていることは実は円というマネーの価値がなくなっているだけなのです。歴史は何度でも繰り返します。誰も来るべき大インフレを止めることはできないのです。
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★『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/
経済アナリスト。
株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
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