“超プロ”K氏の金融講座
このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
●急激な雇用情勢の変化はなぜ起こったのか?
日本全土で人手不足が目立ってきています。公共投資の発注では建設会社が人手を確保できず入札が不調になる、牛丼チェーンではアルバイトが集まらず、深夜営業を閉鎖する。またコンビニエンスストアでも、アルバイトが集まらず、出店計画を見直すなど、特に建設業、外食業、小売業での人手不足が深刻な状態となり、ビジネス全般に影響が出ています。
景気回復を喜んでいたのは束の間、今度は人集めに頭を痛める事態となりました。
数年前までは人手が余っている、働き先がない、と雇用促進が叫ばれていたのですが、あっという間に様変わりです。
何故これほどまで急激に雇用情勢が変わってきたのでしょうか?
アベノミクスで景気回復がなされ、状況が変わってきたことはわかりますが、この雇用情勢のひっ迫は今後も続くものでしょうか? 急激な変化は何故起こったのか、日本経済には何が生じているのでしょうか?
すでに全国的な人手不足を反映して、パートやアルバイトの報酬は記録的な水準にまで高騰してきています。求人情報大手のリクルートジョブスによれば、4月の3大都市圏の募集時平均時給は、前年同月比0.4%高い947円となりました。一部深夜営業の外食店などでは時給1500円でも人が集まらなくなっています。
元々、賃金などは基本的に需要と供給の関係で決まってきるわけです。正社員の給与の場合は、企業側も継続的に支払うこととなりますから、当然、長期的な戦略に沿った賃金体系を提示することになります。しかしパートやアルバイトなどは、一時的な雇用体系ですから、その時の情勢において、人が足りなければ時給は上がりますし、足りていれば時給は下がるという具合に、その時々の経済情勢を反映したものになっていきます。このパートやアルバイトの時給が、現在10ヵ月連続して上昇中で、記録的な勢いで伸びているとことです。
短期でこれほど人手不足が顕在化してきたのは、実は根本的な要因があります。
それは元々、日本では人口が少なくなってきているという現実です。これは誰でも知っていることですが、この減り方も尋常ではないのです。日本の労働人口の推移をみると、1998年の6808万人でピークをつけ、その後減少しています。2014年1月の段階では6583万人となり、16年間で225万人、3%強減少しています。
中でも注目すべきことは、働き盛りの15歳から34歳までの労働人口の激減状況です。
この年代をみると、同じくこの期間2279万人から1757万人まで522万人、約23%も減少しているのです。若年層が減少しているということは、今後基本的に、日本の労働人口が減り続けるということに他なりません。しかもこの数字がわずか16年間で23%も減っているのですから、単純に考えても日本はこれから労働力が短期間の間に極端に減少してくるということなのです。
●日本は完全な労働力不足時代に突入した!?
特に一昔までは人が余り、多くの労働者が従事していた、建設業や農業や小売、トラックやタクシーの運転手など、極めて一般的な職種とされていた職業に全く人が集まらない状態になりつつあるのです。高学歴化した日本社会は主に事務職を求める傾向が強く、かつてのような体を使う仕事は敬遠されてきています。
職業の選択は自由だし、各々が思う通りの仕事をしたいのは当然ですが、その結果として、若い人が特に旧来の体を使った職業につかないために、一部の業種で極端な人手不足が起き始めているわけです。これら農業やトラックの運転手や建築の現場労働者などは、平均年齢が55歳から65歳なのです。
このような状態なのに、若い人もこれらの職種につかなければどうなるか、いずれ建設も農業従事者もトラックの運転手も全く見つからない状態になってもおかしくありません。
人がいなければ仕事が進むはずもありません。今後、団塊の世代が相次いで70歳に到達してきますが、これらの増え続ける老齢化世代に対して、介護する人を見つけるのも至難の業となっていくのです。
なんとなるさ、と思っている人が多いと思いますが、すでに数字の変化を見る限り、そんな悠長な状態でいられないのは明らかです。6月27日、厚生労働省は5月の有効求人倍率を発表しました。
それによると、5月の有効求人倍率は1.09倍です。改善は18ヵ月連続で22年ぶりの高い水準になったのです。有効求人倍率は求職と求人の比率を現しているものですが、1を超えてきたということは、求職よりも求人の方が多いわけで、今の日本は急速に変化、雇用情勢は完全に労働者の売り手市場となってきたのです。
問題は、この有効求人倍率の短期間の間の激しい上昇ぶりです。多くの人達の実感として、つい最近までは人が余っているという感じだったと思います。現にこの有効求人倍率はリーマンショック直後の2009年には0.4倍台で、実際に日本では求職者が溢れ、求人はほとんどなかったのです。ところがこの5年であっという間の激変です。
ちなみに、6月27日の有効求人倍率と同時に発表になった、日本の5月の失業率は3.5%です。これも16年半ぶりの水準です。先進国を見渡してこんな低い失業率の国などありません。
欧州では失業率は11.7%、これでも最近は悪化傾向がやっと止まってきたのです。
米国経済の好調ぶりが伝えられていますが、その米国でも失業率は6.3%です。日本のような3.5%なんていう失業率は先進国ではありえない数字です。
それほど日本は景気がいいわけでもありません。アベノミクスによってやっとデフレからインフレへの転換が始まったものの、経済成長率を見る限り、お隣の中国の7.5%なんて数字は日本ではあり得ない数字であって、日本においてはやっと2%程度の経済成長がいいところなのです。
問題はこの低成長にもかかわらず、すでに労働環境がタイト化、いわば人手不足が顕在化してきたという事実です。
単純に考えればわかりますが、人がいなければ当然、人の取り合いにあり、賃金は上昇し始めます。しかし通常はそのような状態が訪れるのは、好景気が長く続いた結果として起こるのが普通なのです。
ところが日本では、アベノミクスでデフレからインフレへの転換が叫ばれ始めて、多少変化が起こってきたと思われたこの瞬間に、このような人手不足が起こってきてしまいました。問題はこの事実なのです。
このようなことが起こるのは、元々、人口減による労働力減少という素地があったから、その問題が顕在化したにすぎません。いわば日本では根本的に労働者の数が少なく、歴史上、かつてないほどの勢いで労働者数が減っている現実を前にして、一気に景気回復が起こり始めたから、人手不足が表面化したわけです。
そしてまだ景気回復が本格化していない、この時点で人手不足となってきたことは、今後の日本における深刻な労働環境の悪化を懸念しないわけにはいきません。
要は、圧倒的な人手不足という現状の前に、経済が前に進めなくなる、ないしは極端に高い給料を提示しないと人が来なくなって、その結果として、仕事の遂行が難しくなるという将来が待っている可能性があるわけです。
牛丼チェーンのすき家は深夜営業を停止しました。人が確保できないのです。異常に高い賃金を提示しては経営が成り立ちません。やむなく店舗の閉鎖です。和民も60店舗、店を閉めることになりました。これも同じで、人が確保できないからです。このように人がいない、従業員を確保できない、ということが直接的に仕事の運営を妨げることになってきたのです。
牛丼チェーンや飲み屋ならまだ構いませんが、医療現場や介護となると、事はもっと深刻です。
高齢者が増え、若者の人数が減っていく現状を考えれば当然、医療や介護の現場でも、圧倒的な人手不足という深刻な事態が迫ってきていると思うしかありません。
人口が減っているということを多くの日本人は知っていますが、その深刻さをわが身のこととして真剣に考えてこなかったと思います。
しかし人口が減少する社会というのは、様々なひずみが生じてくるものなのです。しかも今の日本の場合は、歴史的な高齢化と同時に、人口減少が加速していますから、ことは重大です。
産業界や学界の有識者などで国のあり方を議論する<日本創成会議・人口減少問題検討会>は日本の896の自治体のうち、523の自治体が人口減により消滅するという衝撃的な推計を出してきました。
有効求人倍率が1.09になり、日本中、景気回復と喜んでいるかもしれませんが、この段階での有効求人倍率の極端な伸び方をみると、この時点で、日本は完全な労働力不足時代に突入したと思うしかありません。ということは、これから賃金は一気に上昇してくる可能性が高いと思っていいでしょう。
何故って? 賃金は需要と供給の関係で決まるわけですから当然です。しかも今まで指摘したように、若者の労働者が鋭角的に減少していくのですから、ことは急激に収まることなく加速していくのです。
1.09にまで上昇した有効求人倍率はもう下がることなどありません。天井知らずで上がる一方となるでしょう。
建設の専門職である鉄筋工とか型枠工などは有効求人倍率が9倍です。これでは人の奪い合いは当然で、これが建設コストに上乗せになりますので、もうマンションも含めた日本の建築物の値段は下がることなどないでしょう。
●現在は、大インフレになる過渡期!?
このような状態で、ついに物価の上昇が政府や日銀の思惑通りに始まってきたのです。6月27日に発表になった5月の消費者物価は、前年同月比で3.4%の上昇、これほど物価が上昇するのは32年ぶりのことなのです。
元々物価上昇は、政府や日銀の目指してきたところですから、これで多くの人は良かったと思っているかもしれませんが、この物価上昇は始まったばかりであることを忘れてはいけません。
政府も日銀も、物価は「継続的に2%上げる」ことを目標にしています。
いわば今年の場合は、2%上昇してプラス消費税増税分の3%を足して5%の上昇、来年も2%上昇してその後、消費税の再引き上げで2%の上昇分が加味されますので、4%の上昇、今年の分と合わせると2年で9%の上昇、さらにその次ぎの年も2%、その次の年も2%と、毎年年中行事で物価が上がっていくことを目指すのです。
そして現実にはどのようなことが起こるかというと、この政府目標に限りなく近づいて物価が上がり続けているうちに、多くの人々がこれからは物価が上がり続けるのだな、と信じるようになっていきます。その多くの人々が、そのような政府や日銀の目指す物価の「継続的な上昇」を信じた瞬間から、物価上昇はあっという間にロケットのごとく勢いを増して上昇し始めることとなるでしょう。
それは本当の物価上昇、止まらない物価上昇、真正のインフレが生じてくる瞬間です。
景気回復がいいことには違いありません。しかし日本は、巨大な国債という借金と圧倒的な人口減少で、労働力不足に陥りつつあることを忘れてはならないのです。
アベノミクスは、インフレの到来と共に日本に景気回復をもたらしましたが、反面効き過ぎて大きな反動をもたらしてしまうのです。
こうして日本は現在、大インフレに向かう前の過渡期となっているのです。
有効求人倍率も失業率も、そして消費者物価上昇率も、かつてないほどの変化をみせてきました。これら経済指標の変化を一時的なものと侮ってはなりません。いよいよ止まらないインフレへの助走が開始されたのです。
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★『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/
経済アナリスト。
株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
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